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米国債利回りが株価の重しとなる中、FRBは次に何を発言するか?

米国債利回りが株価の重しとなる中、FRBは次に何を発言するか?
〔要旨〕
  • 利回り上昇:先週、米10年債利回りは2008年以来の高水準まで上昇し、株価に大きな影響を与えた
  • 消費者心理:先週の大手小売企業の決算説明会では、消費者行動についての私の前向きな見方が確認され、勇気づけられた
  • FRB:今週末にジャクソンホールで開催されるシンポジウムで、FRB政策当局はタカ派寄りの発言をしてしまうと予想
 
米国債利回りはなぜ上昇したのか?
「ベア・スティープナー」が全体像を複雑化させる
これらは何を意味しているのか?
決算説明会で前向きな消費者心理が浮き彫りに
ラグを伴って顕在化する政策的引き締めの効果が影を落とす
 

先週、米10年債利回りは2008年以来の高水準まで上昇し、強力な下押し圧力となって株価に大きな影響を与えました。それも当然でしょう。常にそうというわけではありませんが、利回りが上昇すれば、投資家にとって株式に比べて債券の魅力が増すとともに、株価収益率が低下することから、株価は下落する傾向にあると予想できます。しかし、何がこの利回り上昇を促し、またこれを他の市場シグナルとの関連でどう見るべきでしょうか?また今週、米連邦準備制度理事会(FRB)からはどのような発表があるでしょうか?最近の動向について私が考えていることは、以下のとおりです。

 

米国債利回りはなぜ上昇したのか?

単純に考えれば、供給が需要を上回っただけだと見ることができます。実際、私は今月初めのレポートで、次のようないくつかの異なる要因により、米国債利回りが上昇する可能性があると述べました。それは、 1)日銀のイールドカーブ・コントロール政策の修正により、利回り格差が縮小し、日本の投資家にとって米国債の魅力が低下しうること、2)債務上限問題が解決した今、米国が国債の大量増発を計画していること、3)フィッチ・レーティングスによる最近の米国債の信用格付けの引き下げなどです。

しかし経済理論では、先進国の国債利回りは実質利回りとブレークイーブン・インフレ率の2つの要素に分解できると考えられています。ブレークイーブン・インフレ率は、端的に言えばインフレ期待の市場ベースの尺度であり、実質利回りは成長期待の反映と見なされます。つまり、ブレークイーブン・インフレ率が横ばい、あるいは低下している場合、国債利回りの上昇は成長期待を反映していると考えることができます。

私たちは現在、まさにこれを目の当たりにしています。景気後退への懸念が減退し、インフレデータが改善を示し続け、調査ベースのインフレ期待が低下していることから、最近の国債利回りの上昇は、成長期待の改善を反映していると考えられます。
 

「ベア・スティープナー」が全体像を複雑化させる

私たちは一歩引いて、長期金利の方が短期金利より急速に上昇してきたという全体観を見る必要があります。この現象は「ベア・スティープニング」と呼ばれ、通常、景気にとって良い兆候ではありません。

投資家は通常、イールドカーブのショートエンド(短期金利側)よりもロングエンド(長期金利側)を避ける傾向にあり、長期の利回りが上昇するため、ベア・スティープニングの「ベア」は株式ではなく債券を指していることに注意が重要です。ベア・スティープニングが長期化することは比較的まれで、通常はインフレ上昇懸念と関連しています。従来の考え方では、インフレ上昇により、中央銀行がタカ派的な姿勢を強めざるを得ないと考えられてきました。そのため長期債の魅力が低下し、需要の低減から長期債の利回りが上昇することとなります。

イールドカーブがベア・スティープ化する時期は比較的稀にしか見られませんが、景気後退に先行する傾向があります。ただし、必ずしもそうなるとは限りません。景気後退に陥らず、強気の株式相場を達成したベア・スティープニングの例は、2020年7月から2021年3月の期間に見られました。この期間、2年債利回りがほとんど上昇しなかった一方で、10年債利回りは大幅に上昇しました

また上記で指摘したように、イールドカーブのロングエンドにおける利回り上昇の原因を理解するよう努めねばなりません。今回の利回り上昇は、成長期待の改善によってもたらされている可能性が高いと考えられ、その場合このベア・スティープニングが、今後の問題を示唆するものではない可能性があります。実際これは、「FRBが景気を悪化させることなくインフレ抑制に成功しているため、すぐに利下げが行われることはないだろう」との期待を示唆している可能性もあります。
 

これらは何を意味しているのか?

FRBはインフレを過剰に心配し、引き締めを続けるのではないかとのまっとうな懸念が囁かれています。7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨は、よりタカ派的と受け止められました。米国ではガソリン価格が上昇していることから、消費者のインフレ期待が上昇する可能性がありますが、FRBがこれらの指標に注意を払っていることは周知のとおりです。またカナダにおいては、最近インフレが再燃してきています(そしてカナダのインフレデータは、しばしば米国のインフレ動向に先行し得ます)。しかし私は、その道のりにおいて些細な問題は出てくるものの、現在、強力なディスインフレ・トレンドにあると引き続き考えています。

とにかく今見ている市場のシグナルは、やや入り乱れたものとなっているということです。しかし、絶対的に正しい市場シグナルなどありませんし、経済環境をより総合的に見る必要があります。私は、今のところネガティブな展開よりポジティブな展開の方が多く見られると考えています。先週述べたように、米国のインフレデータは改善しており、調査ベースのインフレ期待も改善していますが、これは金融政策当局にとって重要です。
 

決算説明会で前向きな消費者心理が浮き彫りに

先週の大手小売企業の決算説明会では、消費者行動についての私の見方を確認することができ、勇気づけられました。

  • ディカウントストア大手のターゲット・コーポレーションのコーネルCEOは、消費者は支出するお金を持っているが、商品よりもサービスへの支出に集中していると、次のように指摘しました:「消費者は、コンサートに出かけたり、映画を観に行ったり......そういった体験を楽しむ一方で、嗜好品に対しては非常に慎重な購買行動をとっています。」3
  • 小売チェーン大手のホーム・デポのデッカーCEOは、消費者心理はむしろ前向きだと次のように述べました:「景気後退、少なくとも深刻な景気後退への懸念はほぼ収まり、消費者は概ね健全です。4」 これは、最近のミシガン大学消費者調査によっても裏付けられています。8月の消費者信頼感指数の速報値は71.2と、7月の71.6からわずかな低下となりましたが、依然として比較的高い水準にあります(7月の数値は2021年10月以来の高水準)5
     

ラグを伴って顕在化する政策的引き締めの効果が影を落とす

しかし企業幹部もまた、これまで行われた積極的な金融引き締めに鑑みると、将来に大きな不確実性があることを認識しています。ホーム・デポのデッカーCEOは、次のように説明しました:「しかし、これらすべてのプラス面を考えたとしても.....まだ不確実性は残っています......そして、消費需要の減退を特に意図した金融政策対応が、最終的に経済全体の消費者心理にどのような影響を与えるかは、わかりません4 。」

FRBが現状維持して、政策引き締めのラグ効果を見極めるのを待つべき理由はそれだけ多いということです。今週ジャクソンホールで開催されるFRBのシンポジウム(における講演やインタビュー)で何が語られるかわからない、との不安は確かにありますが、金融環境の緩和を防ぎ、これ以上の利上げを回避する必要があることから、FRB政策当局が、コミュニケーション面でタカ派寄りとなってしまう可能性が高いことは、認識しておかねばなりません。

FRBが、政策対応に関してより慎重な立場を取ることを期待したいところです。今はただ待つのみですが、FRBによる種々の発言後は、ある程度の市場の動揺が予想されます。

(執筆協力:ポール・ジャクソン)
 

1.出所:ブルームバーグL.P. 、2023年8月18日
2.出所:ブルームバーグL.P. 、2021年3月31日
3.出所:ターゲット・コーポレーション決算説明会、2023年8月16日
4.出所:ホーム・デポ決算説明会、2023年8月15日
5.出所:ミシガン大学消費者調査、2023年8月11日

 

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