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米国債利回りの上昇、原油価格の下落、FRBのタカ派的発言

米国債利回りの上昇、原油価格の下落、FRBのタカ派的発言
〔要旨〕
  • タカ派的発言が強まる:先週は、FOMCメンバーからタカ派的な発言が相次いだ
  • 金利へのインプリケーション:私は依然として、米国の6月の利下げと年内計3回の利下げには非常に現実的な可能性があると考えているが、市場は更なるデータを見る必要があると考えている
  • 原油価格は下落:中東情勢の緊迫化にもかかわらず、WTI原油価格は先週、直近の高値から下落した
米中央銀行関係者のタカ派的発言がより大きく響き渡る

中東情勢の緊迫化にもかかわらず原油価格は下落

英国のより急速なディスインフレへの期待は続く

ユーロ圏はディスインフレの面で大きく前進

米国経済は力強く見えるが、消費者には小さな逆風が吹いている

中国とカナダからのニュース

資産クラスへの影響

今週の注目点

注目の日程

 

先週、市場や投資家に影響を与えた項目の中でも、米10年物国債利回りの上昇、原油価格の下落、ユーロ圏のディスインフレ、そして好調な米経済データがとりわけ注目を集めました。金利に関する中央銀行関係者の発言も含めて、私が今、注視している事項は以下の通りです。
 

米中央銀行関係者のタカ派的発言がより大きく響き渡る

先週、米10年物国債利回りは、昨年11月以来で最も高い水準まで上昇しました1 。きっかけとなったのは、数週間前に発表された米消費者物価指数(CPI)が予想を上回ったことで、これを受けて市場は全体的に、今年の米連邦準備制度理事会(FRB)の政策に対する考え方を変えました。こうした見方は、予想を大幅に上回った先週の米小売売上高や、米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバー達による一連のタカ派的な発言により、更に強まりました2 。いくつかの先週のハイライトは、以下のとおりです:

  • ジェファーソンFRB副議長:「今後発表されるデータで、インフレが現在予想される以上に持続的であることが示唆されれば、現在の抑制的な政策スタンスをより長く維持することが適切となるだろう。私はインフレ率を2%に戻すことに全力を注いでいる3 。」
  • パウエルFRB議長:「最近のデータは我々の確信を深めるものでないことは明らかであり、それどころか確信を得るには予想よりも時間がかかる可能性が高いことを示唆している。今は、労働市場の強さやこれまでのインフレ面での進展に鑑みると、抑制的な政策が作用する時間をさらに与え、データと変化する見通しをガイダンスとするのが適切だ。より高いインフレが続くようであれば、必要な期間、現在の引き締めの水準を維持することが可能だ4 。」
  • ウィリアムズニューヨーク連銀総裁:「現在の金利水準は、我々を目標に向かって徐々に近づけており、利下げの緊急性は全く感じていない5 。」
  • 先週発表されたFRBの金融安定報告書より:「持続的なインフレ圧力が予想よりも抑制的な金融政策スタンスにつながるリスクは、依然として最も頻繁に挙げられており、調査参加者のほぼ4分の3がこれに言及した。金融システムに対するリスクとして政策の不確実性を挙げた調査参加者の割合は3分の2弱に達し、昨年10月の報告書における割合を大幅に上回った6 。」
     

中東情勢の緊迫化にもかかわらず原油価格は下落

WTI原油価格は先週、直近の高値から下落しました7 。中東情勢が緊迫していることを考えると首をかしげる人もいるでしょうが、私は、これにはいくつかの重要な要素が反映されていると考えています:

  • 第一に、中東の地政学的リスクが原油価格に与える影響を和らげるという点で、米国の石油生産がゲームチェンジャーの役割を果たしています。米国エネルギー情報局によれば、米国は2018年以降、世界最大の産油国となっています。2023年の生産量は日量1,290万バレルで、2位のロシアの同1,010万バレル、サウジアラビアの同970万バレルを大きく上回りました8
  • 加えて、中東の緊張は高いとはいえ、多くの人が懸念するほどではありません。イランとイスラエルの間の計画的な応酬は、パフォーマンス的なものと私は見ています―それは非常によくコントロールされており、受けた侵略行為への反感を示す意図はありつつも、軍事行動のエスカレーションを避けるよう設計されているように見えます。
  • また金利がより長期に、より高くなるとの新たな常識は、ある程度の需要破壊を引き起こすと予想され、それが原油価格にも一定の下押し圧力となっていると考えられます。
     

英国のより急速なディスインフレへの期待は続く

直近の英国CPIは、英国のインフレが引き続き粘着的となりそうだということを示唆しました。サービスインフレは緩和しましたが、マーケットウォッチャーが望んだほどではありませんでした。加えて、英国の賃金の伸びも予想より鈍化しました。このため全体的に市場は、イングランド銀行の最初の利下げがいつ実施されるかについて、考え方を変えました。

しかし私は、4-6月期の終わりまでに利下げが実施されることへの期待を持っています。イングランド銀行のラムスデン副総裁による以下の発言は、私に安心感を与えました: 「4月のガス・電力市場局(Ofgem)の上限価格水準が分かっており、3月予算での燃料税凍結も考慮すると、他の条件が同じであれば、4月のヘッドラインCPIインフレ率は2%の目標近くまで急落するとの確信を持てる9 。」英国の失業率が1月の3.9%から2月は4.2%に大幅上昇したことも、早期緩和を後押しすると考えられます10
 

ユーロ圏はディスインフレの面で大きく前進

ユーロ圏の3月のインフレ率は前年同月比2.4%となり、2月の同2.6%、1月の同2.8%から低下しました。1年前のインフレ率が同6.9%だったことを考えると、これは素晴らしい進展です。食品とエネルギーを除いたコアインフレ率も、3月は前年同月比2.9%で変わらず、更にタバコを除いたコアインフレ率も同2.6%でした11 。私の見解では、このトレンドにより、欧州中央銀行(ECB)が6月の会合で利下げを実施することは事実上確実と考えられます。
 

米国経済は力強く見えるが、消費者には小さな逆風が吹いている

多くのデータによって、米国経済がかなり力強いことが裏付けられています。比較的堅調な内容のデータに続いて出された、先週の米小売売上高を見るとよく分かります。これはハイイールド債のスプレッドにも反映されており、ここ数カ月で実際にスプレッドは縮小しています。それは米30年物平均スプレッドの4.93%を大きく下回り、歴史的に景気後退のタイミングと一致してきた7.5%の水準をはるかに下回っています12

しかしいくつかのデータからは、消費者-少なくとも低所得世帯-にいくらか逆風が吹き始めていることが示唆されています。例えば、2023年10-12月期の米国クレジットカードの延滞率は、フィラデルフィア連銀が2012年にデータを取り始めて以来の最高水準に達しました13 。また、最低支払額しか支払っていないアカウントの割合が、その前の四半期から0.34% 上昇して過去最高となっており、収入面でのストレスが高まっていることを示唆しています14

クレジットカードを発行する銀行の中には、延滞率の上昇にさらされやすいところもあり、米国の低所得世帯へのエクスポージャーが高い金融機関の決算発表会では、既に延滞率の問題が取り上げられています。私たちはこの動向を注意深く見守りたいと思います。失業率が大幅に上昇すれば、特に低所得世帯の貯蓄水準が低いことから―それはすなわち経済的な逆風が強まった場合のバッファが不足しているということを考えれば―これらの世帯に相応の影響が及ぶ可能性があります。これは私の基本シナリオではありませんが、自身の見方に慢心しないようにする必要があり、消費者の健全性を注意深く観察することが重要です。
 

中国とカナダからのニュース

中国の1-3月期の国内総生産が予想を上回り、前向きなサプライズとなったことも注目に値します。これは、的を絞った財政刺激策が景況感を改善し、経済に有益な影響を与えていることを示唆しています。

また、カナダの2024年度連邦予算が先週発表されました。経済成長を押し上げ、家計の経済的安定を高めるような興味深い提案もありますが、同時に政府債務とその返済コストの高さへの懸念も浮かび上がらせています―とは言え、国境を隔てた米国で表明されている懸念ほど深刻なものではありません。
 

資産クラスへの影響

リスク資産は明らかにプレッシャーを受けており、利回りの上昇によって今後もそれは続くでしょう。しかし私は、これも過ぎ去るだろうと考えています。FRBが6月に利下げを実施し、年内に合計3回の利下げを実施する可能性は、まだ多いにあると私は考えています。 しかし、更なるディスインフレの進展と「より熱くない」経済状況を示す重要なデータが出るまでは、市場はおそらく考えを変えないでしょうし―従ってリスク資産へのプレッシャーもなくならないでしょう。

今後のデータに期待することを考えるとき、私はモーツァルトのライバル、アントニオ・サリエリが(少なくとも映画の中で)宣言したとされる言葉を思い出します。「私はあらゆる凡人を代弁して話す。私は彼らのチャンピオンだ...凡庸さの守護聖人なのだ。」ここ数週間のデータが、サリエリのような(平凡な)CPIや小売売上高なら良かったのにと思います。私は、今後数週間から数ヶ月の間に発表される米国経済データにも、サリエリのような瞬間-すなわち予想を上回らない平凡なインフレデータや一般的な経済データ―があることを期待しています。

米国がディスインフレ傾向にあることを示す証拠が増えさえすれば、楽観的な見方をする理由はあります。今回の下げは健全で、リスク資産のバリュエーションをより魅力的なものにしていると考えられます。そして今後市場に流入し得る現金は、まだ豊富に積み上がっています。実際、先週の決算説明会における大手グローバル銀行の最高財務責任者(CFO)のコメントが、そうした見方を裏付けています:「…現時点では多くの現金が積み上がっている。つまり―もちろん株式市場の動向にもよるが―今後も継続的な運用資産の増加が期待できるということだ。我々は皆、現時点で運用されず積み上がっている現金の量に驚いている15 。」私は、これは例外的なケースだとは思いません。多くの銀行が、運用されず積み上がっている現金の量の多さを目の当たりにしているのではないでしょうか。
 

今週の注目点

今週発表される最も重要なデータは、米個人消費支出だと考えています。また、米国内総生産とミシガン大学消費者インフレ期待も重要となります。言うまでもなく、私はこれらのデータが「サリエリ」的なデータ、つまり平凡で、上方へのサプライズのないデータになることを期待しています。

今週は日銀の金融政策決定会合もあります。ここ数日、植田総裁は、インフレが上昇し続ければ、日銀は更なる金融引き締めを辞さないとの見解を示しています。渡辺努氏による最近の調査によれば、日本の消費者のインフレ期待は上昇しており、これはより高いインフレが継続しそうだとの見方を裏付けています16 。従って今回の金融政策決定会合は、日銀がいつ再び行動を起こす可能性があるかについての指針を与える意味で、重要となるでしょう。これは、非常に弱くなっている円を円高方向へ導くのに役立つ可能性があります。

また今週は、ラガルドECB総裁を始めとするECBメンバーの重要なスピーチが予定されています。私は、6月の利下げ開始を実質的に確認するメッセージが続くのではないかと予想しています。

最後となりますが、いよいよ決算シーズンが本格化します。産業・消費者・企業の行動、そして経済全体に関する洞察を得るため、決算説明会で得られる情報を楽しみにしています。
 

注目の日程

公表日

指標等

内容

4月22日

ECBラガルド総裁講演

中央銀行の考え方について洞察を与える

4月22日

ユーロ圏消費者信頼感

消費者の家計と経済に関する見方を追跡

4月23日

ユーロ圏PMI

製造業とサービス業の経済の健全性を示す

4月23日

英国PMI

製造業とサービス業の経済の健全性を示す

4月23日

米国PMI (S&Pグローバル)

製造業とサービス業の経済の健全性を示す

4月23日

米国新築住宅販売戸数

住宅市場の健全性を測定

4月24日

ドイツIfo景況感指数.

現在のドイツの景況感を評価し、
今後6カ月間の予想を測定

4月24日

米国耐久財受注

耐久財の新規発注を追跡

4月24日

カナダ小売売上高

消費需要を測定

4月24日

ECBシュナーベル専務理事講演

中央銀行の考え方について洞察を与える

4月24日

カナダ銀行会合議事要旨

中央銀行の考え方について洞察を与える

4月25日

ドイツ GfK消費者信頼感

一般的な経済環境や家計の財務状況に
対する将来的なな見通しなど、消費者の
様々な動向を測定

4月25日

日銀金融政策決定会合

金利の道筋に関する最新の決定を発表

4月25日

ブラジル中央銀行金融政策委員会

金利の道筋に関する最新の決定を発表

4月25日

米国国内総生産

地域の経済活動を測定

4月25日

英国GfK消費者信頼感

英国の消費者の家計と経済に関する見方を
追跡

4月26日

日銀記者会見

中央銀行の考え方について洞察を与える

4月26日

米国PCEデフレータ

消費財・サービスの価格変動を測定

4月26日

米国個人消費支出

米国の消費者の健全性を示す

4月26日

ミシガン大学消費者調査
(インフレ期待を含む)

将来のインフレに対する消費者期待を測定

  • 1.

    出所:ブルームバーグ、2024年4月19日

  • 2.

    出所:米国勢調査局、2024年4月15日

  • 3.

    出所:FRB講演記録、2024年4月16日

  • 4.

    出所:ロイター、“Fed's Powell says restrictive rates policy needs more time to work”、2024年4月16日

  • 5.

    出所:ブルームバーグ、“New York Fed’s Williams Sees No Urgency to Cut Interest Rates”、2024年4月18日

  • 6.

    出所:FRB、金融安定報告書、2024年4月

  • 7.

    出所:ブルームバーグ、2024年4月19日

  • 8.

    出所:米国エネルギー情報局、インブリーフ分析、2024年3月11日

  • 9.

    出所:ガーディアン、“Pound drops as Bank of England deputy governor sees lower inflation ahead – as it happened”、2024年4月19日

  • 10.

    出所:英国国家統計局、2024年4月

  • 11.

    出所:ユーロスタット、2024年4月17日

  • 12.

    出所:ICE BofA US High Yield Index Option-Adjusted Spreadに基づく2024年4月18日時点のセントルイス連銀経済データ。この指数は、米国国内市場で公募発行された米ドル建て投資適格以下の社債のパフォーマンスを追跡する。オプション調整スプレッドとは、組み込みオプションを考慮したダイナミック・プライシング・モデルを使用し、証券の支払いを市場価格に見合うように割り引くためにベンチマーク・イールド・カーブに加えなければならないイールド スプレッドのこと。

  • 13.

    出所:フィラデルフィア連銀、2023年第4四半期インサイトレポート、2024年4月10日

  • 14.

    出所:フィラデルフィア連銀、2023年第4四半期インサイトレポート、2024年4月10日

  • 15.

    出所:ボースウィックCFO、バンク・オブ・アメリカ決算説明会、2024年4月14日

  • 16.

    出所:ブルームバーグ、“Higher Inflation, Price Tolerance in Japan Boosts Case for BOJ Rate Hikes”、2024年4月21日

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MC2024-056