FRBで反対票が投じられ、貿易合意に達する国々が急増

〔要旨〕
- FRB:予想通り政策金利を据え置いたものの、2人のメンバーが反対票を投じ、0.25%の利下げを主張した
- 関税と貿易:先週、8月1日の関税期限を前に各国が合意を急ぐ中、米国との間で一連の貿易合意がなされた
- メガキャップ企業の決算:予想を上回る決算が発表され、AI関連株の優位性は衰える兆候を見せず
FRB 内の反対票
メガキャップ企業の業績が急伸
欧州の企業決算も堅調
貿易合意と新たな関税率
注目の日程
先週は、経済・企業決算カレンダーにおいて重要性の高い週の一つとして注目されていましたが、その期待に違わぬ結果となりました。
- 米連邦準備理事会(FRB)は政策金利を据え置きましたが、米連邦公開市場委員会(FOMC)において、1993年以来初めて2名の委員が反対票を投じました。
- 第2四半期決算の好業績発表を受け、マイクロソフトがエヌビディアに続いて時価総額「4兆ドルクラブ」に加わりました1。
- 8月1日の期限を前に、各国は米国との貿易合意締結を急ぎました。
- 大方で予想されていた米国労働市場の弱含みと、時を同じくして関税引き上げに伴う物価上昇が顕在化し始めました。
スタグフレーションに対して現在生じている懸念は過大な可能性がありますが、成長の減速と物価上昇があいまって、米国による急激な関税引き上げがなかった場合と比較すると、状況は悪化しています。市場は主に、成長の減速に注目しています―労働データの軟化に直面して株式市場が弱含んでいることにそれが表れています2。投資家が将来の利下げを予想していることから、短期の米国金利は大幅に低下しています3。一方、3年物と5年物の米国債のブレークイーブン利回りで測定されるインフレ期待は、雇用統計後に低下し、投資家が最近の物価上昇が持続的なインフレにつながるとは予想していないことを示唆しています。
FRB 内の反対票
FRB は予想通り政策金利を据え置きましたが、2人のFOMC委員が 0.25%の利下げを主張し、反対票を投じました。2人の委員が反対票を投じたのは、1993年以来となります。これは一定のハト派的な姿勢の表れであり、次回の利下げが早まる可能性を示唆していると解釈したいところです。しかしFRB のジェローム・パウエル議長は、記者会見で慎重な口ぶりながらも、引き続きインフレリスクについては評価中であり、ほとんどの委員にとっては利下げを正当化するほど労働市場に十分な弱さが見られていないと述べました。全体として、市場も私たちも、彼のコメントをタカ派的なものと受け止めました。金曜日の雇用統計発表前まで市場は、12月までの利下げ幅を0.37%と織り込んでいました。
FOMC会合に先立って発表された雇用動態調査(JOLTS)によれば、解雇された労働者数は依然として少ないものの、求人数は減速傾向にあります。このデータは、急激に悪化しているとはいえないものの、労働市場がやや減速しつつあることを示しています。そして8月1日金曜日に発表された非農業部門雇用者数は、7月の非農業部門における米国の新規雇用者数が、予想(10万4,000人)を下回る7万3,000人となったことを示しました。しかしより驚いたのは、5月と6月の非農業部門雇用者数の修正でした(6月は14万7,000人から1万4,000人に下方修正)。これは、大方の予想を上回る労働市場の減速を示唆しています。雇用統計の発表後、FRBの12月までの利下げ幅として0.5%が織り込まれました4。
ただし、データ面では全てが暗いわけではありませんでした。第2四半期の米国国内総生産(GDP)は、輸入・輸出データの改善も一部要因となり、成長率が予想を上回る3%となりました。個人消費も、前月からやや改善しました5。
このデータから私たちは、米国経済は景気後退の兆候を示していないものの減速しつつあり、FRBは労働市場に細心の注意を払うだろうと考えています。今後数ヶ月間でデータがこのトレンドを維持する場合、2025年に1回または2回の利下げに賛成するFOMC委員が増加する(あるいは全委員が賛成する)可能性が高まるでしょう。私たちが今問うのは、今後数ヶ月間で現れる可能性の高い、高い水準のインフレデータを、FRBがどのように解釈するかということです。一時的な関税の影響と捉えるか、あるいはより深刻なものと捉えるかです。
メガキャップ企業の業績が急伸
人工知能(AI)関連株の優位性は衰える兆候を見せておらず、その業績は、最も高く見積もった予想をも大幅に上回り続けています。AI、クラウドコンピューティング、データインフラなどへの大規模投資を背景に、マイクロソフトとメタは先週、予想を大幅に上回る決算を発表しました6。おそらく同程度に重要なのは、両社が今後数ヶ月間で資本支出を増やすことにコミットする、強いフォワードガイダンスを出したことです。これは数百億ドルに上る新たな投資を意味し、半導体メーカーを含む広範なテクノロジーセクターやAIエコシステム全体の株価に恩恵をもたらす可能性があります。
アップルとアマゾンも先週決算を発表し、両社とも業績予想を上回りましたが、フォワードガイダンスは全体的によりまちまちでした。ただ全体として見ると、過去の投資が成果を挙げ、大手テクノロジー企業の業績は明らかに予想を上回り続けています。これにより、企業間での競争優位確保のため、AI投資がさらに加速する可能性があります。
欧州の企業決算も堅調
欧州の決算シーズンは、主要指標では米国ほどの好調さは見られませんでしたが、いくつか大手企業で業績悪化により株価が大幅下落するケースが見られました。ノボノルディスクが主な例です。しかし決算は、依然としてコンセンサス予想を上回る水準で発表されており、ロールス・ロイスなど一部企業は、業績見通しを引き上げたのちに株価が過去最高水準に急騰しました7。
多くの企業が、業績不振の要因として通貨高に言及しましたが、企業が高関税に先回りするため米国への輸出を急拡大した結果、多くの輸出企業で堅調な1株当たり利益(EPS)成長率がみられました。
貿易合意と新たな関税率
先週、8月1日の関税期限を前に各国が合意を急ぐ中、米国との間で立て続けに貿易合意が締結されました。韓国、ベトナム、カンボジア、タイは「解放の日」に当初発表されたよりも低い関税率での合意に成功しましたが、米国は各国市場での製品販売アクセスを拡大する見込みです。韓国はまた、米国に対して日本が550億ドル、欧州連合(EU)が600億ドルの投資を約束したのに続き、350億ドルの投資を約束しました。米国大統領とメディアは「合意」と表現していますが、私たちは「枠組み」という表現がより適切だと考えています。私たちのような市場参加者はもちろん、当事者間でも多くの詳細が不明な状況です。それでも重要なのは、貿易のテールリスクが縮小し、リスク資産が予想通り、これらのニュースに前向きに反応したという点です。
貿易期限の数時間前に、トランプ政権は新たな基本関税率を発表しました:
- 対米貿易赤字を持つ貿易相手国に対して10%の関税率
- 対米貿易黒字を持つ貿易相手国に対して15%の関税率
- ホワイトハウスとの合意に至らず、かつ対米貿易黒字を持つ貿易相手国に対してさらに高い関税率
新たな関税率は8月7日に発効する見込みです。
メキシコなど一部の貿易相手国は、米国との交渉が継続中であることから期限が延長されました。一方でカナダには新たな関税率35%(それまでは25%)が適用され、トランプ政権は、国境警備と中東紛争に関する意見の相違をその主な理由として挙げました。
関税を外交政策のツールとして活用する動きは、注目すべき動向です。カンボジアとタイは、両国間の国境紛争がエスカレートしたことによる紛争のさなかにありましたが、先週の米国との貿易合意は、両国が相互の敵対行為を停止することを条件になされました。もう一つの貿易関連の外交政策動向としては、インドに対する突然の25%の関税措置があります。この措置の直後、トランプ大統領は同国が長年ロシアのエネルギーを購入し続けていることを批判しました。米国が今後数週間でロシアやロシアと取引を続ける国々に対する経済的プレッシャーを強める中で、関税は米国の―経済的目標だけではなく―外交政策目標を達成するための手段としてますます活用されていく可能性があります。
注目の日程
公表日 |
国・地域 |
指標等 |
内容 |
---|---|---|---|
8月5日 |
米国 |
ISMサービス業PMI |
米国国内総生産(GDP)の主要な構成要素の一つであるサービス業の健全性を測定 |
8月5日 |
米国 |
ISMサービス業事業活動指数 |
サービス業の現在の需要とモメンタムを反映 |
8月5日 |
米国 |
ISMサービス業雇用指数 |
サービス業の雇用動向を示す |
8月5日 |
米国 |
ISMサービス業価格指数 |
サービス業のインフレ圧力について示唆を提供 |
8月5日 |
グローバル |
OPECプラス合同閣僚監視 |
世界的な原油価格とインフレ期待に影響を与える可能性 |
8月6日 |
英国 |
建設業PMI |
経済の健全性の先行指標であり、建設業の活動を測定 |
8月6日 |
米国 |
グローバル・サプライ |
世界的なサプライチェーンストレスを追跡、インフレと生産に関連 |
8月7日 |
英国 |
イングランド銀行政策金利 |
英国ポンドと世界市場に影響を与える主要な金融政策決定 |
8月7日 |
米国 |
週間失業保険申請件数 |
労働市場環境のタイムリーな指標 |
8月8日 |
米国 |
経済的異質性指標(EHI) |
セクター間や地域間の差異を浮き彫りにする |
8月8日 |
米国 |
消費者期待調査 |
消費者心理とインフレ期待を通じて金融政策に影響を及ぼす |
8月9日 |
米国 |
卸売業報告 |
在庫水準と需要動向について洞察を提供 |
MC2025-082