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FRBの秋の利下げ観測が強まる

FRBの秋の利下げ観測が強まる
〔要旨〕
  • FRB:FRB理事たちは労働市場について懸念を表明しているが、まだ9月の利下げが確実になったわけではない
  • 消費支出:米国経済は依然として堅調だが、企業は低所得層の消費者が打撃を受けていると報告
  • イングランド銀行:英国ではイングランド銀行がタカ派的な利下げを行ったが、今後追加利下げが見込まれる
FRBに変化が迫る

「Fedspeak(FRB関係者の発言)」が利下げを示唆

消費の軟化は主に低所得層にみられる

イングランド銀行はFRBに負けずとも劣らず

注目の日程
 

平均的にみて8月と9月が米国株のパフォーマンスが最も悪い月となることを、投資家はしばしば思い起こさせられます1。季節要因分析により、興味深いヒストリカル・パターンが見られるかもしれませんが、私たちはこれに対して一定の懐疑を抱いています。ほとんどの月次トレンドは統計的に強く有意なわけではなく、いわゆる最悪の月といわれる月であっても、予想外の結果をもたらす場合があります。例えば、S&P 500種指数は2024年8月に2.3%のリターンを記録しました2。市場はカレンダーよりも、ファンダメンタルズや投資家心理に左右されるものです。ただし、トレーダーが休暇中で流動性が低下している場合、新たな資金フローが株価に過大な影響を与えることはあります。

ボラティリティ指数は今月に入ってから今のところ比較的穏やかであり、株式市場の取引は、日によって横ばいからやや低下傾向となっています3。しかしその裏では、決算発表を受けていくつか大きな株価の変動(良い方向、悪い方向ともに)がありました。

季節的なパターンを信じるか否かに関わらず、今の市場の背景を考慮すれば、市場のモメンタムが一時的に停滞しても驚きはありません。関税は既に発効しており、成長鈍化と、影響を受ける製品の価格上昇が見込まれます。米連邦準備理事会(FRB)自体、インフレ圧力と経済減速の兆候のバランスを取るという難しい立場にあります。それでも、景気後退が間近に迫っている兆候はほとんど見られません。従って私たちは、季節的なものであれそれ以外であれ、ボラティリティは大きな懸念要因というより、潜在的な買いの機会と捉えるべきではないかと考えています。

 

FRBに変化が迫る

物価上昇と雇用の伸びの鈍化だけでは十分でなかったかのように、現職のFRB理事の突然の辞任が、金融政策の見通しをさらに複雑化させました。先週金曜日、アドリアナ・クーグラー理事は思いがけず、2026年初めの任期満了よりも 4ヶ月早く辞任しました。FRB理事は大統領によって任命されることから、ホワイトハウスは、2026年5月に任期満了となるジェローム・パウエル FRB 議長の後任候補の人選を行いつつ、FRB理事の空席を埋める作業を同時に行うという異例の事態となりました。

トランプ大統領により、現経済諮問委員会委員長のスティーブン・ミラン氏が、クーグラー氏の残り4カ月の任期においてFRB理事を務めることとされましたが、就任は上院の承認を待って行われることとなります。一方、トランプ大統領によって選ばれ、利下げを公に主張しているクリス・ウォラーFRB理事が、次期FRB議長候補の最有力候補として浮上しつつあるとの見方が強まっています。

この2つの動きは、いずれも金融政策に重大な影響を及ぼす可能性があります。まずミラン氏のFRB理事就任について、9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)会合までに上院の承認が得られれば、今年残り3回全て、そして2026年1月の政策決定会合に参加することになります(たとえ理事としての任期が一時的なものであれ)。次にパウエル氏が慣例通り、任期満了の5月にFRB議長を退任した場合、ウォラー氏のような現職のFRB理事を後任のFRB議長に任命すると、ホワイトハウスが埋めるべきFRB理事の空席がさらに1つ増えることとなります。

つまり来年までの間にトランプ政権は、後任のFRB議長及びFRB理事2名を指名する可能性があるということです。これらの者たちが金融政策決定を直接コントロールするわけではありませんが、低金利を選好するか否かに基づいて選ばれる可能性が高く、その結果、ここ数年に比べてFOMCにより「ハト派」的なバイアスを植え付けるであろうと考えられます。
 

「Fedspeak(FRB関係者の発言)」が利下げを示唆

予想を下回った7月の非農業部門雇用者数を受け4、複数のFRB関係者が米国労働市場をめぐる懸念が高まりつつあることを表明しました。

  • リサ・クックFRB理事は、成長の減速ペースを「懸念すべき」と表現し、前月データの大幅な下方修正があったことについて「経済の転換点にみられる典型的なもの」だと述べました5
  • サンフランシスコ連銀のメアリー・デイリー総裁もこうした懸念に呼応し、最近の講演で「FRB は今後数カ月以内に政策調整が必要になる可能性が高い」と述べました6
  • 同様にミネアポリス連銀のニール・カシュカリ総裁も、「短期的には、政策金利の調整開始が適切となる可能性がある」と述べました7

このような表現の転換は、より多くのFRB関係者が今秋の利下げの可能性を受け入れる姿勢を強めていることを示唆しており、直近でFOMCが政策金利の据え置きを決定し、パウエル議長がタカ派的な発言を行ったことを踏まえると注目すべき動向です。より多くのFRB理事たちが、ウォラー氏及びボウマン氏(7月会合で利下げが必要な理由として労働市場の軟化を挙げた)といった据え置きに反対した理事たちの考えに近づきつつあるようです。
 

消費の軟化は主に低所得層にみられる

企業決算は、米国経済が依然として堅調であることを示唆していますが、消費者関連企業の一部からは、消費軟化の兆候が見られるとされています(特に低所得層の米国消費者が支出パターンを調整しているとされる)。マクドナルドの決算は予想を上回りましたが、CEOのクリス・ケンプチンスキー氏は「第2四半期に、低所得層消費者のファストフードレストラン来店数は2桁の減少が続いた…彼らは朝食を抜いたり、メニューをグレードダウンさせたり自宅での食事に切り替えている」とコメントしました8

これは将来の成長に関する危険な兆候と見なされるかもしれませんが、私たちはもう少し楽観的に見ています。最低所得層の消費者は関税により強いプレッシャーを受けるでしょうが、広範な経済全体の観点でみると、彼らの消費への寄与度は低いものです。中間所得層と高所得層の影響力がより大きく、株価が記録的な高水準あるいはそれに近い水準にあることから、経済の純資産も記録的な高水準となっています9。大規模な解雇や株式市場の急落がなければ、これらの層は消費を継続し、経済を緩やかに成長させ続けると予想されます。
 

イングランド銀行はFRBに負けずとも劣らず

最近のFRB会合で、30年以上ぶりに2人の理事が反対票を投じる波乱があった後、イングランド銀行(BoE)でも驚きの展開がありました。BoEは予想通り政策金利を0.25%引き下げましたが、初回の投票では4対4対1と結果が分かれたために、再投票が必要となりました。再投票を要したのは、金融政策委員会28年の歴史で初めてのことでした10。アラン・テイラー委員は0.5%引き下げへの投票から0.25%引き下げへの投票に修正し、これが投票結果を決しました。結果として、ブルームバーグのエコノミスト予測で誰も予想していなかった、5票対4票に分裂した結果となりました。

3月に0.5%の引き下げに賛成したキャサリン・マン委員、そしてクレア・ロンバルデッリ副総裁は、これまで同委員会の中でよりハト派のメンバーとみなされていましたが、今回会合では両名とも、政策金利を4.25%に維持する方に票を投じました。

会合後の記者会見におけるアンドリュー・ベイリー総裁のメッセージはタカ派的なトーンを確認させるものとなりましたが、委員会内での意見のばらつきは、成長とインフレ両方のリスクが高まっている中で、中央銀行がコンセンサスに達することがいかに難しいかを示しています。(これは、9月のFRBの利下げをほぼ確実視する見方がある一方で、結論がどうなるかはまだ分からないことを暗示しています。)

また私たちは、失業率が確実に上昇しつつあり、現在のインフレ圧力の多くが需要要因ではなく、依然として税や公共料金の値上げに由来するものであることから、BoE は今回サイクルでさらに数回利下げを行う可能性があると考えています。サービス部門のインフレが再び低下傾向となれば、ハト派にとって今後の会合で主張の余地がより広がるでしょう。
 

注目の日程

2025年8月12~16日の世界経済データの公表予定とイベント

公表日

国・地域

指標等

内容

8月12日

米国

CPI

FRBの政策決定に影響を与える
主要なインフレ指標

8月12日

ドイツ

ZEW景況感指数

投資家の信頼感と経済見通しに
ついて示唆を与える

8月13日

英国

第2四半期GDP成長率

経済のパフォーマンスを測定し、
イングランド銀行の政策金利の
決定に影響を与える

8月13日

インド

鉱工業生産指数(前年同期比)

製造業の健全性と経済のモメン
タムについての指標

8月14日

米国

生産者物価指数

卸売物価のインフレ動向と経済のコスト圧力を追跡

8月14日

中国

小売売上高と鉱工業生産指数

国内需要と経済活動の主要指標

8月14日

ブラジル

中央銀行の政策金利決定

通貨、インフレ、投資フローに
影響を与える

8月15日

米国

小売売上高

消費支出を測定するGDPの主要な牽引要素

8月15日

ユーロ圏

貿易収支

輸出入の動向と通貨の影響を反映

8月15日

南アフリカ

鉱業生産指数

資源牽引型経済にではGDPと輸出収入の面で重要

8月16日

日本

貿易収支

輸出の強さ及び日本製品に対する世界的な需要を示唆

8月16日

メキシコ

鉱工業生産指数

製造業と経済成長について示唆を与える

  • 1.

    出所:ブルームバーグ、インベスコ、2025年7月31日、1987年以降のS&P500種トータルリターン指数のパフォーマンスに基づく

  • 2.

    出所:ブルームバーグ、2025年7月31日

  • 3.

    出所:ブルームバーグ、2025年8月8日、CBOEボラティリティ指数(VIX)と、S&P 500種指数の月初来パフォーマンスに基づく

  • 4.

    出所:米国労働統計局、2025年6月30日、非農業部門雇用者数に基づく

  • 5.

    出所:CBSニュース、“Fed official says last week's jobs revisions could signal an economic turning point”、2025年8月6日

  • 6.

    出所:ヤフーファイナンス、“Fed's Mary Daly says it's time to cut rates”、2025年8月6日

  • 7.

    出所:マーケットウォッチ、“Kashkari leans toward rate cut as concerns about an economic slowdown grow at the Fed”、2025年8月6日

  • 8.

    出所:マクドナルド 2025年第2四半期決算説明会議事録

  • 9.

    出所:FRB、2025年8月8日。2025年第1四半期のデータ(入手可能な最新データ)に基づく

  • 10.

    出所:イングランド銀行、2025年8月

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