データはまちまちだが、株価上昇が続く可能性

〔要旨〕
- FRB:ジェローム・パウエル議長は、ジャクソンホールのシンポジウムで米国の金融政策の転換を示唆するか?
- 英国経済:英国のデータは市場にとってまちまちな内容だったが、英国経済は全体として予想よりも好調とみられる
- 決算シーズン:企業収益はより急速に成長すると予想され、株価のさらなる上昇を後押しする可能性
ジャクソンホールでパウエルFRB議長は何を語るか?
英国経済は懸念されたほどには弱含んでいない
業績見通しは「概ね」改善傾向
注目の日程
投資家が、矛盾した経済データの板挟みになっていると感じたとしても無理はありません。今月始め、米国の雇用者数が当初の発表値から大幅に下方修正されました。先週発表された米国の消費者物価インフレは予想通りでしたが、その2日後には予想よりも高い生産者物価データが発表され、さらに金曜日には小売売上高のデータが上方修正されました。一見するとデータのつじつまが合わない点は、関税と労働供給低下という新たな環境下で再調整が進行しつつある、米国経済の状況を反映していると考えられます。そしてそれは、以前も述べたように、一般的には成長減速と物価上昇というコストを伴います。
重要なのは、最近の米国の価格上昇が市場から、広範なインフレの始まりではなく、一時的なショックと解される可能性が高いということです。私たちはインフレ期待を注視しています。生産者物価指数(PPI)の発表後、3年物のブレーク・イーブン・インフレ率は0.02%上昇したものの、2.5%をわずかに上回る水準にとどまり1、長期のインフレ期待が依然としてアンカーされている(安定的に維持されている)という安心材料を提供しました。
朗報は、世界経済が引き続き堅調さを示しているということです。全般的に私たちは現在の環境を、世界貿易の変化を背景にしつつも、経済と企業が驚くべき堅調さを示している状況と捉えています。全体的にグローバル企業は、現状に十分対応可能な状況にあることを示しています。多くの企業が好調で、アナリストはこれらの企業の利益成長見通しを引き上げました。こうしたことが、2025年にリスク資産のさらなる良好なパフォーマンスが期待される状況を整えていると考えられます。
ジャクソンホールでパウエルFRB議長は何を語るか?
FRBは今週、年次のジャクソンホール経済政策シンポジウムを開催します。今年のテーマは「転換期の労働市場:人口動態、生産性、マクロ経済政策」です。例年通り、まさにふさわしいトピックが議論されることとなります。しかし市場の注目は、パウエルFRB議長のコメントに集まるでしょう。過去にこのシンポジウムは、政策転換のシグナルを発する場として活用されてきました。例えば昨年の同シンポジウムでパウエル議長は、「政策調整の時が来た」と発言し2、その後2024年内に100ベーシス・ポイント(=1%)の利下げが行われた経緯があります。
トランプ大統領とスコット・ベッセント財務長官は、そうした昨年のような経緯を再び辿ることを求めています。現在市場は、9月に25ベーシス・ポイントの利下げが行われることを完全に織り込んでいますが、市場関係者は、経済データの内容がまちまちであることに留意すべきです。ベッセント長官が、「あらゆるモデル」3が金利を現在の水準より150ベーシス・ポイントほど引き下げるべきだと示唆しているとしたのとは対照的に、テイラー・ルールなどほとんどのモデルは、政策金利がほぼ妥当な水準にあると示唆しています。むしろ金利を引き上げるべきだと示唆しているモデルもあります。
先週の消費者物価指数(CPI)データに関するコメントのほとんどは、関税のパススルー効果が緩やかだった点を強調しましたが、注目されたのはスーパーコアCPI(食品、エネルギー、住居費を除いた価格指数)でした。前月比0.48%増と1月以来の上昇幅を記録し4、FRBが「関税の一時的な影響」として片付けるのが困難な部分でインフレ圧力が高まっていることを示唆しました。金曜日に発表されたサービス部門のPPIも前月比で1.1%上昇し、この懸念を裏付けました5。
金曜日に発表された 7月の米国の小売売上高は前月比 0.5%増と堅調な伸びを示し、6月の数値も同0.6%増から0.9%増に上方修正されました。このデータは、銀行や決済事業者が第2四半期の決算発表シーズン中に、「米国の消費者は依然として消費意欲が高い」と述べたコメントを裏付けています6。
直近の労働市場データを見ると、FRBが保険的に利下げを行うのも妥当かつやむを得ないとの見方が強まりそうですが、最新のインフレデータからは、パウエル議長が米連邦公開市場委員会(FOMC)の、より明確なデータが出るまで様子見する姿勢を追認するとの見方が強まりそうに思われます。
英国経済は懸念されたほどには弱含んでいない
先週発表された英国の国内総生産(GDP)と労働市場データは、まちまちな兆候を示しましたが、全体的には大方で懸念されたよりも良好な状態にあることを示唆しています。2025年8月14日時点の国家統計局(ONS)データによると、英国の第2四半期の経済成長率は0.3%、前年同期比1.4%でした。英国製品への米国の需要が関税導入前に増加したことから、純輸出が第1四半期の成長に大きく寄与しました。これは第2四半期にある程度減速することが予想されましたが、純輸出は依然、成長に対してネットでプラスの寄与となりました。
公式の労働市場データによると、7月の給与所得者数は再び減少したものの、労働市場における減少ペースは鈍化しました。企業は、今年前半の雇用主負担分の国民保険料率引き上げに呼応して採用を大幅に減速させたものの、現時点で大規模な解雇は行っていません。
住宅ローン金利は低下しつつあり、残高借り換えによってほとんどの世帯が圧迫されないであろう水準に近づいています。英国の家計は依然として十分な貯蓄を保持しており、今年の後半にかけて支出を増加させる可能性があります。
総じて英国経済は底を打った可能性が高く、年末にかけてさらなる改善が見られうると私たちは考えています。
業績見通しは「概ね」改善傾向
第2四半期の決算シーズンも終盤に差し掛かっていますが、多くの企業がコンセンサス予想を上回る決算を発表しました。これを受けて、アナリストはこれらの企業の将来の成長予想を上方修正しました。多くの米国企業、特に金融及びテクノロジーセクターの企業の利益予想が上方修正されました。他方で原油価格の低下を受け、エネルギー企業の利益予想は下方修正されました。古臭いと思われるかもしれませんが、私たちは最終的に株式市場を牽引するのは利益だと考えています。これらの見通しが正しい方向に修正されれば、今年の株式市場の上昇をさらに支える要因となるでしょう。
注目の日程
公表日 |
国・地域 |
指標等 |
内容 |
---|---|---|---|
8月19日 |
カナダ |
消費者物価指数(CPI) |
インフレ動向を示し、カナダ銀行の政策金利決定に影響を与える |
8月20日 |
中国 |
中国人民銀行政策金利決定 |
アジアの金融政策と金融市場のボラティリティに影響を与える |
8月20日 |
ニュージーランド |
ニュージーランド準備銀行 |
金融政策の方向性を示し、ニュージーランドドルの価値に影響を与える |
8月20日 |
英国 |
CPI |
インフレを測定し、イングランド銀行の政策決定に影響を与える |
8月20日 |
米国 |
FRB会合議事要旨(7月) |
FRBの政策スタンス及び今後の政策金利変更に関する洞察を提供 |
8月21-22日 |
米国 |
ジャクソンホール経済政策 |
FRB議長が金融政策の見通しについて論じる主要な中央銀行イベント |
8月21日 |
ドイツ、ユーロ圏、英国、 |
購買担当者景気指数(PMI)(速報値) |
製造業・サービス業の経済の健全性に関する早期の指標 |
8月22日 |
英国 |
小売売上高 |
消費支出の動向と経済のモメンタムを反映 |
MC2025-086