パウエル議長がFRBの政策変更を示唆

〔要旨〕
- タカ派対ハト派:先週のタカ派的な見出しは、ジャクソンホールにおけるFRB議長のハト派的な講演によって急速に影をひそめた
- テクノロジー株:パウエル議長講演は、AI への疑念や地政学的懸念によって生じたテクノロジー株の下落を反発させる後押しとなった
- 米ドル:米ドルはハト派的トーンにより下落したが、下落傾向は今後も続くと予想される
FRB の政策スタンスが変化する可能性
最近のデータからは世界的に堅調な兆候が見られる
パウエル議長の講演後、テクノロジー株の低迷が反転
では今後どうなるのか?
注目の日程
いつもなら、8月は休暇で人がいなくなり、メールのやり取りも減り、読書に集中できる静かな月のはずですが、今年の夏はほとんど休む間もありませんでした。先週についても例外ではありません。発表されたデータからは、世界の成長がより堅調なことが示され、それを受けて一部のFRBメンバーは今週、よりタカ派的なトーンのコメントを発しました1。しかし何といっても今週のハイライトは、ジャクソンホール経済シンポジウムにおけるパウエルFRB議長講演でしょう。パウエル議長は、「リスクバランスの変化により、政策スタンスの調整が正当化される可能性がある」ことから、9月に利下げが行われる可能性を示唆しました。そしてもちろん、2025年に入ってずっとそうであるように、米政権によるFRBへの新たな攻撃もありました。
人工知能(AI)が生産性の向上に効果をもたらしているかについて学者の間で疑問が投げかけられたことや3、中国当局が企業にエヌビディアの H20 チップの使用を控えるよう要求したことを受け、週の初めに米国のテクノロジー株が売られました2。しかしジャクソンホールでのパウエル議長講演を受け、金曜には株価は反発しました4。
FRB の政策スタンスが変化する可能性
パウエル議長が 9 月の利下げの可能性が高まっているとのシグナルを発したことは、FRB の政策スタンスが変化する可能性を示しています。比較的抑制的な金融政策期間を経て、 FRB は、リスクバランス、特に労働市場の軟化の兆候から、より緩和的なアプローチが正当化されると考えるようになっています。
インフレは依然懸念されるものの、一部の政策担当者は、最近の関税による価格上昇圧力は、より広範なインフレ傾向を示唆するものというよりは一時的なものと見て、これを見過ごそうと考えているようです。この見方は債券市場にも表れており、1年物、3年物、5年物のブレークイーブンインフレ率は引き続きよくアンカーされて(安定的に維持されて)います5。実質的にFRBは緩和に向けた市場期待に歩調を合わせつつあり、これはリスク資産にとって建設的な展開だと考えられます。こうした環境下では、FRB の流れに特に抗おうとは思わないでしょう。
しかし米政権は、 FRB との対立を続けています。今度は住宅ローン契約をめぐる不正疑惑を理由に、リサ・クック理事の辞任及びそうしない場合は(議長にその権限はないにもかかわらず)パウエル議長が同理事を解任することを要求しました。クック理事は辞任の圧力に屈することはないと反撃しましたが、これは米政権が FRB を再編し、政策金利の引き下げを目指していることの新たな明確なシグナルといえます。
皮肉なことに、先週発表された 7 月の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨は、比較的タカ派的な内容であり、ほとんどの委員がインフレを成長よりも大きな問題だと考えていることを示唆しました。もちろんこの議事要旨は、直近で下方修正される前の労働市場データを受けたものです6。また先週のブルームバーグのポッドキャストで7、カンザスシティー連銀のジェフリー・シュミット総裁は、「政策的な利上げのシナリオがあり得るか、議論すべきではないとは思わない」と述べました。
それにもかかわらずパウエル議長は、ジャクソンホールでの講演で、FOMC の議事要旨でのタカ派的なメッセージと決別しました。この講演は FRB の考え方の変化を示唆するものであり、真摯に受け止められるべきものです。今後のFRB会合で、FRB内での議論や意見の相違が表面化する可能性はあるものの、進む方向は明確なようです。私たちは、パウエル議長が次回会合で、より緩和的なスタンスを示す可能性が高いと考えています。
最近のデータからは世界的に堅調な兆候が見られる
先週発表された購買担当者景気指数(PMI)は、今後数ヶ月で経済活動の改善が予想される、堅調な成長基調を示唆しました8。この改善は米国、欧州及びアジアの一部と広範囲にわたって見られ、調査対象企業の雇用及び価格見通しも改善していることが示されました。これは通常、成長ひいては株価にとって朗報ですが、FRB が政策金利をいつ、どの程度引き下げるかという疑問も同時に呼び起こします。
パウエル議長の講演後、テクノロジー株の低迷が反転
マクロ経済データは世界的に好調だったものの、ジャクソンホールでのFRB会議を前に、テクノロジーセクターが株価を押し下げていました9。 この動きのきっかけとなった具体的なニュースは特になく、多くの人は、来週発表されるエヌビディアの決算に焦点を合わせていたことでしょう。(テクノロジーセクターの株価低迷は)いくつかのニュースが積み重なった結果と考えられます。まずニュース配信サイトで、多くの企業でAI による生産性の向上が見られないことを示す記事が幅広く引用されました10。それにより、これらの企業が設備投資を収益化できるかについて疑問が投げかけられました。
その後、中国当局がNVIDAの中国向けプロセッサ(H20)の販売を制限する措置を取ったことを受け、エヌビディアが H20 チップの生産停止をサプライヤーに要請したことから、先端技術をめぐる地政学的課題が再浮上しました。
しかし、政策金利の引き下げ期待が市場のグロース株の急騰を後押しし、週の終わりにはこうした懸念は急速に後退しました11。
では今後どうなるのか?
今週、エヌビディアの決算発表があります。これはもはやミクロであると同時にマクロな話題でもあります。実際これは、地政学的な話題としても捉えられるかもしれません。ハイパースケーラーによる資本支出の大きさや見通しを踏まえると、好調な数字が報告される可能性が高いでしょう。ただし、エヌビディアのプレジデント兼CEOであるジェンスン・フアンの発言については、顧客の支出減の兆候への言及があるか注視する必要があります。
米ドルは先週初め、金融政策に関するタカ派的なトーンを受けてやや上昇しましたが12、週終わりのパウエル議長のハト派的発言により後退しました。私たちは、米ドルは引き続き下落傾向となると見ています。米ドルは依然として割高であり13、米国と他の国々との金利差は縮小していくとみられます。FRBへの攻撃は、ドル安を後押しする要因となるでしょう。
ドル安、世界の成長改善、米国政府の支援的な政策により、米国以外の株式や米国小型株など、最近後れをとっていた市場分野に投資機会が生まれる可能性があると私たちは考えています。
注目の日程
公表日 |
国・地域 |
指標等 |
内容 |
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8月29日 |
米国 |
個人所得、個人支出 |
消費の強さとインフレ圧力を精査する上で不可欠 |
8月29日 |
米国 |
コア個人消費支出(PCE) |
FRBが選好するインフレ指標;金利政策の決定にとって重要 |
8月29日 |
米国 |
シカゴ購買担当者景気指数
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地域の企業景況感;ISM製造業景気指数の先行指標となることが多い |
8月29日 |
米国 |
ミシガン大学消費者信頼感 |
消費者信頼感とインフレ期待を測定 |
8月29日 |
カナダ |
国内総生産(GDP) |
カナダの経済パフォーマンスの主要指標;カナダ銀行の政策スタンスに影響を与える |
8月29日 |
英国 |
ネーションワイド住宅価格 |
英国の住宅市場トレンドと消費者の資産に関する示唆を与える |
MC2025-090