株価上昇は一時止まったものの、利下げと経済成長が下支えとなり得る

〔要旨〕
- 株式市場:先週、株式市場は「不安の壁」をわずかに下ったものの、今後は上昇が再開すると見込まれる
- 政府の閉鎖:米国政府の閉鎖はボラティリティを引き起こし得るが、過去の事例から、市場への影響は限定的となると考えられる
- 欧州の課題:英国とフランスでは先週、政治的・財政的課題が拡大する中で、債券利回りが上昇した
株価は不安の壁をわずかに下った
米国政府の閉鎖は珍しいことではない
関税問題ふたたび
経済の姿はまちまち
FRB関係者の発言はさまざま
欧州における政治的・財政的課題
注目の日程
米国政府の閉鎖の可能性から関税問題の再燃、欧州の政治・財政問題まで、市場が消化すべき課題は山積みとなっています。しかも今後数週間から数ヶ月にわたって、乗り切りやすい状況になっていくと考える理由は見当たりません。しかし、難しい状況であることが、必ずしも悪いことだとは限りません。先週株式市場は、いわゆる「不安の壁」をわずかに下りましたが、私たちは今後、上昇が再開すると見込んでいます。とはいえいつも通り、投資家は最善のルートを通るべく、足場を慎重に選んでいく必要があります。
株価は不安の壁をわずかに下った
先週の株式市場はやや苦戦し、S&P 500種指数は約2か月ぶりに、最も低い週間リターンを記録しました1。この間投資家は、継続的な地政学的不確実性、国内成長への懸念、そして労働市場データの減速といった課題に対処せねばなりませんでした。市場は、堅調な企業収益2や安定したインフレ期待3、そして金融政策がより緩和的になるとの見通しによって支えられてきました4。
では、今回下がったのはなぜでしょうか?米国雇用者数の減少に着目し、成長の減速を指摘する声があります5。 他方で成長が高過ぎるゆえに、利下げ回数の減少につながっていると主張する向きもあります。先週、引き続き底堅い消費需要から、米国の第2四半期国内総生産(GDP)が上方修正されました6。季節要因や、米政府閉鎖の可能性への懸念も指摘されています。閉鎖はボラティリティをもたらす可能性がありますが、過去を振り返ると、閉鎖による市場への影響は限定的でした。1976年以降、米国政府の閉鎖は21回ありましたが、平均持続期間は8日間に過ぎず、これらの期間中、S&P500種指数の平均リターンは0.1%でした7。全体として今回の調整は、前述した様々な要因の複合的な結果と見なされるべきでしょう。
私たちは、直近の下落は、堅調な上昇後の短期的な調整局面の可能性が高いと考えています。それ以上に懸念されるべきものではありません。米国経済は依然として景気サイクルの中盤にあり、景気後退の兆候はほとんど見られていません。私たちは引き続き、年末から2026年にかけて、利下げと経済活動の再加速の可能性が、株式市場の上昇を支えるとみています。調整は、健全かつ正常な現象です。
米国政府の閉鎖は珍しいことではない
議会が9月30日深夜0時までに歳出法案または継続決議を可決しなければ、政府機関の一部について閉鎖が開始されることとなります。連邦支出をめぐる党派対立による膠着状態から、そうした事態となる可能性が高まっています。閉鎖が起きた場合でも、航空管制、社会保障、メディケア、軍事オペレーション等、エッセンシャル(必要)なサービスは継続されます。ノンエッセンシャルサービスに携わる職員は一時解雇となり、NASAや国立公園局などの機関は閉鎖されます。
こうした場合も、経済への影響は限定的と見込まれます。政府支出のうちノンエッセンシャルサービスは約3%に過ぎず8、総労働力に占める連邦職員数の割合は過去最低水準にあります9。それでもおよそ300万人の連邦職員が影響を受け、エッセンシャルワーカーは政府資金の供給再開まで、借入金として受給を受ける可能性があります10。限定的な市場のボラティリティの高まりが予想されますが、過去の事例をみると、政府閉鎖は、市場に重大な影響を及ぼすことなく収束する傾向にあります11。
関税問題ふたたび
トランプ大統領が新たな分野別関税を発表したことを受け、再び関税への注目が集まっています。新たに発表された内容には、ブランド医薬品への100%関税、キッチンキャビネットへの50%関税(品目の特定具合が異常ですが)、布張り家具への30%関税などが含まれます。
経済の姿はまちまち
先週発表された世界経済データは、まちまちの状況を示しました。米国では、持続的な消費の力強さにも牽引され、第2四半期GDPが大幅に上方修正されました12。労働市場は軟化の兆しを見せつつも、失業保険申請件数は低い水準に留まり13、企業が依然として従業員の解雇に消極的であることを示唆しました。また米国サービス業購買担当者景気指数(PMI)は引き続き拡大領域を維持し、国内経済の堅調さを裏付けました14。
米国以外では、データはそれほど良好ではありませんでした。ユーロ圏と英国のPMIは製造業活動の縮小を示し15、中国の生産高は12カ月ぶりの低水準に落ち込み、経済の低迷を浮き彫りにしました16。
FRB関係者の発言はさまざま
先週、多くのFRB関係者が発言しました。全体としてみると、メッセージの内容はさまざまでしたが、各人の過去の発言との比較では一貫していました。スティーブン・ミランFRB理事は非常にハト派的な見解を示し、「大惨事」を待つのではなく「能動的に対応」すべきだと主張しました17。他のFRB関係者の発言はそれほど極端ではなく、オースタン・グールズビー シカゴ連銀総裁は、「過度の前倒し政策には若干不安を感じている」と述べ18、ジェフリー・シュミット カンザスシティ連銀総裁は、「データは依然としてほぼ均衡を保っている」と述べました19。
欧州における政治的・財政的課題
英国とフランスは、ともに政治的・財政的課題の拡大に直面しており、先週、両国の債券利回りは上昇しました。英国政府は、キア・スターマー首相への政権外からの批判に加え、政権内部における反発もますます強まりつつあります。そのため、債券市場が英国の財政状況への信頼を取り戻すために必要な政策を可決できずにいます。私たちは、英国の危機をめぐる論調は誇張され過ぎていると考えていますが、少なくとも予算提出の期限である11月末までは、債券市場の課題は続くとみられます。フランスでは、セバスチャン・ルコルニュ首相が依然、国民議会で複数の政治勢力が対立する中で、赤字削減予算の成立に苦戦しています。
注目の日程
公表日 |
国・地域 |
指標等 |
内容 |
---|---|---|---|
9月30日 |
米国 |
S&P/ケース・シラー住宅価格指数(7月) |
消費者資産と住宅インフレを反映する、住宅価格動向の主要指標 |
9月30日 |
米国 |
FHFA住宅価格指数(7月) |
住宅市場の強さを測る指標で、住宅ローン市場分析に活用される |
9月30日 |
米国 |
消費者信頼感指数(9月) |
消費者心理と将来の支出意向に関する示唆を与える |
9月30日 |
米国 |
雇用動態調査(JOLTS)(8月) |
労働市場の逼迫度合と採用動向に関する洞察を提供する |
9月30日 |
米国 |
耐久財受注(8月) |
企業投資と製造業需要の主要指標 |
10月1日 |
米国 |
ADP雇用変動(9月) |
米国労働市場動向の主要指標であり、労働統計局報告の先行指標となる民間給与データ。 |
10月1日 |
米国 |
ISM製造業購買担当者景気指数(PMI)(9月) |
米国製造業の健全性と事業環境の主要指標 |
10月1日 |
米国 |
建設支出 | 不動産・インフラ投資動向を示す |
10月2日 |
米国 |
製造業新規受注 |
製品需要を測定する、生産の先行指標 |
10月3日 |
米国 |
非農業部門雇用者数(9月) |
最も注目される労働市場報告であり、FRBの政策決定の鍵となる |
10月3日 |
米国 |
失業率(9月) |
労働市場の需給ギャップに関するコア指標 |
10月3日 |
米国 |
平均時給 |
賃金インフレを追跡し、金融政策にとって主要な判断材料となる |
10月3日 |
米国 |
ISMサービス業購買担当者景気指数(PMI) |
米国GDPにおいて大きな割合を占めるサービス業の活動を測定 |
10月3日 |
米国 |
総合PMI・サービス業PMI(9月確報値) |
業況の最終的な見通しにつながる |
MC2025-104