米国政府機関の閉鎖が市場に大きな影響を与える可能性は低い

〔要旨〕
- 米国政府機関の閉鎖:ベッティング(賭け)市場では、この難局が数週間続く可能性が示唆されているが、経済への影響は限定的と考えられる
- 欧州市場の上昇:複数の欧州市場で過去最高値を記録したが、これはドイツの財政計画に対する信頼感の高まりによって一部牽引された可能性
- 日銀:先週、植田総裁が示したややハト派的なメッセージが、日本の株式市場の一層の上昇を後押ししたとみられる
米国の労働市場の弱含み
日本市場は上昇
欧州市場が高値を更新
注目の日程
予想通り、米国の政府機関閉鎖が生じましたが、過去にもそうであった通り、市場は概ねこれを見過ごした形となりました。政府機関の閉鎖は1976年以降で22回目となります。過去21回の政府閉鎖の期間中、その過半数で米国株は上昇しました1。ベッティング(賭け)市場では、この難局が数週間続く可能性が示唆されていますが、私たちは、経済への影響は限定的と予想しています。緊急性が高くない政府支出が米国国内総生産(GDP)に占める割合は比較的小さく、連邦職員の一時的な収入減が需要を抑制する可能性はあるものの、通常は、遡及的な給与支払いによって長期的な影響は緩和されます。より深刻な影響が生じるのは、政府機関の閉鎖が恒久的な人員削減や、政権が示唆しているような大幅な支出削減につながった場合です。
世界の他の地域では、各国政府が過去数年に比べて支出を増やす兆候が強まっています。これはインフレ環境をさらに後押しすると考えられますが、私たちは、これが株式にとっては好ましい環境を示唆すると考えています。
米国の労働市場の弱含み
政府機関の閉鎖により、先週金曜日に発表予定だった非農業部門雇用者数データの発表が延期されることとなりました。これにより、米連邦準備理事会(FRB)が10月の政策決定の指針とする予定だった主要データが一時的に欠落することとなります。ただし、民間機関による他の労働市場データを活用することはできます。先週発表されたADP雇用統計とチャレンジャー人員削減数のデータは、全米の労働市場で、雇用動向がさらに弱まったことを示唆しました2。
次の2つの理由により、今後1か月の間に、連邦職員の失業者への算入が増加する可能性が高いと考えられます。第1に、早期退職に応募した連邦職員への給与支給期限が9月末までであったこと。第2に、トランプ大統領が政府閉鎖への対応として、さらなる人員及び予算削減を提案していることです。
こうした状況を踏まえると、米ドルがほぼ横ばいで週末を迎えたことはやや意外でした3。より直感的に分かりやすいのは、信用リスクよりも成長鈍化への懸念を反映して、米国債が上昇(利回りは低下)したことです4。これは、米国債が社債とは異なり、マクロ環境をベースに取引されることを再認識させるものです。製造業データは依然として軟調な状況を示唆していますが、労働需要が抑制された状態が続く中でも、再加速の兆しが見え始めています。
日本市場は上昇
日銀の植田和男総裁は先週、ややハト派的なメッセージを発し、これが日本の株式市場の一層の上昇を後押ししました。MSCI日本指数は4月7日の安値から3割以上上昇しました5。日銀は主要中央銀行で唯一利上げサイクルにありますが、利上げペースは大方の予想よりやや緩やかとなる可能性が高まっているようです。先週、円は対米ドルで小幅に下落しました。
週末にかけて、日本の自由民主党は新総裁に高市早苗氏を選出しましたが、これはややサプライズとなりました。先週初め時点で、彼女が勝利する確率はポリマーケットで約23%となっていました6。過去5年で5人目の総裁となり、日本初の女性首相に就任する見込みです。総裁選で誰が勝利しても、結果として財政支出は拡大すると予想され、それは少なくとも日本株のさらなる上昇を支えるとみられました。高市氏は財政拡大路線を推進し、アベノミクス政策の一部を継承すると見られています。(アベノミクスとは、安倍晋三元首相が政権2期目の2012年に打ち出した経済政策の通称です。アベノミクスは、マネーサプライの拡大、政府支出の増加、日本経済の競争力強化に向けた改革の実施を柱としていました。)
こうした展開は、日銀が保有する日本の上場投資信託(ETF)を非常に緩やかに売却していこうとする状況下で起きました。保有残高の売却完了までは、100年以上かかるペースです。こうした売却の動きを相殺する以上に強力なのは、長年多額の現金を保有してきた国内投資家の旺盛な需要です。彼らは今、その資金を株式に投入し始めています7。
欧州市場が高値を更新
先週、複数の欧州市場が高値を更新し、フランスとドイツで大幅な上昇が見られました8。政策当局がドイツの財政支出計画を実行に移すことに対して確信が高まったことが、上昇の一因となった可能性があります。ドイツは1兆ユーロを超える支出を可能とする予算を承認しました。この資金の一部は、今年前半に計画されていた防衛・インフラ投資ではなく、消費に充てられる見込みです。GDP比でみると、この支出規模はドイツ再統一時やマーシャルプラン時をも上回っています。私たちは、この支出が欧州経済に極めて良好な影響を与えると予想しています。この政府支出は、今後数ヶ月から数年にわたって、企業による設備投資と個人消費、両方の拡大につながっていくでしょう。そうなれば、欧州株のさらなる上昇を強力に支える要因となり得ます。
注目の日程
公表日 |
国・地域 |
指標等 |
内容 |
---|---|---|---|
10月7日 |
米国 |
貿易収支(8月) |
純輸出を反映し、国内総生産(GDP)と通貨のバリュエーションに影響を与える |
10月7日 |
米国 |
消費者信用残高(8月) |
消費者の借入動向と信頼感を示す |
10月8日 |
米国 |
米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨 |
FRBの政策スタンスと将来の金利判断に関する洞察を提供 |
10月9日 |
米国 |
新規失業保険申請件数(10月4日) |
雇用動向の評価に役立つ週間労働市場指標 |
10月10日 |
米国 |
消費者物価指数(CPI)及びコアCPI(9月) |
FRBの金利決定に不可欠な主要インフレ指標 |
10月10日 |
米国 |
国債入札(10年物及び30年物) |
投資家需要を反映し、長期金利に影響を与える |
10月11日 |
米国 |
生産者物価指数(PPI)及びコアPPI |
消費者物価の先行指標となる、卸売物価の上昇率を測定 |
10月11日 |
米国 |
ミシガン大学消費者信頼感指数(10月速報値) |
消費者信頼感とインフレ期待を測定 |
10月11日 |
英国 |
GDP前月比(9月) |
短期的な経済モメンタムを反映する月次の成長指標 |
10月11日 |
ユーロ圏 |
EU経済・財務相理事会(ECOFIN)会合 |
欧州連合(EU)の財政・経済政策連携に関する主要な議論の場 |
10月11日 |
日本 |
家計支出(8月) |
消費者行動と国内需要動向を示す |
MC2025-107