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困難なタイミングでも株価は揺らがない

困難なタイミングでも株価は揺らがない
〔要旨〕
  • FRBへの圧力:ホワイトハウスはリサ・クック理事を解任しようとしているが、これはFRBの独立性を脅かす可能性がある
  • インフレ見通し:コアインフレ率は上昇したもののコンセンサス予想に沿っており、9月の利下げ観測を強めた
  • エヌビディアの予想:利益は増加したものの、次の四半期の売上高成長の鈍化が予想されると表明された後、株価は下落
クックFRB理事の辞任はあるか?

インフレ期待がやや上昇

エヌビディアは売上高成長の鈍化を予想

フランスの「バスケット・ケース(不安定な人)」?

注目の日程
 

S&P500種指数は、わずか数週間前には好ましくない先行きが予想されていたにもかかわらず、それを覆し、史上最高値近くで8月を終えました1。9月を迎えるにあたって多くの投資家は、季節的な弱気相場、新たな関税発動、割高なバリュエーション2、さらにはFRBの独立性をめぐる政治的なノイズ等に備えつつありました。しかし、市場は上昇を続けました。

何がこうした回復を後押ししたのでしょうか?米国の経済成長は引き続き堅調であり3、FRBが次回会合で利下げを行うとの見方が広がっています。こうした追い風が、市場がノイズを看過し、いわゆる「不安の壁」を登る原動力となった可能性があります。

9月、10月に入っても、季節性、政策リスク、バリュエーションといった懸念が再浮上する可能性は高いでしょう。しかし、今サイクルが終わりを迎えつつある証左はほとんど見られていません。マクロデータと市場のシグナルは、その逆のことを示唆し続けています。今後数週間のボラティリティを懸念する向きにとっては、「9月が終わったら起こしてくれ」というグリーン・デイの歌のタイトルがぴったりかもしれません。

 

クックFRB理事の辞任はあるか?

先週、ホワイトハウスが米連邦準備理事会(FRB)への口頭攻撃から体制変更への直接的行動へとシフトし、政治的圧力が急激に高まりました。トランプ大統領がリサ・クックFRB理事の解任を発表するというかつてない事態となりましたが、現職大統領が現職FRB理事の解任を試みたのは、米国史上初めてです。ホワイトハウスは、クック理事が有罪判決どころか正式な起訴さえされていないにもかかわらず、住宅ローン契約をめぐる不正疑惑を「正当な理由」として解任の根拠に挙げました。

こうした解任の試みや刑事告発を受け、クック理事は「脅されて辞任するつもりはない」と表明し、その後トランプ大統領を提訴しました。本件は最高裁に持ち込まれる見通しで、検察側は「クック氏が故意に欺こうとしたこと」および「その行為が重大な損害をもたらしたこと」を証明するという困難な課題に直面することになります。こうした主張は、過去の類似の告発においても立証が難しいとされてきました。

しかし、本訴訟は極めて高い重要性を持ちます。トランプ政権がクック理事の解任に成功すれば、後任を指名することができ、7名で構成されるFRB理事の過半数を掌握することとなります。これが必ずしもFRBの独立性の終焉につながるわけではありませんが、クック理事の解任が危険な前例となり、今後、金融政策決定への政府の干渉がさらに進む可能性に道を開く恐れがあります。またこれにより短期的に、金融政策の方向性が利下げに傾く可能性も高いでしょう。しかし、一般のFRBに対する信頼を損ない、中央銀行の信用を傷つけるさらなるアクションが取られた場合、市場と経済にさらに深刻な影響を及ぼす可能性があります。

政治家は、中央銀行の独立性が長期金利の抑制とインフレ期待のアンカー(安定的な維持)にとって不可欠だということを肝に銘じた方が賢明でしょう。FRBが政府の支配下にあると認識されれば、米ドルの大幅な下落や米国の借入コスト上昇、そしてインフレの顕著な上昇につながる恐れがあり、そうなれば確実に経済及び投資に打撃を与える結果となるでしょう。

幸い、金融市場はこうしたリスクについて確率は低いと見なしており、私たちも同じ見解です。米ドルと米30年物国債利回りは先週ほぼ横ばいで終了し、長期インフレ期待もわずかに上昇しただけでした4。先週、S&P500種指数の終値がほぼ史上最高値となり、企業のクレジット・スプレッドが歴史的低水準に近づいたという事実は5、ニュースサイクルのみに基づいて投資判断を行うリスクを如実に示しています。私たちは米国株への強気な見方を維持していますが、米国への投資配分に懸念を抱いている投資家の方々は、海外の魅力的な投資機会に焦点を移すことを検討してもよいかもしれません。
 

インフレ期待がやや上昇

コアインフレは前年同月比2.9%上昇し、予想に沿ったものとなりましたが、依然FRBが許容できると感じる範囲を上回っている可能性が高いと考えられます6。 数値が上昇したもののコンセンサス予想に沿った結果となったことは、9月に利下げが行われるとの市場の見方をより強める可能性があります7。 関税発動により価格圧力はさらに高まると予想され、これが一時的な価格ショックとなるのか、あるいは持続的なインフレの始まりとなるのかという重要な問いを生じさせています。私たちは、関税が与えるのは一時的なショックだと見ており、FRBも同様の解釈を示すだろうと考えています。一方、米国の消費者心理は悪化していますが、価格が上昇している中では、こうした展開に驚きはありません。債券市場におけるインフレ期待は徐々に上昇しつつあります8。現状の水準は相対的に価格の安定性を示唆しているものの、今後の動向を注視する必要があります。インフレ期待が持続的に上昇していけばFRBの政策転換を促す可能性があり、ビジネスと市場、両方のサイクルにとって警戒シグナルとなり得ます。
 

エヌビディアは売上高成長の鈍化を予想

時価総額で最大の銘柄であるエヌビディアが、前年同期比わずか56%の利益成長率に留まったとの発表後、株価を下げましたが、それでも米国市場は市場最高値を更新しました9。客観的に見れば、同社の直近の利益は素晴らしい水準です。しかしそれでも最近は、必ずしも十分とは言えなくなっています。利益はここ数四半期下がり続けており、同社は今後数四半期にかけて、売上高成長の鈍化が予想されると述べました。

改めて言うと、エヌビディアやその他のメガキャップ銘柄の利益成長の鈍化は、恐れるようなことではありません。これは正常であり、当たり前に起こることです。ただ少なくとも米国株の中で、これまであまり注目してこなかった分野への投資配分のローテーションを検討すべきという示唆ではあるかもしれません。
 

フランスの「バスケット・ケース(不安定な人)」?

フランソワ・バイル首相率いるフランス政府は9月8日、国民議会で信任投票に臨みます。信任投票自体はフランスでは珍しいことではありませんが、今回やや異例なのは、バイル首相自身がこれを呼びかけた点です。「ポリマーケット」などの賭け市場では、信任投票で敗北する確率がほぼ90%と示唆されています。

世界の多くの国々の政府と同様、フランスも財政を持続可能な軌道に戻すために、必要な支出削減を推進しようとしています。こうした財政的プレッシャーはフランス国債市場にも影響を与えています。フランス5年物国債の利回りは、イタリア5年物国債の利回りを上回りました―これは1999年のユーロ導入以来初めてのことです10。また取引市場で現在、9社のフランス企業の社債への需要が、同じ満期のフランス国債よりも高くなっています11。 投資家たちは、フランス政府よりもフランス企業への信認がより高いとしています。

しかしパニックに陥る理由はなく、デフォルトが差し迫っていると考えられるわけでもありません。
 

注目の日程

公表日

国・地域

指標等

内容

9月2日

米国

ISM製造業購買担当者景気指数(PMI)

米国製造業の健全性と事業環境についての主要指標

9月2日

米国

建設支出

不動産・インフラ投資動向を示す

9月2日

ユーロ圏

製造業PMI(確報値)

ユーロ圏の産業活動と経済的モメンタムを反映

9月2日

英国

製造業PMI(確報値)

英国製造業の健全性を示す

9月3日

米国

製造業新規受注

 

製造業製品の需要を測定 する 生産の先行指標

9月3日

米国

雇用動態調査

労働市場のタイトさと雇用動向に関する洞察を提供

9月3日

米国

ベージュブック

FRBの12の連銀地区の経済状況に関する定性的な概観

9月4日

米国

ADP雇用統計

 

公式の雇用統計発表に先立つ民間雇用統計であり、市場心理に影響を与える

9月4日

米国

ISMサービス業PMI

米国GDPにおいて大きな割合を占めるサービス業の活動を測定

9月4日

米国

新規失業保険申請件数

労働市場の健全性を示す週間指標

9月4日

カナダ

政策金利決定

カナダ銀行の金融政策スタンスを示す

9月4日

ユーロ圏

サービス業PMI(確報値)

ユーロ圏全体のサービス業のパフォーマンスを反映

9月4日

英国

サービス業PMI(確報値)

英国サービス経済の強さを示す

9月5日

米国

非農業部門雇用者数

最も注目される労働市場報告であり、FRBの政策決定の鍵となる

9月5日

米国

失業率

労働市場の需給ギャップについてのコア指標

9月5日

米国

平均時給

 

金融政策の重要要素である賃金インフレを追跡

9月5日

米国

グローバルサプライチェーン圧力指数

世界貿易におけるボトルネックとインフレ圧力を評価

9月5日

英国

建設業PMI

英国建設業の活動とセンチメントを示す

  • 1.

    出所:ブルームバーグL.P.、2025年8月29日

  • 2.

    出所:ブルームバーグL.P.、2025年8月29日、S&P500種指数の株価収益率に基づく

  • 3.

    出所:米国経済分析局、2025年6月30日、米国第2四半期国内総生産に基づく

  • 4.

    出所:ブルームバーグL.P.、2025年8月29日、米国債30年物利回り及び、貿易加重通貨バスケットに対する米ドルの価値を測定する、米ドル指数に基づく

  • 5.

    出所:ブルームバーグL.P.、2025年8月29日、ブルームバーグ米国社債指数のオプション調整スプレッドに基づく

  • 6.

    出所:米国経済分析局、2025年7月31日、コア個人消費支出に基づく

  • 7.

    出所:ブルームバーグL.P.、2025年8月29日、フェドファンド・インプライドレート(理論先物金利)に基づく

  • 8.

    出所:ブルームバーグL.P.、2025年8月29日、3年物米国債ブレークイーブンインフレ率に基づく

  • 9.

    出所:ブルームバーグL.P.、2025年8月27日、2025年6月30日時点の第2四半期決算

  • 10.

    出所:ブルームバーグL.P.、2025年8月29日、フランスおよびイタリアの5年物国債利回りに基づく

  • 11.

    出所:ブルームバーグL.P.、2025年8月29日

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MC2025-093