雇用の伸びの鈍化が9月の利下げを確実にする可能性

〔要旨〕
- 9月の利下げ:労働市場の減速とインフレ期待のアンカー(安定的維持)が、FRBの利下げを後押しする可能性が高い
- 長期債の売り:政治的不確実性と財政の持続性への懸念から、世界の長期国債はボラティリティの高い展開に
- 金の高騰:利下げ期待と投資家からの需要増加を受け、金価格は史上最高値を更新した1
雇用統計は9月の利下げを後押し
市場にとって朗報か?
長期債の売りでパニックになる必要はない
ゴールドラッシュ
注目の日程
先週発表された米国の非農業部門雇用者数は「必見のニュース」でした。雇用統計は経済成長、インフレ、政策金利そして株価のバリュエーションへの期待を変化させる可能性がありますが、今回発表のデータは、米連邦準備理事会(FRB)の金融政策動向を市場が注視していたことから、特に重要な意味を持ちました。データが政治的な影響を受ける懸念もまた、その重要性をさらに高めました。もし結果が予想を上回った場合、データの信頼性への疑いが強まった可能性があります。ところが実際には、雇用創出の減速を示す結果となり、 ADP民間雇用統計の結果と整合的となりました。
雇用統計は9月の利下げを後押し
9月5日の雇用統計は雇用の伸びの鈍化を示しましたが、景気後退を示唆するものではなさそうです。労働需要は緩和したものの、解雇は限定的なものに留まりました2。退職や移民の減少により労働供給も減少しています3。9月5日の雇用統計で雇用の伸びが鈍化したことで、FRBが9月17日の次回会合で利下げを行う環境がほぼ整ったように思われます。市場は0.25%の利下げを完全に織り込んでおり4、クリストファー・ウォラー理事やミシェル・ボウマン理事といった一部の米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーが0.5%の利下げに賛成票を投じてもおかしくない状況です。しかし私たちは、現段階でそこまではないだろうとみています。雇用統計では、8月の新規雇用者数はわずか22,000人にとどまり、6月と7月の新規雇用者数の数値は併せて21,000人に下方修正されました。失業率は4.3%に上昇しましたが、これはコンセンサス予想と概ね一致しました。平均週間労働時間も減少しており、これは雇用者が従業員の労働時間を削減する必要性を感じているさらなるシグナルと解釈できます5。
市場にとって朗報か?
高インフレの状況では6、雇用の伸びの鈍化は市場にとって好材料と解釈される場合があります。経済が過熱しておらず、持続的なインフレが起きにくいことを意味する可能性があるためです。またこれにより、複数回の利下げが視野に入る可能性も示唆されます。米国債のイールドカーブ全体の押し下げは、株式のバリュエーションを下支えする可能性があります。成長鈍化、インフレ期待のアンカー(安定的維持)、利回り低下、そして予想される利下げは、株式市場への楽観的な見通しを示唆しています。
長期債の売りでパニックになる必要はない
予想を下回る雇用統計を受け、投資家の関心が景気減速の兆候に移ったことで、金曜日に米国債のイールドカーブ全体が押し下げられました。これは、米30年物国債利回りの上昇への懸念が高まった週前半からの顕著な反転となりました。当初長期債の売りが加速したのは、インフレ懸念、FRBの独立性への疑問、米国の財政持続可能性への不安増大などが複合的に作用したためと考えられます。しかし週末までにはこうした懸念は後退し、経済指標の弱さに注目が集まった結果、米30年物国債利回りは4.8%を下回るまでに下落しました7。
長期金利の上昇圧力が見られたのは米国だけではありません―フランス、英国、日本その他の国々でも同様の動きが見られました。英国とフランスでは、利回りの上昇は政治的な環境の複雑化を反映しており、政策当局は、財政赤字の拡大に対応するべく方向性の調整を迫られる可能性があります。こうした課題にもかかわらず、英国とフランスの株式市場は、銀行及び工業セクターのウェイトが構造的に高いこと、イールドカーブのスティープ化、欧州の財政支出イニシアチブへの楽観論に支えられ、今年好調に推移しています。
ゴールドラッシュ
財政の持続可能性や中央銀行の独立性をめぐる懸念、そしてFRBによる利下げへの期待を背景に、金価格はここ数週間で大幅に上昇しました。8月中旬以降、長期国債利回りの上昇、ホワイトハウスによるリサ・クックFRB理事の解任の試み、ジャクソンホール・シンポジウムでのパウエルFRB議長の(政策転換の可能性を示唆する)発言などを背景に、貴金属は8%以上も急騰しました8。金は6ヶ月ぶりに3週連続で上昇し、価格は1トロイオンス当り3,600ドル近くという過去最高値を更新しました9。
2023年と2024年の両方で既に2桁のリターンを記録しているにもかかわらず、金価格は年初来で35%近く上昇しており10、そのパフォーマンスを根本的に牽引している要因は依然としてしっかり維持されていると私たちは考えています。それには、以下が含まれます:
- 減速の兆候が見られない、中央銀行による持続的な買い入れ
- 投資家からの、財政・地政学的な不確実性に対するヘッジ手段としての需要
- 利下げが見通されることで、現金保有の相対的な魅力が低下する可能性
特に注目すべきは、より幅広い投資家コミュニティがついに金相場の上昇に参加し始めている点です。長年、金ETFへの関心は薄く、資金流入も小幅にとどまっていましたが、今年は需要の著しい回復が見られます11。金鉱株も投資家の注目を集めており、NYSE Arcaゴールド・マイナーズ指数の年初来リターンが97%に達していることがこれを裏付けています12。
金価格の急騰と金関連ファンドへの関心再燃は、相互に強化し合う可能性を秘めています。投資家需要の拡大が価格を押し上げ、それがより多くの投資家の注目を集めるという流れが起きる可能性です。モメンタムが強まり、ファンダメンタルズの支援材料も依然として揃っていることから、私たちは、この「ゴールドラッシュ」はまだ始まったばかりの可能性があると考えています。
注目の日程
公表日 |
国・地域 |
指標等 |
内容 |
---|---|---|---|
9月10日 |
英国 |
求職者数変化、平均賃金指数、失業率 |
イングランド銀行の政策決定に影響を与える労働市場の主要指標 |
9月10日 |
ユーロ圏 |
ZEW景況感指数(ドイツ及びユーロ圏) |
投資家信頼感と経済見通しを測定 |
9月11日 |
米国 |
消費者物価指数(CPI)、コアCPI、10年物国債入札 |
FRBの政策金利決定を導くインフレの重要データ |
9月11日 |
英国 |
国内総生産(GDP) |
短期の経済モメンタムを反映する月次の成長指標 |
9月12日 |
米国 |
生産者物価指数(PPI)、コアPPI、失業保険申請件数、30年物国債入札 |
生産者インフレデータと労働市場トレンド。オークションが国債利回りとFRBの見解に影響を与える |
9月12日 |
ユーロ圏 |
欧州中央銀行(ECB)政策金利決定 |
ユーロと世界的なリスク心理に影響を与える中央銀行の政策発表
|
9月12日 |
英国 |
金融政策報告公聴会 |
イングランド銀行の経済の評価と政策見通しに関する洞察を提供 |
9月13日 |
米国 |
ミシガン大学消費者信頼感及びインフレ期待 |
消費者信頼感とインフレ見通しを測定し、市場が注視する指標 |
MC2025-094