利下げと企業業績改善は、市場にとって強力な組み合わせとなり得る

〔要旨〕
- 政策金利:インフレと雇用に関するデータは、今週FRBが0.25%の利下げを決定する可能性が高いことを示唆している。他の国々の中央銀行に関しては、政策変更は予想されていない
- 業績:オラクルが発表した今後4年間のクラウド収入見通しが予想を大幅に上回ったことを受け、同社株は1日での上昇幅として過去最高を記録した
- 金:金は今年に入って30回以上も最高値を更新しており、このままいけば今世紀において、金価格が1暦年に記録した最高値更新回数で最多の年となり得るペースとなっている
FRBの利下げがほぼ確実視される
他の中央銀行は据え置く可能性が高い
オラクルの売上高見通しに市場が驚いた
金価格はさらに輝きを増す
注目の日程
今週は、中央銀行にとって重要な週となります。米連邦準備理事会(FRB)、カナダ中銀(BOC)、ノルウェー銀行、イングランド銀行(BOE)、日銀の会合が順に予定されています。米国では、雇用データが軟化したものの急落はしておらず、インフレデータは上昇しつつあるものの懸念されたほど急激な上昇とはなっていません。これによりFRBには、保険的な利下げを行う口実ができたと言えます(一部で予想されている0.5%の利下げはないと私たちは見ていますが)。私たちは、米国以外の他の中央銀行の政策変更は予想していません。
一方、企業収益の伸びは継続しており、特に人工知能(AI)分野では先週、オラクルのクラウド収入が今後4年間で約1,400%の伸びを予測したことがさらなる追い風となりました1。
私たちは、経済指標と企業業績データは全体的に、リスク資産にとって「ゴルディロックス(適温相場)」的な環境を示し続けていると考えています。
FRBの利下げがほぼ確実視される
金曜日に発表された米国消費者物価指数(CPI)の上昇率は、概ね市場予想通りとなりました。コアCPIは前月比で0.3%上昇し、ヘッドラインCPIは同0.4%の上昇と、ブルームバーグの市場予想をわずかに上回りました2。週前半に発表された生産者物価指数については、投入価格の上昇ペースが予想を下回りました3。
CPIデータにおいては、いくつか注目すべき分野がありました。果物・野菜は前月比1.6%上昇し、航空運賃は7月に4%上昇した後、8月に5.9%上昇しました。住居費は前月比0.4%上昇しました。一方、輸入品が多く関税の影響を受けやすい家具類やビデオ・オーディオ製品の価格は、ここ数カ月に比べて上昇ペースが鈍化しました4。
CPIデータは、インフレが明らかにFRBの目標を上回っていることを示していますが、水曜日のFRBの政策金利引き下げが阻止されるほどではないと考えられます。米連邦公開市場委員会(FOMC)は、軟化しつつある最近の労働市場データ(先週の週間失業保険申請件数は約4年ぶりの高水準となった)を優先的に考慮する可能性が高いと考えられます5。また、 労働統計局の四半期レビューでは今年3月末までの1年間の非農業部門就業者数が90万人以上下方修正されました6。これは成長にとって良いニュースとは言えませんが、雇用市場が大幅な採用も解雇も見られない状態にあることを依然として示していると考えられます。
今週のFOMCは興味深いものとなるでしょう。0.5%の利下げに票を投じるメンバーはいるでしょうか?おそらくいるでしょう。FOMCが今後数カ月の経済展開をどう見ているかについて、経済見通しでどのように示されるでしょうか?今年末時点の失業率予想が、FOMCが6月に予想した水準を下回る可能性がまだあります。予想にほとんど変化がない可能性も考えられるでしょう。
FOMCには誰が出席するでしょうか?木曜日の上院銀行委員会で、党派に沿う形で13対11の賛成多数で承認されたスティーブン・ミラン氏は、アドリアナ・クーグラー元FRB理事が空けたFOMCの席に一歩近づきました。上院本会議における採決が本日(月曜日)に予定されています。(私たちは承認される可能性が高いと見ていますが)承認されれば、ミラン氏が水曜日のFOMCに出席するはずです。現在、リサ・クックFRB理事もFOMCに席を有しますが、米司法省は連邦控訴裁判所に彼女のFOMC出席の差し止めを申し立てています。
しかし市場のシンプルな受け止めは、ソフトランディングに向けた利下げ(私たちの見解では現時点で最も可能性が高いシナリオ)が、株価にとって大きな強気材料になり得るというものです。
他の中央銀行は据え置く可能性が高い
FRBは今週政策金利を引き下げる決定を下す可能性が高いものの、欧州中央銀行(ECB)は先週、政策金利の据え置きを決定しました。クリスティーヌ・ラガルドECB総裁は、政策が適切な状態にあり、ディスインフレのプロセスは終わったとの見解を示しました。市場はこれをややタカ派的と受け止めました。市場は現在、来夏まで追加利下げはないとの予想を織り込んでいます。
英国の国内総生産データでは8月がゼロ成長となり、前期比成長率は0.3%から0.2%に低下しました7。しかしインフレ率が依然として目標を上回っており、イングランド銀行は今週の会合で政策金利を変更する可能性は低いと考えられます。
日銀についても今週の利上げは予想されません。最近、日本の関税不透明感は緩和され、輸出は減速したものの比較的健全な状態を維持しています。インフレ率は依然として目標より大幅に高い水準にあります。
オラクルの売上高見通しに市場が驚いた
AIブームの減速を予想していた向きは先週、オラクルが発表した今後4年間のクラウド収入見通しが予想をはるかに上回ったことを受け、大きな失望を味わうこととなりました。同社はクラウドインフラ収入が2025年度の100億ドルから、2030年度までに1440億ドルに達するとの見通しを発表しました8。
オラクルの株式は水曜日の取引で45%以上急騰し、前日比35%超の高値で引けました。これにより、S&P500種指数は年初来の高値を更新しました。時価総額5000億ドルを超える企業の株価が1日で25%以上上昇した前例はありません9。オラクルのような流動性の高い企業の株価がこれほどまでに変動したという事実は、この売上高予想のサプライズがいかに大きかったかを浮き彫りにし、AIブームのシナリオに関する強気材料がまだ完全には価格に織り込まれていない可能性を示唆しています。
ブルームバーグのビリオネア指数によると、この株価急騰により、オラクル共同創業者のラリー・エリソン氏は一時的に、世界一の富豪となりました10。
金価格はさらに輝きを増す
金相場に関する今週のコメントとして、金価格が引き続き新高値を更新し続けている点を指摘しないわけにはいきません。実際、金価格は今年既に30回以上高値を更新し続けており、2024年に記録した41回を超えるペースで推移しています11。
年末まで価格上昇が続けば、2025年は今世紀において、金価格が1暦年に記録した最高値更新回数で最多の年となる可能性があります。この記録的な年をさらに彩るように、先週金価格は、1980年1月につけたインフレ調整後の最高値を更新しました12。これは価値の保存手段としての金の根強い魅力を証明するものと言えます。
注目の日程
公表日 |
国・地域 |
指標等 |
内容 |
---|---|---|---|
9月16日 |
米国 |
小売売上高 |
米国GDPの主要な牽引役である消費支出を測定する指標 |
9月16日 |
英国 |
失業率 |
イングランド銀行の金融政策決定に影響を与える主要な労働市場指標 |
9月16日 |
カナダ |
消費者物価指数(CPI) |
カナダ銀行の金融政策決定に影響を与える主要なインフレ指標 |
9月16日 |
カナダ |
住宅着工件数 |
今後の住宅価格にとって重要となる、新築住宅建設需要を示す |
9月17日 |
米国 |
住宅着工件数 |
今後の住宅価格にとって重要となる、新築住宅建設需要を示す |
9月17日 |
英国 |
消費者物価指数(CPI) |
イングランド銀行の金融政策決定に影響を与える主要なインフレ指標 |
9月17日 |
ユーロ圏 |
消費者物価指数(CPI) |
欧州中央銀行(ECB)の金融政策決定に影響を与える主要なインフレ指標 |
9月17日 |
米国 |
FRB政策金利決定 |
米連邦公開市場委員会(FOMC)の金融政策スタンスを示す |
9月17日 |
カナダ |
カナダ銀行政策金利決定 |
米国関税のプレッシャーのさなかにおけるカナダ銀行の金融政策スタンスを示す |
9月18日 |
英国 |
イングランド銀行政策金利決定 |
粘着的なインフレと減速する労働市場下におけるイングランド銀行の政策スタンスを示す |
9月18日 |
日本 |
日銀政策金利決定 |
上昇するインフレ下における日銀の政策スタンスを示す |
9月18日 |
日本 |
消費者物価指数(CPI) |
金融政策決定に影響を与える主要なインフレ指標 |
9月19日 |
英国 |
小売売上高 |
消費支出を測定し、経済の健全性に関する洞察を提供 |
9月19日 |
カナダ |
小売売上高 |
経済活動の主要な推進力である消費支出を測定 |
MC2025-097