利下げと経済の底堅さが年末の株価上昇を引き起こすか?

〔要旨〕
- FRB:利下げ、底堅い消費、労働市場データの安定化は、米国経済の回復の始まりを示唆している可能性
- イングランド銀行:ベイリー総裁は会合後の発言で、年末まで利下げサイクルを一時停止する意向を示唆
- 日銀:政策金利を据え置いたが、2 名の委員が利上げに賛成票を投じた。これは日銀の一般的なスタンスの変化とは考えられない
FRBはより能動的なアプローチへ
循環的な回復に入るか?
市場への3つの主要な示唆
イングランド銀行:サプライズはなし
日銀:タカ派的な据え置きと資産売却の発表
注目の日程
米連邦準備理事会(FRB)による待望の利下げが決定され、それとともに年末までにさらに2回の利下げが行われる可能性が示唆されました1。当然ながら、投資家は金融緩和局面での市場の動きに関心を寄せています。これについては、主に経済状況次第となります。例えば、深刻な景気後退の瀬戸際にあった1973年と2007年の利下げ後の1年間の市場パフォーマンスは、1984年と1995年の利下げ後のより良好なパフォーマンスと比べて著しく低調でした2。幸い、現在の経済環境においては景気後退の兆候がほとんど見られておらず、それが株価への前向きな見通しを引き続き支えています。
この見方に対する主なリスクは、今後のFRBの独立性にあるかもしれません。今週の米連邦公開市場委員会(FOMC)会合では、0.25%の慎重な利下げに対して、反対者は1名のみと幅広い合意が示されました。これは、政権からのより積極的な金融緩和への圧力にもかかわらず、(トランプ大統領が任命したクリストファー・ウォラー理事やミシェル・ボウマン副議長といったメンバーを含む)現行の委員会が、慎重に事を運ぼうとしていることを示唆しています。インフレ期待はアンカーされて(安定的に維持されて)おり3、ドルは軟化したものの、深刻なストレス下にはありません4。総合的に見て、年末にかけての株価上昇には好ましい環境が整っていると判断されます。特に、シクリカル株・小型株および米国外資産が恩恵を受ける可能性があります。
FRBはより能動的なアプローチへ
先週の利下げは、2024年12月以降で初めてのFRBによる利下げとなり、政策金利を0.25ベーシス・ポイント引き下げ、目標レンジを4.00%~4.25%としました5。ジェローム・パウエルFRB議長は会合後の発言で、「雇用に対する下振れリスクが高まっている」と指摘し、今回の決定を「リスク管理のための利下げ」と表現しましたが6、これは労働市場のさらなる軟化を未然に防ぐことを意図していると思われます。このより能動的な政策スタンスへの転換は、FRB の経済見通し (SEP) によってさらに確かなものとなりました。この見通しによれば、政策当局者は年末までにさらに2回の0.25ベーシス・ポイントの利下げを、また 2027年にかけてさらに2回の利下げを予想しています7。
興味深いことに、最新のFRB の見通しでは、失業率予想が下方修正された一方、経済成長とインフレ予想は上方修正されました8。これはFRB が今後数年間、金融緩和政策を継続する可能性があることを示唆していますが、それは経済環境の悪化への対応というわけではありません。むしろそれは、緩和的な財政・金融政策に支えられた成長の加速と、需要の回復と潜在的な供給制約の中で減速しつつあるインフレ(依然として高い水準にはあるものの)を背景にしています。
循環的な回復に入るか?
最近の経済データは、まさにFRBによる金融緩和サイクルが始まろうとするこのタイミングで、米国経済が転換点を迎えつつある可能性を示唆しています。
- 8月の小売売上高は前月比0.6%増、前年同月比5.0%増となりました9。これは今年前半の緩やかな減速を経て、消費需要が回復しつつある兆候を示している可能性があります。先週の発表で小売売上高は3か月連続の増加となりましたが、これは経済の底堅さを反映している可能性があり、第3四半期の米国国内総生産(GDP)の成長にとって好材料となるはずです。
- 新規失業保険申請件数は、9月13日終了週に3万3000件減の23万1000件となり、4年ぶりの大幅な減少となりました10。この数値はパンデミック後のトレンドと整合的であり、求人数や採用の減速にもかかわらず、解雇は概ね抑制されていることを示唆しています。
FRBが利下げを決定し、今年末まで、そして2027年にかけて追加緩和を予想する中、堅調な消費と安定しつつある労働市場データが相まって、米国経済の循環的な回復の始まりを示唆している可能性があります。
市場への3つの主要な示唆
積極的な金融緩和と堅調な経済ファンダメンタルズの組み合わせは、市場にとって以下の3つの重要な示唆をもたらし得ると私たちは考えています:
- 成長期待が高まり、金融環境が緩和するに従って、シクリカル株、バリュー株、小型株がアウトパフォームする可能性があります。
- FRBの利下げ決定を受けて短期金利が低下する一方、長期金利は成長の伸びとインフレ上昇の予想を反映して上昇することから、米国債のイールドカーブがスティープ化する可能性があります。
- インフレ率が依然として目標値を上回る中でFRBが利下げを決定したことにより、米ドルはさらに軟化し、特に新興国市場で、コモディティや非米国資産に恩恵をもたらす可能性があります。
全体として、これまで利下げ後に景気後退が起こらなかった期間、利下げは株価を後押しする傾向を示してきました。それでも予想外の成長減速に懸念を持つ投資家は、歴史的に、ハイクオリティの中期債をリスクヘッジの手段として活用することで報われてきました11。
イングランド銀行:サプライズはなし
イングランド銀行の金融政策委員会(MPC)は先週、7対2の投票で政策金利を4%に据え置くことを決定しました。この結果と票の割れ方は、広く予想されていたとおりでした。アンドリュー・ベイリー総裁は会合後の発言で、年末まで利下げサイクルを一時停止する意向を示しました。
MPCは、量的引き締めのペースを減速させました。年間資産購入枠を300 億ポンド削減して700億ポンドとし、一方で能動的な売却額を210億ポンドに増やしました。能動的な売却の増加により、金利カーブの中でも中短期金利に焦点があたり、財政不安により最近上昇していた長期金利への圧力が軽減されることとなります。
日銀:タカ派的な据え置きと資産売却の発表
日銀は先週、政策金利を0.5%に据え置くことを決定しました。2名の政策委員が、利上げに賛成票を投じました。一部ではこれをタカ派的な傾斜と取る向きもありますが、私たちはこれを、日銀の基本姿勢を変えるものとは見ていません。日銀は、利下げではなく利上げのフェーズを維持している、主要中央銀行の中でも異色の存在です。
日銀は、現在バランスシートに保有する上場投資信託(ETF)について年間3,300億円程度ずつ、また上場不動産投資信託(Jリート)について年間50億円程度ずつ売却すると発表しました。日銀によれば、これらの売却額は市場全体の日次平均売買代金の0.05%程度に相当するに過ぎないため、市場への影響は限定的とされます。市場環境次第で、売却ペースは調整される予定です。
注目の日程
公表日 |
国・地域 |
指標等 |
内容 |
---|---|---|---|
9月23日 |
米国 |
S&Pグローバル製造業・サービス業総合PMI(9月、速報値) |
成長とインフレ見通しの鍵となる、セクター横断的な事業活動の先行指標 |
9月23日 |
米国 |
リッチモンド連銀製造業景気指数(9月) |
地域の製造業の健全性を測定し、幅広い業種の動向を示す
|
9月23日 |
カナダ |
経常収支(第2四半期) |
貿易・投資フローを測定し、カナダドルとカナダ銀行の政策に影響を与える |
9月25日 |
米国 |
国内総生産(第2四半期、確報値) |
経済成長の包括的指標であり、改定が市場心理に影響し得る
|
9月25日 |
米国 |
耐久財受注(8月) |
事業投資と製造業需要の主要指標 |
9月26日 |
米国 |
個人所得・個人支出(8月) |
消費の力強さとインフレ圧力を反映
|
9月26日 |
米国 |
コア個人消費支出(PCE)デフレーター(8月) |
FRBが重視するインフレ指標であり、金利の見通しにとって重要となる |
9月26日 |
米国 |
PCEデフレーター(8月) |
広範なインフレ指標であり、CPIと市場インフレ予想を補完する |
9月26日 |
米国 |
新築住宅販売件数(8月) |
住宅市場のモメンタムと消費者信頼感を示す |
9月27日 |
日本 |
東京消費者物価指数(CPI) (9月、速報値) |
全国的なインフレ動向の先行指標であり、日銀の政策見通しの鍵となる |
9月27日 |
ユーロ圏 |
欧州中央銀行(ECB)総裁講演(予定されている場合) |
将来の金融政策の方向性に関する示唆を与え得る |
MC2025-101