貿易合意と決算シーズンが 最高値到達をサポート

〔要旨〕
- 貿易合意:米国はフィリピン、インドネシア、日本及び欧州連合(EU)と、予想されたよりも概ね良い条件で貿易合意に達しました。
- 決算シーズン:第2四半期の決算シーズンが進行中であり、概ね株式市場の堅調さを後押しする兆候が見られます。
- 市場の上昇:投資家は、関税の不確実性の先を見据え始め、下半期の楽観的な結果を織り込み始めているようです。
貿易合意の締結
世界中で市場が上昇
ECBの利下げは終了した可能性
トランプ大統領がFRB を訪問
決算シーズンが株価の上昇を支える
注目の日程
年初に目を閉じ、今日目を開けてみたら、どれほど多くのことが起こったか驚くのではないでしょうか。表面上は順調な航海のように見えるでしょう。S&P500種指数とナスダックは、年初来それぞれ9%、9.5%上昇し、欧州市場や新興国市場も同様またはそれ以上の上昇を記録しています1。これは、根底にあるノイズを欺く、一見平穏な状態を示唆しています。
市場はいくつかの動向から安心感を得ています。まず、4月初旬に表出した、貿易をめぐる最悪の懸念は現実のものとはならず、主要な貿易合意がなされました。関税率は、昨年の水準と比べると大幅に高いものの2、なんとかコントロールが可能な水準とみられます。私たちの見るところ、成長やインフレに大きな影響を与えることなく、企業と消費者がコストを分担することが可能だと考えられます。市場は、新たな貿易関係における確実性が得られたことに対して、それがどのようなものであれ前向きに受け止める意向のようです。
米国の経済データは引き続き持ちこたえており、急激な景気後退や、そのような環境が迫っていることを示す兆候はほとんど見られません。例えば、先週の米国の新規失業保険申請件数は減少し、米国労働市場が弱含みつつあるとの懸念を和らげました3。一方で、企業決算は引き続き堅調です。決算シーズンは金融セクターの予想以上に良い業績で幕を開け4、テクノロジーセクターも堅調な成長を続けており5、投資家の楽観的な見方を支えています。
貿易合意の締結
米国はフィリピン、インドネシア、日本及びEUと貿易合意に達しました。合意された条件は懸念されたよりも概ね良好で、アジア太平洋諸国に対する関税率は、「解放の日」に発表された当初の関税率に比べて引き下げまたは維持されました6。ほとんどの関税率は、4月2日に示された10%の基準値を上回っており、15%が新たな基準値となった模様です。
- インドネシアは米国製品に対する関税を引き下げ、米国製品の購入を増やすことを約束しました。
- フィリピンとの合意には、特定の米国製品に対する関税引き下げと、経済・防衛分野での連携強化が含まれています。
- 日本は米国製品の輸入をさらに進めることに合意し、米国への550億ドルの投資を約束しました。この投資の約束は、特に注目されます。詳細は限定的にしかわかっていませんが、これらの資金が米国政府によって、エネルギーインフラ、半導体製造、造船、重要鉱物採掘など戦略的に重要な分野に配分される枠組みが形作られました。
- 日曜日の午後、米国とEUは、日本と同様に、EUから米国への輸出品のほとんどに15%の関税を適用する合意に達しました。これは2024年の税率よりも大幅に高い水準ですが、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長が、この合意が「安定性」と「予測可能性」をもたらすと述べたように、投資家にとって一定の安心材料をもたらすと考えられます。
EUと日本の合意は類似しているため、韓国やブラジルなどの他の主要貿易相手国が8月1日の関税期限前に合意を急ぐ中で、これらの合意がベルウェザー(先行事例)となる可能性があります。
世界中で市場が上昇
世界中の投資家は、関税関連の不確実性の先を見据え始め、今年下半期の楽観的な結果を織り込みつつあるようです。
- S&P500種指数、ナスダック総合指数、ダウ工業株30種平均は、堅調な企業決算と安心材料となる経済データに支えられ、先週末時点でいずれも過去最高値を更新しました7。
- 日本では、米国との間で貿易政策の明確化が進んだことにより先週日本株の急騰が後押しされ、TOPIX指数が直近で過去最高値を更新しました8。
- 好調な企業決算とイングランド銀行の利下げの可能性に後押しされ、英国のFTSE 100種指数も木曜日に過去最高値で取引を終えました9。
- 大陸欧州では、MSCI欧州指数が過去最高値に迫っています10。
ECBの利下げは終了した可能性
市場で広く予想されていたとおり、4会合連続で利下げを実施した後、欧州中央銀行(ECB)は先週の会合で、政策金利の据え置きを決定しました。この据え置きの判断は、ユーロ圏のインフレ率がECBの目標の2%にあることを直近のデータが示した後に出されました11。最近の成長データは、購買担当者景気指数(PMI)を含め一定の改善を示しており12、ドイツの財政支出拡大は、ECBが今後数会合、様子見の姿勢を維持する可能性を示唆しています。
ECB のクリスティーヌ・ラガルド総裁は記者会見で、ECB は「現時点では、金利を据え置き、今後数カ月のリスク動向を注視する立場にある」と強調しました。彼女は、次の政策として利上げを行う可能性を排除はしませんでした。今のところ、欧州の金融政策は順調に進んでいるようです。
トランプ大統領がFRB を訪問
ほぼ20年ぶりに現職大統領として米連邦準備理事会(FRB)を訪問したトランプ大統領は、ジェローム・パウエルFRB議長を解任するつもりはないことを示唆し、FRBの独立性に関する懸念を和らげました。トランプ大統領が、2026年5月のパウエル議長の任期満了前に、かつて例のない解任を検討しているとの報道を受けて、ここ数週間、懸念が高まっていました。解任の「正当な理由」として検討されている法的手段のひとつは、ワシントンD.C.にある現在改修工事中のFRB本部の改修工事費用の超過です。
しかし、先週木曜日にトランプ大統領は現場を視察した後、コスト超過だけでパウエル議長を解任する理由になるか尋ねられた際、「そのカテゴリーには入れたくない」と答え、FRB議長の解任は「必要ないと思う」と述べました。トランプ大統領はまた、「金利は引き下げられねばならない」との見解を改めて強調しました13。市場ではFRB が今年後半に利下げを再開すると予想されており、大統領の願いは叶うかもしれません。しかし、堅調な成長、ここ数週間の雇用データの改善、トレンドを上回るインフレ率などに鑑みると、利下げが決定的との状況からは程遠いと考えられます14。水曜日には米連邦公開市場委員会(FOMC)が開催されます。私たちも市場も、政策金利の変更はないとの予想です。
決算シーズンが株価の上昇を支える
少し突飛に聞こえるかもしれませんが、私たちは、中長期的に株価にとって真に重要なのは決算だと考えています。第2四半期の決算シーズンが現在本格化しており、概ね株式市場の堅調さを後押しする兆候が見られています。ただし、貿易と為替の動きが株価に影響を与えています。
米国では、これまでに第 2 四半期決算を発表したS&P500種指数構成企業は、前年同期比で底堅い9.2%の増益を報告しています15。バークレイズのデータによれば、決算発表済みの企業の 90% 近くが、予想を上回る増益を報告しています16。
ストックス欧州600指数の第 2 四半期の 1 株当たり利益は、前年同期比6.4%増と17、決算シーズン開始時のコンセンサス予想の2%増を上回っています。多くの欧州企業が指摘しているように、第 1 四半期のユーロ高がなければ、欧州の業績はさらに好調だったでしょう。予想に反して、欧州の輸出企業は、内需企業に比べて売上高の伸びが好調となっています。企業による関税措置の導入前の駆け込み需要で、米国による輸入が増えたことがこうしたトレンドの要因かもしれません18。
注目の日程
公表日 |
国・地域 |
指標等 |
内容 |
---|---|---|---|
7月29日 |
米国 |
S&Pケース・シラー複合住宅価格指数(HPI)(前年同月比) |
主要な住宅価格指数 |
7月29日 |
米国 |
コンファレンス・ボード 消費者信頼感指数 |
消費者心理の先行指標 |
7月29日 |
米国 |
雇用動態調査(JOLTS)の求人数 |
労働需要を測定 |
7月29日 |
ユーロ圏 |
スペインCPI速報値(前年同月比) |
早期のインフレシグナル |
7月30日 |
ユーロ圏 |
ドイツCPI速報値(前月比) |
暫定的なインフレデータ |
7月31日 |
米国 |
新規失業保険申請件数 |
労働市場の週間指標 |
7月31日 |
米国 |
雇用コスト指数(ECI) |
賃金インフレの指標 |
7月31日 |
米国 |
既存住宅販売件数指数 |
住宅市況の指標 |
8月1日 |
米国 |
非農業部門雇用者数 |
主要な雇用レポート |
MC2025-080