中東の緊張が高まる中で大局的に市場を捉える

〔要旨〕
- 市場の動き:イスラエルとイランの紛争が大幅に激化したことで、投資家がニュースに即座に反応し、原油と金の価格上昇につながった
- 歴史的背景:投資家にとって、市場が地域紛争に際して歴史的に堅調さをみせてきたことを忘れないことが重要
- クオリティに集中:現在の状況を見極めるにあたっては、引き続きファンダメンタルズに焦点をあて、クオリティに集中しつつ市場環境を乗り切っていく
市場は歴史的に地域紛争時に堅調さを示してきた
今週の注目ポイント
注目の日程
イスラエルがイランの核関連施設や軍事施設を標的とした空爆を実施し、中東での緊張が大幅に高まったことを受け、市場は先週プレッシャーにさらされる中取引を終えました。この空爆は地政学的な不確実性を高め、投資家がポートフォリオにおける「セーフヘイブン」資産(安全資産)を求めた結果、原油と金価格の急上昇を招きました1。株式市場は、紛争が地域に波及する可能性への懸念と、それが世界経済の成長及びインフレに与えるインプリケーションを反映して下押し圧力を受けました。
しかし最も注目すべきは、米ドル(USD)がわずかな上昇にとどまり、ほとんど反応が見られなかったことです2。通常このような事態においては、米ドルに即時の強い反応が予想されます。このような動きの鈍さは、米ドルのセーフヘイブンとしての地位が大幅に低下していることを浮き彫りにしています2。
市場は歴史的に地域紛争時に堅調さを示してきた
これらの動向は深刻であり、注視していく必要がありますが、大局的な視点を持つことが重要です。歴史的に、市場は地域紛争に際して堅調さを示してきました。例えば、2022年初頭のロシアのウクライナ侵攻による当初の衝撃にもかかわらず、株価は回復に向かい、その後数年にわたり継続的に上昇しました3。同様に、2023年10月7日に始まったイスラエル・ハマスの紛争後、強い企業決算と経済の勢いに後押しされ、市場はボラティリティについて見て見ぬふりをしてきました4。
グローバルな原油供給に重大かつ長期的な打撃が発生(ホルムズ海峡の航行に支障が出た場合など) しない限り 、原油価格は一時的な上昇からいくぶん戻る可能性が高いと私たちは考えています。
現在の状況を見極めるにあたって、私たちは引き続きファンダメンタルズに焦点をあてています。心強い経済データ、利下げの可能性、貿易協議の進展の可能性などが引き続き楽観的に構える材料となるものの、現在の市場環境を乗り切っていく上では、引き続きクオリティに重点を置くことが重要です。
今週の注目ポイント
- 予想に反した米国の経済データ:5月の米消費者物価指数(CPI)は引き続き、関税による物価上昇圧力が限定的であることを示唆しました。前年同月比のヘッドラインインフレ率は2.4%にとどまり、変動の大きい食品とエネルギー価格を除いた「コア」指数は、3ヶ月連続で前年同月比2.8%となりました5。5月の雇用統計も予想を上回りましたが、雇用増加のペースや、それ以前の月のデータが下方修正されたことは、労働市場が減速し始めていることを示唆しています6。直近で失業保険の継続申請件数が2021年以来最も多くなるなど、失業保険申請件数には弱含みの兆候が見られています7。
- 「良いニュース」を受けた利下げが米国で検討の俎上にカムバック:インフレデータが予想を下回ったことから、堅調ながらも冷え込みつつある労働市場データと相まって、米連邦準備理事会(FRB)は、政策金利の「据え置き」を正当化するのがより困難になるかもしれません。関税による価格上昇が当初の予想よりも緩やかなことが判明すれば、FRBは「悪い」雇用データを待つのではなく、「良い」インフレニュースを受けて利下げを開始する可能性があります。
- グローバル市場は拡大を織り込んでいるように見える:米金融市場は、先週のインフレデータを経済にとって前向きな兆候と受け止めました。株価が上昇し8、データを受けて国債利回りが低下しましたが9、一方で米ドルは下落傾向を示しました10。これは潜在的な利下げを予想したものとみられます。米国以外では、米ドルの弱含み、緩和的な金融政策、財政政策の拡大余地が、非米国株の力強い上昇につながっており、年初来米ドル建てで、MSCI EAFE(欧州、豪州、極東)指数は19%、MSCI 新興国指数は14%上昇しています(これに対してS&P 500種指数は3%の上昇)11。
- 国債入札に旺盛な需要:米国債市場をめぐる最近の懸念は過大に捉えられていたようです。予想よりやや少ない結果となった数週間前の米30年物国債入札に続き、先週、米10年物と米30年物の国債入札が行われましたが、いずれにおいても堅調な需要が見られました。より注目すべきは、先週の入札直前の数日間で米国債利回りが低下したにもかかわらず堅調な需要が維持されたことで、利回り水準が様々であっても、米国債への需要が継続していることを示唆しています。
- 中国との貿易協議が進展、他地域では緊張が高まる:米国と中国は先週ロンドンで会談し、輸出管理に関する目下の貿易紛争をめぐって協議を行いました。詳細に関してはあまりわかっていませんが、中国が米国に製造に不可欠なレアアース鉱物の安定供給を行うかわりに、米国が中国への高度半導体輸出制限を緩和する原則合意が成立しました。他方でそれ以外の国々に対してトランプ大統領は、今後2週間以内に貿易相手国に対し一方的な関税率を通知する意向を表明しましたが、これは、数ヶ月に及ぶ交渉を経てなお、貿易紛争が更にエスカレートする可能性を示唆しています。
- 英国の労働市場が軟化しつつあることから、イングランド銀行が追加的な利下げを行う可能性:英国の労働データによると、企業は従業員の解雇を加速させていないものの、採用ペースは鈍化しています。企業が国民保険拠出金の増加に伴うコスト管理を迫られる中、求人数は先週さらに減少しました。また賃金上昇率はイングランド銀行の予測を下回っており、インフレ圧力の低下を示唆しています。英国の労働市場データの軟化は、イングランド銀行が、市場が織り込んでいるよりも急速に利下げを行う可能性を示唆しています。これにより、家計の住宅ローン金利が低下し、消費支出の拡大を下支えする可能性があります。
注目の日程
公表日 |
指標等 |
内容 |
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6月16日 |
米国ニューヨーク連銀製造業景気指数(エンパイア・ステイト景況指数) |
製造業セクターの経済の健全性を示す先行指標。強い数値は経済成長への信頼感を高めうる
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6月17日 |
日本政策金利決定(日銀) |
金融政策のスタンスを示唆。変更やガイダンスがあれば、円や日本株に影響しうる |
6月17日 |
ドイツZEW景況感指数 |
ドイツ経済に対する投資家の信頼感を測定し、しばしばより広範なEUの見通しの指標とも見なされる |
6月17日 |
米国小売売上高(コア及びヘッドライン) |
個人消費の主要な指標で、米国GDPの多くを牽引する。好調な売上高は経済の堅調さを示唆する可能性 |
6月18日 |
英国CPI(コア及びヘッドライン) |
インフレデータはイングランド銀行の政策決定に影響を与える。高インフレは利上げを促す可能性 |
6月18日 |
米国FOMC政策金利決定 |
おそらく今週最も市場に影響を与えるイベントとなると考えられる。投資家は政策金利の変更とフォワードガイダンスに注目している |
6月18日 |
米国原油在庫 |
原油価格とエネルギーセクター株に影響を与え、経済活動の指標ともなる |
6月19日 |
英国政策金利決定 |
英ポンドと英国金融市場に直接影響 |
6月19日 |
スイス政策金利決定 |
スイスフランに影響を与え、経済見通しに関する示唆を与える |
6月20日 |
EU経済・財務相理事会会合 |
財務閣僚が経済政策の調整について議論を行う。政策変更や市場を動かすニュースにつながる可能性 |
6月20日 |
英国小売売上高(前月比) |
消費支出のトレンドを示唆するGDPの主要な構成要素 |
6月20日 |
米国フィラデルフィア連銀景況指数 |
国内製造業のトレンドと相関の高い地域指標 |
MC2025-066