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経済データは複雑で混乱したシグナルを発している

経済データは複雑で混乱したシグナルを発している
〔要旨〕
  • 関税の影響:関税の影響はまだ経済のハードデータには表れていないと思われるが、米国の心理は弱含んでいる
  • 米雇用統計:4月の非農業部門雇用者数は予想を上回るも、関税が採用活動の重しとなるにつれ、悪化する可能性
  • イングランド銀行:0.25%の利下げが予想され、下半期の力強い経済活動を下支えすると考えられる
混乱したデータ

米国の労働市場:複雑なシグナル

日銀は据え置き

FTSE100種指数が新記録を達成

欧州ではインフレが低下

これら全てのデータをどう解釈すべきか?

注目の日程
 

2025年4月は投資家にとって、市場のタイミングを計ろうとするのが愚かな行為であることを、強く思い知らされる月でした。S&P500種指数は「解放の日」以前のピークから、「解放の日」の翌週には19%下落しましたが、今(レポート執筆日の日付)は実質的に4月2日時点の水準に戻っています1

投資家たちは、痛みが一定の閾値を超えた場合、トランプ政権が関税や米連邦準備理事会(FRB)への攻撃的な態度を軌道修正する意向があるとみられたことを喜びました。

4月8日の底値以降のS&P500種指数の上昇はマグニフィセント・セブンに牽引されており、先週発表されたメタ、マイクロソフト、アマゾン、アップルの第1四半期決算が好調だったことから、今週はさらに上昇しました2。しかし、決算の詳細や米国企業が発表するガイダンスを聞くと、関税による本当の痛みはまだ感じられていないことが示唆されます。

米国の投資家、企業、家計は、各々の心理の大幅な悪化に見られるように、これらの政策の影響に懸念を持っています3。関税の影響は、まだ経済のハードデータには表れていないようです。例えば4月の非農業部門雇用者数は予想を上回り4、米国経済が厳しい局面を迎えるにあたって力強いモメンタムを持っていることを示唆していると考えられますが、私たちは、政策の不透明感が長引けば長引くほど、経済活動への潜在的打撃は大きくなると考えています。

米国株式市場は、短期的な売られ過ぎの状態からリバウンドしたものと見られ5、今後数週間、数カ月にわたって持続的かつ順調に上昇する結果に結びつくとは考えられません。市場は依然として、ネガティブなデータや政策発表に対して非常に脆弱な状態にあります。

 

混乱したデータ

第2期トランプ政権発足後最初の100日間は、重要、かつ驚くべき政策変更の嵐でした。これらの政策は、移民の抑制と貿易相手国への関税適用に焦点を当てており、いずれも米国の成長鈍化と物価上昇の脅威をはらみます。

4月の米国国内総生産(GDP)は縮小(マイナス成長)しました6。しかし私たちは、この縮小は誤解を招く可能性があり、第1四半期の米国経済の減速を実態よりも大きく見せている可能性が高いと考えています。GDPが縮小したのは、予想される関税引き上げの前に企業が先手を打とうとし、輸入が急増したためです。財輸入が51%増加し、ヘッドラインのGDP成長率を前期比年率5%以上押し下げました7。消費の伸びは2024年第4四半期から鈍化したものの、同四半期の成長率にプラスに寄与しました8

米供給管理協会(ISM)製造業指数は先週、コンセンサス予想を上回りましたが、それでも活動の大幅な鈍化を示唆しました。この指数が現行水準より低かったのは過去4回のエピソードのみでしたが、そのどの時期にも米国経済は景気後退に陥りました9

FRBが選好するインフレ指標であるコア個人消費支出は、FRBが考える「コンフォートゾーン」の範囲内におさまりました10。来月には、関税が物価にさらなる上昇圧力をかけると予想されますが、長期的なインフレ期待が抑制されたままであれば、FRBは一過性のものと認識する可能性もあります。
 

米国の労働市場:複雑なシグナル

労働市場のデータは遅行指標として知られていますが、FRBが今後数カ月間どのように反応するか、そのトレンドを設定するとみられます。4月の非農業部門雇用者数は前月比17万7,000人増となり、予想を上回りましたが、関税が採用活動の重しとなる可能性が高いため、今後数ヵ月のうちに悪化する可能性が高いと考えられます11

3月の求人数は減少し、企業が雇用にやや消極的になりつつあることを示しています12。今日の不確実性の高さを考えれば、直感的に理解できます。企業は、急ぎではない決定を先送りする可能性が高いでしょう。
 

日銀は据え置き

日銀(BOJ)は先週会合を開催し、予想通り、政策金利を0.5%で据え置きました13。他の先進国の中央銀行とは対照的に、日銀は引き締めモードを維持する可能性が高いと考えられます。ただし日銀は、2025年と2026年のGDP成長率とインフレ率の見通しを下方修正しました。これを受けて円は対米ドルで低下し、日経平均株価は円ベースでその週5%以上上昇しました14
 

FTSE100種指数が最長プラスリターンを達成

英国のベンチマーク株価指数であるFTSE100種指数は、5月2日金曜日に15日連続となるプラスリターンを記録しました15。これは1984年の指数創設以来で最長となります。このリターン記録は、経済成長の低迷が必ずしも株式リターンの低迷に結びつかないことを思い出させてくれます。FTSE100種指数構成企業の売上高の4分の3近くは、英国外からもたらされたものです16

今週、イングランド銀行は政策金利の決定会合を開催します。私たちは、0.25%の利下げが決定されると予想しています。そうなれば、英国の今年の住宅ローンや事業資金の調達コストが低下し、下半期の力強い経済活動を下支えすると考えられます。
 

欧州ではインフレが低下

欧州のインフレデータからは、前月に比べ価格が軟化していることが示唆されました。ドイツの消費者物価指数上昇率は前年同月比2.2%となり、7ヵ月ぶりの低水準となりました17。一方、フランスの消費者物価指数上昇率は同0.8%となり、2021年2月以来の低水準となりました18。インフレの緩和は、欧州中央銀行(ECB)が次回会合で利下げを決定するさらなる材料となるでしょう。
 

これら全てのデータをどう解釈すべきか?

先週は多くのデータが発表されましたが、そのほとんどは「解放の日」以前、あるいはその直後の期間を対象としています。これにより、市場参加者にもコメンテーターにも、各々のバイアスでデータを解釈する余地が生まれています。

私たちの解釈は、今年の成長率やインフレのデータの行き着く先には大きな振り幅があり得るものの、政策の着地点や実施方法については依然として不明な点が多い、ということです。ただ言えるのは、米国では高い水準にあった成長率が鈍化し、それ以外の地域では、低い水準からではあるが成長率の鈍化が米国よりは小さくなるというのが最も可能性の高い道筋だということです。

米国では短期のインフレ圧力が強まりつつあるものの、それ以外の国々の多くでは弱まりつつあるため、多くの中央銀行が、以前よりも緩和的な政策に取り組む余地が生まれてきています。

市場は予想から乖離したデータに反応する  傾向があるため、米国以外の市場の方が米国市場よりも魅力的にうつります。私たちは依然として、ポンド、ユーロ、フラン、円などは、今後米国以外の市場に活路を見出すことになるだろうと考えています。欧州、アジアそして英国の市場に目を向けるのに、良いタイミングだと思われます。
 

注目の日程

国・地域

指標等

内容

月曜日

米国

ISMサービス業PMI

製造業の低迷がサービス業に波及すれば、多くの雇用がリスクにさらされる可能性がある

火曜日

米国

貿易収支

米国の貿易統計は、4月初めに発表された米国の関税に対して輸出と輸入がどのように反応したかについて、一定のシグナルをもたらす

水曜日

ドイツ

製造業新規受注

ドイツの製造業企業の反応に関する示唆

米国

FRB会合

FRBが政策金利の決定会合を開催。今回会合で政策金利は据え置かれると予想

欧州連合

小売売上高

欧州の消費者は最近、改善の兆しを見せている。
小売売上高により、この傾向が続いているか、あるいは失速しつつあるかが示唆されるだろう

木曜日

英国

イングランド銀行会合

イングランド銀行が政策金利の決定会合を開催。
インフレが低下しており労働市場が弱含んでいることから、今回会合で0.25%の利下げが決定されると予想

金曜日

中国

貿易

中国の貿易データは、4月初めに発表された米国の関税に対して輸出と輸入がどのように反応したかについて、一定のシグナルをもたらす

  • 1.

    出所:ブルームバーグL.P.、2025年5月1日。S&P500種指数のピークは2025年2月19日。2025年の底値は4月8日

  • 2.

    出所:ブルームバーグL.P.、マグニフィセント・セブンと呼ばれる7銘柄(アルファベット、アマゾン、アップル、メタ、マイクロソフト、エヌビディア、テスラ)のリターン(2025年4月8日の底値から2025年5月1日までの間に17.05%上昇)に基づく

  • 3.

    出所:CEOエグゼクティブマガジン、ミシガン大学消費者調査、全米個人投資家協会、2025年4月

  • 4.

    出所:米国労働統計局、2025年4月。非農業部門雇用者数は前月比17万7,000人増

  • 5.

    出所:ブルームバーグL.P.、2025年5月1日、ニューヨーク証券取引所で200日移動平均線を下回って取引されている銘柄数に基づく

  • 6.

    出所:米国経済分析局、2025年4月

  • 7.

    出所:米国経済分析局、2025年3月

  • 8.

    出所:米国経済分析局、2025年3月

  • 9.

    出所:米国供給管理協会、2025年4月2日

  • 10.

    出所:米国経済分析局、2025年4月2日

  • 11.

    出所:米国経済分析局、2025年4月2日

  • 12.

    出所:米国労働統計局、2025年4月、米国雇用動態調査(JOLTS)に基づく

  • 13.

    出所:日本銀行

  • 14.

    出所:ブルームバーグL.P.、2025年5月2日、4月25日終値から5月2日終値までの日経平均株価のパフォーマンスに基づく

  • 15.

    出所:ブルームバーグL.P.、2025年5月2日、FTSE100種指数のパフォーマンスに基づく

  • 16.

    出所:ブルームバーグL.P.、2024年FTSE100種指数構成企業の売上高に基づく

  • 17.

    出所:ドイツ連邦統計局、2025年4月

  • 18.

    出所:フランス国立統計経済研究所、2025年4月

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