Global markets in focus

中央銀行は慎重姿勢

経済データは複雑で混乱したシグナルを発している
〔要旨〕
  • FRB:関税をめぐる不透明感が、物価の上昇リスクと雇用の減速リスクの両方をもたらしたため、FRBは引き続き様子見モード
  • イングランド銀行:利下げを決定したものの、利下げを行うかどうかの投票結果が予想よりも僅差となり、タカ派的なトーンを残した
  • 米中関税:米国の対中関税措置の大幅な縮減(90日間の145%から30%への引き下げ)を市場は前向きに受け止めた
1.FRB:引き続き様子見モード

2.イングランド銀行:徐々にかつ慎重に利下げを実施

3.決算シーズン:好調な四半期だが、ガイダンスを得るのは困難

4.テクノロジー企業:いつもの顔ぶれ

5.カシミールにおける紛争は市場に大きく影響しない

注目の日程
 

2018年の米中貿易紛争の際の状況が、現在の状況とよく類似しているように思われます。2018年後半、企業景況感が悪化して景気後退懸念が高まり1、S&P500種指数が短期間で20%近く売られました2。投資家の弱気姿勢が強まる頃までには3、政策ミックスに変化が見られました。トランプ政権は中国への関税措置の90日間の一時停止を発表し、米連邦準備制度理事会(FRB)はよりハト派的な傾向を強めました。その翌年、リスク資産は好調となりました4

ことわざにもあるように、歴史は(全く同じことが繰り返されるとまではいかなくとも、)しばしば似たようなことが起きるものです。週末、ベッセント米財務長官はスイスで中国の通商担当高官と会談を行いましたが、これが結果として、関税を90日間、145%から30%へと大幅に引き下げるという、関税措置の大幅な縮減につながったと見られます。もちろん、市場はこれを非常に前向きに受け止めました。関税は昨年より高いものの、米政権が最悪のシナリオから外れる大きな一歩を踏み出したことには違いありません。

先週起こったその他の出来事は、以下のとおりです。

1.FRB:引き続き様子見モード

FRBは依然として、板挟みの状況が続いています。関税をめぐる不透明感が、物価の上昇リスクと雇用の減速リスクの両方をもたらしました。私たちは、政策金利の次の動きは引き下げとみていますが、労働市場がより大きな弱含みの兆しを示すまでは、FRBは金利を現状で据え置くと予想されます。ここ数ヶ月、失業保険申請件数や雇用統計はよく持ちこたえています。心強いとはいえ過去の状況を反映しているにすぎない経済データと、足下のセンチメント系のデータとの綱引き状態からは、FRBが様子見モードを維持する可能性が高いことが示唆されます。
 

2.イングランド銀行:徐々にかつ慎重に利下げを実施

イングランド銀行は先週、大方の予想通り政策金利を0.25%引き下げましたが、メンバーの投票結果は予想よりも僅差となり、2人が政策金利の据え置きに投票しました5。調査データは英国のインフレ圧力が粘着的となっていることを示唆していますが6、私たちは、原油価格の下落、ポンド高、米国の関税措置を受けて、今後数ヵ月はインフレ圧力が低下するとみています。英国の労働市場は、崩壊しつつあるとまでは言えないものの、軟化の兆しを見せています7。利下げは住宅ローン金利の低下に徐々に反映されつつあり、これにより英国の消費者が、今年後半に支出を増やそうとする心理につながるかもしれません。そうなれば、国内市場に焦点をあてた英国小型株が恩恵を受ける可能性があると考えられます。
 

3. 決算シーズン:好調な四半期だが、ガイダンスを得るのは困難

S&P500種指数構成企業の75%以上が既に決算発表を済ませており、第1四半期の決算シーズンは順調に進行しています。決算が予想よりも上振れするプラスのサプライズとなった企業の割合は、通常とほぼ同じでした8。しかし、米国企業のフォワード・ガイダンスは不確実性の高まりを反映しています。多くの企業はこれまでのところ、1株当たり利益がマイナスとなるガイダンスの発表はしておらず、決算説明会における景気後退への言及は前四半期から急増しました。ただし、レイオフ(一時解雇)への言及はそれほど増えていません。
 

4. テクノロジー企業:いつもの顔ぶれ

具体的には、米国のテクノロジーセクターと通信サービスセクターが、ここ数週間の株式市場の上昇を牽引してきたことがわかります9。これは年初来の3ヵ月間で、これらのセクターのパフォーマンス悪化が市場全体を押し下げたことからの反転と言えます。これらのセクター以外が引き続き低迷しているため、これらのセクターの業績が再び鈍化した場合、直近の株式市場の上昇が失速し始める可能性があります。
 

5. カシミールにおける紛争は市場に大きく影響しない

過去数十年で最大の武力衝突が起きた後、インドとパキスタンの間の緊張は高まっています。さらにエスカレートする可能性はありますが、投資家は、地域の地政学的対立が幅広い市場に与える影響は、歴史的に小さい傾向にあることを念頭におく必要があるでしょう。パキスタンの株式市場は大きく売られましたが10、私たちは、こうした緊張がより幅広い金融市場に重大な影響を与えるとは考えていません。
 

注目の日程

国・地域

指標等

内容

月曜日

米国財政収支

一部の市場関係者は、米国の公的債務規模に懸念を抱いている。発表内容により、債務の伸びが加速しているか減速しているかが示される。これは債券利回りやタームプレミアムに影響を与えうる

火曜日

英国労働市場データ

雇用者数、賃金上昇率、失業保険申請件数のデータに弱含みが見られるかが注目される。イングランド銀行は最近、これらのデータが軟化しつつあることに懸念を表明しており、さらなる弱含みが見られれば追加利下げにつながる可能性がある

火曜日

ドイツZEW景況感指数

ドイツ企業の今後6ヶ月間の成長、インフレその他の経済指標の推移予想に関するシグナル。企業景況感の指標

火曜日

米国消費者物価指数(CPI)

インフレデータが注視される。物価が前月よりも急速に上昇すれば、FRBによる次の利下げは市場予想よりも先になるかもしれない。小売業者が、関税を消費者に価格転嫁し始めているかを計る最初の指標となるだろう

木曜日

日本債券・株式フロー
(対外・対内証券投資)

日本の対外資産需要は米ドルの軟化として注目されると考えられるが、これは日本の投資家が去年までに比べて国内に資金を留めるのを選好することを示唆する可能性

木曜日

英国国内総生産

英国経済は第1四半期に成長できたのか、成長は加速したのか?本データは、英国経済のどのセクターが他セクターに比べて好調かの指標となる

木曜日

欧州連合(EU)国内総生産

ユーロ圏経済は第1四半期に成長できたのか、成長は加速したのか?本データは、EU経済圏のどのセクターが他セクターに比べて好調かの指標となる

木曜日

米国小売売上高

家計が支出を続けているか、関税による値上げ前に購入しようとしているか、あるいは既に需要が鈍化しつつあるかを示す指標となる

金曜日

日本国内総生産

日本経済は第1四半期に成長できたのか、成長は加速したのか?本データは、日本経済のどのセクターが他セクターに比べて好調かの指標となる

金曜日

米国住宅着工件数

住宅建設は米国労働市場の重要な部分を占めている。住宅着工件数の増加は経済活動の改善の兆しとみなされる

  • 1.

    出所:CEOエグゼクティブマガジン、チーフ・エグゼクティブに月次調査したCEO信頼感指数に基づく。CEOエグゼクティブマガジンは毎月、全米のあらゆる種類と規模の企業のCEOを対象に調査を行い、指数を作成

  • 2.

    出所:ブルームバーグL.P.、S&P500種指数は2018年9月20日から同年12月24日にかけて、ピークから谷へ19.8%下落

  • 3.

    出所:ブルームバーグL.P.、米国個人投資家協会(AAII)の投資家心理調査では、2018年7月から2018年12月は弱気数値となった。この調査は、個人投資家に今後6ヵ月間の市場の方向性に関する考えを尋ね、個人投資家の見方について示唆を与える

  • 4.

    出所:ブルームバーグL.P.、S&P500種指数の2019年のリターンは31.5%

  • 5.

    出所:イングランド銀行、2025年5月9日

  • 6.

    出所:イングランド銀行/イプソス インフレに対する意識調査、2025年4月30日

  • 7.

    出所:英国国家統計局、2025年4月30日

  • 8.

    出所:ブルームバーグL.P.、S&P 500種指数構成企業の決算発表結果に基づく。

  • 9.

    出所:ブルームバーグL.P.、2025年5月8日、S&P500種指数各セクターのリターンに基づく。4月14日からの1週間で、S&P500種指数の情報技術セクターは8.4%、同通信セクターは5.6%のリターンを記録

  • 10.

    出所:ブルームバーグL.P.、2025年5月8日、パキスタン市場の大・中型株セグメントのパフォーマンスを測定するMSCI パキスタン指数(USD)のリターンに基づく。同指数は、2025年4月3日以降14.98%下落

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