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消費者心理の弱含みが株価の好調さを妨げる

消費者心理の弱含みが株価の好調さを妨げる
〔要旨〕
  • 貿易政策:米中関税の90日間の一時停止は、株価の上昇には十分な材料となったが、米ドルにとってはそうではなかった
  • インフレ:関税はまだインフレ率の上昇に現れてはいないが、FRBはハードデータが悪化するまで様子見姿勢を維持する可能性が高い
  • ドイツ:外相のコメントは、防衛費が有意義な形で増加する可能性が高いとの確信を高めた
関税:対立が和らいだ日

中東:ディール、ディール、ディール

米消費者物価指数:ディスインフレの国

FRB:利下げタイミングは遅れても、利下げ幅は拡大?

財政政策:「大きく、美しい法案」

債券市場:閾値に近づきつつあるか?

欧州:ドイツの支出計画が加速

米消費者信頼感指数:低い値

注目の日程
 

以前も市場をジェットコースターに例えましたが、先週は相場が上昇したため、再びその表現が当てはまる時が来たようです。先週の株価好調を受け、S&P500種指数は史上最高値を4%弱下回る程度となっています1。ドイツDAX指数は史上最高値で週を終え、2025年に入って19%近く上昇しています2。株価は上昇したものの、米ドルは再び下落トレンドに入りました3

一連の重要な出来事が市場のトーンを好転させました。それはほとんど信じられないほど良いものでした。

 

関税:対立が和らいだ日

5月12日月曜日、米中は、それまでエスカレートする一方だった貿易戦争について、90日間のいわば「一時停戦」に合意しました。合意には、米国の対中関税の145%から30%への引き下げ、中国の対米関税の125%から10%への引き下げが含まれます。この発表を受け、特にシクリカル銘柄を中心に米国株は急騰しました4。しかし関税は、2024年や過去100年の大半の期間に比べると、依然としてはるかに高い水準にあることを忘れてはいけません。市場はニュースのいわば2次導関数、すなわち「(事態が悪い中でも)改善している 」ことに反応する傾向があります。

中東:ディール、ディール、ディール

トランプ大統領は2期目に入って初の外遊で、中東を訪問しました。サウジアラビアが、過去最大の防衛取引となる約1420億ドルの武器購入に合意し、大規模な防衛協定が締結されました5。エヌビディアによる最先端チップの同地域への輸出を可能とする取引が合意されたことで、多くのテクノロジー企業の株価が上昇しました。

米消費者物価指数:ディスインフレの国

4月の米消費者物価指数は、3ヵ月連続で予想を下回りました。前年同月比のヘッドラインインフレ率は2021年以来の低水準となる2.3%に低下し、ピークだった2022年の9.1%から下落しました6。多くの企業が関税発効直後の値上げを回避するため前もって在庫を積み増していたことから、関税は直近のインフレ率に大きな影響を与えませんでした。他のインフレデータについては、ホテル、モーテルの客室料が4月に0.1%低下し、航空運賃も下落しました7。米国への外国人観光客がここ数ヶ月著しく減少していることから、これは私たちの見るところ予想通りでした。

FRB:利下げタイミングは遅れても、利下げ幅は拡大? 

関税率の低下と前向きなインフレデータにより、米連邦準備理事会(FRB)は当面、政策金利を据え置く可能性が高いと考えられます。様子見のアプローチを取ることで、FRBは状況の変化に応じて柔軟な対応を行える可能性があります。インフレが再燃すれば、利下げ回数の減少または利下げ自体の見送り論が強まると考えられる一方で、労働市場が弱含めば、より大幅な利下げが求められる可能性もあります。金融政策が依然として引き締め気味であることから、経済が突然軟化の兆しを見せた場合、FRBは利下げタイミングは遅れても、より大幅な利下げに対応する余地があると私たちは考えています。オーバーナイト・インデックス・スワップは、市場が2025年に2回の利下げを見込んでいることを示唆しています8。アトランタ連銀のボスティック総裁は、ハードデータの弱含みに関する不透明感が払しょくされない限り、今年の利下げは1回にとどまるとの見通しを示しました9

財政政策:「大きく、美しい法案」

下院共和党は、トランプ大統領が 「大きく、美しい法案(通称:ビッグ・ビューティフル・ビル(Big, Beautiful Bill))」と呼ぶ 税制法案を提出しました。主な内容には、2017年の減税・雇用法の延長、残業代に対する一時的な課税免除、(飲食店従業員が受け取る)チップに対する新たな控除、給付金プログラムへの歳出削減などが含まれます。この税制パッケージを盛り込んだ法案はまだ最終形ではなく、署名前に議会でさらなる交渉が行われると考えられます。

債券市場:閾値に近づきつつあるか?

関税措置の縮減、パウエルFRB議長への攻撃的な姿勢のトーンダウン、前向きなインフレデータなどにもかかわらず、長期の米国債利回りはここ数週間上昇しています。米30年物国債利回りは最近、2023年以来の水準となる4.97%に到達し、今年2度にわたって記録した(政権の関税に関するスタンスを調整することにつながった)5%の閾値をわずかに下回るところまできています10

利回りの上昇は、景気後退リスクの低下、インフレ期待の上昇、議会が歳出の相殺を伴わないさらなる減税を提案していることによる米国の財政赤字懸念などが複雑に絡み合った状況を反映しています。財政赤字懸念は、米国債のクレジット・デフォルト・スワップ価格の上昇にも表れています。国債市場は、依然として債券自警主義者からのプレッシャーを受けているかもしれませんが、私たちは、パニックに陥らないよう心掛けています。債務や財政赤字に関して、米国には引くことのできる多くのレバー(対応策)があります。(2023年やそれ以前と同様に)債務上限は引き上げられると予想され、外国人投資家は米国債を投げ売りしておらず、FRBもプレッシャーに屈することはなさそうです。

欧州:ドイツの支出計画が加速

ドイツのヨハン・ワーデフール外相は、防衛費を対国内総生産(GDP)比5%に引き上げるべきとの米国の要求を支持すると述べました。NATOによると、ドイツの2024年の防衛費は対GDP比2.4%でした。そこでドイツは、ポーランドとともに次のようなルッテNATO事務総長の提案を支持するとしました:対GDP比5%のうち、 3.5%を兵器システムや人員を含む従来の防衛費に、1.5%をインフラ、情報、市民保護等に分割して割り当てるとの提案です。この分割の適用により、(5%の)支出計画は政治的ハードルを乗り越える可能性が高いでしょう。この報道は、欧州の財政が新しい局面に差し掛かっており、結果として今後数年間で成長の改善が見られうると考える人々にとって、1つの支えとなるでしょう。

米消費者信頼感指数:低い値

週を通して良好なニュースが続いた後、ミシガン大学が発表した米消費者信頼感指数が50.8と、過去2番目に低い値となったのは残念でした。これは、消費者が成長見通しに不安を抱いていることを示唆しています11。1年先のインフレ期待は7.3%、5-10年先のインフレ期待は4.6%となりました12。成長率の鈍化とインフレ期待の上昇の更なる兆候が見られたことは、FRBの意思決定プロセスがさらに難しくなったことを意味するでしょう。
 

注目の日程

国・地域

指標等

内容

月曜日

米国景気先行指数

米国のハードデータは堅調を維持しているが、心理データは弱含んでいる。景気先行指数が、経済の方向性について良い示唆を与えてくれるだろう

月曜日

ユーロ圏消費者物価指数(CPI)

貿易摩擦が欧州の消費者物価に及ぼす影響について示唆を与える

火曜日

ドイツ生産者物価指数

金融政策の今後の道筋について手がかりを与える

火曜日

カナダCPI

貿易摩擦が消費者物価に及ぼす影響について示唆を与える

水曜日

米国住宅ローン申請指数

高金利が引き続き米国の住宅建設の重しとなるかについて示唆を与える

水曜日

英国CPI

金融政策の今後の道筋について手がかりを与える

木曜日

米国中古住宅販売件数

金利上昇と歴史的に低い住宅在庫水準により相対的に弱含んでいる景気先行指標

木曜日

英国購買担当者景気指数(PMI)

経済の方向性を指し示す先行指標

金曜日

米国住宅建築許可件数

住宅市場の現状から相対的に弱含んでいる景気先行指標

金曜日

ドイツ国内総生産

貿易摩擦を前に経済がどのような状況にあるかに
ついての見通し

  • 1.

    出所:ブルームバーグL.P.、2025年5月16日、2025年2月19日のピークからのS&P500種指数リターンに基づく

  • 2.

    出所:ブルームバーグL.P.、フランクフルト証券取引所で取引される最大かつ最も流動性の高い40社の業績を追跡し、ドイツ経済の健全性を示すバロメーターとして広く認知されているドイツDAX指数に基づく

  • 3.

    出所: ブルームバーグL.P.、2025年5月16日、米ドル指数に基づく

  • 4.

    出所:ブルームバーグL.P.、2025年5月16日、S&P500種指数のシクリカルセクター(工業、情報技術、金融、素材、一般消費財セクターを含む)のリターンに基づく

  • 5.

    出所:アイルランド放送協会、アイルランドの公共放送サービスメディア、”US signs Saudi Arabia arms deal, lifts sanctions on Syria”、2025年5月13日

  • 6.

    出所:米国労働統計局、2025年4月30日

  • 7.

    出所:米国労働統計局、2025年4月30日

  • 8.

    出所:ブルームバーグL.P.、2025年5月16日、フェドファンド・インプライドレート(理論先物金利)に基づく

  • 9.

    出所:ブルームバーグL.P.、OddLots ポッドキャスト、アトランタ連銀総裁ラファエル・ボスティックが極端な不確実性の中での金融政策について語る、2025年5月16日

  • 10.

    出所:ブルームバーグL.P.、2025年5月16日

  • 11.

    出所:ミシガン大学消費者調査、2025年4月30日

  • 12.

    出所:ミシガン大学消費者調査、2025年4月30日

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MC2025-054