グローバル・ビュー

イラン・イスラエル停戦合意が米利下げを促す

Invesco Global View
要旨
停戦合意が米利下げの可能性を高めた

6月21日(米国時間)の米軍によるイランの核施設に対する軍事攻撃と23日夜(米国時間)にアナウンスされたイラン・イスラエル間の停戦合意は、グローバル金融市場に衝撃をもたらしました。一連のイベントによって米国などの株価が上昇した背景としては、①中東情勢を巡る不透明感の低下、②原油価格の安定による、米国景気後退のリスクの低下、➂停戦合意によってFRB(米連邦準備理事会)の利下げのハードルが下がったこと、があったと考えられます。

イランに停戦合意の順守を促す4つの要素

イランとイスラエルは今回の停戦合意を順守する可能性が高いと見込まれます。イラン側にとっては、①米国との圧倒的な軍事力の差、②戦争の継続が、原油輸出の停滞を通じた財政悪化やマクロ経済の不安定化につながること、➂ホルムズ海峡の封鎖がアラブ諸国との関係を大きく損なうこと、④ホルムズ海峡の封鎖は中国との関係も損なうこと、が停戦順守につながりやすいと考えられます。

リバウンド相場はほぼ終了―米国景気指標にさらに注目

S&P500種指数は史上最高値に迫りました。これにより、4月初旬にボトムをつけた株価のリバウンド局面はほぼ終了したと考えることができるでしょう。今後の米国の株価は、短期的には、景気減速を示唆する指標の発表による「株価押下げ効果」と、①FRBによる利下げ観測の強まり、②早ければ7月中とみられる減税法案の成立による「株価押上げ効果」が綱引きをする形でレンジ相場に入ると考えられます。今後、消費や雇用などの米国のハードデータがこれまで以上に金融市場で注目されるとみられます。

 

停戦合意が米利下げの可能性を高めた

 6月21日(米国時間)の米軍によるイランの核施設に対する軍事攻撃と23日夜(米国時間)にアナウンスされたイラン・イスラエル間の停戦合意は、グローバル金融市場に衝撃をもたらしました。米軍によるイランへの空爆という重大イベントを最初に織り込むことになった23日のアジア市場では、中東地域からの原油供給が不透明になったことに伴って原油価格が急騰する一方、中東地域からの原油輸入依存度が比較的高い国・地域(日本、インド、韓国など)で株価が下落しました。しかし、その後にオープンした米国市場では風向きが変わりました。圧倒的な軍事力を有する米国の参戦で先行きの不確実性が低下するとの見方が強まり、米国の主要株価指数が上昇しました。その後、同日夜(米国時間)にトランプ大統領が両国の停戦合意を発表したことで、翌日(24日)のアジア市場では、原油価格が大幅な下落に転じるとともに、株価が大幅な上昇に転じました。この株価上昇の動きはその後オープンした24日の米国市場にも引き継がれました。

 一連のイベントによって米国などの株価が上昇したことには、3つの背景があったと考えられます。第1は、中東情勢を巡る不透明感の低下です。過去を振り返ってみると、米国が大規模な軍事行動を実施したイベントは、湾岸戦争(1991年)以降、3度ありましたが、そのいずれにおいても米国が軍事行動を起こした直後の金融市場では米国の株価が上昇しました(図表1)。今回は、これらの過去のケースとは異なり、米国が地上軍を投入する可能性が低いため、米軍による空爆当初はイランによる報復措置やホルムズ海峡の封鎖などの可能性が市場で意識されました。しかし、イラン・イスラエルが停戦で合意したことで、先行きについての不透明感が大きく低下し、株価の上昇につながったと考えられます。

(図表1)過去における米国の重大な軍事イベント・開戦直後の金融市場の動き

 株価の上昇につながった第2の要素が、米国景気後退のリスクが大きく低下したことです。米国のインフレ率は追加関税の影響によって7-9月期には比較的大きく上昇し、景気の減速をもたらすとみられていますが、直近で原油価格が既に大きく上昇する中、紛争のエスカレートによって原油価格がさらに上昇すれば、米国のインフレが想定以上に加速し、米国経済が景気後退に陥るというリスクがありました。今回のイラン・イスラエル間の合意によって原油価格が大きく低下したことで、こうしたリスクは大きく低下しました。この点も株価のサポートにつながったとみられます。

 第3に、停戦合意によってFRB(米連邦準備理事会)の利下げのハードルが下がったことも、今回の株価上昇を後押ししたとみられます。先週開催されたFOMC(米連邦公開市場委員会)の記者会見では、パウエルFRB議長は利下げから距離をおいた発言を繰り返しました。直近では米国の景気指標が悪化してきてはいるものの、イラン・イスラエル情勢の影響で原油価格が上昇していたことが、パウエル議長がややタカ派的な態度を維持した一つの理由であったと思われます。しかし、今回の停戦合意によって原油価格は大きく低下したことから、利下げのハードルの一つが下がったと考えられます。私は、パウエル氏が24日の議会証言において、「インフレが抑制されれば、早期に利下げが可能」と、これまでよりも一歩踏み込んだ発言をした背景の一つが、イラン・イスラエルの停戦合意による原油価格の低下であったと考えています。金融市場では、パウエル議長をはじめとするFRB高官の直近での発言を受けて、FRBが利下げに対してより前向きになったとの見方が強まりました。
 

イランに停戦合意の順守を促す4つの要素

 今回の停戦合意によって、グローバル金融市場は安定に向けて大きく前進しました。ここで一つの鍵になるのが、イスラエルとイランの両国が、今後も停戦合意を順守し続けるかどうかという問題です。米国から多大な軍事援助を受けているイスラエルは、イランの核兵器製造能力が大きく低下したこともあって、米国の意向通りに停戦を順守する可能性が高いとみられます。一方、イランについても、次の4つの理由から、停戦を継続させる公算が大きいと見込まれます(図表2)。第1は、米国との圧倒的な軍事力の差です。イランは、米国の意向に反して軍事行動を続ける場合、大きなダメージを受ける可能性が高いと判断するはずです。第2は、戦争の継続は財政悪化を通じてイランの経済面での苦境につながるとみられる点です。戦火の拡大によってイランの原油生産施設が損傷したり、原油輸出が滞れば、現状でも比較的規模が大きいとみられる事実上の財政赤字がさらに拡大し、高インフレの継続によってマクロ経済が不安定化するリスクが高まります。第3は、戦争継続の過程で実施が視野に入るホルムズ海峡の封鎖が、アラブ諸国との関係を大きく損なう点です。ホルムズ海峡の封鎖はサウジアラビアやアラブ首長国連邦からの原油・LNGの輸出を大きく減らすとみられます。ここ数年でこれらの国々との関係の改善を図るイラン政府によって、これは避けたい選択肢です。第4は、ホルムズ海峡の封鎖が、イラン自身からの原油輸出の減少につながるだけではなく、イランにとってのエネルギーの最大の輸出先である中国との関係も損なってしまうとみられる点です

 今後発生する可能性のある偶発的な事件によって停戦合意が維持されなくなるリスクは残るものの、イラン・イスラエル両国にとって、停戦合意の破棄は合理的な選択肢ではなさそうです。

(図表2)イランに停戦継続を促す4つのポイント

リバウンド相場はほぼ終了―米国景気指標にさらに注目

 米国株市場では、S&P500種指数の6月25日の終値が6,092ポイントと、2月19日に記録した終値ベースでの史上最高値(6,144ポイント)にあと僅かに迫るところまでリバウンドしてきました。これにより、4月初旬にトランプ政権が相互関税措置を発表した後にボトムをつけた株価のリバウンド局面はほぼ終了したと考えることができるでしょう。今後の米国の株価は、リバウンドではない、新しい材料に左右されると見込まれます。私は、米国の株価は、短期的には、景気減速を示唆する指標の発表による「株価押下げ効果」と、①FRBによる利下げ観測の強まり、②早ければ7月中とみられる減税法案の成立による「株価押上げ効果」が綱引きをする形でレンジ相場に入ると考えます。その後は、当レポートでのこれまでの見立て通り、10-12月期には、景気指標の底打ち感が出てくることで、株価は上昇基調を強めると予想しています。現在の局面では、米国の景気指標の中でも、ハードデータがより重要であり、景気減速を示すハードデータが株式市場のセンチメントに悪影響を及ぼしやすいと考えられます。今後、消費や雇用などのハードデータがこれまで以上に金融市場で注目されるとみられます。

 

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MC2025-071