FRBはタカ派的利下げ、日銀は予想通り据え置き
要旨
10月FOMC会合:利下げを実施。ただし、コミュニケーションはタカ派的
10月28~29日に開催されたFOMC(米連邦公開市場委員会)会合では、市場予想通り、FF金利の誘導目標が25bp(ベーシスポイント、=0.25%)引き下げられ、3.75~4.00%に設定されました。しかし、パウエル議長の12月FOMCについてのコメントは金融市場にとってはタカ派的サプライズとなりました。
12月FOMC会合に向けての注目ポイント
パウエル氏の記者会見での発言から推測すると、12月会合での投票を左右するポイントはインフレの上振れリスクというよりは雇用の下振れリスクになりそうです。インフレが足元で比較的落ち着いていることで、金融市場では、2025~2026年の景気見通しを上方修正する動きが強まっています。景気が思ったよりも強いのであれば、FRBが利下げによって景気を支える必要性は低いことになります。それでも、私は12月会合での利下げの公算が大きいとみています。
日銀10月会合:市場予想通りに政策金利を据え置き
日本銀行は、10月29~30日に開催された金融政策決定会合において、市場予想通り、政策金利を0.5%で据え置くことを決定しました。①前回の利上げが今年1月に実施されてから既に9カ月が経過していること、②米関税政策による、日本を含むグローバル景気への悪影響が今後拡大しない可能性が高まっていること、をふまえて、私は、12月18~19日に実施される予定の次回日銀会合で政策金利の0.75%への引き上げが実施される可能性が高いとの見方を維持します。
※日米合意による5,500億ドルの対米投資により円安圧力が来年かかる可能性について当初のレポートで触れましたが、その後、外貨準備を活用することが確認できましたので該当部分の見通しについては削除させていただきました。
10月FOMC会合:利下げを実施。ただし、コミュニケーションはタカ派的
10月28~29日に開催されたFOMC(米連邦公開市場委員会)会合では、FF金利の誘導目標が25bp(ベーシスポイント、=0.25%)引き下げられ、3.75~4.00%に設定されました。これは市場予想通りであり、パウエルFRB(米連邦準備理事会)議長は、FOMC会合後の記者会見において、インフレ加速についてのリスクが低下し、労働市場についてのダウンサイドリスクが予想以上に高まったことが背景であると説明しました。
しかし、パウエル議長の12月FOMCについてのコメントは金融市場にとってはタカ派的サプライズとなりました。パウエル氏は12月FOMCでの追加利下げは既定路線とは程遠い状況にあると述べました。その背景としてパウエル議長は、利下げ延期を促す「インフレの上振れリスク」と利下げを促す「雇用の下振れリスク」が共存する中、これらについてのFOMC参加者の見通しやリスク許容度が大きく分かれている点を指摘しました。このパウエル氏のコメントは12月FOMCでの25bpの利下げを織り込んでいた金融市場にとってはタカ派的サプライズとなりました。金利先物市場で織り込まれる12月FOMC会合での利下げ確率は、FOMC公表日前日(28日)の99.9%から、FOMC後の29日には68.9%に低下しました。利下げ期待が低下したことで、米国金融市場では、10年国債金利が28日の3.976%から、29日には4.076%に上昇した一方、29日のFOMC声明文公表前の段階では前日比で上昇していたS&P500種指数は、FOMC会合後には前日比横ばいとなりました。米国金利の上昇を受けて、ドルは主要通貨に対して上昇する展開となっています。
12月FOMC会合に向けての注目ポイント
12月FOMC会合についてFOMC参加者による見方が分かれているのは、今回のFOMC会合での投票が割れていたことからもうかがわれます。今回の会合では、スティーブン・マイラン理事が前回会合に続いて50bpの利下げを主張して反対票を入れた一方、カンザスシティー連銀のシュミット総裁は、政策金利の据え置きを主張し、今回会合で初めて反対票を投じました。パウエル氏の記者会見での発言から推測すると、12月会合での投票を左右するポイントはインフレの上振れリスクというよりは雇用の下振れリスクになりそうです。
インフレの上振れリスクについては、9月の米国CPI(消費者物価指数)統計が予想を下回ったことで、FRBの懸念は低下したようです。追加関税の影響は確かに徐々に顕在化してきているものの、パウエル氏の分析によれば、追加関税の影響を除くコアPCEデフレーターの上昇率は9月段階で2.3~2.4%とみられるとのことで、2%のインフレ目標からそれほど大きく乖離していません。追加関税によるインフレへの追加的押上げ効果は来年の春ごろまでかけて顕在化していくと見込まれるものの、パウエル氏が記者会見で紹介した調査結果によると、その押上げ効果は0.2~0.4ポイント程度にとどまるとのことでした。
問題は雇用の下振れリスクです。パウエル氏によれば、10月に入ってから米国連邦政府の閉鎖が続いていることで労働市場の実態が把握しにくくなっているものの、労働市場が大きく弱まっている兆候はないとのことです。インフレが足元で比較的落ち着いていることで、金融市場では、2025~2026年の景気見通しを上方修正する動きが強まっています。景気が思ったよりも強いのであれば、FRBが利下げによって景気を支える必要性は低いことになります。一方、既に弱めの動きとなっている雇用が想定よりも悪化する場合には、追加利下げによる対応が必要となります。
ところで、足元で政府閉鎖が継続し、連邦政府が集計する経済統計が公表されない状況が続いていますが、その影響は複雑です。パウエル氏は、記者会見において、統計が発表されないことで12月会合での利下げの判断ができない可能性を示唆しました。これは、景気判断が上方修正される中では、景気悪化を示す指標が公表されないと利下げしにくいことを表していると思われます。私自身は、今後民間から公表される景気指標がやや弱めのものになることで、12月の利下げが実施される公算が大きいとみています。米国連邦政府閉鎖の長期化が視野に入る中、12月FOMCでの金利政策判断を決定づけるのはADP雇用統計など民間の景気指標になるとみられ、今後注目したいと思います。
なお、今回のFOMC会合では量的引き締め(QT)政策を12月1日に終了することが決定されました。パウエル議長は、10月14日の講演でQT政策を近く終了する可能性について示唆していたことから、金融市場ではQT政策の停止は既に織り込まれていたと考えられます。
日銀10月会合:市場予想通りに政策金利を据え置き
日本銀行は、10月29~30日に開催された金融政策決定会合において、政策金利を0.5%で据え置くことを決定しました。これは金融市場の想定通りの結果でした。声明文と同時に公表された展望レポートで示された日本経済・インフレ見通しは7月末に公表された前回の展望レポートからほとんど変更されませんでした。日銀の示した見通しでは、2026年度には海外景気の減速による悪影響から日本の景気がいったん減速するものの、その後の海外景気の回復に合わせて2027年度の日本の実質GDP成長率は潜在成長率を上回る1.0%に回復することが示されました(政策委員による予測値の中央値ベース)(図表1)。今後の金融政策については、今回の展望レポ―トでも、レポート中で示された経済・物価見通しが実現すれば、日銀が利上げを実施していく方針があらためて示されました。
①前回の利上げが今年1月に実施されてから既に9カ月が経過していること、②米関税政策による、日本を含むグローバル景気への悪影響が今後拡大しない可能性が高まっていること、をふまえて、私は、12月18~19日に実施される予定の次回日銀会合で政策金利の0.75%への引き上げが実施される可能性が高いとの見方を維持します。直近で誕生した高市政権は、現在のところ、日銀の金融政策についてのコメントを控えていることも日銀による利上げを後押しすると見込まれます。高市政権が日銀への圧力とみられるコメントを控えているのは、長期金利高・円安をもたらすリスクを考慮しているためと推察されます。
MC2025-116