市場見通し

2024年の見通し:日本中小型株式 - 良い風が吹き始めた。これまでとは違う風が。

2024 Investment Outlook:日本中小型株式
2023年の株式相場を振り返る

2023年もわずかとなりましたが、今年の株式市場はどのように映りましたでしょうか?12月に入り、米国ではダウ工業株30種平均が史上最高値を更新したほか、S&P500やナスダック指数も今年の高値を抜いて来ています。翻って日本株も、もたつき感はあるものの、日経平均株価やTOPIX(東証株価指数)は年初来でそれぞれ25%前後の上昇を記録する等、一見すると絶好調な年だったように見えます。

一方で、私共のような中小型成長株投資家にとって、2023年は近年稀に見る厳しい年でした。小型株の株価パフォーマンスは全体として大型株に比べて著しく劣後しましたし、グロース株(成長株)は、バリュー株(割安株)に大きく置いて行かれる展開だったのです。もちろん、このような展開になったのには明確な要因があったのですが、この辺りを考えて行けば2024年の株式市場もおのずと見えて来るのではと考えています。

Russell/Nomura日本株インデックス 対Total Marketインデックス
「2023年の見通し」再検証

昨年この時期に考えた2023年の株式市場見通しは、かなり強気ではありましたが、確度は相応に高いと考えていました。世界各国が続々とコロナ後に移行する中、日本は遅々として進まない状況にはありましたが、さすがに冬が終わる頃には正常化を見据えた動きが出てくるはずで、コロナ後への移行となれば海外と同様に相応のリベンジ消費が期待できると見ておりました。加えて、半導体等の供給制約の解消により生産活動や設備投資もかなりの確率で回復するということが予想出来ました。

つまり、欧米各国が金融引締めにより景気減速に向かう中、日本は独自の要因で上向きの景気サイクルが期待出来たのです。実際は、リベンジ消費や生産活動の回復にとどまらず、人手不足やDX(デジタル・トランスフォーメーション)、GX(グリーン・トランスフォーメーション)あるいは「リショアリング(サプライチェーン等の国内回帰)」等を見据えた設備投資の上振れ、さらにはインバウンドの盛り上がり等も加わり、主要先進国の中で日本は相対的に高水準の経済成長を達成、日本株上昇の大きな原動力となりました。

世界経済の成長率予測 (実質GDP)
2023年の想定外

想定外のこともありました。一つ目は米国景気の堅調持続、根強いインフレ、そして米連邦準備理事会(FRB)による度重なる利上げでした。FRBは22年3月から利上げを開始、これまでに計10回、5%もの大幅な利上げを行っていますが、昨年12月にも利上げを実施し、FF金利の目標レンジを4.25-4.50%に引き上げたところでした。過去に例を見ない引締めペースを受けて、早晩米景気は減速するとの予想が大勢で、中にはリセッション(景気後退)入りを主張する悲観派もいる程でしたが実際はそうなりませんでした。この想定外の米国景気の強さは、大幅な米長期金利の上昇をもたらし、150円台突入という強烈な円安を引き起こしました。米金利上昇は国内長期金利への上昇圧力にもなり、日本株にとっては円安メリットを享受できる輸出関連株、中でも完成車や自動車部品メーカー等に大きな追い風となったほか、金利上昇は銀行や保険株などの金融株を大きく上昇させる原動力となりました。実はこれらは代表的なバリュー銘柄なのです。


想定外の二つ目は、東京証券取引所による「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」による論点整理が、想定以上に「PBR1倍割れの是正」のみに脚光を浴びてしまったという点です。3月末に東証より発表された「資本コストや株価を意識した経営の実現」要請も、あたかもプライム市場の約半数を占めるPBR1倍割れ企業に対してだけ、自社株買いや増配などの施策を促すものとして多くの投資家、企業から受けとめられてしまったのです。この世界的に見ても稀な「証券取引所による上場企業に対する資本収益性向上への圧力」は、多くの海外投資家により賞賛を持って受けとめられ、大量の日本株買い需要を生み出しましたが、一方でPBR1倍割れなどのバリュー株への投資意欲を著しく高める副作用をもたらしたのでした。

東京証券取引所 資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた 対応の要請内容

3番目と4番目の想定外は、著名投資家バフェット氏の来日および5大商社株買い増し発言と、夏場にかけての「OPECプラス」による減産合意を受けた原油価格の急騰です。投資の神様によるお墨付きは、日本株に対する世界中の投資家の注目を集めるきっかけにはなりましたが、『日本の事はよく知らないけどバフェット氏がそう言うなら』的なあまり腰の入っていない「ちょうちん買い」を誘発、「代表的な日本株銘柄群」でもある超大型株の買い需要を生み出しました。また原油価格高騰は、原油価格上昇で恩恵を受ける資源株の上昇をもたらしました。バフェット氏が買った商社株も資源株も代表的なバリュー株だったのです。

東証33業種パフォーマンス 上位10業種  (期間: 1月1日~12月19日)
2024年をどう見るか?

2023年をベースに2024年を考えてみましょう。好調な国内景気は続くと見ています。国内では食品などの財を中心とした値上げが鎮静化する一方、賃金上昇が広がりつつあり、実質賃金は徐々に改善に向かうでしょう。国内の消費は引き続き高水準での動きが期待できると思います。設備投資は、全体として企業収益が好調を維持している一方、人手不足、DX、GXへの対応や、強靭なサプライチェーンの再構築を意図した設備投資は避けて通れないことから、さらに盛り上がる蓋然性が高いと考えています。また、23年は春以降に本格化したインバウンドですが、24年は1年を通して期待できます。中国本土からの訪日人数こそコロナ前を下回っていますが、1人当たりの支出額がコロナ前を上回っていることで24年はさらなる上乗せが期待されています。一方、景気のモメンタムや相対感では注意が必要です。23年は日本の強さが際立ちましたが24年は欧州の底打ち期待等もあり、一人勝ちというわけではありません。国内景気は好調で株式市場のサポート材料となるものの、24年は他にも良いライバルが出てくるといった状況でしょうか。

設備投資
訪日外国人数と消費額

企業業績も同様に全体としては増益基調が続くと見込まれています。ただ、米国を中心に海外の利上げ打ち止めが視野に入ってきたこともあり、金利差から円安がどんどん進む状況にはないことや、生産活動の正常化は進捗すること等から、24年度の企業業績は、23年度の二桁増益から一桁台の増益に減速すると思われます。別の言い方をすれば、増益基調は継続するものの全体の増益率の低下は避けられないことから、成長に対する投資家の評価が高まる可能性や、これまで円安や生産活動正常化等の恩恵を受けてきた一部の外需関連企業にとっては、その追い風がなくなることで真の実力が問われるようになるといった点には注意が必要です。

企業業績

同様のことは金利にも言えるかもしれません。現時点では日銀が目標とする「賃金と物価の好循環」が十分に達成したと言える状況にはありませんが、24年に日銀が金融政策の正常化に踏み出しても不思議ではありません。2007年2月以来の利上げということもあり、実現すれば大きな話題となることは間違いありませんが、仮に日銀が現行のマイナス金利解除に踏み切ったとしても物価情勢を考慮すれば金融環境は十分に緩和的です。一方で、国内景気は好調ですが、金利をどんどん引き上げなければならない程、景気や物価が過熱しているわけでもありません。欧米の金利水準に天井感が出てきていることに加え、国内でも金利が大きく上昇する可能性が低いことを考えると、23年に米金利の上昇や国内金利上昇の可能性を追い風に人気となった企業にとっても風向きが変わる可能性は高いと言えそうです。

米国金利

東証による「資本コストや株価を意識した経営」要請に関しては、24年1月から資本効率改善への取り組みを開示している企業の一覧表の公表が始まります。このことは、全体として上場企業の資本効率改善の動きを加速させることは間違いないと思われるほか、今後は動きが鈍かったPBR1倍を超えている企業へも広がっていくことが予想されます。東証も「要請」は決してPBR1倍割れの企業だけに向けたものではないと明確に述べていることに加え、何より上場企業との対話の担い手である我々機関投資家がそういった対話に日々取り組んでいます。今後はこういった動きがバリュー・グロース銘柄にかかわらず全ての銘柄に広がることでしょう。

最後に『誰が日本株を買うのか?』を考えてみたいと思います。23年日本株の最大の買い手は海外投資家でした。しかし買い越し額はアベノミクスで盛り上がった2013年の約4割程度の約6.1兆円(11月末現在)にすぎません。日本株を取り巻く好環境に加え、依然として多くの海外投資家が日本株をアンダーウエイトしていること等を考慮すれば、さらなる買い増しは十分に期待できると思われます。それ以上に長い視点で期待しているのが個人投資家の動きです。24年1月から始まる新NISAは、非課税保有期間が無制限、年間非課税枠の3倍増、売却による非課税枠の再利用等の利点を有しており、「貯蓄から投資へ」の大きなうねりのきっかけになる可能性は高いと思います。デフレ時代には「キャッシュが王様」でしたがリフレの時代には「キャッシュは悪」です。加えて過去20年ほどの間に株式投資を始めた人ならば、投資経験はそれほど悪いものではないでしょう。米国では58%の世帯で証券口座を保有しているそうですが、日本はわずか10%そこそこに過ぎません。新NISAの誕生とともに証券投資がますます人々の身近なものとなって行くべきだと強く思いますし、期待も込めて切に願うところです。

家計の金融資産構成比
2024年は銘柄選択の巧拙が試される年に

2024年も日本株には良い風が吹くでしょう。景気も企業業績も好調です。でもこれまでとはちょっと違う風となります。為替、金利の風はあまり吹かないでしょうし、PBRが安いだけで人気化する風も収まってくるでしょう。全体として追い風は少し弱くはなりますが、しっかりと業績を伸ばして行ける独自の強みを有する企業、「ちょうちん買い」では見向きもされなかった優良小型株、バリュー株が人気化する中で売り込まれたグロース株等、2024年は投資家による目利き力がより問われる銘柄毎に跛行色が強い相場展開になるでしょう。そんな新しい風が吹き始めた24年の日本株の大海原をしっかりと着実に航海を成し遂げて、来年のこの紙面でその成果をお話しできればと楽しみにしております。

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