欧州バンクローン市場、月次アップデート 2025年4月
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2025年3月の欧州バンクローン市場は、トランプ政権の関税政策でマイナス・リターン
S&P UBS Western European Leveraged Loan Index(以下「S&P UBS WELLI」または「指数」)の2025年3月のトータル・リターンは▲0.51%(価格変動が▲1.12%1、金利収入が+0.61%)となり、年初来のトータル・リターンは+0.99%となりました。
今月は地政学的な問題が市場の注目を集めました。米トランプ政権は、中国、メキシコ、カナダからの輸入品に関税を課すとともに、世界各国にも関税を拡大する計画を発表しましたが、米国の関税方針がさらに先鋭化するとの懸念から世界の金融市場は大きく動揺しました。
同時期に、ドイツは国防とインフラ整備のために1兆ユーロ規模の財政支出を承認しましたが、これは同国が地政学リスクの変化に対応して再軍備を加速することを意味します。多くのエコノミストは、この財政支出によって、同国のGDP成長率は2025年に最大0.8%、2026年に1.5%押し上げられると予測しています。
結果的に米国株式の3月および2025年1-3月期のリターンはマイナスとなりました。S&P500指数の3月の月間リターンは過去2年間で最低となり、2025年1-3月期のリターンは▲4.6%となりました2。一方で欧州株式はプラスのリターンとなり、年初来ではドイツDAX指数が+11.3%、ストックス欧州600指数が+5.2%の上昇となりました3。ユーロ圏の3月のインフレ率は2.2%に低下し、欧州中央銀行(ECB)による今後の追加利下げの支援となりました。金融市場は4月の定例理事会での0.25%の利下げを75%程度織り込んでおり、利下げ後の政策金利は2.25%になります。
かかる環境下、3月の欧州バンクローン市場のトータルリターンは▲0.51%となり、流通市場における指数構成銘柄の平均価格は97.97から96.94に低下しました1。リファイナンスの減速につながることはプラス材料です。
3月の新規発行額は97億ユーロ(Opellaの大型案件を除く)となり、前年同期比で87%増加しましたが、1月の113億ユーロ、2月の137億ユーロを下回りました4。OpellaはCD&Rが主導するサノフィからのカーブアウトを実行するため、74.5億ユーロの資金調達(54.5億ユーロ相当のクロスボーダーローンを含む)を発表しました。今年の欧州最大のLBOと思われますが、アレンジャーが事前プレースメントで対象トランシェの約75%を捌くなど旺盛な需要が見られました。当該ディールは3月下旬から4月上旬にEURIBOR+350bps/99.75ユーロ(SOFR+325bp/99.5ユーロ)で建値されましたが、バンクローン需要の堅調さを示唆する水準であり、大型のローンを好条件で発行することができました。
CLOの新規発行は引き続き堅調で、2025年1-3月期(38件、173億ユーロ)は過去最高の四半期発行額となりましたが、これは市場の予想をかなり超える水準であり、前年同期比で約60%増加しました。しかしながら、3月はリスク資産のボラティリティが上昇したため、新規発行CLOノート(AAA格)のイールドはEURIBOR+116bp程度からEURIBOR+125bps程度にやや上昇しました。その結果、3月のCLO新規発行額は過去最高であった2月の90億ユーロから、52億ユーロに低下しました。
今後M&A案件が急増する可能性は低いため、CLOからのローン需要が新規発行によるローン供給を上回る状況が続くと思われます。また、欧州の堅調な株式市場、各国の政府支出増加、更なる金融緩和などによって今後の成長分野に注目が集まり、バンクローン市場の追い風となると思われます。しかし、地政学リスクや関税をめぐる不確実性の拡大は、今後の市場動向に大きな影響を与えると思われます。

リターン:2025年3月
- 3月のS&P UBS WELLIのセクター別リターンでは、運輸(海運)が+0.28%と最も高いパフォ-マンスとなり、続いて航空宇宙・防衛の+0.16%、メディア・通信(無線通信)の+0.02%となりました1。また、マイナスリターンになったセクターでは、ヘルスケアの▲1.08%が最も低いパフォ-マンスとなり、続いて化学、メディア・通信(ケーブル)の▲1.05%となりました1。
- 3月のS&P UBS WELLIの格付別リターンでは、「BB」格が▲0.28%と最も高く、「B」格が▲0.52%、「CCC」格が最も低い▲1.21%となりました1。プラスリターンとなった格付けはありませんでした。
- 3月末におけるS&P UBS WELLI構成銘柄の平均価格は前月末比で1.03ユーロ下落し、96.94ユーロとなりました1。CS WELLIの3年ディスカウント・マージンは4.94%となり、前月末比で0.32%拡大しました1。
ファンダメンタルズ
- 欧州では、ここ数週間で国防費が大幅増額に転じるという財政支出のパラダイムシフトが起こりました。2月下旬のドイツ総選挙後に、次期連立政権は5000億ユーロのインフラ基金支出や国防費の増額を可能にするために、憲法上の債務ブレーキ(ドイツの均衡予算修正案)の変更を提案しました。さらに欧州連合(EU)レベルでは、欧州委員会が加盟国に対して財政赤字規制を発動することなく、国防費を増額することを可能とする提案を行いました。これを受けてドイツ10年債利回りは1990年の東西ドイツ統一以来で最大となる日次変動を記録し、3月5日だけで約0.3%上昇しました。
- ECBは3月に0.25%の追加利下げを行い、政策金利を2.50%に引き下げました。おそらく今後もECBは利下げを継続すると思われますが、不透明感が高まっているため、4月の定例理事会で利下げが行われるかどうかははっきりしません。例えば、米国の貿易方針は詳細が分からず、不確実性が非常に高くなっています。3月の定例理事会の記者会見の主な内容は、金融政策はデータに基づいて会合ごとに決定するというものでした。
- 3月のユーロ圏総合購買担当者景気指数(PMI)速報値は引き続き堅調な内容でした。米国の関税導入による差し迫った脅威(マイナス面)とドイツの財政拡大による大きな影響(プラス面)がユーロ圏経済に影響を与えています。3月のユーロ圏総合生産PMI速報値は前月比0.2ポイント上昇して50.4(市場予想は50.7)となりました。内訳を見ると、製造業PMI(前月比1.8ポイント上昇して50.7)が上昇に寄与した一方で、サービス業PMIは前月比0.3ポイント低下して50.4となりました。ここ数か月、製造業PMIが回復していることは重要であり、同指数が50以上になることは景気拡大を示唆します。
- 3月のユーロ圏消費者物価指数(速報値)は2.2%となり、2月から0.1%低下しました。また、コア指数は2.4%となり、2月から0.2%低下しました。サービスインフレ率の減速とエネルギー価格の低下が背景です。国別のインフレ率を見ると、ドイツ、フランス、スペインは比較的低かった一方で、イタリアは予想を上回りました。
- 3月末現在、モーニングスター欧州レバレッジドローン指数における過去12カ月のデフォルト率(額面ベース)は0.29%でした5。過去平均は年率2.74%となりました5。
投資機会
資金調達コストの低下はクレジット市場にプラスの影響を与えますが、米国の関税政策は目先の不確実性をもたらします。一方でCLOからのバンクローン需要は引き続き堅調です。全体として、バンクローン市場の需給バランスが良好であることを背景に、バンクローンは低いボラティリティと高いリスク調整後リターン(図表2参照)を引き続き提供することが期待されます。


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