Solution

マネージドボラティリティ戦略 COVID-19後の不確実性への備え

 新型コロナウイルスの債券市場への影響について

はじめに

マーケットは4月以降、V字型の回復軌道を描いていますが、新型コロナウイルスの感染拡大という前例のない要因により始まった下落局面だけに、先行きについては依然波乱含みの展開を懸念されている投資家も多いものと考えられます。本稿ではダウンサイドに備える代表的な戦略の発展の歴史を振り返りながら、インベスコ・インベストメント・ソリューションが提供しているマネージドボラティリティ戦略による危機への備えをご紹介いたします。

強気相場の終焉

2020年は11年続いた史上最長の強気相場が誰もが予期しなかった形で終焉を迎えた年となりました。図1は過去の株式の下落相場と今回の経路を比較したものです。今回の下落相場においてS&P500の最大ドローダウンは33%に達し、その下落の早さは1987年、2008年に匹敵するものとなりました。危機の最中における激しい値動きも今回の下落相場の特徴で、3月16日には12%の下落、3月24日には9%の上昇を1日で記録しています。

4月以降、市場はいったん落ち着きを取り戻しつつあり、S&P500の推移を見るとこれまでの反発はV字シナリオに近い回復を示しています。これは各国の積極的な財政出動に加え、中央銀行による強力な下支えを市場参加者が強く意識した動きと考えられます。

図1: 過去の危機時のドローダウンの比較

一方、マクロ経済指標に目を向けると、実体経済への影響は今後も続くことを示唆しています。4月の米国の失業率は14.7%に跳ね上がっており、今後はさらに上昇し、20%を超えるとの見方も出ています。一般的に米国では完全雇用状態で失業率が4-5%と考えられていることから、現在の水準は景気、物価に対する下押し圧力となるものと考えられます。また、発表済みの米国の第1四半期のGDPは前期比年率で▲4.8%、Blue Chip Economic Indicatorsのコンセンサスマクロ予測によると、第2四半期についてはマイナス成長が30%近くに達するとの予想になっています。今後も景気回復の前提となる医療技術の進歩やニューノーマルの姿に関する不確実性が強く残ることも考えられます。このような環境を踏まえると、V字型回復のシナリオが崩れる展開も視野に入れ、2番底に備えた対応も必要となりうるものと考えられます。

下振れリスクに備える戦略

危機に備える戦略は投資家にとって永遠のテーマかもしれません。前回2008年の世界金融危機(Global Financial Crisis, GFC)時には市場の混乱の中で際立ったパフォーマンスを残したいくつかの戦略が注目を浴び、GFC後に投資家による採用が広がりました。GFC後に最も人気を博したのはマネージドフューチャーズ、あるいはCTAと呼ばれる戦略です。この戦略はトレンド追随型のモデルを使って複数の市場のトレンドを検知し、上昇トレンドにはロングポジション、下落トレンドにはショートポジションを構築し、収益獲得を目指す戦略で、2008年にプラスのリターンを獲得した数少ない戦略の一つとなりました。一方で2008年はCTA以外のヘッジファンド戦略は総じて低調となり、ベータに左右されないというという投資家の期待を裏切る結果となりました。その中では、ヘッジファンドの中で運用されていた一部のテイルヘッジプログラムが注目を集め、GFC後にカーブアウトされたテイルヘッジ戦略として提供されるようになりました。下の表は下振れリスクへの備えとなりうる戦略の選択肢についてまとめたものですが、戦略の評価を行う際には期待される効果とコストのバランスという観点が重要となります。次のページ以降でそれぞれの特徴を見ていきたいと思います。

表1: 下振れリスクに備える主な戦略の比較

マネージドフューチャーズ戦略(CTA)

CTAは様々な市場で繰り返し形成される価格のトレンドを主な収益源泉とする戦略です。なぜトレンドが発生するのか?これには次のようにいくつかの説明があります。

•新たな情報が市場価格に一度には織り込まれず、時間をかけて浸透していく。

•人間が将来に対して線形の期待を形成するバイアスがある。

•自信過剰、スネークバイト効果(過去の記憶により過度に悲観的になる)、群集心理などもトレンドの継続に拍車をかける。

一般的にリターンの自己相関は低いことから、過去の価格推移からトレンドを検知するモメンタムモデルは弱いシグナルとなります。したがって、一つの市場にモメンタムモデルを適用したときのシャープレシオは高くないですが、モメンタムモデルの特徴は広範な市場で有効な点にあります。CTAは典型的には100程度の市場に分散投資することにより、運用効率の向上を図っています。また、CTAはポートフォリオのリスクを一定に保つためにボラティリティコントロールが行われています。あまり注目されることのない特徴ですが、ポジションの分散およびポートフォリオ全体のリスク水準の管理がリスクパリティ戦略が流行するよりも前から同様の手法を用いて行われています。

CTAにはプラスの期待リターンを持ち、しかも危機時のヘッジ効果が期待できるという、他の戦略にない魅力的な特性を持ちますが、一方で経路依存性という弱点があります。すなわちリターンを獲得できるか否かは価格推移の形状に依存し、必然的にトレンドがないボックス相場やトレンドが反転するときには損失が発生します。この経路依存性により、CTAは今年の金融市場の下落局面では期待されたような収益を獲得することはできませんでした(図3)。これは株式相場が2018年後半の一時的な調整後、一貫して上昇トレンドが継続し、今回の危機を前にしてCTAには株式のロングポジションが積み上がっていたためです。危機の最中においてCTAはエネルギーのショートや金利・債券のロングなどからは収益を獲得しましたが、株式のロングポジションからは損失が発生し、リターン獲得の足かせになったものと考えられます。このようにCTAのヘッジ効果については経路に依存し、いつも期待できるものではない点に留意する必要があります。

図2: CTAインデックスのパフォーマンス

テイルヘッジ戦略

一方、市場が大幅に下落する局面において、テイルヘッジ戦略にはより確実性の高いヘッジ効果が期待できます。これはボラティリティとリターンの非対称な関係、すなわちボラティリティは市場価格が上昇するときよりも下落するときに高まる特徴があるためです。このような非対称性が存在する理由としては主に次のような理由が学術研究では指摘されています。

•レバレッジ効果…株価の下落は負債比率の上昇を意味し、株式の保有者のリターンの変動性が高まる。

•リスクプレミアム効果…リスク回避的な投資家がボラティリティ上昇というニュースにより株式に対する需要が減退する。

ボラティリティの上昇を収益化するためにテイルヘッジ戦略ではVIX先物/オプションやバリアンススワップを使ったボラティリティのロングポジションやCDSを使ったクレジットのショートポジションが構築されます。これによりより確実なヘッジ効果が期待される反面、最大の難点は期待リターンが一般的にマイナスである点です。これはボラティリティの期間構造が一般的に右肩上がりであることから、ボラティリティのロングポジションはネガティブ・キャリーとなるためです。このネガティブキャリーを抑制するためにヘッジファンド型の運用ではより長期のボラティリティをロングする、割高なクレジットをショートするなど、アルファにより損失を抑制する工夫が行われています。近年ではVIX指数をロングするETFが開発され、低コストでテイルヘッジ戦略にアクセスすることが可能となりました。しかしこれらのETFはヘッジファンド型の運用と異なり、一般的にアルファの要素を持ちません。長期で買い持ちを続けるとネガティブキャリーによる損失が大きくなり、投資家側に機動的にトレードを行うノウハウが求められます(図4)。

図3: テイルヘッジ戦略のパフォーマンス

マネージドボラティリティ戦略

マネージドボラティリティ戦略はここまでご説明してきたCTA、テイルヘッジ戦略の投資手法の中から、な市場局面を経験し、有効性が試されてきた確実性の高い要素を抽出し、低コストでロングオンリーの株式やマルチアセットの運用に活用しているものと捉えることが可能です。すなわち、テイルヘッジ戦略の前提となっているボラティリティとリターンの非対称性、そしてCTAのボラティリティ・コントロールの前提となっているボラティリティの予測可能性がマネージドボラティリティ戦略の根幹を成しています。

ボラティリティとリターンの非対称な関係は下の図で確認できます。ここではVIX指数の水準が上位10%の「高ボラティリティ期間と」それ以外の「平常時」に分け、それぞれ期間におけるS&P500とMSCI Worldの平均リターンと最大ドローダウンを見ています。結果は平均リターンは高ボラティリティ期間ではマイナス、最大ドローダウンも約12%に達しています。

マネージドボラティリティ戦略ではこのようなボラティリティとリターンの関係を利用し、あらかじめポートフォリオに応じて適切なボラティリティの上限を定め、推計されたボラティリティがこの上限を上回った場合に先物等によるエクスポージャーの機動的な調整を行います。これにより長期的に株式、マルチアセットなどリスクプレミアムを一部享受しながら、市場の大きな調整局面における損失抑制を図ります。

図4: 高ボラティリティ期間と平常時の比較

ボラティリティのモデリング

効率的にポートフォリオのボラティリティを管理するにはボラティリティの予測が必要となります。ボラティリティには予測を可能にする次の2つの特性があります。

•持続性…「ボラティリティ・クラスタリング(volatility clustering)」と呼ばれる、ボラティリティの時系列が自己相関を示し、ボラティリティが高まる時期が集中する性質を持つ。

•平均回帰性…ボラティリティは一時的なショックによりジャンプしても、その後時間の経過ととともに長期の平均的な水準に回帰する傾向が見られる。

これらはリターンを対象とする時系列分析では顕著には現れない特徴であり、そのため一般的にボラティリティの予測可能性はリターンよりも高いと考えられています。マネージドボラティリティ戦略ではこれらの特徴を取り込んでモデル化し、ボラティリティの予測を行っています。近年のボラティリティのモデリングは進化を続け、日次よりも頻度の高い日中データを用いるなど、より速いシグナルを追求する方向に傾倒する傾向が見られます。このような手法はより早くボラティリティの変化を捕捉する可能性がある一方、ノイズをモデルに取り込んでしまう可能性も高くなります。そのためIISではモデル開発において、こうした最新の動向を踏まえつつも、より安定的なシグナルを捉えるアプローチを採用しています。

マネージドボラティリティ戦略のメリット、デメリット

危機への備えは基本的に保険的な性格を持つことから、より確実なヘッジを求めればヘッジに掛かるコストは当然高くなります。したがって、下振れリスクに備える戦略の評価を行う場合には期待される効果とコストのバランスが重要となります。マネージドボラティリティ戦略にもメリットとデメリットがあります。機関投資家の観点からの最大のメリットとしては、プラスの期待リターンを持ちながら、想定外の損失の可能性が低減されていることです。これによりロスカットに抵触する可能性を低減し、大幅な下落局面においても投資を継続することが可能となります。一方でデメリットとしては、ボラティリティの水準に応じてヘッジを行うことでアップサイドの一部は放棄する必要があります。

表2: マネージドボラティリティ戦略のメリット、デメリット
図5: マネージドボラティリティ戦略のパフォーマンス
当運用に関する投資リスク
当運用に関する投資リスク
当運用に関する投資リスク

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