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株式セクターの循環性計測:ファクター・ベースのアプローチ

株式セクターの循環性計測:ファクター・ベースのアプローチ
主な調査結果


■株式セクターの経済サイクルの変化に対する感応度は、各セクターのファンダメンタル・ファクターへのエクスポージャーが変化するのに伴って、時間の経過と共に変化します。

■セクターの分類にファクターの循環性を活用することで、一般に使用されている固定的なセクター分類と比べて、各セクターの経済的なエクスポージャーをよりダイナミックに定量化することが可能となります。

■こうしたファクター・ベースのセクター分類を用いることで、伝統的なセクター・ローテーション戦略の超過収益を改善できる他、セクター分類を固定した戦略との比較でも良好なパフォーマンスを獲得できることを検証しました。

 

要約

株式のセクター分類は、しばしば固定したものとして扱われています。その結果として、セクターのファンダメンタルズ特性が時間の経過とともにダイナミックに変化することが見落とされることがあります。本稿では、株式ファクターの循環性に関するリサーチを活用して、セクター分類の新たなシンプルかつ実用的な方法を提案します。これはシクリカルなマルチ・ファクター・ポートフォリオに対する各セクターの感応度を推計し、セクターをシクリカル、またはディフェンシブ・セクターへと分類する方法です。私達の検証では、セクターの一部は一貫してシクリカル、またはディフェンシブな特性を持つ一方、多くのセクターでは時間の経過と共にその特性が大きく変わることが分かりました。また、経済サイクルの局面予測モデルを用いて、このファクターを元にしたセクター分類によるセクター・ローテーション戦略の検証を行い、従来の固定されたセクター分類を活用した場合に比べて、良好なパフォーマンスを獲得できる可能性があることを確認しました。今回のリサーチ結果は、ファクター投資のパラダイムと一致しており、ファクターはポートフォリオのリスクとパフォーマンスの重要な推進力であり、ETF等伝統的な資産クラスは意図されたファクターとマクロのエクスポージャーを取る上での実装手段と見なすことができることを確認しました。

 


 ファクターを活用したモデルは、1993年のFama and Frenchによる論文発表以来、学会では継続して研究され、その後もShapeによるCAPMモデル(1964)、サイズ、バリューのプレミアム効果を追加した3ファクター・モデルへと発展しました。それ以来、資産運用業界は急速に変化を遂げ、学術界、投資プロフェッショナルの双方で、定量的な銘柄特性、ファクターが長期的なリスク・プレミアムに関係し、クロス・セクションでの株式リターンの変動を説明することが示されてきました(例:Carhart  1997, Fama and French 2015, 2018, Frazzini and Pedersen 2014)。こうした新たなファクター投資のパラダイムは、ファクターがポートフォリオのリスク、パフォーマンスへの重要なドライバーであり、国、セクター、産業の分類よりも関連性が高いとの明確な認識に基づくものです。このため、ファクターはアセット・アロケーションの決定に影響を与えるべきものと考えられます。実際にファクター投資を導入し、意図的にマクロ・エクスポージャーを取る上のツールとしては、ETF等伝統的な資産クラスのバスケットが考えられます(コンセプト、実証事例はMelas 2022、Swade et al 2022を参照) 。

 ファクター投資が台頭する一方で、セクター・ベースの投資は運用業界で最も歴史があり人気のある手法の一つです。金融のニュース・フローは今なおセクター、産業に関するストーリーで占められており、銀行やアセット・マネジャーの投資リサーチ機能は主にセクター別に組織化されています。これは、セクターが同業他社との比較において、個々の企業のパフォーマンスを評価するための合理的なベンチマークとみなされているためです。1990年代後半から、クロス・セクションでポートフォリオのリターンを分析すると、グローバルのセクターや産業別配分は、国別配分よりも大きな効果があるとのリサーチが発表されました(Held 2009, Cavaglia et al 2000, Cavaglia and Moroz 2002)。その後も、戦略的、戦術的セクター・ローテーション・ストラテジーのメリットとしてモメンタム効果(Doeswijk and Van Vliet 2011)、バリュエーション効果(Bunn et al 2014)、マクロ・ファクターの影響(Chong and Phillips 2015, Canover et al 2008)についてフォーカスした研究が多く行われ、発表されました。ファクター投資の研究が進む中で、セクター間でリターンが大きく異なるのは、経済サイクルへの感応度の違いが反映されているとの理解されてきた一方、各セクターがシクリカル・セクターなのかディフェンシブ・セクターなのかを判断する基準として、広く適用されているものはないと言えるかと思います。インデックス及びリサーチ・プロバイダーは、セクターの循環性について異なる視点を提供していますが、セクター分類を長期に渡って固定化する傾向にあります。セクター、産業はリスク・ファクターでありリターン・ファクターではないとの前提では、こうした違いは正当化できると言えますが、この場合、投資家は銘柄のセクター分類によって、市場対比での長期のリスク・プレミアムを期待すべきものではないと言えるでしょう。

 本稿では、ファクター・アロケーションのフレームワークを用いることで、セクターの経済サイクルに対する感応度を明らかにできることを示します。また、ファクターの循環性を活用することで、シクリカル、ディフェンシブに固定したセクター分類と比較して、よりダイナミックにセクターの動きを捉えられることを明らかにします。本稿の貢献は、セクター、ファクター投資における以下の2点です 1 。一つ目は、セクターをシクリカルまたはディフェンシブにダイナミックに分類するシンプル、かつ実用的な方法の提案です。アクセス可能なファクター指数を利用して、シクリカルなマルチ・ファクター・ポートフォリオに対する感応度を予測します。二つ目は、ダイナミック・ファクター・ローテーション、タクティカル・アセット・アロケーション戦略の開発で用いた伝統的なマクロ・レジーム・フレームワークが、同様にセクター・ローテーション戦略でも、インデックス・ファンドやETF等のアクセス容易なツールで、時価総額ウェイトのセクター指数を用いることにより導入可能であることを紹介します。

 本稿の構成は以下の通りです。セクションⅠでは、本研究を行う動機について概要を説明します。資産運用業界内で用いられているセクター分類方法の事例を示す他、ファクターの循環性についての簡単なレビューを行います。セクションⅡでは、新たなセクター分類の方法とデータを紹介します。セクションⅢでは、新たなセクター分類を用いたシミュレーションを示し、セクションⅣでは、実際の投資への適用方法を紹介します。最後のセクションでは、本稿のまとめと共に考察と今後のリサーチ課題に触れます。

 

Ⅰ. 本調査の動機

 インデックス及びリサーチプロバイダーは、異なる定量及び定性分析により、セクターの循環性について異なる結論を導いています。例として、図表1ではMSCIとモーニングスターによる経済的な感応度別のセクター分類を掲載しています。MSCIは大きくシクリカル、ディフェンシブの2つにセクター分類している一方、モーニングスターはシクリカルとディフェンシブの間にセンシティブを入れた3つに分類しています。両社のセクター分類方法では、経済的な分類は構造的なものであり、各分類の公表以来、固定されています 2

図表 1: 経済感応度によるセクター分類の例

 両社間ではいくつかのセクターで分類に違いがあり、MSCIで資本財、情報テクノロジー、通信サービスがシクリカル・セクターに定義されるのに対して、モーニングスターではセンシティブに分類されています。また、エネルギーセクターはMSCIではディフェンシブに分類される一方、モーニングスターではセンシティブに分類されています。

 こうしたセクターの循環性の違いは、ファクター・アロケーションのフレームワークを用いることで解明することができます。バリュー、サイズ、クオリティ、低ボラティリティのファンダメンタルズ・ファクター、及びモメンタム・ファクターは、個別銘柄の定量的な特性をより正確に表しており、長期のプレミアムに関連しています。学術界及び資産運用業界からは株式ファクターの循環性について各種論文が発表されており、株式ファクターの循環性はキャッシュフローに関する累積ニュースに対するファクターの感応度という文脈で説明されています。Campbell and Vuolteenaho (2004), Campbell, Polk and Vuolteenaho (2010) and Campbell et al (2018)は、ファクター毎に収益率や営業レバレッジのようなファンダメンタルズ特性にリンクするキャッシュフロー情報へのエクスポージャーが異なることを示しました。Polk, Haghbin and de Longis (2020)は、バリュー、小型ファクターは相対的キャッシュフロー・ベータが大きいことから循環的である一方、低ボラティリティ、クオリティ・ファクターは相対的にキャッシュフロー・ベータが小さいことから、ディフェンシブな性質を持つことを証明しました 3 。こうした経済的な感応度の違いは、統計的に有意である他、より重要な点として単純に市場ベータの違いを反映したものではないということを示しました 4

 

Ⅱ. 分析手法及びデータ

 本稿では、Polk, Haghbin and de Longis (2020)の論文を元に、各セクターの循環性をセクターのシクリカル・ファクター・ポートフォリオ (Cyclical Factor Portfolio、以下“CFP”)に対する感応度と定義します。このファクター・ポートフォリオは、シクリカル、高キャッシュフロー・ベータのファクターであるバリュー、サイズをロングとする一方、ディフェンシブ、低キャッシュフロー・ベータのファクターであるクオリティ、低ボラティリティをショートとして構築します。そして、S&P 500 GICS®の各セクター毎に、10年ローリングでの単回帰分析を行います。

𝑆𝑡 = 𝛼 + 𝛽 ∗ 𝐶𝐹𝑃𝑡 + 𝜀𝑡

ここで𝑆𝑡 は、時価総額指数(S&P500)に対するGICS®セクターの超過リターン、𝐶𝐹𝑃𝑡 はシクリカル・ファクター・ポートフォリオのリターン(バリュー及びサイズ・ポートフォリオと、低ボラティリティ及び&クオリティ・ポートフォリオのリターンの差)、𝜀𝑡は誤差項です。図表2の通り、感応度と有意性に基づいて、月次でセクターをシクリカル、ディフェンシブ、ニュートラルに分類します。

図表 2 ファクターベースの経済的セクター分類


 従属変数𝑆𝑡は、S&P500とS&P500 GICS® セクターの月次リターンを使用して算出します(データはBloomberg、1989年9月-2022年7月の期間)。シクリカル・ファクター・ポートフォリオ𝐶𝐹𝑃𝑡は、FTSE Russellのマルチ・ファクター指数を用いて組成します。同マルチ・ファクター指数は、標準的なFTSE Russell ティルト‐ティルト手法を使って組成されています。FTSE Russell ティルト‐ティルト手法は、個別銘柄の構成比率を当初の時価総額構成比率にファクター・スコアを掛けて個別銘柄の構成比率を再構成し直すことで、意図したファクター・エクスポージャーを持つポートフォリオを構築するというものです(FTSE Russell 2017年)。図表3の通り、シクリカルな“バリュー & サイズ”ポートフォリオと、ディフェンシブな“クオリティ & 低ボラティリティ” ポートフォリオは、FTSE Russell マルチ・ファクター指数です。ここでのティルト“2”は、個別銘柄の時価総額比率にファクター・スコアを2回掛けることを意味しています。ティルト“0”はファクター・スコアによるティルトを行わないことを意味します 5 。参考に、ファクター・スコアによるティルトを行わないRussell 1000指数(ティルト“0”)、個別ファクターに固定的に均等にティルトするマルチ・ファクターの指数であるRussell 1000コンプリヘンシブ・ファクター指数も掲載しています。

図表 3 FTSE Russell マルチ・ファクター指数

Ⅲ. 検証結果

 図表4–パネル A、B–では、ファクターベースでのセクター分類の検証結果を示しています 6 。S&P500指数のシクリカル/ディフェンシブ構成は過去30年間で大きく変動しました。シクリカル・セクターは、2014年に最大でS&P500指数における構成比が61%となった一方、2020年はわずか22%でした。一方、ディフェンシブ・セクターは2008年にS&P指数においてわずか14%の構成であったものの、2020-2022年の間は60%超となりました。個別のGICS®セクター・レベルでは、多くのセクターで循環性が時変である一方、いくつかのセクターでは経済感応度が安定していることが確認されました。金融、資本財、素材セクターは、全期間でシクリカル・セクターとなる一方、ヘルスケア・セクターは全期間でディフェンシブ・セクターでした。一般消費財・サービスセクターは、サンプル期間中90%でシクリカル・セクターでした。これらセクターの分類結果はMSCIのセクター分類と同じであり、モーニングスター分類とも資本財を除いて同様でした。

図表 4A 経済セクター分類によるS&P500時価総額配分
図表 4B セクター別ファクターベース分類の頻度


 一方、他のセクターの結果は注目に値します。公益セクター、生活必需品セクターは通常ディフェンシブ・セクターと見なされますが、私共の定義では、期間中60-70%のみでディフェンシブに分類され、公益については、サンプル期間の30%でシクリカル・セクターに分類されました。不動産は一般的にはシクリカルと分類されますが、本分析では、50%の期間でのみシクリカルとなり、14%はディフェンシブでした。

通信サービスセクターは、ほぼ全期間でディフェンシブとなりました。MSCI、モーニングスターでは、それぞれ、シクリカル、センシティブに分類されているため、明確な違いが示されました。エネルギーセクターは、MSCIでディフェンシブに分類されていますが、私共の分析では、40%超の期間でシクリカル、16%のみディフェンシブ、それ以外の期間はニュートラルでした。情報テクノロジーは、MSCIでシクリカル・セクターですが、本分析ではシクリカルとなったのは30%未満、11%がディフェンシブとなり、過去30年間のうち約62%では統計的に有意と言えるシクリカル・エクスポージャーは示されませんでした。エネルギー、情報テクノロジーについては、モーニングスターでのセンシティブへの分類と相対的に関連性が高い結果となりました。

 図表5では、セクターの循環性が時変であることが示されています。個別セクターのシクリカル・ファクター・ポートフォリオに対するベータが統計的に有意性が低い期間については色付けしています。このセクターの分類と過去30年間における市場環境を結び付けて見ると、いくつかの期間で興味深い分析が可能です。エネルギーセクターでは、2000年ー2007年の期間で明確な循環性が見られました。この期間はコモディティーのスーパー・サイクルと重なっています。2010年ー2013年の間、短期的にディフェンシブな特性に転じ、2019年ー2022年の期間は、全期間で最も高いシクリカルな特性に戻りました。情報テクノロジーは全期間の約60%でニュートラルに分類されました。これは1999年ー2001年の“ドット.コム”バブルと崩壊の期間も含まれています。2010年ー2013年の期間、シクリカルな特性となり、世界的なCOVID拡大に伴うロックダウンを受けて、テクノロジー・サービスが“ステイホーム”へのソリューションとなった2020年ー2022年は、ディフェンシブ・セクターに転じました。対照的に、資本財や素材などのセクターは、過去30年間、構造的に高い営業レバレッジを持つファンダメンタルズの特徴と一致して、安定してシクリカルな特性を示しています。

 前述したファクター・ベースのダイナミックなセクター分類を活用して、時価総額ウェイトでシクリカル及びディフェンシブなセクター・バスケットを構築し、異なる成長環境下で、2つのバスケットのリターン差を検証しました。検証においては、マクロ・レジーム毎の株式ファクター、株式、クレジット、ターム・プレミアムのパフォーマンス差を論じたde Longis and Ellis (2023) and Polk, Haghbin, and de Longis (2020)によるマクロ・レジーム・フレームワークを活用しました。このフレームワークでは、先行経済指数と、グローバルでのリスク選好から米国経済のビジネス・サイクルの局面を認識します。図表6–パネル A、B–では、各時点で取得可能な情報を用いて月次リバランスを行ったシクリカル・バスケットとディフェンシブ・バスケットの相対パフォーマンス、及び各バスケットの時価総額指数比での相対パフォーマンスを示しています。説明を簡潔するため、レジームについては成長加速局面(回復、拡大)、成長減速局面(減速、後退)の2つに分類しました。

 検証結果は予想通りとなりました。シクリカル・バスケットは成長加速局面でディフェンシブ・バスケットを7.72%アウトパフォームし、統計的に高い有意性を伴って、高水準のインフォメーションレシオ(0.64)を獲得しました。逆に、シクリカル・バスケットは成長減速局面に、90%の信頼区間での統計的有意性はわずかに未達となったものの、年率超過収益率は-5.07%、インフォメーション・レシオは-0.42となり、ディフェンシブ・バスケットをアンダーパフォームする傾向にありました。

 一方、時価総額指数比では、ディフェンシブ・バスケットが成長加速局面にアンダーパフォーム(-4.91%)、成長減速局面にアウトパフォーム(+4.22%)する結果となり、両レジームで予想通り統計的に有意な超過リターンを示しました。シクリカル・バスケットの超過収益については、方向性は両局面で一貫しているものの、統計的には有意ではありませんでした。ディフェンシブ・バスケットの市場対比でのトラッキング・エラー(8%:超過収益のボラティリティ)は、シクリカル・バスケット(6.5%)比で高い結果となりました。以上のハイレベルの分析結果から、2つのバスケット間のパフォーマンス差は、経済的な直感と方向性は一致していることが確認されました。

図表 5 個別セクターのファクターベース経済分類(5.1 一般消費財・サービス)
図表 5 個別セクターのファクターベース経済分類(5.2 生活必需品/5.3 エネルギー)
図表 5 個別セクターのファクターベース経済分類(5.4 情報テクノロジー/5.5 資本財)
図表 5 個別セクターのファクターベース経済分類(5.6 金融/5.7 ヘルスケア)
図表 5 個別セクターのファクターベース経済分類(5.8 素材/5.9 不動産)
図表 5 個別セクターのファクターベース経済分類(5.10 通信サービス/5.11 公益)
図表 6A シクリカル、ディフェンシブ・バスケットの成長局面別相対パフォーマンス
図表 6B シクリカル-ディフェンシブ指数と成長レジーム


 次に、より詳細な分析としてファクター・ベースのシクリカル/ディフェンシブ分類、マクロ・レジーム予想に基づき、個別GICS®セクターの相対パフォーマンスを検証しました。

 セクター𝑆𝑖がt期に“シクリカル”と分類された場合、マクロ・レジームが成長加速局面(成長減速局面)と判断される局面において、同セクターをディフェンシブ・バスケット比でロング(ショート)とします。逆に、セクター𝑆𝑖 がt時点で”ディフェンシブ”に分類された場合、成長減速局面では同セクターをシクリカル・バスケット比で、ロング(ショート)とします(図表7参照)。

図表 7 成長局面を条件としたセクター・ローテーション戦略


 図表8ではファクター・ベースのセクター分類を用いることによるセクター別のパフォーマンス結果を、図表2のMSCI分類とした場合と比較して掲載しています。ダイナミックなファクター・ベースのモデルでは、全サンプル期間ベースで11セクター中10セクターでプラスの超過収益を獲得する結果となりました。うち7セクター(64%)で統計的に有意であることが確認されました。11セクター中、唯一エネルギーセクターがマイナスの超過収益となりましたが、統計的に有意な結果ではありませんでした。また、サンプル期間を成長加速局面、成長減速局面のサブ・サンプル期間に分けると、成長加速局面では全11セクターがプラスの超過収益を示し、成長減速局面では11セクター中9セクターがプラスの超過収益を獲得しました。サブ・サンプル期間での統計的有意性は、観測値数が少ないために低下しました。

 ファクター・ベースの分類がMSCI等の固定的な分類と100%同じであった金融、ヘルスケア、資本財、素材セクターは、全サンプル期間、2つの成長レジーム共、プラスの超過収益を獲得しました。固定的な分類と92%同じ分類であった一般消費財・サービスも、これらセクターと同様の結果となりました。分析結果は素材セクターを除き、統計的に有意でした。この分析でも最も興味深い結果となったのは、ファクター・ベースの分類がMSCI等の固定的な分類と有意に異なった(図表4参照)通信サービス、情報テクノロジー、生活必需品セクターでした。3セクター全てで統計的な有意性が確認され、成長加速局面、減速局面の両期間でプラスのリターンが示されました。

 さらに、固定的なセクター分類の超過収益(参照:図表8、パネルB)を上回るパフォーマンスとなり、ファクター・ベースのダイナミックなセクター分類による追加的な付加価値が確認されました。注目すべきは通信サービスセクターです。本分析では同セクターを観測期間の99%でディフェンシブと見なした結果、統計的に有意であると共に年率換算で7.17%の超過収益を獲得しました。固定的に“シクリカル”に分類した場合にマイナスの超過収益となったのと大きく異なる結果となりました。生活必需品セクターは、固定の”ディフェンシブ”分類で+5%の年換算超過収益となった一方、ダイナミック・ファクター・ベースは統計的な有意性をもって+9.4%の超過収益獲得となりました。このダイナミック・ファクター・ベースでのアウトパフォームは、成長加速局面、減速局面の両レジームで確認されたことから、同セクターがニュートラルに分類された30%の観測期間での有効性も確認されました。情報テクノロジーセクターでは、固定の“シクリカル”分類は全サンプル期間で+7.65%の超過収益であったのに対し、ダイナミック・ファクター・ベースは同セクターがシクリカル、もしくはディフェンシブに分類された38%の期間で統計的有意性をもって+10.61%となりました。ダイナミック・ファクター・ベースの方が相対的にアウトパフォームしたことで、ニュートラルと分類された62%の観測期間では同セクターのシクリカル性はたかくなか低かったことも確認されました。不動産セクターは固定戦略同様、結果はポジティブであったものの統計的に有意性は低いものでした。最後に、エネルギー及び公益セクターでは、ファクター・ベースが固定分類のパフォーマンスを下回る結果となりました。エネルギーセクターでは、各期間で固定の”ディフェンシブ”分類はプラスであるものの、有意性は低い結果となった一方、ダイナミック分類では期間全体のリターンがマイナスとなりました。公益セクターでは、ダイナミック分類はわずかにプラスであったものの統計的には有意でありませんでした。+7.71%の有意なプラスリターンとなった固定的な”ディフェンシブ”分類と比較して、アンダーパフォームとなりました。

図表 8A ファクター・ベースの経済分類によるセクター・ローテーション戦略
図表 8B 固定的経済分類によるセクター・ローテーション戦略

Ⅳ. 適用事例: セクター・ローテーション戦略

 ここまでの概ね肯定的な結果を基に、流動性が高く費用対効果の高いセクターETFまたはインデックス・ファンドを使って、個人投資家と機関投資家の両方が簡単に実装できるシンプルで実用的なセクター・ローテーション戦略について説明します。

 この戦略では、各セクターのシクリカルな特性に基づいて、各マクロ・レジームでアウトパフォームすると予想されるセクターにポートフォリオを再配分することで、時価総額指数をアウトパフォームすることを目指します。この戦略を実装するには、様々なリスク・バジェットやポートフォリオ構築のルールが考えられますが、本稿では、実装に関する詳細な分析を対象としないことから、説明をシンプルかつ実用的にしポートフォリオ構築手法による偏りをなくすため、シンプルにトラッキング・エラーのリスク・バジェットのみを設定したルールとしました。具体的には、月次ベースで予想成長レジームに基づき、アンダーパフォームが予想されるセクターのバスケットを売る一方、その資金でアウトパフォームが予想されるセクターのバスケットでオーバーウェイトのエクスポージャーをとります。トラッキング・エラーは過去3年のトレイリング・ベースで2%になるようポジション・サイズを調整します。単純化のために、シクリカル、ディフェンシブの各バスケット内では、各セクターは時価総額比率でウェイト付けします。このため、各セクターで予想される循環性の度合いによる影響は無関係です 7 。最後に、ニュートラルと判断されたセクターは時価総額ウェイトとし、ベンチマーク比でニュートラルとします。

 図表9、10は上記のシミュレーションを時価総額指数と固定的分類と比較した結果です。ファクター・ベースのセクター・ローテーション戦略は約1.32%の良好な超過収益の他、統計的に有意なインフォメーション・レシオ0.58を獲得しています。シクリカル、ディフェンシブのエクスポージャーを変化させるものの、サンプル期間全体で見ると、ベンチマーク比で高いリスクをとることにより超過収益を得るものではありません。予想される通り、戦略のボラティリティは、戦略をシクリカル・ポジションにする成長加速局面にベンチマークのボラティリティより高くなります(14.10% vs. 13.12%)。一方、ディフェンシブ・ポジションとする減速局面にはベンチマークより低いボラティリティとなりました(15.75% vs. 16.93%)。超過収益の分布も歪度0.94とポジティブな結果となりました。固定分類と比較して、インフォメーション・レシオが0.47から0.58に改善しました。このインフォメーション・レシオの改善は、成長減速局面に明らかとなり0.38から統計的に有意な0.56に、超過収益の歪度も-0.08から0.82へと改善しました。モデルの頑強さを確認するため、同様にグローバル株式セクターについても、グローバル・シクリカル・ファクター・ポートフォリオに対して回帰分析を行い検証しましたが、本編の米国株式版と類似の結果となりました。(付録参照)

図表 9 米国セクター・ローテーション戦略例
図表 10 米国セクター・ローテーション戦略
Ⅴ. 結論

 ファクター投資は、ファクターがポートフォリオのリスク、パフォーマンスにとっての重要なドライバーであり、ファクターは国、セクター、産業の分類より、個別銘柄の特性をより表すとの明確な認識に基づく投資です。ファクターの循環性を利用することで、伝統的資産のファンダメンタルズの特性を解明することができ、また、時価総額加重での資産クラス、セクターの資産配分の決定にも役立てることができます。

 本稿では、セクターをシクリカルまたはディフェンシブに分類するシンプルかつ実用的な方法を提案しました。セクターのシクリカルなマルチ・ファクター・ポートフォリオへの感応度を予測し、セクター、産業固有の時間変動するファンダメンタルズを捉える、よりダイナミックなセクター分類プロセスを紹介しました。私たちは、このファクター・ベースのセクター分類の効果を示しました。セクター・ローテーション戦略の例で、ヒストリカルでインフォメーション・レシオが0.5-0.6となる魅力的な超過収益を得、固定的なセクター分類をアウトパフォームすることを示しました。

 本稿で提案した事後のリターン・ベースのスタイル分析を補完するため、事前のファクター指標に基づくセクター循環性の分析等を、今後の検討課題と考えています。

 

付録
図表 A1 グローバル・セクター・ローテーション戦略例
図表 A2 グローバル・セクター・ローテーション戦略

 

  1. セクターとファクター間の相互作用に関する直近の研究はVyas and van Baren (2021) and Bessler, Taushanov and Wolff (2021)を参照。
  2. MSCI のシクリカル/ディフェンシブ・セクター指数では、GICS® セクター分類を経済サイクルへの長期ヒストリカルでの相関を元に分類し (MSCI 2009年)、2014年の指数リリース以来分類に変更はありません。モーニングスターは、市場ベータを反映して3つに分類しています。(市場ベータ1超:シクリカル、1未満:ディフェンシブ、1近く:センシティブ、Morningstar 2011年)
  3. 投資家が経済の将来の状態(回復、拡大、減速、後退)に関する洞察を用いて、それぞれのマクロ・レジームでアウトパフォームすると予想されるファクターにポートフォリオのエクスポージャーをティルトする方法を示しています。
  4. モメンタムファクターは、一過性の株価ベースのファクターであり、キャッシュフロー・ニュースへの持続的なエクスポージャーが低いことから、景気拡大局面では、高いキャッシュフロー・ベータ、後退期には低いキャッシュフロー・ベータを示す傾向があります。
  5. Polk, Haghbin, and de Longis (2020) では、シクリカル・ファクター・ポートフォリオ、ディフェンシブ・ファクター・ポートフォリオのキャッシュフロー・ニュースに対する感応度(それぞれ1.09、0.74。分析期間1980年7月-2018年6月。)を計測し統計的に有意であることを確認しています。
  6. 経済セクターの感応度を計測するため、10年ローリング回帰分析を使用しています(1999年9月以来)。当初のサンプル・データは5年回帰分析(1989年9月~1994年9月)を用いています。
  7. セクターの循環性の規模をどのようにポートフォリオ比率に反映していくかは今後のリサーチ課題の一つと考えています。

 

当運用戦略に関する投資リスク
  • 当運用戦略は、国内外の株式等値動きのある有価証券に投資しますので、組入株式の価格の下落や、組入株式の発行者の倒産や財務状況の悪化等の影響により、損失を被ることがあります。また、外貨建の資産は、為替変動による影響も受けます。
  • したがって、投資家の皆様の投資元本は保証されているものではなく、組入れ資産価格の下落により、損失を被り、投資元本を割り込むことがあります。
  • 運用機関の指図に基づく行為により生じた利益および損失はすべて投資家に帰属します。

当運用における主な投資リスクは次の通りです。

株価の変動リスク(価格変動リスク・信用リスク)
株価は、政治・経済情勢、発行企業の業績、市場の需給等を反映して変動し、下落することがあります。また、発行企業が経営不安、倒産等に陥った場合には、投資資金が回収できなくなることもあります。

流動性リスク
流動性や市場性が低い有価証券について、期待される価格や希望する数量を売却できない場合があります。

カントリー・リスク
投資対象国・地域において、政治・経済情勢の急激な変化や新たな取引規制が導入される場合などには、新たな投資や投資資金の回収ができなくなる場合があります。

コール・ローン等の相手先に関する信用リスク
投資財産をコール・ローン等の短期金融商品で運用する場合には、相手先の債務不履行により損失が発生する場合があります。

解約資金手当によるリスク
短期間に相当金額の解約資金の手当てを行うため、市場の規模や動向によっては、市場実勢を押し下げ、当初期待された価格で有価証券を売却できないことがあります。

ベンチマークに係る留意点
当運用戦略は、中長期的にベンチマークを上回る投資成果を得ることを目的としていますが、ベンチマークを上回る投資成果をあげることを保証するものではありません。なお、ベンチマークは今後見直す場合があります。

当運用戦略に関する費用と税金

国内特定(金銭)信託における費用・税金

  • 投資一任契約に係る報酬:投資一任契約に係る報酬は、現時点で決定していないため、表示することができません。
  • 特定(金銭)信託の管理報酬:当該信託口座の受託銀行である信託銀行にお支払いいただく必要があります。具体的料率については信託銀行にご確認下さい。
  • 費用合計額:上記の費用の合計額については、運用状況などによって変動するものであり、事前に料率、上限額などを表示することができません。

費用合計額

  • 上記の費用の合計額については、運用状況などによって変動するものであり、事前に料率、上限額などを表示することができません。

課税について

  • 非課税要件を満たした年金基金のお客様については非課税となります。
    ※外貨建資産への投資によって発生する配当、キャピタルゲインに対して、関係国で課される税金を負担する場合があります。

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