株式分散投資のきっかけが到来したか?
〔要旨〕
- 分散投資の必要性:AI関連銘柄の投資時期が終わったと示唆したいわけではないが、米国市場では、分散投資に適した環境が整いつつあると考えられる
- 相場を動かす材料を求めて:米国株式市場では、何か月もの間、分散投資を検討させるような材料は存在しなかった
- 状況は変化しつつある:成長が改善することとFRBによる金融緩和は、分散投資のきっかけを待っていた投資家にとって重要な展開となり得る
分散投資の必要性が一段と高まる
相場を動かす材料は到来したか?
注目の日程
私たちのような仕事をしていると、人々がポートフォリオについて抱いている最大の懸念事項が何か、耳に入ってきます。最近は、バリュエーションの上昇と、S&P500種指数における特定銘柄への集中が最大の懸念事項となっています1。確かに、AIバブルが間もなく崩壊するのではとの見方が広がっており、そうならなかったとしても、モメンタムの低下が市場全体に重くのしかかる可能性があります。懸念されるのは、いわゆるハイパースケーラー(企業がグローバルなサーバネットワーク上でアプリケーション実行やデータの保存を可能とする、大規模なクラウドコンピューティングサービスやインフラを提供する企業)が牽引する並外れた上昇が、持続不可能になりつつある点です。2
一方で、より健全な米国のマクロ経済環境を背景として、メガキャップ・テクノロジー銘柄以外の市場セクターへの強力な資金シフトが起こり得る可能性については、ほとんど議論されていません。この可能性こそが、私たちの2026年の市場見通し「世界経済の回復力と金融市場のリバランス」の中心テーマです。
分散投資の必要性が一段と高まる
人工知能(AI)関連銘柄の取引において、多くの投資家は、市場の上昇を逃すことを恐れる一方で、保有期間が長くなり過ぎることも心配します。しかし、小型株やバリュー株などバリュエーションが低い銘柄への分散投資や、オルタナティブ的なものへの採用は、ほとんど注目されてきませんでした。何か月もの間、こうした資産へのシフトを引き起こすきっかけは存在しませんでした。世界経済の成長は鈍化しつつあり、インフレ再燃の懸念も残っていました。「解放の日」の余波を受け、関税によるインフレリスクが米連邦準備理事会(FRB)の積極的な政策行動を阻む一方で、不確実性が成長を鈍化させました。投資家は、分散投資が単なる時代遅れの理論に過ぎず、実践的な戦略ではないのではないかという疑念さえ生じていました。
しかし先週の市場動向は、状況が変わりつつあるという私たちの見方を裏付けるものとなりました。先行指標は、世界的に改善傾向を示しました3。 FRBは、成長が回復基調にあることを認め、先週の米連邦公開市場委員会(FOMC)会合では、AIによる生産性向上にも一部助けられる形で、2026年にさらに力強い成長が見込まれるとの見通しが示されました4。 FRBは先週0.25%の利下げを決定し、2026年中に少なくとも更に1回の追加利下げがあり得ることを示唆しました5。私たちは、成長の改善が米国における金利低下と相まって、大型株以外の銘柄も含め、株式にとってより建設的な環境を生み出す可能性が高いと見ています。
相場を動かす材料は到来したか?
12月11日にS&P500種指数が史上最高値を更新したにもかかわらず、メガキャップ・テクノロジー銘柄の取引は勢いを失っています6。例えば先週、オラクルは予想を下回る決算を受けて売られ、設備投資資金調達のための債務拡大への懸念が高まりました7。重要なのは、他のハイパースケーラーの多くは、債務比率がはるかに低いという点です8。私たちは、AI関連銘柄の投資時期が終わったと言いたいわけではありません。むしろ、さらなる分散化に適した環境が整いつつあると考えられます。繰り返しとなりますが、S&P 500種指数は今週史上最高値を更新しています。これは、マグニフィセント・セブンのうち5社(アップル、アマゾン、メタ、マイクロソフト、テスラ)が、今年市場平均を下回るパフォーマンスを示しているという事実にもかかわらずです9。ラッセル2000種指数、S&P 500均等ウェイト指数といった小型株指数も先週、過去最高値で取引を終えました10。
まとめると、成長の改善とFRBによる金融緩和は重要な進展だということです。メガキャップ・テクノロジー銘柄以外の投資対象を探す理由を待ち望んでいた投資家にとっては、ついにそのきっかけが到来したのかもしれません。
注目の日程
公表日 |
国・地域 |
指標等 |
内容 |
|---|---|---|---|
12月15日 |
米国 |
ニューヨーク連銀製造業景気指数(エンパイア・ステート製造業調査) |
地方工場の業況と製造動向に関する先行的な洞察を提供 |
12月15日 |
ユーロ圏 |
鉱工業生産(10月) |
ユーロ圏の経済モメンタムを評価する上で重要な、製造業の生産高を測定 |
12月16日 |
米国 |
小売売上高(11月) |
米国経済成長の主要な誘因となる消費支出の重要指標 |
12月16日 |
米国 |
企業在庫(10月) |
サプライチェーンの健全性と今後の生産動向を示す |
12月16日 |
英国 |
失業率(11月) |
労働市場の強度がイングランド銀行の政策決定に影響を与える |
12月16日 |
日本 |
機械受注(10月) |
設備投資に関する意向と産業活動を反映 |
12月17日 |
英国 |
消費者物価指数(11月) |
金融政策決定を導く主要なインフレ指標 |
12月17日 |
ユーロ圏 |
消費者物価指数(11月、確報値) |
欧州中央銀行の金融政策決定に先立ち、インフレの動向を確認 |
12月18日 |
米国 |
消費者物価指数(11月) |
FRBの政策に影響を与える主要なインフレ指標 |
12月18日 |
米国 |
フィラデルフィア連銀製造業景気指数 |
地方の製造業の業況と経済見通しに関する洞察を提供 |
12月18日 |
英国 |
イングランド銀行金融政策決定 |
政策金利と金融政策スタンスを決定し、GDPと市場に影響を与える |
MC2025-135