米中対立が株価の勢いを削ぎ、金価格は上昇

〔要旨〕
- 米国株式市場:トランプ政権は中国に対する関税を上乗せすると新たな脅しをかけ、さらに連邦政府職員の人員削減が始まったため、米国株価は下落した
- 米国のインフレ率:政府による経済指標の発表が遅れる中、他の情報源は米国のインフレ率が依然として目標を上回っているものの、加速はしていないことを示唆している
- 暗号通貨:英国は規制を緩和し、個人投資家が個人貯蓄口座及び年金口座で暗号通貨上場投資信託(ETF)を保有できるようにした
米国政府機関の閉鎖によってインフレ及び雇用統計の発表が延期される
金が1オンス当たり4,000ドルの節目を突破
ビットコイン需要の新たな源泉
高市新総裁、早くも試練の時
注目の日程
投資家は、米国株式市場の上昇が止まる前にさらにどれだけの資金がこの市場に投じられるのかを疑問に思っているかもしれません。今週だけをみても、株式市場は目下の米国政府機関閉鎖、9月の雇用統計の発表延期、そして製造業とサービス業及び住宅セクターの軟調な数値をものともせずに上昇しました1。しかし、トランプ米大統領と習近平中国国家主席の会談が中止の可能性に言及し、さらにトランプ政権が希土類金属に関する中国の「敵対的」行動に対抗するために中国に対する関税を上乗せすると新たな脅しをかけたため、株価上昇は頓挫し始めたようです。
10月10日金曜日の株価下落は、トランプ政権が現在も続く政府閉鎖への対応策として連邦政府機関の職員を数千人規模で削減するとの見方をホワイトハウスが認めたと報じられたことで加速しました。この発表は、企業が人員削減に消極的であるにもかかわらず3雇用ペースが大幅に減速している2中で行われました。
先週金曜日の市場の反応は素早いものでした。株価が下落した一方で、投資家が安全資産を求めたために金価格は上昇し、米国債利回りは低下しました4。 トランプ政権による中国への関税上乗せに関する発言は、より広範な交渉の最初の動きとなることが多いものの、市場に比較的短期的なボラティリティをもたらす傾向がある政策面での不確実性をもたらします。連邦政府職員の人員削減は、既に経済成長が減速し、米連邦準備理事会(FRB)が追加的な政策支援を準備する中で行われました。減速しているとはいえ総じて底堅い経済成長は、政策緩和の可能性と相まって、リスク資産を下支えする可能性が高いと私たちは考えています。
米国政府機関の閉鎖によってインフレ及び雇用統計の発表が延期される
米国政府機関の閉鎖は2週目に突入しようとしています。先週指摘したように、過去の事例に基づくと市場への影響は最小限にとどまるはずです。しかし、市場は政府機関閉鎖をほとんど無視し続ける中、依然として政府機関は閉鎖され続けています。
今週は9月の米国消費者物価指数(CPI)の公式データの発表が予定されていましたが、発表は延期されています。米国労働統計局による労働市場データの発表も延期されています。そのため、私たちとその他の市場参加者は、そしてもちろんFRBも、状況を判断するために代替的なデータ源に頼っています。インフレ率に関する代替的なデータ源である「インフレ予測指数」を毎営業日に更新している クリーブランド連銀は、総合CPIが前月比約0.4%のペースで上昇していると示唆しています5。これは、前回の公式データとほぼ同じペースです。したがって、米国のインフレ率は引き続き目標を上回っているものの、加速はしていないとみるのが妥当でしょう。
金が1オンス当たり4,000ドルの節目を突破
先週、金価格は1オンス当たり4,000ドルを超えました6。地政学的な懸念、米ドルを巡る懸念、そして投資先の分散化に対する需要が相まって、金価格を支え続けています。金の供給は安定しており、大きな変動は見られないため、価格は需要によって左右されています。現在も、中央銀行による旺盛な買い需要や、上場投資信託(ETF)投資家からの強い需要によって価格は支えられています。中銀とETF投資家は2022年から2024年末にかけて金を売っていましたが7、今はポジションが積み上がっている兆候はほとんどありません。金価格はさらに上昇する可能性が高いとみています。
今年の金価格の上昇は特筆すべきものとなっていますが、銀価格の上昇はそれを上回っています。銀価格は先週、1オンス当たり50ドルを超え、年初来の上昇率は70%を超えています8。準備資産として銀を保有している中銀の数は金を保有する中銀の数より少ないものの、近年はロシア中銀などいくつかの中銀が銀を買い越していることを示す証拠があります。銀は今年、ETF需要によって支えられています。年初来の価格上昇率は金を上回っていますが、銀価格に対する金価格の比率(金銀比価)のこれまでの推移9に照らすと、銀は依然として魅力的に見えます。
ビットコイン需要の新たな源泉
暗号通貨はニッチな資産としてスタートを切りましたが、暗号資産価格をその価格に反映するETFの開発に伴い、いくつかの暗号通貨は以前と比べて大きく主流派に近付きつつあります。世界の多くの国・地域で規制の枠組みが変化し、より幅広い投資家がこの分野に参入できるようになっています。
先週、英国の規制当局は規制をさらに緩和し、個人投資家が個人貯蓄口座及び年金口座で仮想通貨ETFを保有できるようにしました。これにより、仮想通貨取引所で仮想通貨を直接購入する必要がなくなり、より幅広い投資家が仮想通貨ETFを購入できるようになります。私たちは、こうした規制緩和によって仮想通貨ETFへの需要が高まる可能性があると予想しています。例えば、2024年1月にスポットビットコインETFが初めて設定されたとき、そして3月に英国金融行動監視機構(FCA)が英国のプロフェッショナル投資家による購入を許可したとき、資金の流れは加速しました。金と同様、仮想通貨の供給は安定化する傾向にあるため、価格は需要環境に左右されます。つまり、資金フローが増えると価格は上昇する傾向にあります。
高市新総裁、早くも試練の時
私たちは先週、日本の自由民主党総裁に高市早苗氏が選出され、日本初の女性首相となる見通しになったという驚くべき選挙結果を受けて、予想される日本の財政・経済の方向性に関して前向きな見方をしていると述べました。しかし、先週金曜日に自民党の連立与党パートナーである公明党が連立政権から離脱すると発表したことで、日本を取り巻く明るい見通しは揺らぎました。公明党が連立政権から離脱することで、新首相選出のための投票が10月20日の週に先送りされると予想されます。依然として高市氏が勝利すると予想されていますが、今後数ヵ月間での実施を目指す様々な政策を成立させる道筋は以前ほど容易ではなくなると予想できます。高市氏が年末までに財政刺激策を実施するためには、野党と協力するために一層努力する必要に迫られるでしょう。このニュースは日本市場のボラティリティを高めるものの、株式市場が上昇基調にあるとの想定を変える必要があるとは考えておらず、財政刺激策は今後数ヶ月及び数年にわたって強化されると引き続き予想しています。
注目の日程
公表日 |
国・地域 |
指標等 |
内容 |
---|---|---|---|
10月14日 |
米国 |
月次予算書(9月) |
政府の財政状況を反映し、債務発行や政策見通しに影響を与える |
10月15日 |
米国 |
消費者物価指数(CPI)と |
FRBが金利を決定する際に重視する主要インフレ指標 |
10月15日
|
米国 |
ニューヨーク連銀製造業景気指数(10月) |
地域の製造業の活動状況と景況感を測定 |
10月15 |
グローバル |
G20財務大臣・中央銀行総裁会議 |
世界経済の協調と金融の安定性についてハイレベルで議論 |
10月16日 |
米国 |
生産者物価指数(PPI)とコアPPI(9月) |
消費者物価の先行指標である卸売物価上昇率を測定 |
10月16日
|
米国 |
小売売上高(9月) |
個人消費と経済モメンタムの主要指標 |
10月16日
|
米国 |
米国住宅建築業者協会(NAHB)住宅市場指数(10月) |
建設業者のセンチメントと住宅市場の状況を反映 |
10月16日
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米国 |
企業在庫(8月) |
在庫水準を追跡し、サプライチェーンと需要の傾向を評価するのに役立つ |
10月17日 |
米国 |
輸出入物価指数(9月) |
競争力と貿易収支に影響を与える貿易関連物価上昇率を測定 |
10月17日
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米国 |
建築許可件数と住宅着工件数(9月) |
住宅市場の活動状況と将来の建設動向の主要指標 |
10月17日
|
米国 |
米国鉱工業生産指数及び設備稼働率(9月) |
経済の健全性を示唆する生産量と資源利用状況を測定 |
10月17日
|
米国 |
米国財務省国際資本(TIC)フロー(8月) |
通貨及び債券市場に影響を与える、米国以外の国と地域からの米国資産への投資を追跡 |
10月18日 |
英国 |
小売売上高(9月) |
個人消費と経済モメンタムの主要指標 |
10月18日
|
米国 |
米財務省 半期為替政策報告書 |
通貨政策と国際的な金融フローに関する知見を提供 |
MC2025-111