信用危機への懸念、AIバブルが良好な経済指標に影を落とす

〔要旨〕
- AIバブル?:今日の人工知能への支出は、過去のバブルと類似点がある一方、重要な相違点もある
- 地方銀行:米国の一部地方銀行における債務不履行や経営圧迫のニュースが信用危機の懸念を呼び起こしたが、これらは個別の事象と見られる
- 米大手銀行:決算シーズンが進行中であり、これまでに発表を終えた米国の主要銀行からのメッセージは、全体的に前向き
1.AIバブルが起きているのか?
2.信用危機は迫りつつあるか?
3.米国経済の状況について、銀行収益からどのような示唆が得られるか?
4.米国の政府閉鎖はいつ終わるのか?
注目の日程
「エコーを呼び覚ませ」というフレーズはノートルダム大学の応援歌に由来し、爽やかな秋の土曜日、華やかな式典、そして大学フットボールの不滅の精神を想起させます。過去の偉大さを呼び覚まそうとする声掛けです。しかし、今週耳に届いたエコーはやや性質を異にしており、ノスタルジックというより、むしろ警告的な響きを帯びていました。それはテクノロジーバブル、信用危機、2018年の政府閉鎖のエコーでした。
ただまだ、S&P500種指数は史上最高値をわずかに下回る水準にあります1。前向きな成長見通し2、原油価格の下落3、インフレ期待が抑制された状態にあること4、利回りが高過ぎないこと5、そして米連邦準備理事会(FRB)が更なる緩和を示唆していることなど6、背景要因は有利に見えます。
それでも疑問は残ります。
リスク資産にとって建設的に見える環境を、何かが台無しにする可能性はまだあるのでしょうか?こうした懸念が提起されているという事実は、市場が依然として「不安の壁」を登り続けていることを示唆しています。むしろ誰も心配していないように見える時こそ、真に懸念を持つべき時であることが多いのです。
以下において、主要な懸念点を探ってみましょう。
1.AIバブルが起きているのか?
即答すると:まだそうなっているとは言えません。
懸念の一端は、現在の人工知能(AI)に牽引された投資サイクルの性質に起因します。特にサプライヤー、顧客、投資家の間で形成される循環的な関係性など、過去のバブルとの類似が見られる点です。しかし、重要な相違も存在します。現在市場を牽引している企業は、潤沢な資金を持ち、大きなキャッシュフローを生み出しつつ、市場で実績のあるビジネスモデルで運営されています7。バリュエーションは高いものの、ドットコムバブル期の極端な水準からは程遠いと言えます。例えば、エヌビディアは予想利益のおよそ23倍で取引されていますが、これは1990年代バブル期のピーク時にシスコが記録した80倍を大きく下回ります8。
当時、設備投資は明確な利用目的なしになされていました。現在では、圧倒的な需要に牽引されています。エヌビディアは実質的に、チップの供給が追いつかないと表明しています。台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー(TSMC)も、最新の決算報告で同様の見解を示し、予想を上回る業績を発表するとともに設備投資拡大計画を明らかにしました。個別銘柄へのコメントは差し控えますが、この報告は、大規模なテクノロジー投資が衰えを見せないことの裏付けとなっています。
とはいえ、リスクは残っています。オープンAIのような企業は巨額の支出を約束しており、資本市場への継続的なアクセスに依存しています。メタのマーク・ザッカーバーグ氏は最近、数千億ドルの投資が無駄になるリスクは、それを投資しないリスクに比べてましだと述べました9 ― それは、誰もが理解できることでしょう。資金調達が途絶えた場合、特に相互に深く結びついた企業にとっては、株価のバリュエーションの大幅な見直しが引き起こされる可能性があります。資本市場にストレスの兆候はほとんど見られませんでしたが、週末にかけて、投資家が精査しつつあるのではないかとの懸念が生じました。
2.信用危機は迫りつつあるか?
即答すると:先週起きた銀行の問題は、個別の事象と見られます。
最近の債務不履行や一部地方銀行の経営圧迫を受け、投資家は金融システムへの影響を懸念しています。しかし私たちは、ファースト・ブランズとトライカラーの破綻が「炭鉱のカナリア」だとは考えていません。(炭鉱ではもはやカナリアは使われていませんが、「炭鉱の電子センサー」ではあまり事象を想像させるような表現になりませんので)
メディアの過度な注目を集めはしましたが、これらは個別の事象とみられます。
- ファースト・ブランズは財務の透明性が低い中で頻繁に社債を発行しており、トライカラーはサブプライム自動車ローン分野で事業を展開していました。私たちは、いずれの事例も、信用市場の全体的なストレスを反映しているわけではないと考えています。現時点でファースト・ブランズは、融資詐欺が疑われるケースとなっています。
- 今週は、ザイオンとウエスタン・アライアンスが損失計上を報告し、経営難の商業用不動産抵当融資に投資するファンド向け融資で詐欺に遭ったことが原因としました。金額は小規模で、ザイオン・バンコープは5000万ドルの貸倒損失を計上しました。
与信状況の全体的な悪化を示す兆候は依然として限定的です。主要な巨大商業銀行には十分な資金力があり、後にも述べるとおり、今週も堅調な収益を報告しています。上記のような損失事例が注目を集めはしましたが、他の地方銀行では、貸倒引当金の計上額はアナリスト予想を下回りました。
投資家が動向を注視するのは正しいですが、現時点では、これらの破綻は個別の事象であり、金融システム上の問題とはいえないと考えられます。債務不履行は常に発生していることを念頭に置くべきでしょう。もし発生していなければ、誰もがリスクフリー金利で借り入れが可能になります。
3.米国経済の状況について、銀行収益からどのような示唆が得られるか?
即答すると:主要銀行からは、前向きな材料が得られています。
決算シーズンが進行中であり、米国大手銀行の多くが直近の四半期決算を発表しています。経営陣からのコメントは、自社の業績についてだけでなく、より広範な経済状況を読み解くうえでも貴重な手がかりとなっています。私たちは、これまでに決算を発表した銀行からのメッセージを全体的に、前向きなものと捉えています。
収益は、コンセンサス予想を上回るペースで推移しています。貸出の伸びとトレーディングは引き続き堅調となっています。顧客の債務返済は概ね順調です。例えば直近四半期において、モルガン・スタンレーの貸倒引当金はゼロでした。低所得層の消費活動に減速の兆候が見られる一方で、これらの金融機関の富裕層向けの資産運用部門は好調を維持しているようです。これは驚くべきことではありません。資産価格が史上最高値近くにあることから10、富裕層がより多くの資金を運用し、また支出に回せるためです。このダイナミズムが続く限り、米国経済を支えてきたプラスの資産効果は維持されると考えられます。
4.米国の政府閉鎖はいつ終わるのか?
即答すると:わかりません。(詳細に答えようとしても回答は同じです。)
歴史的に、政府閉鎖は経済や金融市場に重大な影響を与えることなく終結してきたことを念頭に置くべきでしょう11。
注目の日程
公表日 |
国・地域 |
指標等 |
内容 |
---|---|---|---|
10月21日 |
ユーロ圏 |
ドイツIfo景況感指数 |
景況感を測定し、経済の健全性を示す先行指標 |
10月21 |
世界 |
IMF年次総会 |
グローバル経済政策、金融安定性、開発に関する主要な議論が交わされる場 |
10月22日 |
米国 |
リッチモンド連銀製造業景気指数(10月) |
地域の製造業活動を測定し、広範な産業動向を示す |
10月23日 |
米国 |
中古住宅販売件数 (9月) |
住宅市場の強さと消費者信頼感に関する示唆を与える |
10月23日 |
カナダ |
政策金利決定 |
カナダ銀行(BOC)の金融政策スタンスを示す |
10月24日 |
ユーロ圏 |
英国製造業・サービス業購買担当者景気指数(PMI)(10月速報値) |
成長とインフレ見通しの鍵となるセクター横断的な事業活動の先行指標 |
10月24日 |
米国 |
新規失業保険申請件数 (10月19日) |
雇用動向の評価に役立つ週次労働市場指標 |
10月24日 |
米国 |
新築住宅販売件数 (9月) |
住宅需要と建設モメンタムを反映 |
10月25日 |
米国 |
耐久財受注 |
事業投資と製造業セクター需要に関する主要指標 |
10月25日 |
米国 |
ミシガン大学消費者信頼感指数(10月確報値) |
消費者信頼感とインフレ期待を測定 |
MC2025-114