米国経済は貿易政策の不確実性にもかかわらず底堅い

〔要旨〕
- 関税の不確実性:現在の関税の不確実性が解消されるまで、各国は米国との新たな貿易協定締結を躊躇する可能性
- 経済の底堅さ:貿易戦争のめまぐるしさにもかかわらず、米国の金融市場と経済は驚くべき底堅さを示している
- グローバル資産:私たちは今日の環境下で引き続き、非米ドル資産がより魅力的なバリュエーションとなっており、有利なポジションにあると考えている
今週の焦点:不確実性の渦中にある米国
米国以外にも目を向ける
注目の日程
目が回りそうでしょうか?あなただけではありません。先週は嵐のような目まぐるしさで幕を開けました:米国が欧州連合(EU)の輸出品に50%の関税を課すとの措置は、発表から数日後に延期されました。数日後、国際貿易裁判所は、トランプ政権時代の関税の多くを無効と判断しましたが、その中には「解放の日」に発表されたものも含まれました。その数時間後、米連邦控訴裁判所は貿易裁判所の判断を一時停止し、更なる法的主張が行われるまで関税措置を復活させる判断を下しました。
日頃「米国の実効関税率」を追っているイェール大学予算研究所に目を向けてみましょう。彼らの推計は、「解放の日」直後の28%から貿易裁判所の判決後の6.9%へと激しく変動しており、現在は控訴により、再び10%台半ばに戻るとみられています1。
今後の貿易政策の行方は誰にも分かりません。多くの人々が、米国通商法の第122条と第338条を再確認していることでしょう。トランプ政権と議会の対立が解消されるまで、各国は米国との新たな貿易協定の締結を躊躇する可能性があります。要するに、政策の不確実性が当面続くということです。
今週の焦点:不確実性の渦中にある米国
せわしない状況にもかかわらず、米国の金融市場と経済は驚くべき底堅さを示しています:
- 市場は振り出しに戻った:インフレ期待と実質利回りは、年初の水準に戻りました2。社債のスプレッドは2025年初めの水準に向けて縮小しており3、S&P 500種指数は年初来で小幅な上昇を記録しています4 — これは、明確な方向性がない中で、不確実性を乗り切ろうとしてきた市場を反映していると私たちは見ています。
- 堅調な国債入札:米国が、拡大しつつある財政赤字を賄えるかに関する懸念は過大だった可能性があります。先週の5年物国債入札では、記録的な水準に迫る需要が見られ5、借入コスト上昇への懸念が和らぎました。
- 消費は引き続き堅調:4月の消費支出は、関税により財輸入が記録的な20%の減少となったことも部分的に寄与して軟化しましたが6、労働市場は依然として底堅いです。個人の可処分所得は、4ヶ月連続で増加しました7。
- インフレは引き続き抑制されている:関税はまだ、価格を押し上げてはいません。米連邦準備理事会(FRB)が重視するインフレ指標の個人消費支出(PCE)価格指数は、4月に前月比で0.1%、前年同月比で2.5%上昇しました。これは4年超の間で最も小さい年間上昇率でした8。
- ビッグテックにとっての前向きな兆候:エヌビディアは好調な第1四半期決算を発表し、人工知能(AI)テーマに引き続き勢いがあることを示しました。私たちは特定の銘柄の推奨は行いませんが、政策の混乱の渦中でも、投資テーマが持続し得ることを再認識させるものと言えます。
米国以外にも目を向ける
今週のレポートで米国に注目したことは、投資家がグローバルな機会に目を向けないで良いことを示唆するものではありません。むしろその逆で、私たちは今日の環境下で引き続き、非米ドル資産がより魅力的なバリュエーションとなっており、有利なポジションにあると考えています。ただし、政策が不透明であるにもかかわらず、米国の経済状況が引き続き相対的に堅調である点は、留意するに値するでしょう。
注目の日程
国・地域 |
指標等 |
内容 |
---|---|---|
6月2日 |
米国ISM製造業購買担当者景気 |
経済の転換点を捉える傾向のある先行指標 |
6月2日 |
英国住宅価格指数 |
英国住宅市場の健全性について詳細を示す |
6月2日 |
中国購買担当者景気指数 |
経済の転換点を捉える傾向のある先行指標 |
6月3日 |
米国耐久財受注 |
貿易の不透明感がセンチメントに打撃を与える中、企業投資に関する洞察を与える |
6月3日 |
欧州消費者物価指数(CPI) |
欧州中央銀行(ECB)の政策決定に影響を与える |
6月4日 |
米国雇用動態調査(JOLTS) |
労働市場の需要面について詳細を示す |
6月5日 |
欧州生産者物価指数(PPI) |
生産者からみた価格動向を早期に示す |
6月6日 |
米国非農業部門雇用者数 |
米国の雇用市場の健全性について詳細を示す |
6月6日 |
欧州中央銀行会合 |
欧州の政策決定の方向性に関する洞察を与える |
6月6日 |
欧州小売売上高 |
欧州の消費者の状態を示す |
MC2025-061