フラッシュ・レポート:グローバル株価の急落と今後のポイント
米景気後退への懸念がグローバル市場の動揺をもたらした
グローバル金融市場は、8月2日に公表された7月分の米雇用統計がほとんどの主要項目で市場予想を下回ったことで、大きく動揺する事態となっています。7月30~31日にFOMC(米連邦公開市場委員会)が開催された段階では、米国の景気は減速しつつあるものの、景気後退のような大幅な減速は回避可能であるという見方が金融市場で共有されていました。しかし、7月分雇用統計で景気の先行きについての懸念が一気に高まり、金融市場では米景気が短期的に後退する可能性が突然強く意識されることになりました。これが金融市場に大きなショックをもたらしました。
7月31日の段階では金融先物市場における年内のFRBによる利下げ回数の織り込みは3.1回でしたが、これが8月2日には4.9回へと上昇しました。週明けの8月5日も4.9回の織り込みが維持されました。米10年国債利回りも、7月31日の4.03%から、8月2日には3.79%にまで低下しました。先物市場だけではなく、米国の主要銀行による年内の利下げについての見通しも、従来の2回程度から3~5回へと引き上げられました。
米国株式市場においても、景気後退懸念が強まったことで、S&P500種指数の下落率は8月1日の1.4%につづき、8月2日には1.8%を記録しました。8月2日の株価下落率がこの程度にとどまったのは、利下げに対する期待が台頭したことで、下げ幅が本来の水準よりも小さくなったことが大きいと考えられます。翌週の月曜日(8月5日)には、景気指標として注目度が高かったISMサービス業景況感指数が51.4ポイントと、市場予想の51.0ポイントを上回ったにもかかわらず、S&P500種指数は3.0%もの大幅な下落に見舞われました。この点は、米国株式市場のセンチメントの悪さを端的に示していると思われます。
一方、為替市場では、米国の利下げに対する期待が急速に高まった8月2日以降、ドルが他の先進国通貨や主要新興国通貨に対して減価する動きが強まりました。通貨の上昇幅が特に大きかったのが円でしたが、これは、7月30~31日に開催された日本銀行の会合でサプライズでの利上げが決定されるとともに、植田総裁が今後の利上げに対して積極的なスタンスを示したことが大きいと思われます。
日本株市場では、米国の景気後退懸念の強まりと急速な円高を8月5日に初めて織り込むことになりました。前週の日銀会合で示された日銀のタカ派的な姿勢が株式市場の地合いを悪化させていた中で、急速な円高や米国市場における日本企業の業績悪化が強く意識されたことから、日経平均株価の8月5日における下落率は、12.4%という史上2番目に大きい水準となりました。8月5日における日本株の下落幅は主要国中でも最も大きかったことから、「過剰に売られ過ぎた」との認識が広がる形で、8月6日の日経平均株価は、前場の取引終了時点で、前日の終値から9.4%上昇しています。
米景気後退への懸念が弱まればグローバル株価がリバウンドする公算
現在のグローバル金融市場が抱えるコアの問題は、今後の米国経済が大幅な悪化に直面するとの懸念です。したがって、米国をはじめとする市場の株価が有意にリバウンドするには、米国景気の先行きについての期待が改善することが必要条件となります。この点について、私は米国景気が景気後退に陥る可能性はなお低く、現在の金融市場における懸念が行き過ぎであると考えています。
7月分の雇用統計は確かに悪化しましたが、私が一定の前提を置いて試算したところ、前年同月比でみた米国の実質マクロ賃金増加率は、6月の2.5%から7月に2.3%に減速しただけであり、米国の家計がなお所得増加の下で緩やかに消費を増やせる環境が続いていたことがわかりました。中国からの輸出の増加もあって、製造業のPMIは世界的に弱い動きが続いており、米国もその例外ではありませんが、先に触れた7月分のISMサービス業景況感指数が比較的強い内容であったことをふまえると、米国経済が緩やかに減速していることが、今後徐々にはっきりし、それが金融市場における米景気後退懸念を徐々に弱めていき、株価のリバウンドにつながると見込まれます。
もっとも、現在の金融市場では、米国経済の大幅な悪化に対する懸念が強いことから、今後、短期的には、米国において市場見通しよりも弱い経済指標が公表される場合、株価が過敏に反応する形で大幅に下落することが想定されます。短期的にはボラティリティーが高い状況が継続すると見込まれます。今後、景気指標とともに、日米中央銀行高官による発言などに注目したいと思います。
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