12月FOMC:想定ほどタカ派的な利下げとならず
要旨
市場予想通り0.25%の利下げ。想定ほどタカ派的な利下げではなかった
12月9~10日に開催されたFOMC(米連邦公開市場委員会)では、金融市場における大方の事前予想通り、政策金利であるFF金利の誘導目標が0.25%引き下げられ、3.50~3.75%に設定されました。今回のFOMC参加者による経済見通しでは、①経済成長率見通しが上方修正されたこと、②それにもかかわらずインフレ見通しが下方修正されたこと、が注目されます。パウエル氏がこれまでよりもインフレの落ち着きを強調したことをふまえると、今回のFOMCでの利下げは、「タカ派的な利下げ」ではあるものの、「金融市場が想定していたほどタカ派的ではなかった」という評価ができます。
FOMC参加者の金利見通しが大きく割れる
FOMC参加者による政策金利見通しでは、参加者の中央値ベースで2026年中に1回の利下げが示されました。私は、2026年5月にトランプ大統領に指名されて就任する新FRB議長がハト派になる公算であることをふまえると、FRBは2026年中に2回の利下げを実施する可能性が高いとの見方を維持したいと思います。
市場の反応と今後の注目点
米国金融市場では、今回のFOMCが「金融市場が想定していたほどタカ派的ではなかった」ことを受けて、株高、長期金利低下、ドル安の動きが進行しました。当面の金融政策の焦点は、米国景気の動きとなります。景気の先行きを見るうえでは、12月16日に公表される予定の10月分と11月分の雇用統計に注目したいと思います。
※次号の発行は、日銀の政策決定委員会が12月18~19日に開催される予定であることをふまえて、12月19日を予定しています。
市場予想通り0.25%の利下げ。想定されたほどタカ派的な利下げではなかった
12月9~10日に開催されたFOMC(米連邦公開市場委員会)では、金融市場における大方の事前予想通り、政策金利であるFF金利の誘導目標が0.25%引き下げられ、3.50~3.75%に設定されました。パウエルFRB(米連邦準備理事会)議長は、現在の米国経済が労働市場のさらなる減速とインフレの上振れという2つのリスクに直面している状況に変化はないものの、労働市場が減速するリスクが高まったことが利下げの判断につながったとの見方を示しました。
今回のFOMCでは、2026年についてのFOMC参加者の見通し(参加者の中央値ベース、以下同様)が比較的大きく変更されました。具体的には、①経済成長率見通しが上方修正されたこと、②それにもかかわらずインフレ見通しが下方修正されたこと、が注目されます。これらの見通し改定は、株価と債券価格の上昇につながりました。まず、経済成長率については、2026年10-12月期の実質GDP成長率(前年同期比ベース)についての参加者見通しが前回(9月FOMC)の1.8%から2.3%へと上方修正されました(図表1)。2025年10-12月期の見通しが1.7%から加速する形になりますが、これには連邦政府の閉鎖によって2025年10-12月期の成長率が本来の水準よりも0.2%ポイント下がってしまうため、その分2026年10-12月期の成長率が押し上げられることも寄与しています。ただ、政府閉鎖に伴う影響を除くベースでみても、GDP成長率は2025年10-12月期の1.9%から2026年10-12月期に2.1%へと加速する見通しです。一方インフレ率の方は、2026年10-12月期のコアPCEデフレーターの上昇率見通しが、前回の2.6%から2.5%へと下方修正されました。パウエル氏は記者会見において、直近でサービス分野ではディスインフレ的な動きになっていることを挙げたうえで、米国政府による追加関税政策による財分野のインフレ押上げ効果は2026年1-3月期にピークに達するだろうという見方を示しました。
今後の金融政策については、パウエル氏は、今回の利下げによってFF金利が中立金利のレンジに入ったと指摘したうえで、今後のデータや、見通しの変化、リスクバランスに応じて対応していける良いポジションにあるとの立場を表明しました。これまでは、政策金利が引き締め的な水準であったとの立場であり、金融市場ではそれを利下げに前向きの立場と受け止めてきました。しかし、今回は既に政策金利が中立金利のレンジに達したとの立場に転換したため、その意味では、今回のFOMCでの利下げは、「タカ派的な利下げ」であったと言えるでしょう。しかし、パウエル氏がこれまでよりもインフレの落ち着きを強調したことをふまえると、今回のFOMCでの利下げは、「タカ派的な利下げ」ではあるものの、「金融市場が想定していたほどタカ派的ではなかった」という評価ができます。
FOMC参加者の金利見通しが大きく割れる
FOMC参加者による政策金利見通しでは、参加者の中央値ベースで2026年中に1回の利下げが示されました(図表1)。しかし、前回(9月)示された見通しと同様に、FOMC参加者による今後の政策金利見通しは大きく割れました。19人のFOMC参加者のうち、2026年中の政策期の変更をみていない参加者は7名でしたが、0.25%、0.5%の利下げを見通す参加者はそれぞれ4人、それ以上の利上げ幅を見通している参加者は4人でした(図表2)。金利先物市場における2026年内の利下げについての織り込み回数は、12月9日の2.0回から、FOMC後には2.2回に上昇しました。私は、2026年5月にトランプ大統領に指名されて就任する新FRB議長がハト派になる公算であることをふまえると、FRBは2026年中に2回の利下げを実施する可能性が高いとの見方を維持したいと思います。
市場の反応と今後の注目点
米国金融市場では、今回のFOMCが「金融市場が想定していたほどタカ派的ではなかった」ことを受けて、株高の動きとなりました。株式市場では、景気回復への期待感が強まったことで、資本財・サービスセクターや素材セクター、一般消費財・サービスセクターの株価が比較的大きく上昇しました。一方、債券市場では、長期金利が低下しましたが、この背景にはFRBの利下げへの期待がやや強まったことだけではなく、今回のFOMCにおいてFRBが短期国債の買い入れを決めたこともあるとみられます。FRBは短期金融市場に資金を供給するため、短期国債を月間400億ドル当初購入し、その後は状況に応じて購入を続けることを決定しました。FRBは、これは金融政策として実施するものではないと表明しましたが、国債市場の需給をタイト化する効果を有する政策であることから、長期金利の低下にある程度寄与したと考えられます。為替市場では、FRBによる資金供給の実施に加えて、これまでよりも利下げに前向きなFRBの政策スタンスが伝わったことで、主要通貨に対するドル安が進行しました。
当面の金融政策の焦点は、米国景気の動きとなります。景気の先行きを見るうえでは、12月16日に公表される予定の10月分と11月分の雇用統計に注目したいと思います。10月分の統計は、年前半に決定された連邦政府職員の大量解雇の影響が10月にみられるうえ、政府閉鎖の影響もあって分析しにくい部分がありますが、11月分はより重要です。民間部門の雇用をカバーするADP雇用統計では8月以降、11月まで弱めの計数が公表されていますので、強い数字にはなりにくいと推察されますが、市場予想を大きく下回る場合には、米国金融市場における短期的な景気悪化懸念が高まり、株安や長期金利の低下につながる可能性があることから注意が必要です。
MC2025-132