グローバル・ビュー

日銀が政策金利を0.75%に引き上げ

Invesco Global View
要旨
日銀の利上げは予想通り

日本銀行は、12月18~19日に開催された政策決定会合において、市場予想通り、政策金利を0.25%引き上げて0.75%とすることを決定しました。日銀による今回の利上げを促した要因としては、2026年の春闘でもしっかりとした賃上げの動きが続くとみられることのほか、①高市政権が打ち出した景気対策を具現化する2025年度補正予算が成立したこと、②為替市場において円安圧力がくすぶっていること、が挙げられます。

次の利上げのタイミングとしては2026年半ばを予想

日銀は、今次会合の声明文において、「実質金利がなお極めて低い水準にある」という評価を維持したことは、日銀が今後も利上げを継続していく姿勢であることを示唆していると言えるでしょう。私は次回の利上げの時期について、2026年中ごろ、具体的には2026年6月あるいは7月と予想しています。

市場の反応—想定よりもタカ派的な声明文で長期金利が上昇

日銀が今回の声明文で、「実質金利がなお極めて低い水準にある」という観点から利上げの継続を示唆した点は、金融市場が想定していたよりもややタカ派的と受け止められました。これを受けて、日本の10年金利は12月18日の1.97%から、19日13時30分時点では2.00%を若干上回る水準へと急上昇しました。


※本号が2025年の最終号となります。次号は2026年1月8日に発行する予定です。今年1年間のご愛読を感謝いたします。

 

日銀の利上げは予想通り

 日本銀行は、12月18~19日に開催された政策決定会合において、市場予想通り、政策金利を0.25%引き上げて0.75%とすることを決定しました。植田日銀総裁は、12月1日の講演において利上げに対して前向きにコメントしたのに加えて、12月5日には企業による2026年の賃上げスタンスが2025年度から横ばいになる公算が大きいという内容で特別レポートを公表していました。植田総裁は、前回の会合後の記者会見において、春闘の初動モメンタムについての情報を得るまで利上げを待ちたいとしていました。この特別レポートは、2026年も、2025年並みのしっかりとした賃上げの動きが続く可能性が高い点を示唆するものであったことから、金融市場では、今次会合での利上げがほぼ確実視されていました。

 一方、日銀による今回の利上げを促した要因として、 2026年の春闘でもしっかりとした賃上げの動きが続くとみられることのほか、①高市政権が打ち出した景気対策を具現化する2025年度補正予算が成立したこと、②為替市場において円安圧力がくすぶっていること、を挙げないわけにはいきません。高市政権による積極的な財政政策が短期的に日本の景気を押し上げる公算が強まったことで、トランプ米政権による追加関税策や米国景気の減速が日本経済を大きく下押しするリスクが大幅にやわらぎました。これが、日銀による金融政策の正常化を後押ししたと考えられます。他方、為替市場では、高市政権の積極的財政政策による財政悪化への懸念や高市政権下で日銀の利上げが困難になるとの見方から、11月中旬までかなりのスピードでの円安が進行していました。しかし、その後は、高市政権による経済対策が市場にほぼ織り込まれたことや、円安を警戒する高市政権が日銀の利上げに反対しないのではという見方が強まったことで、円安の動きがいったん終息し、現在にいたっています。仮に日銀が今回の会合で利上げしていなかったとすれば、ドル円レートは円安方向に大きく動くリスクがあった点も、今次会合での日銀の利上げを促したと考えられます。

次の利上げのタイミングとしては2026年半ばを予想

 日銀は、今次会合の声明文で、「現在の実質金利がきわめて低い水準にある」ことをふまえて、景気や物価が日銀の見通し通りに実現するのに合わせて利上げを実施するという考え方を維持しています。日銀は、これまで、名目中立金利は1.0~2.5%程度のレンジにある可能性を示唆してきました。今回の利上げ後の0.75%という水準はこのレンジの下限である1.0%にあと0.25%まで迫る水準ではあったものの、「実質金利がなお極めて低い水準にある」という評価を維持したことは、日銀が今後も利上げを継続していく姿勢であることを示唆していると言えるでしょう

 私は次回の利上げの時期について、2026年中ごろ、具体的には2026年6月あるいは7月と予想していますが、これは次の3つの点をふまえています。第1に、2026年前半にインフレ率が低下する結果、実質賃金の上昇率がプラス化し、それが日本の内需の回復・拡大につながっていくと見込まれます。高市政権が成立させた補正予算には、ガソリン税の軽減や電気料金への補助金支出が含まれます。これらによって、2026年1-3月期の消費者物価(CPI)上昇率は0.7%ポイント、4-6月期以降、年末までのCPI上昇率は0.3%ポイント低下する見込みです。また、前年比でみたコメ価格が落ち着いていきますので、インフレ率は2026年前半に有意に低下し、それが消費者の購買力を上向かせることで民間消費の改善につながると予想されます。第2に、2024年3月に開始された利上げサイクルの中で3回にわたる利上げを実施したにもかかわらず、企業の資金繰りがほとんど悪化していません。日銀短観(12月調査)では、日銀がイールドカーブコントロール政策を廃止して利上げに踏み切った2024年3月以降、資金繰り判断DIが、企業規模の大小を問わずほとんど悪化してきませんでした(図表1)。今回の利上げ後に企業の資金繰りが大きく悪化するなら別ですが、そうでなければ日銀はゆっくりとしたペースでの利上げを継続していくと考えられます。

(図表1)日本:資金繰り判断DI(短観調査による。「楽である」—「苦しい」)

 第3に、今後想定されるFRB(米連邦準備理事会)による利下げは日銀が利上げを続けていくうえで大きな障害にはならないと考えられます。米国では2026年5月にパウエルFRB議長が退任し、トランプ大統領に指名された新議長が就任する予定です。FRBはハト派の議長の下で、2026年年央に利下げを実施すると思われます。これ自体は、日米の短期金利差の縮小を通じて円高要因になるとみられます。しかし、米国経済はFRBの利下げや対内直接投資の増加などのサポート要因がけん引する形で2026年後半には潜在成長率(2%程度とみられます)をやや上回る成長率に加速していくと見込まれ、これがグローバル市場でのゆっくりとしたドル高基調をもたらすと考えられます。こうしたグローバルな環境下では、日銀が利上げを実施したとしても、速いペースで円高が進行する可能性は低いと考えられます。

市場の反応—想定よりもタカ派的な声明文で長期金利が上昇

 日銀が今回の声明文で、「実質金利がなお極めて低い水準にある」という観点から利上げの継続を示唆した点は、金融市場が想定していたよりもややタカ派的と受け止められました。これを受けて、日本の10年金利は12月18日の1.97%から、19日13時30分時点では2.00%を若干上回る水準へと急上昇しました

 この背景には、高市政権の積極的な財政政策がもたらす財政悪化への懸念が残る中、金融市場が想定する今次局面での政策金利のターミナルレート(最高到達点)が上方修正されつつあることがあると考えられます。ブルームバーグが12月5~10日に実施したエコノミスト調査によると、ターミナルレート予想の中央値は1.25%であったものの、1.75%を見込むエコノミストの割合が過去の調査に比べて有意に増加していました(図表2)。ターミナルレートについての不透明感が増す中で、今回の日銀声明文で想定よりもタカ派的なトーンが示されたことで、国債市場における買い手が長期国債の購入に慎重になった可能性があります。なお、私は日銀の政策金利が2026年半ばに引き上げられた後、2027年前半中に再度引き上げられ、それが今回の局面におけるターミナルレートになると予想しています。

(図表2)日本:今次局面での日銀政策金利の最高到達点~エコノミスト調査における回答者の割合(ブルームバーグ調べ)

 今回の日銀会合後、ドル円レートはやや円安方向にふれました(12月19日13時30分時点、以下同様)。これは、日銀の声明文がややタカ派的であったものの、その結果として10年金利が上昇したことが、日本の資産に対する信認の低下を連想させ、それが円安につながったためとみられます。日本の株式市場では、日銀利上げはほぼ織り込まれていたものの、日銀の声明文の公表後は、日銀によるややタカ派的なコミュニケーションによる株価押し下げ効果が円安による株価押上げ効果をやや上回る形で日経平均株価が若干株安に振れました。ただ、前日の米国市場で株価が上昇したことを受けて株価が前場で上昇していたことから、前日比ではプラスとなりました。

 今回の日銀の会合を受けて、日本の金融市場の関心は米国経済や米国金融政策、AI関連企業の動きに移行していくとみられます。2026年に入ると、インフレ率の低下がより明確になるのに合わせて、日本の内需回復がこれまで以上に市場の注目を集まると見込まれます。

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