グローバル・ビュー

米国資産を再評価する動きが年末までに顕在化?

Invesco Global View
要旨
「米国離れ」の3つの背景

過去数カ月間においては、グローバル投資家の間でゆっくりとした米国離れが起きているとみられます。私は、この傾向が今後7-9月期あたりまで続くとみています。この米国離れの背景としては、①米国景気の信頼のかげり、②審議中の減税法案が米国の財政赤字を大幅に増加させるという警戒感、➂米国株の割高感、が挙げられます。

年末までには「米国離れ」を促す要因が解消される公算

こうした状況のそれぞれが年末までに変化し、米国株やドルを再評価する動きが強まると見込まれます。これは、①10-12月期には米国景気に底打ち感がでてくると見込まれること、②減税法案の財政赤字インパクトについての金融市場の見方が悲観的過ぎること、➂今後数カ月のうちに、欧州株に割高感が出てくること、によります。米国資産の再評価がすすむ年末以降は、米国や欧州、日本、新興国などの市場に新規の資金がバランスよく入っていく展開が予想されます。

(図表1)グローバルな証券投資フローの方向性についての見通し


 当レポートの5月22日号(「米国一強」の構図は変化するか?)では、米国景気が底打ちするとみられる2025年10-12月期ごろには、米国再評価の動きが強まるとの見方をご紹介しました。その後、米国議会での減税法案の審議が進展し、米国の連邦財政赤字への懸念が強まるという新たな展開がありました。私の結論には変わりはありませんが、以下では、直近での財政協議の進展状況などを踏まえて、この問題をより多くの視点から整理してみたいと思います。

「米国離れ」の3つの背景

 過去数カ月間においては、米国の長期金利が上昇トレンドで推移してきたにもかかわらず、為替市場ではドル安傾向が進行し、ドル建てでみた米国株式のパフォーマンスが他の先進国を下回る状況となっています。グローバル投資家の間でゆっくりとした米国離れが起きているとみられますが、私は、この傾向が今後7-9月期あたりまで続くとみています。この米国離れの背景として、以下の3つを挙げたいと思います(図表2)。

(図表2)足元での「米国一極集中」見直しの背景

 第1が、米国景気への信頼にかげりが出てきたことです。米国のインフレは足元ではまだ比較的落ち着いているものの、今後2~3カ月以内に追加関税によるインフレの加速が明確となり、それに合わせて消費が減速していくと見込まれます。これまでは、成長力という点では、米国が欧州その他の先進国を中長期的に上回る状況にありましたが、その構図が短期的に変わっていくとみられることで、グローバル投資家が米国への投資に対して比較的慎重な姿勢を維持すると考えられます。

 第2が、米国議会で現在審議されている減税法案によって米国の財政状況が大きく悪化するとの懸念が強まっている点です。減税法案は、野党である民主党の上院での議事妨害(「フィリバスター」と呼ばれています)を防ぐために、予算調整法という枠組みで審議されています。「大きく美しい1つの法案(One Big Beautifull Bill Act、略称はOBBBA)」と名付けられたこの法案は5月22日に下院を1票差という僅差で通過しました。現在上院での審議が進展していますが、上院側が法案を修正した後に、同一の法案を下院でも再び通過させねばならないことから、最終的な成立は容易ではないものの、現時点での情報を総合すると、8月中旬には成立すると見込まれます。議会予算局(Congressional Budget Office、略称はCBO)の推計によると、下院を通過したこの法案は、連邦政府の財政赤字を今後10年間(2025~2034年度)で2.4兆ドル増やす内容です。投資家の間では米国の財政規律が緩むという見方が強まり、トランプ大統領の政策がもたらす不確実性と合わせて、米国の国債に対する信任の低下をもたらしてきたと考えられます。

 第3が、米国株にまだ割高感が強い点です。S&P500種指数のPER(株価収益率)は過去の長期でみた平均水準を依然として大きく上回っています。米国株離れの受け皿として投資家が最も注目している欧州株の代表的な指数であるSTOXX欧州600指数のPERは過去の長期間の平均値を若干上回っている程度です。主要国・地域の中での米国株の割高感が突出しており、ドル安の動きが続く中、投資家による米国株への配分比率が引き下げられやすい状況となりました。
 

年末までには「米国離れ」を促す要因が解消される公算

 こうした状況のそれぞれが年末までに変化し、米国株やドルを再評価する動きが強まると見込まれます。まず米国景気については、4-6月期にはトランプ関税による景気へのマイナス効果が顕在化し始めると予想されます(図表3)。このマイナス効果は7-9月期にはさらに強まり、景気のモメンタムはかなり悪化するとみられます。しかし、トランプ政権が今後主要な貿易相手国との間で締結すると見込まれる通商ディールによって、輸出や米国向け直接投資の増加につながるはずです。また、FRBが年後半に入って実施するとみられる政策金利の引き下げも、景気に好影響を及ぼすはずです。私は、10-12月期には、こうしたプラス効果が顕在化しはじめることで、景気に明るさが出て、米国資産の再評価につながると思われます

(図表3)米国景気のモメンタムについての見通し

 第2の減税法案については、私は金融市場での現在の見方は悲観的過ぎると考えています。CBOの見通しによれば、減税法案による今後10年間の財政赤字増加額(2.4兆ドル)の大半が、2017年に成立した減税雇用法(Tax Cut and Jobs Act、略称はTCJA)による、既存の減税策の延長分にあたります(図表4の水色棒の部分)。もし既に実施されている減税をやめれば、実質的には増税をしてしまうことになりますので、金融市場では、従前より、減税策はそのまま延長されるだろうという見方が広く共有されていました。このTCJAの延長に伴うコストを除いて財政インパクトを計算すると、今後10年間の累計の財政インパクトはむしろ黒字になります(図表4の青棒の部分)。したがって、この減税法案がいまの内容に近い形で成立する場合には、財政赤字についてはそれほど懸念する必要はないと考えられます。しかも、これらの計算にはトランプ政権の下で課される追加関税による歳入が含まれていません。CBOの推計によると、トランプ政権の現行の関税政策による今後11年間の歳入増加額は2.8兆ドルと、これは減税法案による財政赤字を補填してまだ余る歳入インパクトがあります(図表5)。金融市場でこれらの評価が広まっていけば、米国財政への過度の懸念は後退していくと考えられます。

(図表4)米国下院を通過した減税法案(一つの大きな、美しい法案)による連邦財政収支へのインパクト
(図表5)米国下院を通過した減税法案(一つの大きな、美しい法案)による連邦財政収支へのインパクト

 第3の、米国株が割高という点については、今後数カ月の間に欧州株に資金が集まりやすいことをふまえると、欧州株のPERが今後上昇していくことで、米国株の相対的な割高感が和らいでくると思います。また、米国株にはマグニフィセント7をはじめとして、これからの世界の経済や社会の在り方を変えていく牽引役となるような生成AI関連銘柄が多くあり、それらの銘柄には、世界からの投資資金が引き続き入っていくと思われます。このため、欧州株の割高の度合いが強まるとみられる数か月後には、割高だという理由で米国株市場から資金を引き揚げるような動きは抑制されていると予想されます

 こうして、米国資産の再評価がすすむ年末以降は、米国や欧州、日本、新興国などの市場に新規の資金がバランスよく入っていく展開が予想されます(図表1)。

 

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MC2025-064