6月FOMC:⼤きなサプライズなし

要旨
FOMCは年末までに2回の利下げを見込む
6月17-18日に開催されたFOMC(米連邦公開市場委員会)では、市場予想通り、政策金利であるFF金利の誘導目標が4.25~4.50%で据え置かれました。FOMC参加者による2025年末までの利下げ回数についての見通しは2回(1回の利下げ幅を0.25%として計算。参加者による見通しの中央値ベース、以下同様)と、前回(3月)見通しから変更されませんでした。この点は、利下げの回数についての見方が1回と2回で割れていた金融市場によってはややハト派的な受け止めにつながりました。
パウエル議長の記者会見はややタカ派トーン
しかし、その後実施されたパウエルFRB(米連邦準備理事会)議長の記者会見での発言は、①景気の現状について「Solid」(しっかりしている)という表現で描写したこと、②本来は一時的であるはずの追加関税によるインフレへの押上げ効果が持続してしまうリスクを強調したことから、ややタカ派的であったと判断されます。パウエル氏のややタカ派的な姿勢の背景としては、イスラエル・イランの紛争が続いていることもあったと考えられます。声明文の公表直前からパウエル議長記者会見終了までの動きを通してみると、FOMCによる金融市場への影響は限定的であったと判断されます。
FOMCは年末までに2回の利下げを見込む
6月17-18日に開催されたFOMC(米連邦公開市場委員会)では、市場予想通り、政策金利であるFF金利の誘導目標が4.25~4.50%で据え置かれました。今回の会合で公表されたFOMC参加者による見通しでは、2025年末までの利下げ回数についての見通しが2回(1回の利下げ幅を0.25%として計算。参加者による見通しの中央値ベース、以下同様)と、3月に公表された前回見通しから変更されませんでした(図表1)。一方、経済見通しは下方修正されました。2025年10-12月期の前年同期比での成長率見通しが、前回の1.7%から1.4%へと引き下げられるとともに、同期の失業率も前回の4.4%から4.5%へと引き下げられました。経済見通しについてのこれらの下方修正は、トランプ政権が4月以降に公表した一連の追加関税をふまえると妥当な修正と言えます。追加関税措置によるインフレ押上げが景気の減速につながるという図式です。2025年10-12月期の前年同期比でのコアPCEデフレーター上昇率についての見通しは、前回(3月)の2.8%から3.1%へと修正されました。
金融市場では、年内の利下げ回数についての事前予想が1回と2回に割れていたことから、年内2回の利下げ予想で据え置いた今回のFOMCの声明文・参加者見通しがややハト派的であるとの受け止めが広がり、米国市場では、株高、長期金利低下、ドル安の動きが、それぞれ小幅に進みました。

パウエル議長の記者会見はややタカ派トーン
しかし、その後実施されたパウエルFRB(米連邦準備理事会)議長の記者会見での発言は、以下の2点において、金融市場の想定に比べてややタカ派的であったと判断されます。第1は、FRBが景気の現状について「Solid」(しっかりしている)という表現で描写した点です。
米国景気を巡っては、しばらく前までは比較的良好な指標が続いていたものの、直近で公表された5月分の小売売上高や6月半ばまでの新規失業保険申請件数などの諸指標は景気の減速を示唆するものでした。FRBは各種要因で振れが大きくなることがある単月の景気指標ではなく、過去3カ月程度の景気指標を景気判断の主な材料にしていると考えられます。しかし、景気が「しっかりしている」という表現は、金融市場からみると若干の違和感があるように思われます。
第2は、本来は一時的であるはずの追加関税によるインフレへの押上げ効果が持続してしまうリスクを強調した点です。パウエル議長は、比較的高水準の追加関税がインフレ加速に波及するタイミングや経路を予想することは困難であるとしたうえで、追加関税の程度や物価への波及経路、インフレ期待の動きによっては、インフレが長引いてしまう可能性を強調しました。
これらの発言がタカ派的に受け止められたことで、声明文の公表後に進行した株高、長期金利低下、ドル安の動きが反転して戻る形となりました。声明文の公表直前からパウエル議長記者会見終了までの動きを通してみると、FOMCによる金融市場への影響は限定的であったと判断されます。
他方、私は、パウエル議長のややタカ派的な発言の背景として、現在進行中のイスラエル・イラン間の紛争の影響もあったように思えてなりません。パウエル氏は、この紛争によるインフレへのインパクトは一時的に終わる可能性があると発言していますが、これは、インフレを押上げる影響があると発言してしまうと、それは、今後のトランプ政権の政策批判になってしまったり、今後の政策を縛ってしまう可能性があることを考慮してのものだった可能性があります。一方で、既に原油価格が大幅に上昇していることは今後のインフレ押上げ要因となりますので、そうした影響も考慮したうえで、記者会見でのややタカ派的なトーンを打ち出した可能性があるとみています。
最後に、今回のパウエル議長の記者会見では、労働市場の好調さを示す指標として、失業率が4.2%という低水準にとどまっている点が繰り返し言及されました。パウエル氏は雇用の創出ペースは減速してきているものの、移民の流入ペースが鈍化してきたことで、労働市場の需給はタイトなままであると指摘しました。この点は、今後の雇用統計の金融政策への意味合いを考える上で、非農業部門雇用者数よりも失業率の方により注目すべきであることを示唆しているように思われます。
MC2025-068