グローバル・ビュー

2026年の米国景気・米国株を考える

Invesco Global View
要旨
2026年は4つの要因が米国景気を支える見通し

米国株が比較的堅調さを保っているマクロ的な背景として、足元から2026年にかけての米国景気についての見方が改善していることがあると考えられます。2026年については、①FRB(米連邦準備理事会)の利下げによる効果、②7月4日に成立した大型減税法による効果、➂対米直接投資の積極化による効果、④株高による正の資産効果、が米国景気を支えると見込まれます。米国景気は2026年の後半には緩やかに加速し、力強さが明確になると予想されます。

2026年はAI関連以外の株が緩やかに上昇する見通し

米国景気が2026年を通して緩やかに力強さを増していくという景気見通しの下、米国株には前向きな動きがみられると見込まれます。2026年は、AI関連以外の株については、景気が緩やかに力強さを増していくのに合わせて、緩やかな上昇軌道を辿っていくと予想されます。AI関連株は相対的に割高の領域に入ってきたと考えられますが、PERの頭打ちが想定される中でも、業績の成長期待次第では株価にアップサイドがあると思われます。

米国株のリスク―2026年後半のインフレ加速リスクに留意

米国株市場が抱えるリスクとしては、地政学的リスク等とともに、米国景気が想定以上に加速してインフレ圧力が高まるリスクを挙げたいと思います。


※次回のグローバル・ビューの発行は、都合により、11月20日を予定しています。

 

2026年は4つの要因が米国景気を支える見通し

 S&P500種指数は一定のボラティリティーを伴いながら上昇基調を続けており、先週には史上最高値を更新しました。AI関連株に対する期待の高まりが株式市場のけん引役になってきたことは確かですが、AI関連以外の株も底堅く推移しています。株価の堅調さのマクロ的な背景としては、2025年後半の実質GDP成長率がこれまでの市場の想定を上回るとの期待感が強まっていることに加えて、金融市場における2026年の米国景気についての見方が改善していることがあると考えられます。以下では、2026年の米国景気について検討するとともに、その株価への影響について考察したいと思います。

 金融市場では、これまでは、米国景気についての短期的なダウンサイドリスクが強く意識されていたように思われます。米国政府が各国に課した追加関税の影響から米国のインフレ率が比較的大きく押し上げられるため、家計の購買力が実質ベースで低下し、民間消費に悪影響が及ぶという姿が想定されていました。しかし、関税引き上げ前の段階で大規模な駆け込み輸入が実行されたこともあって、追加関税策が消費者レベルの物価を押し上げる効果は9月までは限定的でした。このため、景気への短期的な悪影響はこれまで想定されていたよりも小さいとの見方が強まってきました。私も、追加関税に伴う米国景気への悪影響や政府閉鎖に伴う悪影響は短期的に顕在化する可能性が高いものの、それらによる景気への下押し効果は比較的小さいと判断しています

 一方、2026年については、以下の4つの要因が景気をサポートする展開になるとみています。第1は、FRB(米連邦準備理事会)の利下げによる効果です。FRBは今年9月、10月に連続利下げを実施しました。私は今年12月にも追加利下げ(1回の利下げ幅は0.25%と想定。以下同様)が実施され、2026年前半には2回の追加利下げが実施されると予想しています。これらの利下げによる景気押上げ効果は2026年を通じて顕在化すると見込まれます。

 第2は、7月4日に成立した「大きく美しい1つの法案(大型減税を含む予算調整法)」による効果が2026財政年度(2025年10月開始)から期待できる点です。米国議会予算局(CBO)はこの法案が景気にプラス効果をもたらすと予測しています。

 第3は、対米直接投資の積極化による効果です。トランプ政権は各国との関税を巡る交渉で、各国から米国向けの投資を増やすという合意を勝ち取りました。日本は3年強で5,500億ドルの投資を実施することを約束しましたが、その投資による景気へのプラスのインパクトは2026年から顕在化するとみこまれます。韓国や欧州連合(EU)、サウジアラビアなどとの合意に基づいて実施される直接投資も米国景気を支える役割を果たすとみられます。さらに、追加関税措置に直面した個別企業が独自に対米直接投資を実施することも、米国景気に追い風となるでしょう。

 第4は、株高による正の資産効果です。株価が史上最高値を更新し続けてきたことで、米国の資産家層は消費に対してかなり積極的になっているとみられますが、この積極さは2026年も続く可能性が高いと考えられます。

 これら4つのサポート要因が景気回復に寄与することから、米国景気は2026年の後半には緩やかに加速し、力強さが明確になると予想されます(図表1)。

(図表1)想定される米国景気のモメンタムの推移

2026年はAI関連以外の株が緩やかに上昇する見通し

 米国景気が2026年を通して緩やかに力強さを増していくという景気見通しの下、米国株には前向きな動きがみられると見込まれます。これまでの株価の動きをみると、マグニフィセント7と呼ばれるAI関連銘柄群(エヌビディア、マイクロソフト、アルファベット、アップル、アマゾン・ドット・コム、メタ・プラットフォームズ、テスラを指す)が過去半年以上にわたって非常に速いペースでの上昇トレンドを維持し、株式市場全体をけん引してきました(図表2)。AIがもたらす収益性に対する強い期待が株価の上昇につながってきたと言えます。一方で、マグニフィセント7以外の株については、7月以降、FRBによる利下げ期待を株価サポート材料としながらも、短期的な景気減速懸念が続くという逆風の中、非常に緩やかな上昇トレンドにとどまってきました。

(図表2)米国:ブルームバーグ米国大型株指数、ブルームバーグ・マグニフィセント7指数等の推移

 今後については、短期的には景気減速懸念がぬぐえないものの、2026年の景気が緩やかに力強さを増していくとともに、AI関連以外の株が緩やかな上昇軌道を辿っていくとみられます。株式市場では、AI関連株を別とすれば、過去数カ月間はディフェンシブ株に注目が集まる展開となってきましたが、2026年には景気回復期待が強まるのに合わせて景気敏感株や中小型株、バリュー株に物色が広がっていくと見込まれます

 一方、AI関連株は相対的に割高の領域に入ってきたと考えられます。マグニフィセント7指数について、12カ月先の利益予想に基づくPERをみると、直近で38倍強まで上昇してきました(図表3)。過去5年間においてはPERが40倍程度を大きく超えることはなく、その意味では、マグニフィセント7のPERはこれ以上高くなりにくい局面に入ってきたと思われます。直近の金融市場で、AI関連株の割高さが頻繁に話題になることはこうした状況を反映しています。もっとも、AI関連株のPERが頭打ちになったとしても、AI関連株の株価が頭打ちになるとは限りません。その帰趨(きすう)は業績の成長期待次第です。ブルームバーグによる集計に基づくと、マグニフィセント7の過去3年間における一株当たり利益の期待成長率は年平均で44%程度でした。したがって、PERが頭打ちになったとしても、将来の利益についての期待が高まるのであれば株価上昇は可能です。この意味で、マグニフィセント7を始めとするAI関連企業が、大規模なAI関連投資に対して期待されるリターンを生み続けることができるかが、AI関連株価が上昇を続けることができるかどうかの鍵となります

(図表3)ブルームバーグ・マグニフィセント7指数等のPER(12カ月先のEPS予想に基づく)

米国株のリスク―2026年後半のインフレ加速リスクに留意

 米国市場が抱えるリスクとしては、まず、米国景気が想定以上に加速してインフレ圧力が高まるリスクを挙げたいと思います。追加関税に伴うインフレ率の上昇は一時的なものとなる可能性が高く、基調的なインフレ率を押し上げる可能性は低いとみられますが、景気が加速する場合のインフレは、金融政策によって抑制することが必要となります。2026年5月下旬にパウエル現FRB議長が任期を迎えることから、それ以降、FRBはトランプ大統領が指名する新議長の下で運営されることになります。インフレが加速する兆候が出てくる場合に、FRBが適切に対処できない場合には、債券利回りの上昇などを通じて金融市場に悪影響が及ぶ可能性が出てきます。このほか、米中対立に伴う地政学的リスクや追加関税による景気減速が想定以上のマグニチュードとなるリスク、AI関連株の割高さが意識されて市場のボラティリティーが上昇するリスク、にも注意したいと思います。

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MC2025-119