グローバル・ビュー

日本:為替と長期金利が落ち着くタイミングは?

Invesco Global View
要旨
直近でのドル円レート乱高下と今後の介入効果

年初来、高市首相が衆議院解散の検討をするというニュースを起点に、ドル円レートは比較的大きく上下に振れてきました。私は、米国当局によるドル円レートのレートチェックが全面的なドル安につながったことをふまえると、今後何らかの理由で再び大幅な円安が進行する場合、日米協調による介入の効果が低下する可能性があると考えています。

長期国債金利の上昇リスクになお注意

食品部分の消費税率を2年間ゼロ%にするとの自民党の公約は、長期・超長期金利のさらなる上昇をもたらしてきました。今後、こうした懸念が強まって長期・超長期金利がさらに大きく上昇する場合には、現時点では日本株に対して前向きの投資スタンスを維持している外国人投資家が日本株投資に対して消極的になるリスクがあります。

総選挙後に長期金利の上昇や円安に歯止めがかかる可能性

今後、ブレイクイーブン・インフレ率が大きく上昇することで長期金利が上昇する可能性は高くないと見込まれます。私は、衆議院選挙後に財政政策についての不確実性が低下する状況になれば、長期国債金利の上昇傾向はいったんストップし、それとともに、円安の動きも抑制されると考えています。

 

直近でのドル円レート乱高下と今後の介入効果

 2026年に入ってからドル円レートは上下に比較的大きく変動し、その動きはユーロやポンドなど他の主要通貨にも影響してきました(図表1、2)。比較的大きな動きが生じるきっかけとなったのが、読売新聞電子版が1月9日深夜に報じた、高市首相が衆議院の解散を検討しているというニュースでした。高い支持率を背景に高市首相が総選挙で勝利し、その結果として日本の財政規律が損なわれる可能性が意識される形で1月9日の欧米市場では円安が進行しました。その後、食品に対する消費税の税率を2年間にわたってゼロ%にする提案を検討していることを知らせる報道が出たことで、連休明けの13日の日本の金融市場では、株高に振れる一方、長期金利が上昇するとともに、ドルに対してさらに円安方向への動きが表面化しました。これに対して日本の財務省が口先介入を行ったことで円安の動きはいったん抑制される形となりました。

(図表1)年初来のドル円レートとその主たる変動要因
(図表2)年初来の対ドルでの円、ユーロ、ポンドの動き

 しかし、1月23日の日銀決定会合後の記者会見直後には、植田日銀総裁の発言がややハト派的と受け止められたこともあり、円安の動きが再度強まり、1ドル=159円をいったん超える事態となりました。しかし、その直後(日本時間で夕刻)、1ドル=158円程度までの比較的大きな円高の動きが生じました。金融市場においては、この動きは日本の財務省が為替介入を実施したためではないかという見方が浮上しましたが、1月30日に公表された財務省の発表によれば、2025年12月29日から2026年1月28日の間には為替介入は全く実施されなかったとのことです。

 その後、日本時間で1月23日の夜に、為替市場で非常に大きな動きがありました。ニューヨーク連銀がドル円レートのレートチェックをしたと報道されたのです。これは介入直前に実施されることが多いアクションですが、この報道が出たことで、「日米当局が協調して円安を食い止めようとしているのでは」という見方が市場で広がって急激な円高が進行し、ドル円レートは一気に1ドル=154円台に達しました。米国当局はドル安を容認しているとの見方から、ドルは対ユーロや対ポンドでも大きく下落しました。週明けの1月26日以降も主要通貨に対するドル安の動きは止まらず、ドル円レートは1ドル=152円台に至りました。

 1月28日になってベッセント米財務長官がCNBCとのインタビューにおいて、「米国はドル高政策をとっている」としたうえで、為替介入は「絶対にしていない」とコメントしたのは、短期的に過度のドル安の動きが生じていたことへの懸念に基づくものだったと思われます。この発言により、主要通貨に対するドル安の動きは反転し、ドル高の動きに転換しました。この動きをさらに強めたのは、1月30日にトランプ大統領がウォーシュ元FRB(米連邦準備理事会)理事を新しいFRB議長に指名したことでした。幾人かのFRB議長候補者のうちで最もタカ派的とみられるウォーシュ氏が指名されたことで、さらなるドル高の動きが進行しました。当レポートの執筆時点(2月4日午後)でも、ドル高の動きが続いています。

 ところで、今回の一連の動きを通じて、米国当局は日本当局と協調して円安に歯止めをかけることが、過度にドル安が進行するリスクをもたらしかねないことを学んだ可能性があります。米国当局が日本当局と協調したのは、過度な円安の動きが日本の国債市場に動揺をもたらし、日本の長期金利が大幅に上昇すると、米国の長期金利の上昇につながってしまうとの懸念があったためと思われます。米国当局によるレートチェックによってこうした懸念が現実化することは避けられたものの、急速なドル安の動きが生じたことで、米国当局は協調介入には副作用が伴うことを改めて認識することになったと思われます。この意味で、今後何らかの理由で再び大幅な円安が進行する場合、日米協調による介入の効果が低下する可能性があると考えられます

長期国債金利の上昇リスクになお注意

 円安ドル高の進行や長期国債金利の急騰の起点になったのは、高市首相の実施する「責任ある積極財政」政策が、日本の財政の維持可能性を損ねるかもしれないとの懸念でした。食品部分の消費税をゼロ%にする政策は、年間で5兆円(GDP比で0.8%程度)もの税減少につながるとみられ、自民党の公約通り2年間で終了しない場合には長期にわたる財政への悪影響の顕在化が予想されます。

 金融市場では、足元での長期・超長期金利の急騰が日本政府による利払い費を中期的に増加させ、それがさらなる財政赤字につながる面があることも、投資家の長期・超長期国債投資を慎重化させている可能性があると考えられます。今後、こうした懸念が強まって長期・超長期金利がさらに大きく上昇する場合には、現時点では日本株に対して前向きの投資スタンスを維持している外国人投資家が日本株投資に対して消極的になるリスクがあります。2月8日に投開票される衆議院選挙で与党の獲得議席が過半数に満たない場合には、野党を率いる立場になるとみられる中道改革連合が食品部分の消費税率の恒久的な撤廃を目指していることから、こうしたリスクが強まる可能性があります。

総選挙後に長期金利の上昇や円安に歯止めがかかる可能性

 一方、最近の長期国債金利の上昇が、日本の財政悪化による影響だけを反映しているわけではなさそうです。過去1~2カ月間の日本の10年国債金利の上昇は実質金利の上昇だけではなく、ブレイクイーブン・インフレ率の上昇による面もありました(図表3)。執筆時点(2月4日)では10年国債のブレイクイーブン・インフレ率は、1.832%であり、日銀がインフレ目標とする2%にかなり近づいてきました

 この意味で、今後、ブレイクイーブン・インフレ率が大きく上昇することで長期金利が上昇する可能性は高くないと見込まれます。私は、衆議院選挙後に財政政策についての不確実性が低下する状況になれば、長期国債金利の上昇傾向はいったんストップし、それとともに、円安の動きも抑制されると考えています

(図表3)日本:10年国債金利(名目・実質)とブレイクイーブン・インフレ率

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MC2026-016