グローバル・ビュー

トランプ政策の全体像から関税政策を理解する

Invesco Global View
要旨
アフォーダビリティー改善がトランプ政権の優先課題に

今年に入り、家計のアフォーダビリティー改善(家計の負担軽減)が、トランプ政権の経済政策の中心的課題として台頭してきました。トランプ政権がアフォーダビリティーを重視しているのは、各種世論調査における大統領の支持率がゆっくりと低下を続けており、直近では40%程度に達したこと(図表1を参照ください)が背景にあります。トランプ政権は、これまでに、住宅購入についてのアフォーダビリティーの改善などに取り組んできました。

トランプ政権はインフレに配慮した関税政策を講じる公算

直近での関税を巡る米国の新しい政策は、トランプ政権がアフォーダビリティーを重視する政策に注力しているという文脈でとらえる必要があります。トランプ政権は、150日後となる122条関税の期限切れまでに、別の法律に基づく関税を新規に組み合わせて調査・発動することで、IEEPAに基づく関税と同様の水準の関税収入を維持し、新たな関税策によるインフレ率の押上げを回避すると見込まれます。

市場の反応:米国では限定的。米国以外の一部市場ではプラスに

トランプ政権のアフォーダビリティー重視戦略をふまえると、インフレ率の上昇によって景気にダメージが及ぶような形で関税政策が遂行される可能性は低いと考えられます。実際、米国金融市場における米最高裁判決・新関税政策に対する反応は限定的でした。

 

アフォーダビリティー改善がトランプ政権の優先課題に

 今年に入り、家計のアフォーダビリティー改善(家計の負担軽減)が、トランプ政権の経済政策の中心的課題として台頭してきました。トランプ政権がアフォーダビリティーを重視しているのは、各種世論調査における大統領の支持率がゆっくりと低下を続けており、直近では40%程度に達したこと(図表1)が背景にあります。米国では、過去数年にわたるインフレ問題によって中低所得者層の不満が大きく、そのことが2024年大統領選挙におけるトランプ氏の勝利につながった面が大きいと考えられます。トランプ政権が実施した追加関税政策の影響もあって、米国の個人消費(PCE)デフレーターでみたインフレ率は2025年12月の段階でも前年同月比で2.9%と、FRB(米連邦準備理事会)が目標に掲げる2%を有意に上回る水準にあります。比較的高いインフレが続く中で、中低所得者の経済についての見方は、トランプ政権の望むような形で改善してきませんでした。今年11月に実施される予定の中間選挙では、上院では共和党が多数派を維持するとみられるものの、下院では共和党、民主党の二大政党による予想獲得議席が拮抗しており、その結果を予測することができない状況です。仮に下院で民主党が多数派の地位を奪還することになれば、トランプ大統領の政策遂行能力はかなり低下し、法改正を伴う規制緩和や財政面での重点政策(国防費の増額と非国防費の削減)の実施が困難となります。

(図表1)トランプ大統領の支持率の推移

 トランプ大統領が今年に入って打ち出してきたアフォーダビリティー改善策には、以下の3つが含まれます(図表2)。第1が、住宅購入についてのアフォーダビリティーの改善です。トランプ政権は、1月20日の大統領令により、大規模機関投資家による一戸建て住宅の取得を促進する政策を廃止する措置を政府関係機関が60日以内に講じるように指示しました。また、トランプ氏は、住宅購入の借入コストを下げるため、連邦政府機関が2,000億ドルの住宅ローン担保証券(MBS)を購入するよう指示しました。

 第2が、消費者金融分野でのアフォーダビリティー改善です。トランプ政権は、1月9日、クレジットカード(リボルビング払い)の金利を1年間に限り上限10%に抑制することを提案しました。

 第3が、「偉大な医療保険計画」です。トランプ政権は、1月15日、新しい医療保険制度についての枠組みを公表しましたが、そこで医薬品価格の大幅な引き下げ、医療保険料の引き下げ、大手保険会社の説明責任強化、などの政策を掲げました。トランプ政権は、これらの政策に注力していくとみられます。

(図表2)トランプ政権が提案した、家計のアフォーダビリティー改善政策
トランプ政権はインフレに配慮した関税政策を講じる公算

 直近での関税を巡る米国の新しい政策は、トランプ政権がアフォーダビリティーを重視する政策に注力しているという文脈でとらえる必要があります。2月20日、米最高裁は、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づいて米国が発動した相互関税や中国などに課していたフェンタニル関税を無効と判断しました。これに対して、トランプ政権は、通商法122条に基づき、全世界からの輸入品(一部を除く)に対して10%の追加関税を課すことを決定し、2月24日に発動しました(図表3)。トランプ大統領は、この122条関税の税率を15%に引き上げる意向を表明しています。これらの動きは、金融市場でおおむね想定されていた動きでした。

(図表3)米国:第2次トランプ政権下での追加関税策と今後の選択肢

 122条関税は、議会の立法上の承認なくしては150日間を超えて実施できないため、150日間に限定して実施されます。逆に言うと議会の承認さえ得られれば、150日を超えて122条関税を実施することは可能ですが、議会上院では、民主党が結束すれば、この122条関税を延長する法案の審議を妨害することが可能であることから、延長法案が成立する可能性は極めて低いと考えられます。

 トランプ政権は、122条関税の期限切れまでに、通商法301条、通商拡大法232条、通商法201条、1930年スムート・ホーリー関税法338条などに基づく関税を新規に組み合わせて調査・発動することで、IEEPAに基づく関税と同様の水準の関税収入を維持したいと見込まれます。というのは、仮に、IEEPA関税を大きく上回る関税額が徴収されることになると、米国のインフレ率が中間選挙前に上昇してしまい、家計のアフォーダビリティーが損なわれてしまう可能性が高まるためです。このような場合には、中間選挙戦を戦うトランプ政権にとっては逆風になってしまうでしょう

 一方、徴収関税額がIEEPA関税を大きく下回るようであれば、連邦政府の財政赤字が拡大してしまうリ可能性が高まり、財政悪化懸念によって長期金利が上昇するリスクが高まってしまいます。トランプ政権としては、こうしたリスクはとりたくないでしょう。

市場の反応:米国では限定的。米国以外の一部市場ではプラスに

 トランプ政権のアフォーダビリティー重視戦略をふまえると、インフレ率の上昇によって景気にダメージが及ぶような形で関税政策が遂行される可能性は低いと考えられます。実際、米国金融市場における米最高裁判決・新関税政策に対する反応は限定的でした。米最高裁の判決が出た2月20日には関税収入の減少による財政赤字の悪化が意識されることで、米国の長期金利がやや上昇するとともに、ドルが他の主要通貨に対してやや減価する状況となりました。しかし、その後、トランプ大統領が122条関税率を15%に引き上げるとの意向を表明したことで、週明けの2月23日には米債券市場・為替市場は共に落ち着きを取り戻しました。米国株式市場では、IEEPAに基づいて既に徴収された関税(全体で1,800億ドル程度と見込まれます)が無効となり、納付した企業が還付を受ける可能性が意識されたこともあり、株価はやや上昇しました。米国株式市場への全体的な影響は限定的でしたが、関税の枠組みが今後変更されることに伴い、セクターによっては関税の影響が強まったり弱まったりする可能性があります。この点には、今後、注意が必要でしょう。

 一方、米国以外の金融市場では、今後、122条関税率が15%に設定されるとの見方が強まったことで、現在これを上回る関税を課されている国・地域、例えば、インド、中国、ブラジル、インドネシア、南アフリカ、の株価や通貨にはおおむねプラス効果が及びました。もっとも、米国が、今後、別の関税によって過去と同率の関税の徴収を試みる可能性が高いことを考えれば、今回の一連の出来事が米国以外の市場に及ぼしたプラス効果は今後剥落する可能性が高いと考えられますが、その効果が個別セクターによって異なる可能性があることには注意が必要です。

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MC2026-026