新たな局面に入りつつあるグローバル金融市場
要旨
昨年秋より、市場の関心が米国のAI関連株からその他資産へとシフト
マグニフィセント7などのAI関連株に投資家の関心が集中する局面に変化の兆しが出始めています。昨年10月末ごろから米国のAI関連株がレンジ圏に入ったのに対し、非AI関連株や中小型株の株価は上昇しています。
米国以外の資産や貴金属への分散投資も進展
米国のAI関連株のレンジ圏入りに合わせて、米国以外の株式やドル以外の通貨、貴金属にも前向きの動きが広がっています。
パウエルFRB議長を刑事訴追する動きも分散投資を促進する可能性
1月11日にパウエルFRB(米連邦準備理事会)議長は、自らが米司法省による刑事事件の調査対象になっていることを公表したことは、グローバル金融市場を驚愕させました。今後の展開次第では、米国資産に対する信認が大きく損なわれる可能性が高まります。
分散投資のトレンドが維持されるかどうかは米国景気次第
私は、AI関連株から非AI関連資産への分散投資という現在進行中のトレンドが継続するかどうかは、米国景気次第であると考えています。
昨年秋より、市場の関心が米国のAI関連株からその他資産へとシフト
マグニフィセント7(以下ではMAG7と略記します)などのAI関連株に投資家の関心が集中する局面に変化の兆しが出始めています。昨年の10月末あたりまでは、米国のAI関連株が上昇基調を維持する一方、それ以外の銘柄の上昇は非常に限定的でした。しかし、AI関連株はその後レンジ圏に入ってきました。ブルームバーグ・マグニフィセント7株価指数の昨年10月末から直近(1月13日現在)までの騰落率はー0.4%にとどまりました(図表1)。MAG7の株価がレンジ圏に入ったのは、AI技術やデータセンターへの投資からの収益についての不透明感があるためであり、AI銘柄の中で選別が進んでいることが背景です。MAG7中、同期間に株価が上昇したのは、アルファベットのみであり、その上昇率は19.5%でした。
これに対して、ブルームバーグ大型株500指数(除くMAG7)の騰落率は、同期間で3.3%に達しました。この変化は、投資家がAI関連株を選別する動きを強める一方で、米国景気が想定外の力強さをみせてきたことを受けて非AI関連株への選好を高めてきたことによるものです。この期間中、S&P中型株400指数、S&P小型株600指数は、それぞれ、7.0%、7.5%上昇しました。米国株式市場では、過去2カ月強の間に非AI関連大型株や中小型株に物色が広がってきたことがわかります。
米国以外の資産や貴金属への分散投資も進展
米国のAI関連株のレンジ圏入りに合わせて、米国以外の株式やドル以外の通貨、貴金属にも前向きの動きが広がっています。昨年10月末から直近(1月13日)までの期間に、ストックス欧州600指数の上昇率は6.7%、TOPIX500指数の上昇率は7.8%を記録し、それぞれ、S&P500種指数の1.8%を大きく上回りました(図表2)。
日本株は高市首相が衆議院の解散を検討しているという読売新聞の報道(1月10日付け朝刊)で大きく上昇しましたが、これには、海外の投資家が米国株からの分散投資に取り組んでいることも寄与したと考えられます。また、同期間にブラジルやメキシコ、南アフリカ、インド、インドネシア、台湾などの新興国株が有意に上昇した点も、米国株からの分散投資の動きを反映していると思われます。
グローバル投資家による米国以外の地域への分散投資への取り組みは、為替市場にも影響しているようです。昨年10月末ごろを境に、ユ-ロやポンドが対ドルでの減価基調から、増価基調へと転換しました(図表3)。円の対ドルレートについても、昨年11月半ばごろから円安基調に歯止めがかかりました(直近の数日間で再び円安方向に振れているのは、高市首相による衆議院の解散報道という、日本独自の要因によるものです)。
貴金属市場をみると、銀価格やプラチナ価格が昨年の11月以降急騰してきたのは、米国のAI関連株のレンジ圏入り後、投資家が分散投資をすすめてきたことを反映しているとみられます(図表4)。金価格も上昇基調を維持してきました。
パウエルFRB議長を刑事訴追する動きも分散投資を促進する可能性
1月11日にパウエルFRB(米連邦準備理事会)議長は、自らが米司法省による刑事事件の調査対象になっていることを公表するとともに、それが政治的な動機に基づくものであるとしてトランプ政権を批判する動画を公表しました。この驚くべき事態に対して、金融市場では、驚愕の声が広がるとともに、FRBの独立性が今後さらに脅かされる場合には、必要とされる水準よりも政策金利が低めに維持されることでインフレが加速するリスクが強く意識されました。
現時点では、米国債市場や米株式市場において目立った影響は観測されていないものの、今後の展開次第では、米国資産に対する信認が大きく損なわれる可能性が高まります。仮にFRBの独立性が損なわれるとの懸念が強まる場合には、期待インフレ率の上昇によって米国国債価格が下落したり、米国株が下落するリスクがあります。現状では事態は小康状態にありますが、既に米国外の投資家が懸念を強めていることをふまえると、本件が、上記でふれた米国外の株・債券や不動産、金などの貴金属への分散投資を促進する可能性があることに留意したいと思います。
分散投資のトレンドが維持されるかどうかは米国景気次第
私は、以上でふれたAI関連株から非AI関連資産への分散投資のトレンドが継続するかどうかは、米国景気次第であると考えています。今年は米国景気がゆるやかに加速すると予想され、そのシナリオ通りであれば、業績拡大への期待を背景とした非AI関連株や、日本・欧州・新興国など米国以外の株には株価上昇圧力が働くと見込まれます。また、将来の業績に対する期待感を高めた個別AI関連株の株価も上昇すると予想されます。
しかし、米国景気が何らかの理由で下振れる場合には、業績悪化が懸念される形で非AI関連株への選好は高まらず、中長期的な視点で企業収益の成長が見込めるAI関連株全般への期待が相対的に強まるうえ、米景気悪化のグローバルな波及が意識されることで、米国以外の株式への分散投資の勢いが低下する可能性が高まります。米国景気には、足元で雇用の伸びが鈍化していることもあり、今年後半にゆるやかに加速する前の段階で一時的に減速するリスクが残っています。このリスクが顕在化する場合には、分散投資の流れがいったんは止まり、その後、米国景気の加速が視野に入ってくるタイミングで分散投資のトレンドが強まることになるでしょう。
MC2026-007