欧州バンクローン市場、月次アップデート 2022年10月
2022年9月の欧州バンクローン市場は、相対的に高く安定したインカムがプラスに寄与したものの、価格変動がマイナスとなったことから、月間トータル・リターンはマイナスとなりました1
Credit Suisse Western European Leveraged Loan Index(以下「CS WELLI」または「指数」)の2022年9月のトータル・リターンは-3.39%となり、内訳は価格変動が-3.81%、金利収入が+0.41%となりました。年初来のリターンは-6.04%となっています1 。
9月の欧州および世界の金融市場は、マクロ経済の成長鈍化を背景に、リスク資産全体が売られる展開となりました。CS WELLIのリターンは、S&P500指数(-9.3%)やストックス欧州600指数(-6.6%)を上回りました1、2。
以下の3つのマクロ経済の変動要因が、金融市場に大きな影響を与えています。
(1) ユーロ圏のインフレ率が約10%と高止まりしていること。
(2)不安定なガス供給のため、ガス価格が高騰していること(ウクライナ紛争以前の約5~10倍の価格水準となっています)。ただし、欧州では、気候が穏やかであることに加え、産業界の代替エネルギーの利用増加や消費者のガス節約で必要なガス貯蔵量が保たれていることなどを背景に、ガスが配給制となるリスクは減少しています。
(3) 各国中央銀行が、積極的な金融引き締め政策を継続していること。欧州中央銀行(ECB)は政策金利を0.75%引き上げました。インフレ抑制と経済成長のバランスを図るため、年内もさらなる利上げが予想されています。9月末のEURIBORは約1.1%まで上昇し、変動金利であるバンクローンの投資家にとっては、クーポンが上昇して有利な状況となりました。
かかる状況下、9月のバンクローン新規発行額は、2022年4月以降では最大の発行額となる45億ユーロとなったものの、前年同月の105億ユーロを大幅に下回りました。新規発行のバンクローンは、EURIBOR+500bp前後の水準で、価格は90台前半での発行となっており、投資家の需要は概して高いものとなっています。
9月のCLO新規発行市場は、6件で約22億ユーロの新規発行と比較的堅調に推移し、バンクローンの発行市場および流通市場の需要を支えています。一方、CLO取引額は2021年の半額程度となっています。また、新規発行CLO(AAA格)のスプレッドは、EURIBOR+200bp程度となっています。この水準でのCLO裁定取引は困難ではあるものの可能であり、殆どの運用会社は流通市場のローンに注目しつつCLOを発行しようとしています。
月末のCS WELLI の額面価格合計(市場規模)は約4,150億ユーロとなり、前月比0.1%増加、年初来で7.1%増加しました1 。
リターン
9月のCS WELLIのセクター別リターンは、全てのセクターがマイナス・リターンとなりました。マイナス・リターンの中で比較的高いパフォ-マンスとなったセクターは、エネルギーの-0.88%でした。最も低いパフォーマンスとなったセクターは、ゲーム/レジャーの-6.40%、続いて食品・製薬の-5.28%、不動産の-4.41%でした 1。
格付け別では、9月は「BB」格が-2.27%と最も高く、次いで「B」格が-3.73%、「CCC」格が最も低い-7.60%となりました1。
9月末におけるCS WELLI構成銘柄の平均価格は、前月末比3.30ユーロ下落して90.23ユーロとなりました1。CS WELLIの3年ディスカウント・マージンは7.28%で、前月末比+1.33%と大幅に拡大しました1。
9月のクレディ・スイス欧州ハイ・イールド債券(Credit Suisse Western European High Yield)指数は-4.22%のリターン(年初来では-15.80%)となり、スプレッド・トゥ・ワーストは6.57%となりました3。
ファンダメンタルズ
各国の中央銀行は、積極的な金融引き締め政策を継続しています。9月8日には、欧州中央銀行(ECB)が0.75%の利上げを行い、21日には米連邦準備制度理事会(FRB)も0.75%の利上げを行いました。ECB政策理事会は、「需要を抑制し、インフレ期待の継続的な上昇リスクを回避するため、さらなる利上げを実施するだろう」と伝えました6。ラガルドECB総裁は、「利上げは今回を含めて今後2回超、しかしおそらくは5回未満」との見通しを加えました7。ECBはユーロ圏でのインフレ率の見通しについて、2023年は+5.5%(6月時点では+3.5%)、2024年は+2.3%(同+2.1%)と上方修正しました。また、2023年のユーロ圏の経済成長率を+0.9%(6月時点では+2.1%)と下方修正し、「2022年後半から2023年1ー3月期にかけて、景気が鈍化するだろう」と伝えました5。
9月のユーロ圏のインフレ率(速報値)は上昇し、購買担当者景気指数(PMI/速報値)は悪化しました。ユーロ圏消費者物価指数(HICP)総合指数は、0.8%上昇して前年同期比10.0%の上昇となり、予想値を上回りました。コア指数も0.5%上昇して前年同期比4.8%の上昇となり、予想値を上回りました。総合PMI(速報値)は0.7ポイント低下して48.2と20カ月ぶりの低水準となり、3カ月連続で景気拡大・縮小の節目となる50を下回りました。サービス業PMIは0.9ポイント低下して48.9となり、19カ月ぶりの低水準となったほか、製造業PMIも1.1ポイント低下して48.5となり、27カ月ぶりの低水準となりました。景気先行指標では、サービス業と製造業の新規受注(輸出)が減少した他、未完成品受注残も減少しており、2022年10ー12月期の景気の弱含みが示唆されています。一方、製造業では供給納期が引き続き短期化しており、サプライチェーンの逼迫の緩和が示唆されています。雇用の伸びはプラスを維持し、9月は安定的に推移しました。今後1年のビジネスの見通しは、コロナ・ショック(2020年4ー6月期)以来で最も低い水準となっています。
ドイツは、ガス料金上限を設定するため、最大2,000億ユーロに及ぶ財政支出を発表しました。一部のエネルギー企業救済のために家庭のガス料金に課税する計画は中止され、政府が救済資金を負担をすることになると思われます。これらの政策は、電力料金上限を設定する計画(財源はガス以外の電力会社に対する超過利潤税)を含む650億ユーロの支援パッケージに追加されるものです。ドイツの経済成長のプラス要因となり、生活費高騰リスクを緩和すると見られていますが、景気刺激策全体の具体的な規模はまだ決定されていません。また、ガス価格上限規制の詳細はガス専門委員会で検討中であり、10月中旬までに明らかになると思われます。
オランダ天然ガス先物の期近物価格は、170ユーロ/MWhとなりました。気候の落ち着きやガス備蓄の充実などから供給不足懸念が和らぎ、ガス先物価格は3月及び8月に300ユーロ/MWhを超えた記録的な水準から5割以上低下しています。ドイツのガス貯蔵所の備蓄水準は、10月2日現在、ユーロ圏平均の88%を超え、また、過去5年平均をやや上回る92%となりました。ただ、この備蓄水準は、ドイツのガス年間消費量の約5分の1に過ぎないことからガス価格は高止まりしており、今後もその傾向が続くと思われます。国際エネルギー機関(IEA)によると、ガス需要が削減されず、ロシアからのパイプラインによるガス供給も完全に停止された場合、ユーロ圏のガス貯蔵量は2023年2月に20%未満になるとしています。
9月末現在、モーニングスター欧州レバレッジドローン指数における過去12カ月のデフォルト率(額面ベース)は0.43%でした4。過去平均は年3.06%です4。
脚注
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1
Credit Suisse Western European Leveraged Loan Index (CS WELLI)、ユーロ建てヘッジ付き、2022年9月30日現在。過去の実績は将来の成果を保証するものではありません。指数に直接投資することはできません。
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2
ストックス欧州600指数およびS&P500指数は、2022年9月30日現在。
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3
Credit Suisse Western European High Yield Indexはユーロ建て、2022年9月30日現在。
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4
Morningstar European Leveraged Loan Index。過去の平均デフォルト率は、2007年6月1日から2022年9月30日までを対象に集計しています。
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5
Pitchbook LCD (2022年9月30日付)を参照。
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6
欧州中央銀行(ECB)のプレスリリース(2022年9月8日付)を参照。
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7
欧州中央銀行(ECB)の記者会見(2022年9月8日付)を参照。
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