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欧州バンクローン市場、月次アップデート 2023年6月

欧州バンクローン市場、月次アップデート 2023年6月
2023年5月の欧州バンクローン市場は、相対的に高く安定したインカムがプラスに寄与するとともに、価格変動もプラスリターンとなり、月間トータル・リターンは+0.83%となりました
 

Credit Suisse Western European Leveraged Loan Index(以下「CS WELLI」または「指数」)の2023年5月のトータル・リターンは+0.83%となり、内訳は価格変動が+0.10%、金利収入が+0.73%でした1

ユーロ圏経済は比較的堅調に推移しています。ユーロ圏の2023年1-3月期の経済成長率は前期比+0.1%となり、通年ベースの予想値も引き続きプラス成長となっています。欧州委員会が、2023年の経済成長率見通しを従来の約+0.8%から+1.1%(2024年は+1.7%)に上方修正したのは、その一例です。加えて、インフレ率は引き続き低下傾向にあるものの、依然として高い水準で推移しているため、欧州中央銀行(ECB)の利上げ政策がすぐに休止される可能性は低いでしょう。

欧州バンクローン市場における新規発行は依然として低調に推移しています。5月は4億5,000万ユーロの新規発行があったものの、年初来の発行額は約100億ユーロにとどまっています。(前年同月の年初来発行額は約220億ユーロ)。新規発行市場では、条件変更・期日延長取引が引き続き主流となっています(発行体は償還日を延期し、より高いクーポンでの資金調達を継続します)。

新規発行ローンの直近3カ月の平均クーポンは、EURIBOR+468bp(一般的なローン価格は約95ユーロで、額面に対して5%のディスカウント)であり、ピークとなった2月のEURIBOR+498bpから、スプレッドはわずかに縮小しました。スプレッドがタイトになった背景には、新規ローンの供給不足と、毎月約10億~40億ユーロの新規発行を続ける新規CLO(下記参照)による旺盛な需要が継続していることがあります。

このような需給環境において 5月末のCS WELLI平均価格は0.21ユーロ上昇し、94.31ユーロとなりました。

新規発行ローンの最終利回りは、金融危機後の最高値である約8.9%(過去3カ月間の新規発行タームローンの平均値)前後の水準を維持しています。利回りの上昇は変動金利であるEURIBORの上昇によるものです。5月末にはEURIBOR(3カ月物)は3.5%近くまで上昇し、過去10年以上で最も高い水準で推移しています。

5月のCLOの新規発行額は6件で22億ユーロとなりました。5月末のCLOノート(AAA格)のスプレッドはEURIBOR+185~190bp前後となり、先月との比較ではほぼ横ばい、2月のEURIBOR+165bp前後の水準からは若干拡大しました。また、CLOの超過スプレッドがタイトで依然としてCLO裁定取引が成立しにくい状況が続いていますが、運用会社はこの機会を利用して95ユーロ前後の水準でCLOポートフォリオを構築することで、ローンの市場価格と償還価格との差異からの潜在なリターンを得ようとしています。

 

リターン:2023年5月

5月のCS WELLIのセクター別リターンでは、食品・製薬が+2.63%と最も高いパフォ-マンスとなり、続いてゲーム/レジャーの+2.57%、耐久消費財の+2.12%となりました。マイナスリターンとなったのは-1.24%となったメディア・通信のみで、今月は同セクターを除く全てのセクターがプラスリターンとなりました1

5月のCS WELLIの格付別リターンでは、「B」格が+0.87%と最も高く、 「CCC」格が+0.79%、 「BB」格が最も低い+0.26%となりました1。 

5月末におけるCS WELLI構成銘柄の平均価格は前月末比約0.21ユーロ上昇し、94.31ユーロとなりました1。CS WELLIの3年ディスカウント・マージンは5.64%となり、前月末比0.10%縮小しました1

5月のクレディ・スイス欧州ハイ・イールド債券(Credit Suisse Western European High Yield)指数は+0.59%のリターンとなり、スプレッド・トゥ・ワーストは5.21%、イールド・トゥ・ワーストは8.10%となりました2

 

ファンダメンタルズ

5月のユーロ圏総合インフレ率は、前年同月比+6.1%(前月比0.9%減。ピークとなった2022年10月からは4.5%減)に低下したものの、予想値をわずかに上回りました。総合インフレ率の主要な構成品目(食品、エネルギー、コア)はすべて低下しました。総合インフレ率が低下した主な要因は、低下幅のほぼ半分の寄与となったエネルギー価格の低下であり、また、食品価格も低下しました。重要な点は、コアインフレ率(前年同月比0.3%減の+5.3%)が2カ月連続で低下したことです。コアインフレ率の低下は財やサービスのインフレ率の低下によります。コンセンサス予想と比較すると、ドイツ、フランス、スペインのインフレ率が予想以上に低下した一方で、イタリアのインフレ率は予想ほどは低下しませんでした。

図表1:米国、ユーロ圏、英国のインフレ率推移
  • 欧州中央銀行(ECB)は5月の定例理事会で政策金利を0.25%引き上げ、3.25%としました。次回の定例理事会は6月15日に行われます。直近のインフレデータはECBにとって好ましいものと見られています。しかしながら、持続的にインフレの緩和が見られる環境になるまで、ECBは中期的に利上げを継続すると予想されています。実際、ほとんどの理事は今後も複数回の利上げが行われると話しています。
  • 4月のマネーサプライと銀行与信データからは、金融環境がタイトであることが示されました。一方、預金流出が加速する兆候が見られなかったことは明るい材料となりました。
  • 5月のユーロ圏製造業購買担当者景気指数(PMI)は、0.2ポイント上方修正されて44.8となりました。ドイツが上方修正(0.3ポイント上昇し43.2)される一方で、フランスが下方修正(0.4ポイント低下し45.7)されました。製造業は11カ月連続で縮小を示唆しており、経済成長を支え続けているサービス業とは対照的になっています。
  • ユーロ圏の雇用市場データによると、失業者数はさらに減少し(4月:3.3万人減)、ユーロ圏の失業率も前月比0.1%低下して歴史的な低水準となり、今後の賃金上昇圧力が懸念されています。
  • 5月末現在、モーニングスター欧州レバレッジドローン指数における過去12カ月のデフォルト率(額面ベース)は0.60%でした3。過去平均は年2.94%となりました3
指数のトータルリターン(%)

 

 

脚注

  • 1

    Credit Suisse Western European Leveraged Loan Index (CS WELLI)、ユーロ建てヘッジ付き、2023年5月31日現在。過去の実績は将来の成果を保証するものではありません。指数に直接投資することはできません。

  • 2

    Credit Suisse Western European High Yield Indexはユーロ建て、2023年5月31日現在。

  • 3

    Morningstar European Leveraged Loan Index。過去の平均デフォルト率は、2007年6月1日から2023年5月31日までを対象に集計しています。

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