欧州バンクローン市場、月次アップデート 2025年8月
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2025年7月の欧州バンクローン市場は、相対的に高く安定したインカムがプラスに寄与し、月間トータル・リターンは+0.49%となりました。
S&P UBS Western European Leveraged Loan Index (以下「S&P UBS WELLI」または「指数」)の2025年7月のトータル・リターンは+0.49%となり、内訳は価格変動が▲0.05%1、金利収入が+0.55%となりました。なお、年初来のトータル・リターンは+2.89%1となっています。
堅調なマクロ経済指標と安定的な欧州中央銀行(ECB)の金融政策に支えられ、7月の欧州のリスク資産市場は、引き続き堅調な展開となりました。また、域内の財政拡大政策が好感されたと共に、地政学リスクが後退したことにより、引き続き、投資家心理は堅調な状態にあります。
欧州バンクローン市場は引き続き堅調であり、足元では額面以上の価格で取引されるバンクローンが増えてきています。特筆すべきは、正常債権であるB格のバンクローンが、EURIBOR+350bp程度でリプライスされ、ケースによってはさらに縮小したスプレッドで取引されるなど、発行体がより良い条件でリプライシング出来るようになっていることです。また、正常債権と不良債権の価格差が拡大していることを背景に、指数構成銘柄の平均価格は7月末で97.28となり、年初の97.69から若干低下しています1。スプレッドの縮小から、高格付けバンクローン価格は上昇傾向となる一方で、低格付けバンクローン価格は引き続き低迷しており、格付けや相対的な投資価値で投資対象の選別が進む状況となっています。
7月の欧州のCLO市場は、新規発行、リセット、リファイナンスを合わせ、過去最多となる40件が取引され、活況となりました。新規発行は20件で85億ユーロとなり、19件のリセット取引と1件のリファイナンス取引が成立しました2。年初来でのCLO新規発行額は89件、385億ユーロとなり、 386億ユーロとなる2021年からの通算の新規発行額と同水準で着地しました2。CLOの新規発行が増えることは、発行スプレッドの安定化に寄与するものの、新規発行とリセット取引の間に価格差が出てきていることにもつながっています。最上位のCLOノート(AAA格)のスプレッドは、平均で130bp前後と低位に推移している一方で、新規参入または実績の浅いマネージャーのCLOではより高いスプレッドが必要となっています。銀行の運用部門や日本の投資家からのCLO需要は引き続き旺盛で、地場の欧州の銀行からの関心も高まっています。
8月はバンクローン市場が低調になると見られ、CLOの組成が難しくなることから、7月に多くのCLOが前倒しで発行されました。通常、8月はCLO市場は閑散となりますが、CLO発行が完全に止まることはありません。足元では、欧州CLO市場で記録的な発行額となった勢いが続いています。一方、大量のCLO発行により、バンクローン市場では需要の高まりを背景とするテクニカルな価格上昇圧力が見られ、バンクローンの約半分はすでに額面より高い水準で取引されています。そのため、バンクローン市場の参加者が目標とする価格で購入することが難しくなっている状況です。
7月の新規発行バンクローンのパイプラインは堅調であったものの、過去最高となるCLO需要を満たすには不十分な水準となりました。新規発行が減少し、リプライシング取引の増加によってスプレッド縮小が目立つ今夏の米国市場に比べ、欧州バンクローン市場では相対的に魅力的なプライシングが提供されています。M&A(42%増)とリファイナンス(33%増)で活発な取引が行われ、バンクローン市場の厚みと勢いが際立っていることを背景に2、年初来のバンクローン新規発行額は44%増の728億ユーロに急増しました。
今後のバンクローン市場を展望しますと、パイプラインは61億ユーロに達していると見られます。その中で注目すべきは、KKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)によるスペクトリス社のMBO案件に対する、推定20億ポンドとなる資金調達案件が含まれていることです。また、今秋にかけては短期的な収益機会を探る取引がさらに増えるとともに、新規発行体であるレキット・エッセンシャル・ホームとユーベックスの取引が注目されています。7月以降、CLOは記録的な発行が続いており、CLO市場では足元トレンドとなっている取引(エクステンション、アドオン、配当)がさらに続く可能性があります。また、通常、市場が閑散となる8月も、リプライシング取引が行われる可能性があります。

リターン:2025年7月
- 7月のS&P UBS WELLIのセクター別リターンでは、メディア・通信が+1.48%と最も高いパフォ-マンスとなり、続いて食品/タバコ+0.73%、運輸の+0.67%となりました1。プラススリターンとなったセクターで最も低いパフォ-マンスとなったのは、林産品/パッケージングの+0.18%となりました1。また、マイナスリターンとなったセクターで最も低いパフォ-マンスとなったのは耐久消費財が▲0.48%、続いて化学の▲0.39%となりました1 。
- 7月のS&P UBS WELLIの格付別リターンでは、「B」格が+0.55%と最も高く、 「BB」格が+0.46%、「CCC」格が最も低い▲0.63%となりました1。
- 7月末におけるS&P UBS WELLI 構成銘柄の平均価格は、前月末比で0.04ユーロ上昇し、97.28ユーロとなりました1。同指数の3年ディスカウント・マージンは4.53%となり、前月末比で0.10%縮小しました1。
ファンダメンタルズ
- 7月のユーロ圏総合購買担当者景気指数(PMI、速報値)は、前月比0.4ポイント上昇し、市場予想(50.7)を上回る51.0となりました。これは、貿易・関税の不透明感が高まっているにもかかわらず、ユーロ圏経済の底堅さを示しています。7月のPMIの上昇を牽引したのはサービス部門で、前月比0.6ポイント上昇し、51.2となりました。一方、製造部門の生産指数は、前月比0.1ポイント低下し、50.7となりました。
- 7月のユーロ圏消費者物価指数(HICP、速報値)では、コア指数は予想の2.3%とほぼ同水準の2.29%となり、前月比0.02ポイント低下しました。また、サービス部門のインフレ率が低下したことで、コア財の上昇が相殺されました。7月の総合指数は0.03ポイント上昇し2.02%となり、市場予想を上回りました。
- 予想通り、欧州中央銀行(ECB)は、当月の定例理事会で政策金利を2.0%に据え置きました。政策文言は変更されませんでしたが、ラガルド総裁は「ECBによる利下げサイクルが終わりに近づいている」と述べ、今後の利下げに消極的な姿勢を示しました。同総裁はまた、6月時点で予想されたインフレ率の下振れや、経済成長の低下リスク予想については、それほど深く言及しませんでした。
- 米国が関税を課す期日が8月1日に迫り、主要貿易相手国の関税措置に関する発表がありました。欧州連合(EU)は、自動車を含むほぼ全ての商品に15%の関税が課税されることに合意した一方で、医薬品は除外し、鉄鋼とアルミニウムには現行の50%の関税を容認しました。またその一環として、EUは米国から7,500億ドル相当のエネルギーを輸入するとともに、6,000億ドルを米国に投資し、“膨大な量”の軍需品を購入することに合意しました。EUはまた、関税を掛けずに米国製品を輸入できる方策にも合意しました。一方、今後予定されている医薬品に関する232条調査の対象から、EUが除外されるかどうかについては混乱が見られ、今のところ両国からの対応は明確にはなっていません。また、EUと米国の貿易協定において、実効関税率が当初の1.2%から約16%へと大幅に引き上げられることが確認されました。
- 7月末現在、モーニングスター欧州レバレッジドローン指数における過去12カ月のデフォルト率(額面ベース)は0.70%でした3。過去平均は年率2.70%となりました3。
投資機会
資金調達コストの低下、関税の不確実性の低下、ユーロ圏経済の安定(おそらく緩やかな成長)はクレジット市場にプラスの影響を与えます。欧州バンクローンは比較的高いリスク調整後リターンを提供してきており、今後もその傾向が継続すると思われます(図2)。


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