マーケット・アップデート

欧州バンクローン市場、月次アップデート 2025年11月

2025年10月の欧州バンクローン市場 月次アップデート
2025年10月の欧州バンクローン市場は、相対的に高く安定したインカムがプラスに寄与したものの、月間トータル・リターンは▲0.20%となりました。
 

S&P UBS Western European Leveraged Loan Index (以下「S&P UBS WELLI」または「指数」)の2025年10月のトータル・リターンは▲0.20%となり、内訳は価格変動が▲0.74%1、金利収入が+0.54%となりました。なお、年初来のトータル・リターンは+3.09%1となっています。

マクロ経済指標が安定的に推移したこと、欧州中央銀行(ECB)が3会合連続で政策金利を2.0%に据え置いたことを背景に、10月の投資家センチメントは概ね良好に推移しました。インフレ率はECBの目標値付近で推移し、2025年7-9月期のGDP成長率は+0.2%と予想を上回る伸びを示し、ECBの慎重ながらも、楽観的な見通しは裏付けられました。全体的に堅調に推移している企業業績と、好調なCLOの新規発行がバンクローン市場を支えるテクニカル要因となりました。また、市場では欧州バンクローンの約55%が引き続き額面以上で取引されています。

バンクローン市場では二極化の動きが見られます。当月、複数のバンクローンが大幅なディスカウントで取引されたことが要因となり、指数構成銘柄の平均価格は約0.63ユーロ下落し、96.0ユーロとなりました。例えば、化学セクターのIneos社のバンクローン価格は明確な理由がなく下落しました。また、Ineos Quattro社のバンクローン価格は10月中旬までに93ユーロから82ユーロまで下落した後、一部が回復して87ユーロとなりました。同様に、欧州最大級のLBO案件の一つであるFlora Foods社のバンクローンも明確な理由がなく約93ユーロから94ユーロの間まで下落し、月末後に発表された良好な決算発表を受け、約96ユーロから97ユーロまで上昇しました。

バンクローンの価格差が拡大する背景には、CLO需要がバンクローン市場を大きく左右する、構造的かつテクニカルな複合要因が存在しています。CLOは80ユーロ未満やCCC格のバンクローンを購入できない制約があるため、バンクローン価格が当該水準を下回ると、バンクローン全体の需要に空白が生じます。こうしたバンクローンには積極的な買い手が存在しないため、通常、ディストレスト投資家や投機家が購入するまで下落を続け、大幅なディスカウントで取引されることが一般的です。さらに、市場がリスクを認識して過剰に反応することで、わずかなマイナス要因が発生しただけでバンクローン価格の急落を誘発することになります。CLOが低格付けまたはCCC格に対する需要が限られていることと相まって、リスク感応度が高まるほど、信用力に問題のある銘柄を中心に、より顕著な価格差が生じています。

9月に引き続き、10月のCLOの新規発行は堅調に推移しました。投資家の旺盛な需要に支えられ、CLOノート(AAA格)のクーポンは、引き続きEURIBOR+128bp~132bp前後のスプレッドとなっています。年初来の新規CLO発行累計額は530億ユーロに達し、前年同期比29%増となりました²。また、CLOのエクイティ部分への資金流入が好調なことを受け、CLOマネジャーも資金を拠出しています。ただし、正常債権のバンクローンのスプレッドが縮小したり、CCC格バンクローンの割合が増している点はCLOにとって懸念材料となりつつあります。

今後も欧州クレジット市場は総じて良好に推移すると見られるものの、投資対象を選別する傾向が高まってくると見られます。M&A関連取引や短期的なリターン獲得機会を追求するリファイナンス案件が増えてきているものの、信用スプレッドが縮小し、市場の構造が複雑化しており、CLOアービトラージの機会が減少する可能性があります。投資家は信用力やセクター選別に注力する一方で、流動性やテクニカル要因が過度に影響する市場環境への対応に注力しています。

図1 :バンクローン及びCLOの需給推移
リターン:2025年10月
  • 10月のS&P UBS WELLIのセクター別リターンでは、航空宇宙・防衛が+0.64%と最も高いパフォ-マンスとなり、続いて小売の+0.44%、運輸の+0.43%となりました1。また、マイナスリターンとなったセクターで最も低いパフォ-マンスとなったのは化学の▲2.10%、耐久消費財の▲1.64%、不動産の▲1.12%となりました1
  • 10月のS&P UBS WELLIの格付別リターンでは、「BB」格が+0.16%と最も高く、「B」格が▲0.10%、「CCC」格が最も低い▲2.29%となりました1
  • 10月末におけるS&P UBS WELLI 構成銘柄の平均価格は、前月末比で約0.63ユーロ下落し、96.00ユーロとなりました1。同指数の3年ディスカウント・マージンは4.86%となり、前月末比で0.17%拡大しました1
ファンダメンタルズ
  • 2025年7-9月期、ユーロ圏経済は4-6月期の+1.5%をわずかに下回ったものの、市場予想を上回り、前年同期比+1.3%の成長となりました。フランス、スペイン、オランダなどの底堅い内需が成長を支え、特に、輸出と家計支出が急増したフランスは顕著に拡大しました。ドイツとイタリアは横ばいだったものの、域内全体の景況感は改善し、2023年4月以来の最高水準に達しました。域外からのマイナス要因があったにもかかわらず、足元ではユーロ圏経済は潜在成長率に近い水準で成長しています。また、今後数四半期でドイツ経済は回復に向かうと見られています。
  • 欧州中央銀行(ECB)は、3会合連続で政策金利を2.0%に据え置きました。ECBは引き続き、定例理事会ごとに、経済指標に基づく金融政策を決定するスタンスを維持しています。インフレは現在十分に抑制されており、2026年から2028年にかけて目標値を下回って推移することが予想されています。経済成長は予想をやや上回り、景気後退リスクが低下していることから、ECBは12月の定例理事会でも、政策金利を据え置く公算が高いと見られます。
  • 10月末現在、モーニングスター欧州レバレッジドローン指数における過去12カ月のデフォルト率(額面ベース)は0.91%でした3。過去平均は年率2.67%となりました3
投資機会

GDPやインフレが安定的に推移すると予想されていることは、クレジット市場のサポート材料となります。欧州バンクローンは比較的高いリスク調整後リターンを提供してきており、今後もその傾向が継続すると思われます(図2)。

図2:安定資産のパフォーマンス
各資産の相対利回り
  • 1.

    S&P UBS Western European Leveraged Loan Index (S&P UBS WELLI)、ユーロ建てヘッジ付き、2025年10月31日現在。過去の実績は将来の成果を保証するものではありません。指数に直接投資することはできません。

  • 2.

    Pitchbook Data Inc. より、2025年10月31日現在。

  • 3.

    Morningstar European Leveraged Loan Index。過去の平均デフォルト率は、2007年6月1日から2025年10月31日までを対象に集計しています(除く、ディストレス債)。

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