欧州バンクローン市場、月次アップデート 2025年10月
2025年9月の欧州バンクローン市場は、相対的に高く安定したインカムがプラスに寄与したものの、価格は小幅に下落し、月間トータル・リターンは+0.43%となりました。
S&P UBS Western European Leveraged Loan Index (以下「S&P UBS WELLI」または「指数」)の2025年9月のトータル・リターンは+0.43%となり、内訳は価格変動が▲0.12%1、金利収入が+0.55%となりました。なお、年初来のトータル・リターンは+3.30%1となっています。
季節的な減速が予想されていた夏季を経て、9月のクレジット市場は再び活況さが見られました。欧州中央銀行(ECB)は、経済活動が堅調なこと、インフレ率が目標値の2%付近で推移していることなどを背景に、政策金利を据え置きました。これは事前の予想通りで、目立った影響はなく、堅調なマクロ経済指標、抑制されたインフレ、緩和的な金融政策によって投資家心理が支えられました。
投資適格とハイ・イールドの両社債市場では信用スプレッドが縮小し、ユーロ建て投資適格社債は約76bpまで、ユーロ建てハイ・イールド債券は約270bpまで縮小しました。欧州バンクローンのスプレッドは、わずか1bpの縮小にとどまったものの、3年ディスカウント・マージンはEURIBOR+4.69%という低水準となりました。
9月の欧州バンクローン市場では新規発行が顕著な伸びを示し、季節的に低調となった8月から大きく回復しました。引き続き、リファイナンスとリプライシングが取引の主流を占めたこと、堅調なCLO需要が維持されたことで2、需給バランスへの影響は限定的でした。B格バンクローンの平均利回りはさらに低下し、B/B2格の発行条件は、EURIBOR+375bpから+325bpへ縮小しました。地政学リスクや米国の関税政策の不確実性にもかかわらず、状況によっては、さらにタイトな水準でのリプライシングも見られました2。
CCC格バンクローンのパフォーマンスは相対的に軟調だったものの、投資家のリスク選好度は高く、バンクローン市場全体では堅調さが維持されています。セクター別には、化学や建設などの一部のセクターは停滞が続いた一方、ヘルスケアやサービスなどのセクターが新規発行を牽引しました。バンクローン市場は、引き続きCLOマネジャーによる需要が下支えしていますが、スプレッドが縮小していることにより、魅力的な好条件のバンクローンを調達することが一層困難になりつつあります。
欧州CLO市場については、9月も堅調となり、新規発行額は本年最高となる6億1,500万ユーロ(通常は約4億ユーロ程度)となりました。この新規案件には25社の投資家が参加し、11社がAAA格に参加しました2。2本の最上位のCLOノート(AAA格)のクーポンは、EURIBOR+130bp~135bp前後のスプレッドを提供しています。リセットおよびリファイナンスの流れは継続しており、CLOの大部分が年末までにコール(期限期前償還)が可能となっています2。CLOマネジャーは、新規CLO組成の収益性が低下してきている環境下、リプライシングやアービトラージ(リターン獲得)機会を維持するため、積極的にポートフォリオの見直しを進めています。
欧州のクレジット市場は引き続き堅調に推移すると見られますが、選別した投資が重要となります。
緩和的な金融環境と良好な企業ファンダメンタルズを背景に、M&A関連での新規ローン組成や短期的なリターン獲得機会を追求するローンのリファイナンス案件も増えつつあります。CLOマネジャーは引き続き積極的なスタンスを維持しており、バンクローンの需要も持続すると予想されます。しかしながら、信用スプレッドの縮小が、アービトラージ(リターン獲得)機会にブレーキをかける可能性があります。足元ではフランスとドイツの政治的な不透明感の高まり、関税問題の長期化など、マクロ経済に対するリスクが依然として懸念材料となるものの、投資環境は概ね良好と考えられます。また、投資家はクレジット・クオリティとセクターの選別をさらに重視しています。
リターン:2025年9月
- 9月のS&P UBS WELLIのセクター別リターンでは、ゲーム/レジャーが+1.26%と最も高いパフォ-マンスとなり、続いてメディア・通信の+1.09%、食品・創薬の+0.84%となりました1。また、マイナスリターンとなったセクターで最も低いパフォ-マンスとなったのは運輸の▲3.03%、続いて林産品/パッケージングの▲0.62%、化学▲0.33%となりました1 。
- 9月のS&P UBS WELLIの格付別リターンでは、 「BB」格が+0.47%と最も高く、 「B」格が+0.39%、「CCC」格が最も低い▲1.47%となりました1。
- 9月末におけるS&P UBS WELLI 構成銘柄の平均価格は、前月末比で約0.02ユーロ上昇し、96.63ユーロとなりました1。同指数の3年ディスカウント・マージンは4.69%となり、前月末比で0.01%縮小しました1。
ファンダメンタルズ
- 購買担当者景気指数(PMI)が大幅に回復:9月のユーロ圏総合PMIは51.2に上昇し、3カ月連続で拡大、2024年中旬以降で最高水準に達しました。特に、ドイツのPMIはサービス部門が上昇し、製造部門も安定したことで、16カ月ぶりの高水準で着地しました。これは、欧州最大のユーロ圏経済が拡大傾向であることを示唆しており、地域全体の景況感にとって好材料となっています。域内全体で見ると、製造部門には相対的な軟調さが残るものの、特にスペインとイタリアではサービス部門の回復が続いています。また、企業が雇用に慎重な姿勢を維持しているにもかかわらず、新規受注と生産高がバランスされ、景況感見通し(+1.6ポイント上昇の59.4)は改善すると予想されています。
- 抑制されたインフレ:サービス部門に牽引され、コア・インフレ率は前年同期比+2.35%と小幅に上昇したものの、前月比ではベース・インフレ率が0.14%に鈍化し、インフレの減速傾向が示されました。総合インフレ率はECBの目標値に近く、インフレ動向はECBの予測と一致しており、経済成長を損なうことなく物価が安定していることを示唆しています。
- ECBは政策金利を2%に据え置き、「適切な水準にある」と表明しました。定例理事会ごとに政策金利を決定する柔軟な方針を堅持しており、追加利下げが行われた場合、域内需要をさらに下支えすることになると思われます。
- 経済成長見通しは短期的に安定:2025年7−9月期の経済成長率は年率換算で約1%で推移しており、このペースは同10−12月期まで持続すると予想されます。製造や輸出部門を中心に中期的な課題は残るものの、サービス部門が主導し、消費者需要が回復することで域内経済はソフトランディングすると見られます。国別の格差は残るものの、スペインとイタリアは引き続き他国を上回り、また、ドイツの回復もポジティブな材料になると見られます。
- 労働市場と景況感は慎重ながらも改善傾向:雇用PMIは、採用活動が慎重になっていることを反映し小幅に低下したものの、引き続き緩やかな雇用増を示唆しています。各企業は外部環境の変化に適応しているため、景況感が上昇することで楽観ムードに回復していることを示しています。労働市場が回復することで堅調な経済成長が維持され、消費や広範な景気回復を支えています。
- 9月末現在、モーニングスター欧州レバレッジドローン指数における過去12カ月のデフォルト率(額面ベース)は0.91%でした3。過去平均は年率2.68%となりました3。
投資機会
GDPの見通しは安定しており、クレジット全体市場を下支えしています。欧州バンクローンは比較的高いリスク調整後リターンを提供してきており、今後もその傾向が継続すると考えています(図2)。
G2025-10-010
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