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欧州バンクローン市場、月次アップデート 2025年9月

2025年8月の欧州バンクローン市場 月次アップデート
2025年8月の欧州バンクローン市場は、相対的に高く安定したインカムがプラスに寄与したものの、月間トータル・リターンは▲0.03%となりました。

S&P UBS Western European Leveraged Loan Index (以下「S&P UBS WELLI」または「指数」)の2025年8月のトータル・リターンは▲0.03%となり、内訳は価格変動が▲0.53%1、金利収入が+0.50%となりました。なお、年初来のトータル・リターンは+2.86%1となっています。

マクロ経済指標には堅調さが見られるものの、一部のクレジット・セグメントでは調整の兆しも出ており、8月の欧州リスク資産市場は上昇基調が一服する展開となりました。継続的な財政政策、インフレ圧力の緩和、地政学的リスクの安定などに支えられ、全体としては引き続き良好な環境が維持されていますが、市場のトーンには微妙な変化が生じています。また、欧州中央銀行(ECB)による一連の利下げは、クレジット市場に対してポジティブな影響をもたらしてきましたが、そのペースはやや鈍化しています。

かかる状況下、欧州バンクローン市場は4月以来の下落となりました。低格付けバンクローンのパフォーマンスが不振であったことが要因となり、 8月末の指数構成銘柄の平均価格は96.61となり、前月比約0.67ユーロ下落しました。CCC格バンクローンのリターンが▲4.02%であった一方、BB格は+0.54%となりました。このように、格付けによってパフォーマンスが乖離する背景には、投資家のリスク感応度が高まっていることが考えられます。特に、CLOマネジャーは、CCC格のCLOバスケット価格が上昇傾向であることを受け、“CCC格”のエクスポージャーを削減する方向で動いています。また、バンクローン投資家は、化学や建設などの景気敏感セクターが他セクターと比べ、特に軟調であることを認識しており、当該セクターの回復には、より時間を要すると見ています。

8月の欧州バンクローン市場での新規発行額は、季節的な減速が予想されていたこともあり、前年同月とほぼ同水準の10億ユーロを下回る水準で着地しました。バンクローン市場全体で当月は軟調さが見られたものの、これら新規発行はCLOマネジャーや機関投資家による継続的な需要に支えられ、バンクローン価格はおおむね安定的に推移しました。新規に発行されたバンクローンの利回り(3カ月移動平均)は足元約6.0%で推移しています。また、通常のB2格/B格のバンクローンの発行条件は、EURIBOR+350bpにオリジナル・イシュー・ディスカウント(OID)を加えた水準となっています。

記録的な発行水準となった7月同様、8月の欧州CLO市場は活況さが維持され、新規発行額は13億ユーロに達しました。最上位のCLOノート(AAA格)のスプレッドは130bp前後となり、わずか数週間前の130bp台半ばから、若干ですが、一段と縮小しました。また、リセットやリファイナンスは高水準を維持すると予想されます。その背景として、欧州のCLO全体の90%が2025年末までにコール可能となっていること、45%が再投資期間の終了を迎えること、さらには足元はリセットやリファイナンスに適した市場環境が整っていることが挙げられます。

CLO市場において注目すべきは、欧州の中堅企業(ミドルマーケット)のセグメントが着実に成長していることです。2025年は既に2件のディールが組成され、一部が英ポンド建てで、スタティック型(組成後に資産の入れ替えを行わない)ポートフォリオで構成されており、エクイティ投資家にとって魅力的なアービトラージ(リターン獲得)機会を提供しています。このように、欧州におけるCLOのストラクチャリング手法は多様化しています。

一方で、欧州バンクローン市場ではパフォーマンスが良好なローンのスプレッドが縮小しており、ここ数カ月間、CLOマネージャーが目標とするエクイティリターンを実現できる水準で資産を調達することが難しくなっています。その結果、新規CLO組成の収益性は低下しています。ただ、それでも、CLO証券に対する投資家の需要は依然として高く、マネージャーは組成を継続する姿勢を維持しています。したがって、アービトラージ機会の減少が進んだとしても、CLOの発行量やレバレッジドローンへの需要は、緩やかな減速にとどまる可能性があります。

9月以降、CLO市場は夏季の閑散期を脱し、再び拡大すると考えられます。新規案件のパイプラインには、既にM&A関連取引や短期的な収益機会を探るリファイナンス取引など、複数の案件が含まれています。

図1 :バンクローン及びCLOの需給推移
リターン:2025年8月
  • 8月のS&P UBS WELLIのセクター別リターンでは、非耐久消費財が+0.97%と最も高いパフォ-マンスとなり、続いて耐久消費財の+0.96%、小売の+0.80%となりました1。また、マイナスリターンとなったセクターで最も低いパフォ-マンスとなったのは林産品/パッケージングが▲3.64%、続いて化学の▲0.83%、ヘルスケアの▲0.15%となりました1
  • 8月のS&P UBS WELLIの格付別リターンでは、 「BB」格が+0.54%と最も高く、 「B」格が+0.21%、「CCC」格が最も低い▲4.02%となりました1
  • 8月末におけるS&P UBS WELLI 構成銘柄の平均価格は、前月末比で約0.67ユーロ下落し、96.61ユーロとなりました1。同指数の3年ディスカウント・マージンは4.70%となり、前月末比で0.17%拡大しました1
ファンダメンタルズ
  • 地政学的リスクと市場ボラティリティ:トランプ米大統領、プーチン露大統領、欧州首脳による会談を受け、ウクライナ紛争の沈静化期待が高まったことを受け、月央には市場心理が一時的に好転しました。停戦合意には至らなかったものの、紛争の好転期待を背景に、欧州の防衛関連株式や原油市場では価格変動が高まりました。
  • 欧州のソブリン債へ注目が集まる:バイルー仏首相が9月8日に信任投票を実施すると表明したこと、同国の財政安定化への懸念が再燃したことを受け、フランスのソブリン債に対し、市場参加者の注目が集まりました。ドイツとフランスの10年国債スプレッドは拡大し、フランス国債の利回りは、2003年以来初めてイタリア国債と同等の水準に近づきました。かかる状況下、欧州域内全体のソブリンリスクに対する懸念が高まっています。
  • 購買担当者景気指数(PMI)サプライズ: 8月のユーロ圏総合PMIは、15カ月ぶりの高水準となる51.1に上昇しました。製造部門が41カ月ぶりの高水準となり、総合PMIの上昇を牽引しました。製造部門では生産指数と新規受注が増加した一方、米欧貿易協定の影響を反映し、輸出と生産指数の見通しが軟調に推移しました。サービス部門では雇用と新規事業が改善したものの、同部門の景況感は低下しました。全体として、全部門で新規受注と雇用が増加した一方、景況感見通しは悪化しました。対米貿易が逆風となっていることや、景況感指数がまちまちであるにもかかわらず、これらPMIの水準は、欧州圏の2025年度GDP成長率が約1%に達するとの予測を裏付けています。
  • ECBの政策見通し:7月の定例理事会議事録によれば、同行の利下げに対する姿勢は、ラガルド総裁が記者会見で示唆したよりも、やや柔軟であることが示されています。9月に追加利下げが行われる可能性は低いものの、10月に再び利下げされる可能性は残っています。
  • 当月の欧州株式市場は小幅な上昇となりました。世界の経済指標が堅調に推移していることや、米連邦準備制度理事会(FRB)が利下げを容認する姿勢を示したことなどを背景に、ストックス欧州600指数は1.0%上昇しました。しかしながら、フランスの株式市場は相対的に弱く、フランスCAC指数は▲0.9%下落しました。
  • 8月末現在、モーニングスター欧州レバレッジドローン指数における過去12カ月のデフォルト率(額面ベース)は0.70%でした3。過去平均は年率2.69%となりました3
投資機会

関税の不確実性が低下し、GDPが安定的に推移すると予想されていることは、クレジット市場のサポート材料となります。欧州バンクローンは比較的高いリスク調整後リターンを提供してきており、今後もその傾向が継続すると思われます(図2)。

図2:安定資産のパフォーマンス
各資産の相対利回り
  • 1.

    S&P UBS Western European Leveraged Loan Index (S&P UBS WELLI)、ユーロ建てヘッジ付き、2025年8月31日現在。過去の実績は将来の成果を保証するものではありません。指数に直接投資することはできません。

  • 2.

    Pitchbook Data Inc. より、2025年8月31日現在。

  • 3.

    Morningstar European Leveraged Loan Index。過去の平均デフォルト率は、2007年6月1日から2025年8月31日までを対象に集計しています(除く、ディストレス債)。

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