インベスコの視点

戦術的資産配分:2023年3月号

Tactical Asset Allocation March 2023
予想を上回るインフレ率による市場心理の反転により、短期的には低成長、減速する環境に備えてディフェンシブなポジションに。ポートフォリオのリスクを軽減し、株式に対する債券のオーバーウェイト、新興国市場とシクリカル・ファクターをアンダーウェイト。

 

要約
  • 金融政策期待がターミナル・レート(利上げの終着金利水準)の上昇に修正されつつあります。市場センチメントはネガティブに反応し、短期的な成長見通しの下方修正を織り込んでいます。IISのフレームワークでは、成長率がトレンドを下回りかつ減速する後退期に移行しています。
  • グローバル戦術的配分モデル1 において、ベンチマークに対してリスクをアンダーウェイトし、株式よりも債券、新興国市場よりも先進国市場、ディフェンシブなセクターやファクターを選好します。ハイイールド債券、バンクローン、新興国債券よりも投資適格を選好し、米ドルのエクスポージャーをニュートラルとします。

 

マクロ・アップデート

直近のインフレ率は、金融引き締めサイクルの一時停止を正当化するのに十分な2~3%の範囲に速やかに戻るという考え方を払拭しました。個人消費支出(PCE)、生産者物価指数(PPI)、企業および消費者インフレ調査等の最新の米国インフレ統計はすべてコンセンサス予想を上回り、政策予測に著しい修正をもたらしました。フェデラル・ファンド金利は、年初に織り込まれた5%のピークに対し、2023年7月には5.40%に達すると予想されるようになりました。景気とインフレを減速させるために必要な資本コストの上昇を反映して、10年物実質利回りとブレークイーブン・インフレ予想が、直近1カ月でそれぞれ40bps、20bps上昇しました。実際、米国の個人消費と雇用は依然として著しい回復力を示しています。短期金利のリプライシングにより、逆イールドがさらに進み、長短金利差は100bps近くの逆イールドとなっています。同様に、市場は、欧州中央銀行(ECB)のターミナル・レート(利上げの終着金利水準)が2024年初めには2カ月前の予想より50bps高い4%に達し、ユーロ圏で過去最も高い政策金利となるとの予想が広がっています。全体として、インフレ率は2023年にかけて低下する可能性が高いものの、年初に予想されたほどの低下ペースではない可能性があります。米国のインフレ・モメンタムのバロメーターは依然としてインフレ圧力の低下を示唆していますが、直近のインフレ統計以降の低水準を下回っています(図表3)

市場センチメントはネガティブに反応し、金融引き締めサイクルの長期化と深さが今後の成長、収益、利益率に与える影響を反映していると思われます。直近1カ月間、シクリカルな資産はディフェンシブな資産をアンダーパフォームし、このリプライシングはすべての資本市場で一貫しており、グローバル株式は債券を、新興市場は先進国市場をそれぞれアンダーパフォームし、信用スプレッドは緩やかに拡大しました。米ドルも上昇し、年初来ですべての主要通貨を上回り、2022年10月に始まった4カ月間にわたるドル安トレンドが中断しました。リスク選好度の低下と、長期平均を下回る景気先行指標により、Invesco Investment Solutions(以下、IIS)のマクロレジーム(市場の局面)フレームワークは、2022年8月から11月にかけて示された後退期に再度戻りました。

欧州の経済指標は、消費者信頼感、在庫循環の改善、生産期待の高まりに牽引され、回復を続けています。米国の先行指標は、住宅および産業セクターの弱含みを示していますが、消費者心理の上昇によって一部相殺されているため、米国とその他の地域の景気循環の乖離を示す証拠が増え続けています。新興国市場の循環指標も、住宅や国際貿易が軟調に推移する一方で、消費者信頼感や企業調査、産業活動が上昇するなど、アジアを中心に直近1カ月で改善しました(図表1、図表2)
 

リスク選好度の低下と、長期平均を下回る景気先行指標の影響により、IISのマクロレジーム(市場の局面)フレームワークは、2022年8月から11月にかけてに示された後退期に再度戻ることになります。
図表1a:マクロ・レジーム認識が後退期に戻る

欧州の経済指標は、消費者信頼感、在庫循環の改善、生産期待の高まりに牽引され、回復基調が続いています。
図表1b:欧州は回復基調にあり、米国に対する循環的な乖離が高まっている

出所:ブルームバーグ、マクロボンド。Invesco Investment Solutions調査・試算。Invesco Investment Solutionsの独自先行経済指標。マクロ局面のデータは2023年2月28日現在。景気先行指数(LEI)は、経済成長の水準を示す独自の先行指標。グローバル・リスク選好度サイクル指数(GRACI)は、市場のリスクセンチメントを示す独自の指標。


直近1カ月において、シクリカルな資産はディフェンシブな資産をアンダーパフォームし、このリプライシングはすべての資本市場で一貫しており、グローバル株式は債券をアンダーパフォーム、新興市場は先進国市場をアンダーパフォームし、そして信用スプレッドは緩やかに拡大しました。
図表2:市場センチメントの逆転は、低成長・減速する環境を示唆

出所:ブルームバーグ、MSCI、FTSE、Barclays、JPMorgan、Invesco Investment Solutions調査・試算。1992年1月1日から2023年2月28日までのデータ。Invesco Investment Solutionsの独自先行経済指標。マクロ局面のデータは2023年2月28日現在。景気先行指数(LEI)は、経済成長の水準を示す独自の先行指標。グローバル・リスク選好度サイクル指数(GRACI)は、市場のリスクセンチメントを示す独自の指標。過去のパフォーマンスは、将来の運用成果を保証するものではありません。

全体として、インフレ率は2023年中に低下する可能性が依然として高いものの、年初に予想されたほどの低下ペースではない可能性があります。

全体として、成長率は依然として低く、減速する公算が大きくなっています。これは、住宅ローン金利の上昇や融資基準の厳格化に見られるように、金融政策の長期かつ可変的なラグが依然として経済に影響を及ぼしていることがその背景にあります。年初のリスク資産に対する急激なペースでの買い戻しや、失望的なインフレ報道は、労働市場の回復に伴うインフレ率の低下という楽観的なシナリオが否定され、センチメントが「少し行き過ぎた、早すぎた」可能性を示唆しています。

図表3a/b

出所:ブルームバーグ、2023年2月23日現在のデータ、Invesco Investment Solutions調査・試算。米国のインフレ・モメンタム・インディケーター(IMI)は、消費者物価や生産者物価、インフレ期待調査、輸入物価、賃金、エネルギー価格などの指標を対象に、過去3カ月間のインフレ統計の変化を測定します。プラス(マイナス)は、過去3カ月の平均でインフレ率が上昇(低下)していることを示します。

 
投資ポジショニング

低成長と減速が予想される環境を反映し、ポートフォリオをよりディフェンシブなポジションに変更しました。グローバル戦術的配分モデルにおいて、ベンチマークに対してアンダーウェイトのリスクスタンスに変更し、株式よりも債券、ディフェンシブなセクターやファクターを選好し、先進国市場に対して新興国株式をアンダーウェイトとしました。信用リスクをアンダーウェイト、デュレーションをオーバーウェイトし、ハイイールド債券、バンクローン、新興国債券に対し、投資適格債や国債を選好しました。米ドルに対する外貨エクスポージャーをニュートラルとしました(図4、5、6、7)。

詳細:

  • 株式では、バリュー株や中小型株などの景気循環的なエクスポージャーを取る代わりに、クオリティや低ボラティリティなど、営業レバレッジが低く、経済リスクへのエクスポージャーが低いディフェンシブ・ファクターを選好しています。同様に、金融、資本財・サービス、素材、エネルギーの代わりに、ヘルスケア、生活必需品、公益事業、テクノロジーなどのディフェンシブ・セクターを選好します。地域別では、リスク選好度が低下していることから、新興国をややアンダーウェイトとする一方、米国株式に対して先進国株式(除く米国株式)を引き続き選好します。
  • 債券では、世界的にリスク選好度が低下していることから、信用リスクを引き下げ、デュレーションをオーバーウェイトとし、投資適格債と国債を選好、バンクローン、ハイイールド債券、新興国債券などの高リスク・セクターをアンダーウェイトしています。インカム戦略は、実質・名目利回りが高水準にあり、スプレッドが過去の長期平均値であることから、特に株式との比較で魅力的な戦略を維持しています。投資家心理が一過性でデータに敏感に反応するような低成長環境では、投資適格債は5~6%の魅力的な利回りでディフェンシブなソリューションを提供します。IISでは、インフレ連動債に比べ、一般債を引き続き選好します。
  • 為替市場では、米ドルに対するアンダーウェイトのエクスポージャーを解消し、ニュートラルとしました。米ドルを下支えする金利差の拡大が、欧州のコンセンサスを上回る成長によるドル安圧力を相殺しています。先進国通貨では、ユーロ、英ポンド、ノルウェークローネ、スウェーデンクローナを、スイスフラン、日本円、オーストラリアドル、カナダドルと比較して選好します。新興国通貨では、韓国ウォン、台湾ドル、中国人民元などの低利回り通貨に対し、コロンビアペソやブラジルレアルなどの魅力的なバリュエーションで高利回りの通貨を選好します。

 

図表4:戦術的資産配分のポジショニング(相対比較)

出所:Invesco Investment Solutions、2023年3月1日。米ドル以外の通貨は、MSCI ACWIインデックスの通貨構成に代表される外国為替エクスポージャーで示されています。例示的目的のみ。

図表5:戦術的資産配分のポジショニング(ファクター)

出所:Invesco Investment Solutions、2023年3月1日。例示的目的のみ。ニュートラルとは、均等に加重されたファクター・ポートフォリオを指します。

図表6:戦術的資産配分のポジショニング(セクター)

出所:Invesco Investment Solutions、2023年3月1日。例示的目的のみ。独自のセクター分類手法に基づくファクターおよびスタイル配分から導き出されたセクター配分です。2022年11月30日現在。シクリカル:エネルギー、金融、資本財・サービス、素材。ディフェンシブ:生活必需品、ヘルスケア、情報技術、不動産、コミュニケーション・サービス、公益事業。ニュートラル:一般消費財・サービス。

図表7:戦略的資産配分のポジショニング(通貨)

出所:Invesco Investment Solutions、2023年3月1日。例示的目的のみ。通貨配分プロセスでは、外国為替市場における次の4つの要因を考慮します。1)世界の他の地域に対する米国の金融政策、2)コンセンサス予想に対する世界の成長率、3)通貨利回り(すなわちキャリー)、4)通貨の長期的なバリュエーション。

Footnotes

  • 1

    Global 60/40 benchmark (60% MSCI ACWI, 40% Bloomberg Global Aggregate USD Hedged). 

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