マルチアセット運用<対談> SAA、TAAとリスクバジェットの調和と柔軟性が重要
コロナ危機は、多くの投資家、資本市場に対して、上がるものは下がるということを、痛みをもって示しました。しかし、今回の市況急落に伴う損失は事前に予想可能で回避され得たものでしょうか?インベスコ・クオンツ・ストラテジー(IQS)(以下、弊社)のマーティン・コレップ博士とハラルド・ローレ博士に、弊社のポートフォリオ・インシュアランス戦略の仕組みとともに、今回の市況の急落局面で実際に機能したのかどうかについて、Risk&Reward編集部が聞きました。
Risk & Reward編集部
ポートフォリオ・インシュアランス戦略は、今回のコロナ危機で見られたような市場の大混乱時にも資産を守れる確実な方法でしょうか?
ハラルド・ローレ
確実な方法とは言えません。しかし、限られたリスクバジェットの中でポートフォリオを管理する上では効果的な要素だと考えています。
マーティン・コレップ
低金利環境が続く中、投資家は要求リターンを達成するため、よりリスクの高い投資を求めています。その一方でリスクバジェット自体は変わらないため、ポートフォリオのリスクの上昇に対しては適切に管理する必要があります。
ポートフォリオ・インシュアランスは既に実証済の手法ですが、求める結果を得られるかどうかは正しく活用できるか次第です。
Risk & Reward編集部
本編では、ポートフォリオ・インシュアランス戦略の構築方法が詳細に説明されています。主要ポイントについて概要を教えてください。
マーティン・コレップ
重要な点は、ポートフォリオ・インシュアランスは単なるオーバーレイ戦略ではないということです。求められるリスク・リターンを実現するためには、ベースとなる投資戦略における主要パラメータをポートフォリオ・インシュアランスの機能と調和させる必要があります。
ハラルド・ローレ
例えば、リスクバジェットが保守的であるのに対してベースとなる投資戦略のリスクが高すぎる場合、市場環境が落ち着いている局面では機能するかもしれません。しかし、時間が経過するにつれてヘッジメカニズムが頻繁に作動する可能性が高くなり、その結果としてベース投資戦略のリスクプレミアムへのエクスポージャーが大きく減少することとなります。
Risk & Reward編集部
所定のリスクバジェットが使い切られた場合、ポートフォリオはキャッシュロック(リスク資産への配分がゼロになった状態)になりますか?
マーティン・コレップ
その通りです。しかし、キャッシュロックに陥る事態は避けなければなりません。理想的には、ベースとなる投資ポートフォリオは、緊急時にポートフォリオ・インシュランスの介入を受ける以外、影響を受けないことが望ましいです。
ハラルド・ローレ
車を運転する際にシートベルトをするのと同じようなものです。通常時にはシートベルトをしていてもほとんど制約にならず自由に動けます。しかし、緊急なブレーキや衝撃があった場合、シートベルトはドライバーと乗客を座席に固定し、大きなケガにならないように守ってくれます。
Risk & Reward編集部
具体的に操作するパラメータはどれですか?
マーティン・コレップ
SAA、TAAの柔軟性、リスクバジェットの3つを調和させることが重要です。
ハラルド・ローレ
幅広い資産クラスに関する長期的な期待リターンを元に、SAAによる資産配分を構築します。また、資産配分の予測精度が高ければ、TAAによりSAAの資産配分から適切な乖離を行うことで、市況下落に備えることができます。ベストケースでは、ポートフォリオ・インシュアランスが介入する必要性も回避することができます。
マーティン・コレップ
しかし実際には、優れたエコノミストや計量モデルであっても、ヒット率が60%を超えることはめったにありません。このため、ポートフォリオ・インシュアランスはSAA、TAAに次ぐ第3の防衛ラインとして、所定のリスクバジェットを超えて資産が目減りすることを防ぐ手段といえます。
Risk & Reward編集部
SAA、TAA、リスクバジェットの3つの戦略はバックテストを使用して決定されますか?
ハラルド・ローレ
答えはイエスでありノーでもあります。過去に特定の戦略がどのように機能したのかを調べるのは興味深いことです。しかし、過去の状況と予測の精度によっては誤った結論につながる可能性があります。
マーティン・コレップ
例えば、単一のリスク・リターンデータによるバックテストでは、ヘッジ戦略がベースとなる投資戦略のリターンを上回っているように見えることがあります。しかし、実際のポートフォリオ・インシュアランス戦略では通常保険料が伴うので、平均的にはベースとなる投資戦略よりリターンが小さくなります。
ハラルド・ローレ
我々がポートフォリオ・インシュアランス戦略を測定する際に、過去のリターン経路のみを用いた分析に頼らない理由はこうした点にあります。弊社では何千もの代替シナリオの経路を用いてシミュレーションを行います。これにより、現実的な期待リターンを測定し、過去における異常に高いリターンを重視し過ぎて誤認するリスクを回避することができます。
Risk & Reward編集部
膨大なデータを用いたシミュレーションの結果を用いて、最終的に適切なポートフォリオ・インシュアランス戦略はどのようにして導き出されますか?
ハラルド・ローレ
所定の過去データによるバックテストのみでは、リターンとリスクに関する点推定を行うことしかできませんが、膨大なシナリオデータを用いてシミュレーションを行った結果は、リターンの予測分布に凝縮され、そこから確率に基づく分析結果を導き出すことができます。
マーティン・コレップ
例えば、リターン分布の非対称性を予測することができます。所定のリスクバジェット下でリターンのアップサイド・ポテンシャルがどの程度失われるか等を予測します。もしリターン分布がフロア近辺に集中することが示されたなら、ベースとなる投資戦略のリスクを下げるか、またはリスクバジェットの追加が必要となります。
ハラルド・ローレ
ポートフォリオ・インシュアランス戦略に内在している保険料は、ベース投資戦略とのリターン分布における平均リターンの差と比較して直接読み取ることができます。
マーティン・コレップ
ここまでお話しした分析は、我々がポートフォリオ・インシュアランス戦略を構築する上で重要であるのみならず、顧客がポートフォリオ・インシュアランスの仕組みを具体的に把握するのに役立ちます。戦略に対して現実的な期待を持って頂くことにも繋がります。
Risk & Reward編集部
従来型の過去データを用いたシナリオの分析とのアプローチの違いはどのような点ですか。
マーティン・コレップ
確かに過去データを用いたシナリオの分析は役に立ちます。しかし、新しく発生する危機には全て新規性があり、未知の要素をもたらします。そうでなければ、それは本当の危機とは言わないでしょう。
ハラルド・ローレ
過去データを用いたシナリオ分析のリスクの1つは、最も近い時期に発生した危機に対処することを重視し、過去のデータに過剰に適合するため、将来の危機へ対策としての堅牢性が低くなる可能性があることです。
マーティン・コレップ
さらに悪いのは、2008年の世界金融危機のような危機は比較的早く忘れられ、その後ポートフォリオをアグレッシブなものにしがちなことです。我々のアプローチは、世界金融危機のような、発生頻度は極めて低いものの極端なシナリオも含んだ、幅広くあり得る市場の変動要因を考慮にいれて判断するというものです。
Risk & Reward編集部
最近のコロナ危機に関連する市場の下落を予測することができましたか?
マーティン・コレップ
予測はしませんでしたが、市場下落の可能性については現実的にあり得ることとして考えていました。ここまで説明した枠組みにより、2019年に入ってからSAAをよりディフェンシブな資産配分とし、特に株式、石油、銅への投資を引き下げました。これらの引き下げは今回の危機を予測したことによるものではなく、純粋にシミュレーション結果から生まれたものです。
ハラルド・ローレ
各資産の長期リターンの予測を元に、我々のシミュレーションはポートフォリオの期待リターンが潜在的なドローダウンリスクに合うように調整される可能性が高いことを明確に示していました。
Risk & Reward編集部
今回の危機の前からSAAは比較的ディフェンシブであったわけですが、最終的に速やかにポートフォリオのリスクエクスポージャーを引き下げた要因は何ですか。TAAでしょうか、リスク予測によるものでしょうか。
マーティン・コレップ
リスク予測によるものです。今回の急激な市況調整を予測できたTAAモデルはほとんどありませんでした。ポートフォリオ・インシュアランス戦略におけるリスク予測が明らかに上昇したことが、投資エクスポージャーを急遽引き下げることにつながりました。
ハラルド・ローレ
これが、国際金融市場の特徴と相互依存性を十分に反映したリスクモデルを活用すべき、と考える理由です。我々が用いているCopula-GARCHモデルでは、投資ポートフォリオのテールリスクを精緻にモデル化し、投資エクスポージャーをダイナミックに管理することが可能です。
Risk & Reward編集部
リスクの見積もりが再び低下した場合、投資エクスポージャーは自動的に増えるのでしょうか?
マーティン・コレップ
その通りです。我々はSAAをディフェンシブにしていた上、市況下落に迅速に対応したことでキャッシュロックに陥ることから免れました。残りのリスクバジェットを用いてリスクの高い資産クラスへのエクスポージャーを高めることができます。
ハラルド・ローレ
リスクモデルはリスクの増加を迅速に知らせるだけでなく、その後の市場の落ち着きをできるだけ早く示すことが重要です。それがあって始めてその後の市況回復に確実に参加することができます。
マーティン・コレップ
我々の戦略は足下の危機において市場の平常化を捉え始めていますが、このまま回復が続くのか、現時点ではそれは明らかなものではありません。過去のケースでは、こうした危機の後の市況回復のペースは常にそれまでの下落ペースより緩やかなものでした。経済活動のシャットダウンが世界経済に大きな影響を与えたことを考慮すると、今回の局面も緩やかな市況回復となる蓋然性が高く、引き続きポートフォリオ・インシュアランス戦略の有効性は高いものと考えています。
Risk & Reward編集部
お時間ありがとうございました。
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C2020-05-190
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