IGSAMS 2023
インベスコ グローバル・ソブリン・アセット・マネジメント・スタディ 2023

テーマ4 次世代の開発ファンド

この10年で、新しいソブリン・ウェルス・ファンドが急増しました。
これらのファンドは大半が新興国で設立されていますが、中でもアフリカがホットスポットとなっており、2012年以降に設立された27のファンドのうち、11のファンドがアフリカで設立されています(図4.1)。

図 4.1 2012年以降に設立された新しいソブリン・ウェルス・ファンド

最新世代のソブリン・ウェルス・ファンドは、GDP成長、経済の多様化、エネルギー転換などを目的とし、開発に重点を置くのが一般的です。しかしこれらのファンドは、より実績のある他のグローバルなファンドと比較すると能力にギャップがあることが多く、こうしたギャップを埋めるため、多くのファンドがより経験豊富なファンドから学んだり、資産運用会社のスキルや知識を活用したりしようとしています。

他のソブリンとのパートナーシップ構築に不可欠なガバナンス

新興国を拠点とする新世代のソブリン・ウェルス・ファンドは、自身の能力を評価した場合に、一般的に、投資戦略、リスク管理、ガバナンス、運用能力など様々な主要分野で不足していると認識しているようです(図4.2)。同時に、多くのファンドは設立時に透明性とESGを中心に据えており、こうした面では、しばしばより実績のある他のファンドよりも先行しています。

図 4.2 能力の自己評価

今年の調査で話を聞いた新しいファンドのほぼ全てが、より実績のある他のファンドから学びたいとし、このプロセスにとって、ソブリン・ウェルス・ファンド国際フォーラム(IFSWF)のような組織が極めて貴重だと述べました。これらのファンドのうちの1つは、「投資のフレームワーク構築や業界のベストプラクティス理解のために、IFSWFと提携しています。

またインフラ、テクノロジー、ヘルスケアなどの分野への投資に関して、他のソブリン・ファンドとも協力しています。このようなパートナーシップは、新しい機会にアクセスし、他の組織から知見を得るのに役立ちます」と述べ、また別のファンドも、「私たちは、ガバナンスに関するIFSWFの「サンティアゴ原則」を採用し、目的の構築にあたって、より大きなソブリン・ウェルス・ファンドの支援を仰ぎました」と述べました。

より実績のあるファンドは、こうしたパートナーシップを発展させる上での、ガバナンスの重要性を強調しました。中東を拠点とするある開発ソブリンは、「新しいソブリン・ウェルス・ファンドが私たちにパートナーシップや外部投資を求めてきた場合、彼らのガバナンスが鍵となります。従業員による汚職や犯罪行為への関与などのレッドフラグを避けるよう注意しなければなりません」と述べました。

適切な目的の設定

ソブリン・ウェルス・ファンド全体では、半数超がマンデートに開発目的を有しており、中東に拠点を置くファンドではその比率が70%に達しています(図4.3)。より成熟した開発ソブリンは、伝統的に経済成長と多角化を優先してきており、中東を拠点とするある開発ソブリンは、「私たちの当初の目的は、非エネルギー分野における開発の推進でした。目標は、オルタナティブな分野で雇用機会を増やし、国の富を増やすことでした」と説明しました。興味深いのはこれらのファンドが成熟し始めるにつれ、その目的がしばしば移り変わり、今では多くのファンドが、技術開発やエネルギー転換の推進にも焦点を当てていることです。「私たちは、様々なテクノロジーのセクターと、それらにおける需給の状況に着目しています。ゲーム業界のように大きなミスマッチがある場合、私たちはナショナル・チャンピオンを作ろうと考えます」と、中東に拠点を置くある開発ソブリンは述べました。欧米に拠点を置く別の開発ソブリンもこの見方に同意し、「私たちは、現在第1の目的を技術開発に置いています。第2に重要な目的はエネルギー転換です。従って私たちは、グリーンで持続可能なエネルギーに向けた、再生可能エネルギーセクターへの投資を行っています」と述べました。

図 4.3 開発目的を有するファンド

新世代の開発ソブリンは、経済成長よりも、むしろ当初からエネルギー転換や、健康・教育などの社会的目的に重点を置く傾向がはるかに強く見られます(図4.4)。

図 4.4 ファンドの開発目的

莫大なエネルギー埋蔵量を持つわけではない多くの国のファンドには、(一部の中東市場に見られるように)地域経済の構造を根本的に転換するほどの財源がありません。その代わり、他の投資家から十分な投資を受けられなかったり、見過ごされたりしている可能性のある経済の重要な部分に投資が向くよう、支援したいと考えています。「私たちの使命はまず第1に、自分たちの地域のためになる社会経済プロジェクトを実現することです」と、新興国に拠点を置くある開発ファンドは明かしました。

 

これらのファンドの多くはまだ資本増強に重点を置いており、ファンドの目的を完全に正式に定めているわけではありません。このことは、新興国に拠点を置くファンドの回答者のうち9割近くが、開発目的を定義するのは困難だったと回答しており、うち4分の1が非常に困難だったと回答していることにも表れています(図4.5)。

図 4.5 拠点地域別のファンドの開発課題
図 4.5 拠点地域別のファンドの開発課題

長い歴史を持つファンドであっても、ファンドの具体的な目標はしばしば自然に定まってきたり、時とともに変化したりするものであることから、開発目的を明確に定義することは常に課題として挙げられています。目標がどうであれ、政府の優先事項との整合性をうまく取りつつ、将来的な政治的リーダーシップの変化にも耐えうる目的を設定することの重要性については、ファンドの意見が一致しました。より一般的に、政府の方針との齟齬は、長期的な開発目標を成功裏に達成する上で最大の障壁の1つと見なされています。

リターン目的と開発目的のバランスをとる

経済が発展するにつれ、開発に重点を置いて設立されたソブリン・ウェルス・ファンドにとっても、しばしばリターンの提供の重要性が増していきます。最初からこれら2つの目的に重点を置いて設立されたファンドもあり、欧米のある開発ソブリンは、「私たちの使命は商業的リターンを得ることですが、経済的インパクトを生み出すこともまた使命です。各投資が雇用者数や賃金、GDPへの貢献などの面で一定の便益をもたらすことが必要とされる一方で、私たちの全体的なパフォーマンスは、リターンによっても評価されます」と説明しました。

ファンドにとっては、常に整合的とは限らない競合する要求のバランスをとらねばならないことから、こうした2つの目的があることは、しばしば課題を引き起こします。開発目的を有するソブリン・ウェルス・ファンドの3分の1弱が、リターン目的と開発目的の間で齟齬が起きることがある、と回答しています(図4.6)。特筆すべきは、中東に拠点を置くファンドの83%がこのような齟齬を認識していることで、この地域は開発目的からリターン目的への移行が急速に進んでいる地域でもあります。

 

図 4.6 リターン目的と開発目的の間で齟齬が起きることがある

中東に拠点を置くある開発ソブリンは、こうした矛盾の一例として、現地の証券取引所におけるIPOの引受が難航した場合に介入を要請される可能性がある、と強調しました: 「大規模な機関投資家向けのトランシェがあり、市場が活発で流動性があることを示したい場合もあります。しかしこうした投資は、リターンの観点から見れば、必ずしも行ってはいないだろうという投資である可能性もあります」

この課題は、開発目的の数値化や測定が困難な場合が多いことから、さらに複雑化しています。この問題に関する透明性の確保は、信頼構築のために重要と考えられており、中東のファンドは、この点で自分たちがより苦戦する傾向にあるとしています(図4.2図4.5)。設立当初から透明性を確保することが、この課題を軽減する重要な方法と考えられており、欧米に拠点を置くある開発ソブリンは、このプロセスの一例として、「私たちは投資先企業へのアンケート調査によって、私たちの投資の経済的インパクトを追跡しています。そしてそれを報告書として公表しています。完璧ではなくとも、これは私たちが目的を達成しているかどうか確認する上で、重要なプロセスの一部となっています」と述べました。

能力のギャップを克服するためのパートナーシップの構築

課題克服のため、より新しいソブリン・ウェルス・ファンドのほとんどは、外部の資産運用会社を活用しています。資産運用会社は多くの場合、当初、導入前の保有資産の流動的部分の管理や、運営コストを賄うためのリターンの創出支援を求められます。しかしファンドの規模が拡大し投資ニーズが複雑化するにつれて、一般的に、より大きなレベルの支援を求められるようになります(図4.7図4.8)。

図 4.7 外部の資産運用会社との協働
図 4.8 ソブリン・ウェルス・ファンドが外部の資産運用会社と協働する方法

「私たちは外部の運用会社を活用し、自分たちの目標や目的に合ったポートフォリオの構築に役立てています。これには、分散投資や適切なヘッジ戦略の活用によるリスク管理も含まれます」と、あるアジアの投資ソブリンは述べました。

より実績のあるファンドからは、資産運用会社は、開発目的の達成を支援することにより貴重な役割を果たすことができる、と強調する声が聞かれました。これらの回答者は、外部の運用会社との関係構築が、地場の投資業界や資本市場の発展に役立っていると述べています。

その結果、追加投資の誘致や、資金源としてのソブリン・ウェルス・ファンドへの依存度の低下に役立っていると考えられています。興味深いのは、より新しいファンドについては、どうやらこうした機会をまだ認識していないようだということです。新興国に拠点を置くソブリン・ウェルス・ファンドのうち、目的に民間投資の促進を含めているとしたのは33%に過ぎなかったのに対し、中東に拠点を置くソブリン・ウェルス・ファンドでは、71%が含めていると回答しました。

この10年で新しいソブリン・ウェルス・ファンドが急増したことは、新興国の開発を実現する上で、こうしたファンドの重要性が高まっていることを浮き彫りにしています。ソブリン・ウェルス・ファンドの成功には、優れたガバナンスと適切な目的の設定が不可欠でしょう。課題は残るものの、他のソブリンや資産運用会社とのパートナーシップは、これらのファンドが能力のギャップを埋め、目標を達成するのに役立っています。

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プライベート・アセットに価値を見出す

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プライベート・アセットに価値を見出す

政府系ファンドは引き続きプライベート・アセットに魅力を感じていますが、パフォーマンス格差が、投資家により慎重な選択を促しています。インフラストラクチャー、特に再生可能エネルギーが選好するセクターとして浮上しています。債務指標を評価し、レバレッジに依存したリターンよりも持続的成長を優先させることは、投資の意思決定において不可欠な要素となっています。

将来に向けた資金調達:エネルギー転換を加速させるソブリン投資家の戦略

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将来に向けた資金調達:エネルギー転換を加速させるソブリン投資家の戦略

地政学的緊張の高まりと気候変動への懸念は、安全で持続可能なエネルギー供給網の必要性を際立たせ、再生可能エネルギーは投資家の最重要課題へと押し上げられています 。政府系ファンドや中央銀行は、グリーンインフラ投資やグリーンボンドを優先しています。

グリーンウォッシングの状況を理解して、 投資家は積極的な姿勢をとり、開発リスクを受け入れ、本当の意味でのESGとの整合性を確保するためにグリーンボンドを発行しています。

次世代の開発ファンド

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次世代の開発ファンド

ここ10年の間に、新進の開発政府系ファンドが続々と登場し、より強固な提携関係を築こうと積極的な動きを見せています。これらの新興ファンドは、エネルギー転換の促進や社会的目標の達成を支援することに重点を置いています。能力のギャップを埋めるために、外部の運用会社を利用するようになっており、今後も成長・成熟が進むにつれて、そうした専門知識への需要は高まっていくと思われます。

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