IGSAMS2026 インベスコ グローバル・ソブリン・アセット・マネジメント・スタディ2026
第14回インベスコ グローバル・ソブリン・アセット・マネジメント・スタディによれば、より複雑化する投資環境の中で、中央銀行およびソブリン・ウェルス・ファンドがレジリエンス、リターン、分散投資のバランスをどのように捉えているかに関して、根本的な変化が生じていることを浮き彫りにしています。
2026年初の出来事は、この問いに一層の緊迫感を与えました。ソブリン投資家はすでに、持続的なインフレ、貿易摩擦、慢性的な地政学的不確実性という環境下で運用を行っていました。さらに、グリーンランドを巡る米欧間の緊張、ウクライナ紛争の継続、中東での新たな紛争が、エネルギー安全保障、海上輸送ルート、貿易の脆弱性に対する懸念を一段と強めています。供給サイドのショックが、投資環境における常態的な要因となりつつあるとの認識が広がっています。
中南米の中央銀行の一つは、その影響を「エネルギーおよび輸送の観点から強いインフレ圧力をもたらすもの」と表現し、「投資家は“テールリスクが常に厚い”世界に入りつつある」と指摘しています。また中東の開発系ソブリン投資家も同様に、地政学的ショックが頻発する現在、それぞれの事象に応じてポートフォリオを都度再構築することは、一貫した長期戦略の維持を困難にすると述べています。
こうした状況を受け、レジリエンスに対するアプローチはより意図的かつ体系的なものへと変化しています。大半の回答者はすでにレジリエンスを重要な要素と認識しており、今後5年間でその重要性はさらに高まると見込んでいます(図表1.1、1.2参照)。
焦点もより実務的なものへと移りつつあり、ポートフォリオがどのようなショックに耐えるべきか、ストレス環境下でどのように機能すべきか、そして柔軟性を維持するためにどのようなトレードオフを受け入れるのかが、重要な検討課題となっています。
レジリエンスは、抽象的な概念ではなく、より実務的な観点で捉えられるようになっています。すなわち、長期的な資本の保全、テールリスクへの備え、そして短期的なショックを吸収する能力が、その中核を成しています(図表1.3参照)。アジア太平洋地域の投資目的型ソブリン投資家の一つは、レジリエンスを「打撃を受けてもポートフォリオ全体として崩れないこと」と表現しました。また欧州の債務対応型ソブリン投資家は、「予測するのではなく備えること」が基本的な考え方であると述べています。
こうした認識の変化は、ポートフォリオ構築にも影響を及ぼし始めています。単一のベースケースに依拠するのではなく、主要なソブリン投資家は、より幅広い経済、インフレ、地政学的シナリオの下でもポートフォリオがレジリエンスを維持できるかを検証しています。その実務的な対応として、流動性の確保、実物資産への配分、インフレ連動型資産への投資、さらには市場環境の変化に応じて資本配分を柔軟に調整できる能力への関心が高まっています。
もっとも、こうした取り組みの進展にはばらつきがあります。例えば、APAC地域の一部の大規模な投資目的型ソブリン投資家は、インフレ変動を最大の構造的リスクと認識し、名目債券中心の枠組みからすでに転換を進めています。
一方で、アフリカの流動性重視型ソブリン投資家は、「この問題を理解しようとしている段階だ。より頻繁で深刻な景気後退にどう対応すべきか、どのような変化が必要なのかを模索している」と述べています。この発言は、レジリエンスという目標自体は広く共有されているものの、それを実現するための投資規律は、なお構築途上にあるという現状を端的に示しています。
従来の分散投資への圧力は、とりわけ債券の役割の変化に顕著に表れています。これまで多くのポートフォリオ構築フレームワークの基盤となってきた株式と債券の相関関係は、回答者の間で疑問視されつつあります(図1.4)。
アジア太平洋地域のある債務対応型ソブリンは「債券は依然として有効ではあるものの、それだけですべてを解決できるわけではない」と指摘しています。また、欧州のある中央銀行は、相関構造の変化により従来の外貨準備運用モデルが時代遅れに感じられるようになっていると述べています。
複数の回答者は、現在の市場環境においては高格付けのデュレーション資産が、リスク資産下落時に期待される防御機能を安定的に提供していないと指摘しています。アジア太平洋地域のある投資運用機関は、債券がかつて担っていた「バラスト(安定装置)」としての役割を果たさなくなっていると表現し、ストレス局面においても、従来想定されてきたような相殺効果が得られない可能性を示しています。こうした背景のもと、過去5年から8年にかけて、多くの機関は実物資産への配分を拡大し、債券全体の比率を引き下げる動きを進めてきています。
これに関連して、株式の集中リスクに対する懸念も高まっています。インデックス中心のパッシブ戦略は、現在では少数の大型テクノロジー企業への大きなエクスポージャーを内包しており、複数の回答者が、広範な市場への投資によって得られると想定していた分散効果が実際に機能しているかを再検証していると述べています。欧州のある債務対応型ソブリンは、パッシブ型の投資ビークルを組み合わせることで、ポートフォリオ全体で見なければ把握できない集中リスクが見えにくくなる可能性があると指摘しています。
また、ラテンアメリカのある中央銀行は、市場ダイナミクスに関する関連する見解を示しています。同機関によれば、相関マトリクスを確認し、10年前と比較すると、すべての資産のボラティリティが高まっているということです。従来は安全資産とされてきた資産も、以前のように安定的な振る舞いを示さなくなっています。例えば金についても、投資家のポジショニングや資金フローの影響をより強く受けるようになり、純粋なインフレヘッジとしての信頼性は低下しています。その結果、同機関はより確実なインフレ耐性を求め、インフレ連動債へのシフトを進めていると述べています。
レジリエンスの追求方法は、マンデート(運用目的)や機関の構造(図1.5)によって異なるものの、共通する要件はストレス下において柔軟性を維持することにあります。
中央銀行の場合、これは主にオペレーション面で表現される傾向があり、具体的には流動性の確保、準備資産へのアクセスや地理的分散、さらには業務遂行能力(オペレーショナル・レディネス)といった要素が重視されます。一方で、ソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)においては、資産配分、実物資産へのエクスポージャー、そして長期的な投資目的を損なうことなくポートフォリオ調整を可能とするガバナンス体制といった形でレジリエンスが現れることが多くあります。
アジア太平洋地域のあるソブリン・ウェルス・ファンドは、複数の経済・インフレ・地政学的シナリオに対応可能なポートフォリオ構築を行っており、十分な流動性の確保とインフレ連動型キャッシュフローを生む実物資産への配分拡大によってこれを支えていると述べています。また別の同地域のソブリン・ウェルス・ファンドは、レジリエンスについて「ショック時にも投資方針から逸脱することなく持続し、ボラティリティを制約要因ではなく機会として活用できるよう、十分な流動性、ガバナンス、柔軟性を備えること」と定義しています。
特に、現在のポートフォリオ見直しにおいては、流動性が最も重要な論点として認識されています。一部の機関においては、柔軟性の追求がトータル・ポートフォリオ・アプローチ(Total Portfolio Approach)への関心を再び高めています。ただし、これらは単一のモデルとして一様に適用されているわけではありません。回答者の中には、戦略的資産配分に対する戦術的レンジの拡大を重視する方もいれば、より機動的な資本配分や、ポートフォリオ全体を横断した意思決定の強化、あるいは短期的なベンチマーク乖離ではなく長期目標に基づくガバナンス体制を重視する方もいます。
北米の債務対応型ソブリンの2機関は、このアプローチの魅力を端的に示しています。ある機関は、その目的を「より迅速な資本配分を可能にすること」と説明し、別の機関は「チームが厳格な目標に縛られず、より迅速に資産配分を変更できる余地が生まれること」を挙げています。しかしながら、こうした見方が普遍的というわけではなく、柔軟性の追求には説明責任という課題も伴います。欧州のある債務対応型ソブリンは異なる視点を提示しており、このアプローチは環境が良好な局面では有効に機能する傾向がある一方、厳しい年には外部からの監視が強まり、成果を測定するための明確な参照ポートフォリオが存在しない場合、パフォーマンスの説明が難しくなる可能性があると指摘しています。
一部の機関では、オペレーション面での対応がさらに広がりを見せています。複数の回答者は、米国拠点のカストディアンやカウンターパーティへの依存度を見直しており、場合によっては代替手段の検討を開始していると述べています。ラテンアメリカのある中央銀行は、「最悪のシナリオ」に備える目的で、米国外のカストディ関係を構築しているとし、「選択肢がない状況に陥ることは避けたい」と説明しています。また、欧州のある債務対応型ソブリンは、地政学的緊張の高まりを受けて既に対応を実施し、資産を米国外のカストディアンへ移管したとしています。
特に中央銀行においては、外貨準備をどこに保管するかは、もはや単なるオペレーション上の判断ではなく、戦略的なリスク選択としての側面を強めています。準備資産管理および通貨分散へのより広範な影響については、テーマ5で詳述しています。
レジリエンスは、ポートフォリオのモニタリング方法においても、より明確に反映されるようになっています。多くの機関にとって、集中度分析やシナリオ分析がレジリエンス評価の中核を占めるようになっています(図1.6)。もっとも、こうした定量的手法に加えて、定性的な判断も引き続き重要な役割を果たしています。アジア太平洋地域のある債務対応型ソブリンは、このプロセスについて、「単一の指標による評価ではなく、複数のツールを組み合わせて評価している」と説明し、とりわけ気候変動への移行といった長期リスクに対応するうえで、シナリオ分析が中核的な役割を担っていると述べています。
シナリオ分析への重視は一段と強まっています。欧州のある中央銀行は、市場や地政学的ショックが短期的には小幅な調整を促す可能性はあるものの、一般的に長期的な投資方針を覆すものではないと指摘しており、モニタリング・フレームワークが方針を堅持するための規律を提供していると述べています。多くの機関にとって最も大きな変化は、特定の資産配分の判断とは切り離して、ストレス環境をどれだけ厳密に事前想定し、継続的にトラッキングするかという点の高度化にあります。
エネルギーの安全保障およびエネルギー転換に関連するインフラは、真にポートフォリオの耐久性(レジリエンス)向上に寄与する投資テーマとして最も高く評価されています。これに、重要インフラや金融システムの安定性が続いています(図表1.7)。
これらの投資テーマに共通する魅力は、需要の持続性、インフレとの連動性、そして市場環境が悪化した局面でも維持されやすいキャッシュフローにあります。
北米のある債務対応型ソブリンは、「エネルギー安全保障が最も高いレジリエンス効果を持ち、これに重要インフラが続く」と述べています。
AIの進展も、これらの分野への需要を強化しています。中東のある開発型ソブリンは、「AIの波は非常に大きく、電力やデータインフラに対する需要を急増させている」と述べており、エネルギー分野および重要インフラにおける資本需要が段階的に大きく押し上げられていると指摘しています。
一方で、ソブリン資本そのものが国家のレジリエンスを支える役割を果たすべきかという点については、機関間で見解が分かれています(図表1.8)。ソブリン・ウェルス・ファンドは中央銀行と比較して、自らのポートフォリオをそのように位置付ける傾向があるものの、リターン追求との間には現実的な緊張関係が存在します。
特に開発型ソブリンにおいては、純粋な財務的観点だけであれば選択しない可能性のある国内インフラ、戦略産業、あるいはナショナル・チャンピオンへの投資が求められるケースも見られます。どの程度のリターンを犠牲にするのか、そしてその対価として何を得るのかは、依然としてこの分野におけるガバナンス上の難しい論点の一つとなっています。
ソブリン投資家は、自らのポートフォリオがどのような環境変化に耐え得るべきかという点について、以前よりも多くの時間を割くようになっています。分散、流動性、シナリオ分析、ストレス時におけるポートフォリオ構成などが、これまで以上に慎重に見直されています。
さらに、これまでポートフォリオの検討事項としてほとんど意識されてこなかった点、すなわち資産の保管場所、依存するカウンターパーティやカストディアン、そして地政学関係が悪化した場合にどのようにアクセスを維持するかといった論点も、重要な検討対象となっています。
ウクライナとロシアの紛争は、エネルギー、安全保障、財政負担に対する投資家の見方を変える契機となりました。また、2026年の中東における紛争は、供給面のショックが予測しにくい形で発生し、インフレや市場価格に急速に波及し得るという認識を一段と強めました。
このような環境の下で、レジリエンス対応が進んでいる機関に共通する特徴は明確です。すなわち、より幅広い現実的なシナリオを想定してポートフォリオを検証し、可能な限り流動性と柔軟性を確保するとともに、ストレス局面において機動的に対応するためのガバナンスおよびモニタリング体制を強化しています。そしてポートフォリオ管理の強化に貢献する中核的な構成要素として捉えられています。
第14回インベスコ グローバル・ソブリン・アセット・マネジメント・スタディによれば、より複雑化する投資環境の中で、中央銀行およびソブリン・ウェルス・ファンドがレジリエンス、リターン、分散投資のバランスをどのように捉えているかに関して、根本的な変化が生じていることを浮き彫りにしています。
レジリエンスは明確なポートフォリオ設計の目的へと位置付けられつつあり、機関投資家は分散投資の在り方を再考するとともに、ガバナンスにシナリオ分析を組み込み、さらに資産の保管場所やアクセス条件といった点にまで視野を広げています。
長期投資はますます重要性を増している一方で、実務上の維持は一層困難になっています。ガバナンス体制や流動性管理の規律が、長期投資を維持できる機関とそうでない機関を分ける重要な要因となりつつあります。
ソブリン投資家におけるETFの採用は着実に進んでいます。中央銀行は新たな資産クラスへの効率的な参入手段として活用する一方、ソブリン・ウェルス・ファンドは戦術的な柔軟性の確保やテーマ型投資へのエクスポージャー取得の手段として活用しています。
ソブリン投資家は総じてAIを構造的な変化と捉えており、インフラおよび生産性向上が主な投資機会として選好されています。また、内部での活用も、一定の統制のもとで着実に拡大しています。
持続的なインフレ、米ドルに対する懸念、そして地政学リスクの高まりを背景に、中央銀行は新たな資産クラスへの投資拡大や金の配分増加を進めています。また、分散投資への取り組みは、カストディやカウンターパーティのインフラにまで広がりつつあります。
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IM2026-116