インベスコ グローバル・ソブリン・アセット・マネジメント・スタディ 2026

テーマ4 AI:投資機会と投資ツール

IGSAMS 2026
ソブリン投資家の間では、AIが構造的に重要な意味を持つとの確信は強まっていますが、その見方が一つの明確な投資戦略に収れんしているわけではありません。現在、AIをめぐっては、投資家コミュニティの中で二つの異なる議論が同時並行で進んでいます。

AIは投資テーマとしては、生産性の向上、インフラ需要の拡大、産業競争の進展といった分野への投資機会を提供する一方で、ポートフォリオの集中リスクやエネルギー需要の増大、地政学的リスクを高める要因にもなります。一方で、運用ツールとしてのAIは、リサーチや情報の整理、レポーティングの分野に急速に浸透していますが、機密性やコントロールに対する懸念が、どこまで活用するかの判断に影響を与えています。

これら二つの議論は、2024年以降大きく進展してきましたが、その進み方には違いがあります。投資テーマとしてのAIは成熟が進み、ソブリン投資家は、どの分野に持続的な投資機会があるのか、また特定領域への過度な依存を避けつつどのように投資に参加するかに焦点を当てています。

一方で、運用ツールとしてのAIの活用はより広がりを見せているものの、姿勢は慎重です。多くのソブリン投資家が効率化や意思決定支援のためにAIを導入する一方で、投資プロセスの中でも特に機密性の高い領域については、より厳格なガバナンスやセキュリティ管理のもとに置いています。

確信は強いが、投資手法は定まっていない

ソブリン投資家は、AIの構造的な重要性については強い確信を持っていますが、それを最も適切に投資として取り込む方法については、まだ明確な答えに至っていません。

AIはソフトウェアやデータの領域にとどまらず、物理インフラ、エネルギーシステム、さらには国家の産業基盤へと広がっており、必要とされる資本も非常に大規模です。しかし、その確信を実際のポートフォリオに落とし込むにあたっては、限られた大型テクノロジー企業への集中を避けつつ、過度な地政学的依存を伴わない形で投資を行うことが求められ、単純な投資テーマから想定される以上に難易度が高まっています。

機会がリスクを上回るかという点については、ソブリン投資家の見方は明確に一方向に傾いています。AIをバブルと捉える見方は少なく、およそ半数は現在のバリュエーションを妥当とし、今後も拡大余地があるとみています。また、市場はAIの影響を十分に織り込んでいないと考える投資家もいます(図表4.1)。

図4.1 AIのバリュエーションに関する見方(%、ソブリン・ウェルス・ファンドのみ)

多くの投資家は、AIを長期にわたり成長に大きな影響を与える変革的な技術と評価しており、成長への寄与は限定的にとどまると見る回答はわずか2%に過ぎません(図表4.2)。

図4.2 AIのマクロ経済への影響に関する見通し(%、ソブリン・ウェルス・ファンドのみ)

APACのある中央銀行は、AIについて「真の構造的な市場変化である」と述べ、一部の市場で過度な資金流入が見られる一方、「AIの影響は生産性やビジネスモデルの変化として着実に広がっている」と指摘しています。
また、APACのある開発型ソブリンは、その資金規模の大きさに言及し、「AI投資の波は非常に大きく、世界経済に大きな影響を及ぼす可能性がある。その資金の多くは、大手テクノロジー企業の潤沢なキャッシュから供給されている」と述べています。
一方で、欧州のある債務ソブリンは、より慎重な見方を示しています。AI関連のバリュエーションは一部で割高であり、統合が進む過程で勝者が入れ替わる可能性があると指摘しつつも、同時にこの技術が産業革命に匹敵する規模の変化をもたらす可能性も認めています。このように、「割高な局面」と「変革的な可能性」が併存することこそが、AIへの投資規模の判断を難しくしているとしています。

高まる市場集中度が最大のリスク

AI関連投資に伴うリスクの中で、ソブリン・ウェルス・ファンドが最も重視しているのは市場における集中度の高まりです。これは、バリュエーションやバブル懸念、技術の急速な陳腐化といったリスクを上回っています(図表4.3)。

図4.3 AI関連投資における最も重要なリスク(%、ソブリン・ウェルス・ファンドのみ)

この懸念は非常に具体的です。現在の公開株式市場におけるAI投資は、少数の大型テクノロジー企業に大きく集中しており、広範な株式インデックスへの投資であっても、実質的にはこれら限られた企業群への大きな投資を意味する状況となっています。

こうしたリスクへの対応策として最も多く挙げられているのは、テクノロジー分野内でのさらなる分散投資です。これに続いて、アクティブ運用や銘柄選択、さらにシナリオ分析やストレステストが挙げられています(図表4.4)。

図4.4 AI関連ポートフォリオのリスク管理手法(%、ソブリン・ウェルス・ファンドのみ)

APACのある債務ソブリンは、引き続き米国株式市場への広範なエクスポージャーを維持しつつも、「その取り方についてはこれまで以上に慎重に検討している」と述べています。過度な集中を避けるため、アクティブ運用やファクター投資の活用に一段と重点を置いているといいます。
また、欧州のある大規模な投資ソブリンは、米国のテクノロジー株およびAI関連銘柄への集中を具体的なポートフォリオ上の懸念として挙げており、より精緻にリスクを管理するため、ロング/ショート型の株式ヘッジファンドへの配分を新たに開始しています。

インフラと生産性:最も持続性の高い投資テーマ

生産性向上・自動化の推進とAI関連インフラは、長期的なAI投資テーマとして最も有望な分野として同程度に評価されています(図表4.5)。投資エクスポージャーの取得手段としては、まずAI関連インフラを通じた投資が中心であり、これに広範な公開株式やプライベート市場が続きます(図表4.6)。

図4.5 長期的に有望なAI投資テーマ(%、ソブリン・ウェルス・ファンドのみ)
図4.6 AI関連投資機会への現在のエクスポージャー(%、ソブリン・ウェルス・ファンドのみ)

APACのある投資ソブリンは、インフラを最も現実的で確度の高い投資機会と位置付けています。
「AIが拡大し続ける限り、避けて通れないテーマこそが最も確実性が高い。インフラが最優先となるのは、ソフトウェア競争の勝敗に関係なく、これらの技術には電力とデータセンターが不可欠だからだ。生産性向上や自動化はより時間がかかり可視化しにくいが、長期的な価値はむしろそこに蓄積されていく可能性が高い」と述べています。

また、中東のAIインフラ投資を積極的に行う開発ソブリンは、今後の拡大局面における制約要因として電力を挙げています。
「推論処理能力(インファレンス)の供給過剰によるバブルは起きにくい。なぜなら、ボトルネックは電力になるからだ」と指摘しています。これは、データセンターの立地や建設スピードを左右するのは、モデル性能ではなくエネルギー供給であることを意味しています。

地理的構図:米国が先行、中国が追随

AIの開発および普及において主導的な立場にある地域として、最も多くの投資家が米国を挙げています(図表4.7)。その理由は一貫しており、経済規模、資本市場の厚み、大手テクノロジー企業の集積、そして研究インフラの充実などが挙げられます。

図 4.7 AI技術の開発および導入において主導的な役割を担うと考えられる地域

中国は2番目に多く挙げられる地域であり、米国が無条件に優位を維持するとの見方には一定の異論も見られます。北米のある債務ソブリンは、米国が多くの優位性を有していることを認めつつも、中国は長期的な産業基盤を構築する上で、より実行しやすい環境と豊富な人材基盤を備えていると指摘しています。アフリカのある開発ソブリンは、中国は現時点で米国に次ぐ位置にあるものの、多くの予想以上に急速に追随しており、より低コストで高性能なAIモデルを実現していると評価しています。

また、中東のあるAIインフラ投資に積極的なソブリン投資家は、中国が根本的に異なるアプローチを取っていると指摘しています。すなわち、最先端モデルの開発そのものよりも、AIの普及と効率性の向上に重点を置き、低コストで高性能なAIを広く展開すること自体が、戦略的に同等に重要であるとの考え方です。

APACのある債務ソブリンは、「現時点ではAIは米国と中国の競争という構図だが、いずれ各国が自国での開発能力を持つ必要性を認識するようになるだろう」と述べています。

ソブリン投資家内部におけるAI:導入は広がる一方で統制も強化

AIに「投資するか」という問題と、「どのように活用するか」という問題は別の論点です。ソブリン投資家はこの両方に対応していますが、投資としての論点は比較的整理が進んでいる一方、運用面での活用は、より初期段階で多様な状況にあります。各ソブリン投資家の取り組みは、AI導入の基礎を模索している段階から、投資プロセスの中核部分にAIを組み込み始めている段階まで、大きな幅があります。

ソブリン投資プロセスにおけるAIの活用は、2024年以降大きく進展しています(図表4.8)。最も一般的な用途はリサーチおよび情報の整理であり、中央銀行の83%、ソブリン・ウェルス・ファンドの72%がこれを挙げています(図表4.9)。これに続き、業務効率化・自動化、レポーティングやコミュニケーション、アイデア創出や意思決定支援などが続きます。ソブリン・ウェルス・ファンドではリスク管理やシナリオ分析の重要性も高い一方、ポートフォリオ構築や予測、売買執行といった直接的な運用領域での活用は、依然として限定的です。

図 4.8 投資プロセスにおけるAIの活用状況(%、中央銀行およびソブリン・ウェルス・ファンド)
図 4.9 投資プロセスにおけるAIの現在の活用状況(%、中央銀行およびソブリン・ウェルス・ファンド)

欧州のある中央銀行は、AIはすでに部門横断で導入が進んでおり、「特にリサーチやデータの抽出で活用されている」と述べています。ただし、AIはあくまで「人間の意思決定を補完する追加的なインプット」と位置付けられており、最終的な判断は引き続き人間が行っています。

また、ラテンアメリカのある中央銀行は、「内部データをAIシステムにアップロードすることには大きな懸念があり、外部に流出するリスクは重大な問題である」と指摘しています。
こうした機密性に関する懸念は、複数のソブリン投資家に共通して見られる重要な課題です。その対応として、統制されたインフラの整備が進められています。アフリカのある中央銀行は、AI活用に際してプライベートクラウド環境を構築し、外部ツールへのデータ流出を防いでいるとしています。また、中東のある中央銀行は、シナリオ分析を支援するAIシステムの導入を検討しているものの、実用化には事前に信頼性とセキュリティの十分な確認が必要であるとしています。

生成AIと能力構築

大半のソブリン投資家の間において、生成AIの普及は投資プロセスに段階的な変化をもたらしており、主に効率化やリサーチの高度化を実現しています。一方で、抜本的な変革を実現しているとするケースはごく少数にとどまっています(図表4.10)。AI関連能力の構築において最も一般的なアプローチは既存人材のスキル向上であり、中央銀行およびソブリン・ウェルス・ファンドの約55%がこれを挙げています(図表4.11)。

図 4.10 生成AIが投資プロセスに与える影響(%、中央銀行およびソブリン・ウェルス・ファンド)
図 4.11 AIケイパビリティの構築方法(%、中央銀行およびソブリン・ウェルス・ファンド)

ソブリン・ウェルス・ファンドの一部はさらに踏み込み、社内での開発や実証実験への投資、専門人材の採用、テクノロジーパートナーとの連携を通じて、より本格的な能力強化を進めています。
中央銀行は全体として導入段階がより初期にあり、31%はまだAI能力の構築に着手していません。これは、マンデート上の制約や、多くの外貨準備運用機関における投資インフラの制約を反映しています。

欧州のある債務ソブリンは、具体的な活用事例として、ソフトウェア開発支援、社内外リサーチの統合・要約、理事会向け資料の作成支援、会議議事録など管理業務の自動化を挙げています。一方で、AIによる生産性向上は市場で語られているほど明確に定量化できないとも指摘しています。少なくとも一部の用途では、AI導入の投資回収までに4~5年を要する見込みとされています。

また、北米のある債務ソブリンは、デューデリジェンスやリスク管理プロセスへの生成AI導入を含め、テクノロジープラットフォームの再構築に向けた大規模な投資を承認しています。APACのある投資ソブリンは、機械学習を活用した国内株式運用を実施しており、良好な成果を上げていると報告しています。

アルファ創出の可能性と5年後の展望

現時点で、AIがソブリン投資家内部でどのような価値を生んでいるかは比較的明確になってきていますが、それが最終的に投資プロセスそのものを変革するかどうかについては、まだ見通しが定まっていません。リサーチの統合・整理、シナリオ分析、業務フローの自動化といった分野では、すでに多くのソブリン投資家で具体的な生産性向上が確認されています。
一方で、AIがアルファを創出できるかという点については、依然として不透明です。47%は一定の可能性があると見ており、2024年以降は前向きな見方がやや強まっているものの、「現時点では判断が難しい」とする見解も依然として一般的です(図表4.12)。

図4.12 AIがアルファ創出およびリターン向上に寄与する可能性に関する認識(%、中央銀行およびソブリン・ウェルス・ファンド)

アルファ創出の余地があると考えられているのは、市場の効率性が相対的に低い分野です。具体的には、プライベートエクイティのデューデリジェンス、信用分析、新興国リサーチなどが挙げられます。これらの分野では、大量の非構造化データを競合よりも迅速に処理できる能力が、公開株式市場のように情報優位性がすぐに解消される市場と比べて、より持続的な優位性につながると考えられています。
一方で、公開株式市場では、AIはアルファを創出するというよりもむしろ圧縮する方向に働くとの見方が一般的です。同じツールがすべての市場参加者に同時に利用可能となるためです。

ほぼすべての回答者は、今後5年間でAIの重要性がさらに高まると見ています(図表4.13)。一方で、期待と現時点での活用状況との間にはギャップがあり、これはAIが投資リターンにどこで最も大きく貢献するかについての不確実性と、拙速な導入への慎重さを反映しています。実際にAI活用を先行しているソブリン投資家は、多くの場合、まず限定的な用途で価値を実証し、その後段階的に適用範囲を拡大しています。

図 4.13 今後5年間におけるAI活用の変化見通し(%、中央銀行およびソブリン・ウェルス・ファンド)
2つの議論、1つの方向性

AIを「投資対象」として捉える視点と、「業務能力」として活用する視点は相互に関連しながらも、別個の領域として進展しており、ソブリン投資家はそれぞれ異なる段階に位置しています。投資テーマとしては議論が大きく進んでおり、インフラと生産性が最も持続性の高い分野であること、市場における集中リスクの高まりへの対応にはアクティブ運用が重要であること、そして地理的には米国と中国が中核となるという点について、広く認識が共有されています。
一方で、業務としてのAI活用は、より緩やかな進展を見せながらも、その方向性は明確です。リサーチの統合・整理や情報検索は、すでに多くのソブリン投資家の日常業務に組み込まれています。さらに、シナリオ分析、ストレステスト、リスクモニタリング、レポーティングの分野でも活用は着実に広がっています。また、小規模ながらも増加傾向にある一部の投資家の間では、AIを投資判断そのものに直接活用する段階へと進み始めています。
こうした先行するソブリン投資家による実績は、今後のAI導入の方向性を占う上で重要な意味を持つと見られます。

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