グローバル・マクロ・ストラテジー
IFIサミットでのマクロ経済に関する見通し
2025年年末のインベスコ・フィックスト・インカム(IFI)グローバル投資家サミットにおけるマクロ経済に関する主要な結論を共有します。投資家のみなさまと、米国、欧州、英国、中国、エマージング市場におけるマクロ経済の動向について議論しました。
エグゼクティブサマリー
米国
2025年は関税問題をきっかけに、コストプッシュ型インフレや企業信頼感の弱含みが起こりました。2026年には財政刺激策と金融緩和により成長回復が図られる見込みですが、3%前後の持続的なインフレがマイナスに影響する可能性があります。
欧州・英国
ユーロ圏の財政政策は、防衛関連予算の拡大や残存するCOVID回復補助金など、拡張方向に転換しました。ドイツの景気刺激策は成長を小幅に押し上げる可能性がありますが、実行リスクと財政乗数効果は依然不透明です。
英国のインフレは需要ではなく、物価連動や財政政策に起因します。ただし予算措置がディスインフレを支えるため、賃金上昇圧力が継続する中でもイングランド銀行の段階的な金融緩和が可能となります。
中国
成長目標については速度より成長の質を重視していくと公式に公表されています。GDP成長率4.5%の予測を維持し、五カ年計画下で経済開放、先進製造業、資本取引自由化の深化に向けた政策転換を予想します。
エマージング市場
エマージング市場の成長は潜在成長率付近で安定化しつつあり、AI主導の投資波及効果と堅調な内需に支えられています。サービス部門のインフレは根強いものの、政策に支えられインフレは減速しています。エマージング市場の構造的トレンド、つまりラテンアメリカの政治再編、若年層主導の反汚職運動、AI関連資本移動は、貿易の分断化とグローバル投資パターンの変化の中で、うまく選別できれば収益機会となります。
IFIの投資プロセスにおいて、マクロテーマは重要な役割を果たしています。成長、インフレ、政策に焦点を当てた「マクロファクター」の枠組みは、マクロトレンドの予測や市場動向の解釈に役立っています。2025年末のグローバル・インベスターズ・サミットでは、IFIプラットフォーム全体の投資家が集まり、世界的なマクロ経済トレンドに関する見解を議論しました。以下に、米国、欧州、英国、中国、新興国市場(EM)に関する主な結論を共有します。
米国経済の現状と展望:主要テーマと先行きに関する見通し
2025年、米国経済は主要な政策転換と構造的変化によって形成されてきました。マクロ経済環境に影響を与えた要因は複数ありますが、関税、移民政策と労働力供給、人工知能(AI)、政策動向と、特に影響の大きな4つの要点についてまとめました。これら各要素は、今後18か月間にわたり、成長、インフレ、金融政策の形成において、それぞれ異なる役割を果たす可能性が高いと考えられます。
関税:2025年の支配的な力
2025年を特徴づける大きな要因は関税です。関税率は年初の5%未満から25%のピークに達し、最終的に14~15%前後で安定しました。これは約90年間で最高の水準です。これは年間関税収入が2,500億~3,000億米ドルに達することから、GDPの約1%に相当する財政引き締め効果をもたらしました。直接的なコスト影響に加え、関税は3月以降、調査やFRBのベージュブックにも反映されているように、企業信頼感の急激な悪化を引き起こしています。
貿易政策を巡る不透明感から、企業は採用を一時停止し、大規模投資を先送りしています。表向きの投資統計は堅調に見えますが、これは大手テック企業によるAI関連支出が拡大しているためです。テックセクター以外の広範な設備投資は依然として低調です。貿易交渉が進展する中で一定の明確化が見られるものの、この慎重姿勢は2026年初頭まで継続すると予想されます。
関税の消費者物価への転嫁は緩やかではあるものの、特に競争が限られた分野(特殊電子機器や家具など)では顕著です。これは構造的な転換を示しており、持続的な財価格デフレの時代は終焉を迎えました。コア財インフレは高止まりする可能性が高く、FRBの2%目標達成への道筋を複雑化させるとみています。
移民政策と労働供給:誤解されがちな構造
一般的な見解とは異なり、雇用減速の主因は移民制限によるものではないと考えています。2025年の純移民数はパンデミック前の水準とほぼ同等であり、年初来で約50万~55万人、過去12ヶ月では約100万人となっています。パンデミック後の急増は緩和したものの、移民数は依然としてプラスを維持しております。
さらに、米国労働市場には移民以外の柔軟性があります。2億7千万の民間人口と約62%の労働力参加率を背景に、景気の循環的改善により数百万人の労働者を動員可能です。参加率が1%ポイント上昇すると約270万人の労働者が増加します。この上昇幅は楽観的かもしれませんが、その半分ほどの増加は、過去の成長が堅調な時期にはありえました。したがって、強制送還が劇的に加速しない限り、短期的な労働制約が生じる可能性は低いと考えられます。
したがって、労働市場に関して、緩やかな労働力参加率の上昇と継続的な純移民流入により、近い将来において労働供給が経済の制約要因となる事態は回避されるとみています。2026年には経済が勢いを増し、それに伴い企業は採用を若干拡大し始め、現在の余剰労働力を徐々に吸収していくことが予想されます。基本シナリオの下では、賃金上昇率は下半期から加速し始めるはずです。
人工知能:投資ブームと生産性の遅れ
人工知能は投資パターンを変容させていますが、そのマクロ経済への影響は依然として複雑です。人工知能に関連する設備や知的財産への支出は堅調で、資本集約化を通じてGDPに寄与しています。しかし、総生産性の向上はまだ実現しておらず、労働生産性の伸びは過去の水準から構造的な変化を見せておりません。
過去の事例から、企業がプロセスを再構築するため、技術主導の生産性向上は導入に遅れが生じることが示唆されております。既存のインフラと広範なアクセス可能性により、AIの普及速度は過去の革新技術(電気、インターネット)を上回る可能性がありますが、その影響は現在、導入能力を有する大企業に集中しています。医療、教育、中小企業などの分野では、変革は限定的です。
短期的にはAIは効率性ではなく、巨額の投資自体が成長を促進する可能性が高いです。広範な生産性向上とそれに伴うデフレ圧力は、2026年末以降まで見込めません。
政策動向:財政刺激策と金融緩和
2026年には政策が逆風から追い風へと転換する見込みです。税還付や設備投資優遇措置を含む財政措置が第1四半期から第2四半期にかけて実施され、成長の勢いを強化する予定です。同時に、労働市場の軟調さ(民間雇用創出がほぼゼロ)を受け、FRBは2025年末に予防的利下げを実施し、12月にも利下げを行いました。今後の見通しとして、市場は2026年に追加緩和(6月、7月、12月の3回の利下げ)を予想しておりますが、我々はこの利下げは不要だと見ています。2026年半ばまでにGDPは潜在成長率に戻り、インフレ率は依然として3%前後で高止まりする見込みです。ただ、教科書的なFRBであれば政策金利を据え置くと推測できますが、政治的要因が経済的判断を上回る可能性もあります。
新体制の発足と緩和政策への圧力により、さらなる金融緩和に向けた動きが加速する恐れがあります。
成長とインフレの見通し
成長:2025年第4四半期には、関税調整と雇用凍結を反映し、減速が見込まれます。2026年第1四半期以降は、貿易の不透明感が薄れ、財政刺激策が具体化し、金融環境が緩和されるにつれ、成長が再び加速すると予想されます。ベースラインシナリオでは、2026年下半期の成長率は2.1%~2.2%と見込んでおり、政策の波及が迅速であれば上振れリスクがあります。