市場の見出しから全体像を捉えきれない可能性があるのはなぜか
〔要旨〕
- 原油、インフレ、FRBをめぐる不確実性、テクノロジー株の調整、日本に関連する見出しが注目を集めたが、市場はこうした混乱をそれほど大きなストレスなく乗り切っている
- 堅調な雇用増加、底堅い企業収益、緩和しつつあるインフレ圧力、そして金融ストレスの兆候が限定的であることから、市場全体の背景は引き続き良好となっている
- 市場に混乱が生じても、結果が変わるとは限らない。投資家はセンセーショナルな見出しに引き摺られず、焦点を外さずにいる方が賢明だろう
センセーショナルな見出しの先を見据える
原油、テクノロジー、日本に関する見出しについての洞察
注目の日程
私はかつて、大学アメリカンフットボールの試合でAP通信のフォトグラファーに同行したことがあります。それは実に興味深い体験でしたが、写真について学べたからというわけではなく、物事の見方について学ぶところがあったからです。その学びは、株式市場を注視するグローバル・マーケット・ストラテジストとして、今も私の中に刻まれていますが、その理由は以下の通りです。試合中ある場面で、一人の選手が負傷して倒れ込みました。トレーナー達がフィールドに走り寄る中、大勢のフォトグラファーが、痛みに横たわる負傷選手の写真を撮ろうと一斉に駆け出しました。
私が同行していたフォトグラファーはといえば、微動だにせず、ただ他のフォトグラファーたちを軽蔑の眼差しで見つめていました。「彼らが追い求めているのは、その負傷が深刻で、しかも著名な選手が関与していた場合にのみ意味を持つ写真だ」と彼は説明してくれました。もしそうなれば、その写真はあらゆる紙面を飾るでしょう。しかしほとんどの負傷は、試合結果を変えることもなければ、新聞の一面に載るほどのものでもありません。ほとんどは、はるかに大きなストーリーの中のノイズにすぎないのです。「私はむしろ、次のプレーに備えてしっかり位置取りをしていたい」と彼は言いました。これが私の中に刻まれている教訓です。
ここ数ヶ月、市場に関するセンセーショナルな見出しが飛び交う中で、私はこのことを度々思い起こしました。
センセーショナルな見出しの先を見据える
世界経済や金融市場では、「負傷(悪材料)」に目を向ける理由に事欠きませんでした。中東での戦争。原油価格の上昇1。総合インフレ率をめぐる懸念2。多くの投資家が望むほどには情報発信を行わない米連邦準備理事会(FRB)。目覚ましい上昇後のテクノロジー株の調整3。円相場への介入4などがそれです。
これらの動きはいずれも、センセーショナルな見出しと今後の困難を自信ありげに予測する声を生んできました。公平を期して言えば、もし私がそうしたリスクに焦点を当て、十分悲観的な見通しを示し、それがたまたま的中したならば、おそらく私の写真も新聞に載ることでしょう。しかし私は、よりゲームの全体像に目を向けたいと考えています。
原油、テクノロジー、日本に関する見出しについての洞察
原油価格について考えてみましょう。多くの投資家を不安にさせた急騰は、4月初めにピークを打ちました5。インフレはどうでしょうか。市場が織り込むインフレ期待は、上昇どころか低下傾向にあります6。FRBがよりタカ派的な姿勢に傾くことへの懸念はどうでしょう。市場はすでに追加利上げ2回分相当を織り込んでおり、クレジット市場7やS&P500均等加重指数8にも、驚くほどストレスは表れていません。実際、インフレ期待がここまで低下していることを踏まえると、私は依然として、追加利上げが2回に届かない可能性の方が高いとみています。
テクノロジー株についてはどうでしょうか。確かに一定の調整は見られているものの9、それは力強い利益成長と、AI関連サービスに対する並外れた需要を背景に起こっています10。主要なハイパースケーラー各社が報告する受注残は、引き続き需要が供給能力を上回っていることを示唆しています。
そして日本です。円相場や日銀による追加利上げの可能性には、多くの関心が寄せられてきました。しかし市場は、そうした予想を大きな混乱もなく吸収しているように見えます。実際のところ、日経225種平均は年初来堅調に推移しています11。
一方で、より広い意味での「ゲーム」は引き続きかなり好調に見えます。今週発表された経済指標は、そのことを改めて示しました。新規失業保険申請件数は、歴史的にみて低水準を維持しています12。生産性の伸びは予想を上回るサプライズとなりました13。雇用統計は予想を下回りましたが、これにより利上げの可能性は低下すると考えられます14。私が見るところ、これらはいずれも、経済が失速の瀬戸際にあることを示唆するものではありません。
投資家は得てして、センセーショナルな見出しや一時的な混乱、直近の不安の種に引き摺られがちです。それでは、まるで負傷した選手に走り寄るあのフォトグラファーたちのように、フィールド全体を見失うリスクを負いかねません。見出しは目を引くかもしれませんが、より大きなストーリーは損なわれていないように見えます。経済成長は続いており、企業収益は底堅さを維持しています。インフレ圧力は加速どころかむしろ緩和しつつあります。金融市場は、目立ったストレスの兆候をほとんど示すことなく、政策の変化に適応してきました。だからこそ私は、「負傷」、すなわち市場にまつわるセンセーショナルな見出しに飛びつかず、より大きな全体像に焦点を当てているのです。
注目の日程
公表日 |
国・地域 |
指標等 |
内容 |
|---|---|---|---|
8月11日 |
米国 |
中古住宅販売件数 |
住宅需要と金利感応度を示す |
8月11日 |
米国 |
消費者物価指数(CPI) |
インフレとFRBの政策を測る主要指標 |
8月11日 |
カナダ |
建設許可件数 |
建設活動の先行シグナル |
8月13日 |
米国 |
生産者物価指数(PPI) |
インフレ圧力を追跡 |
8月13日 |
欧州 |
英国国内総生産(GDP)、鉱工業生産、貿易収支 |
英国の成長を広く把握する指標 |
8月13日 |
欧州 |
ユーロ圏鉱工業生産 |
製造業のモメンタムを示す |
8月14日 |
米国 |
小売売上高 ミシガン大学消費者信頼感指数 |
個人消費と消費者信頼感を示す |
8月14日 |
カナダ |
製造業出荷額および卸売取引 |
企業活動を測る指標 |
8月14日 |
欧州 |
ユーロ圏GDPおよび貿易収支 |
域内の成長と貿易に関する最新情報 |
MC2026-091