債務問題への懸念にとらわれて、全体像を見失わないように
〔要旨〕
- 40兆ドルの債務は憂慮すべきものに聞こえるが、文脈が重要。同期間に、家計資産はそれをはるかに上回って増加している
- これまでのところ、市場は米国債利回りの上昇を吸収してきたようだ。クレジット・スプレッドは落ち着いているように見え、企業収益は依然として、概ね予想を上回る結果となっている
- 企業収益が引き続き堅調であれば、AIがもたらす長期的な生産性向上が、債務、金利、原油価格をめぐる短期的な懸念を上回る可能性がある
ベア(弱気派)の市場ストーリーは続く
注目の日程
40兆ドル!
米国の政府債務は今週40兆ドルを突破し1、待ってましたとばかりに、不安を煽る論調が現れました。あるテレビ番組は、毎日100万ドル稼いだとしても、40兆ドルを積み上げるには109,589年かかると視聴者に訴えました。その計算自体は正しいものの、全体像を見失っています。
衝撃を与えることを目的とした数値を耳にしたときは、どのような文脈が欠けているか問う価値があります。連邦債務が約20兆ドルから40兆ドルに膨れ上がったとほぼ同期間に、何が起きたか考えてみましょう2。米国の家計純資産は、約80兆ドルから約174兆ドルへと増加しました3。すなわち米国の家計は95兆ドル近く資産を増やしており、これは連邦債務の増加額の2倍以上にあたります。
もちろん、反論があることは承知しています。家計純資産が増えたからといって、債務問題が魔法のように消えるわけではありません。債務問題に解決が必要と考えるのならば、その解決方法は最終的に政策当局が、課税、歳出の優先順位、そして社会保障や医療制度(メディケア)といった制度の強化に必要な調整をめぐって、難しい決断を下すことによってもたらされるでしょう。信託基金の立て直しや財政赤字の縮小は、単純な算数の問題です。課題は、計算そのものではなく、実際に行動を起こす政治的決断力です。
また、財務省の小規模な介入によって、問題が突然解消されるわけでもありません4。スコット・ベッセント財務長官が今週取った措置は、米国の財政課題を解決するものではありません。しかし、市場機能が損なわれた場合に政策当局が介入に踏み切る、ある「ポイント」が存在するということを、投資家に再認識させる効果はあるかもしれません。その地点がどこかについては、投資家の間で議論の余地があるものの、歴史はそれが存在することを示唆しています。
ベア(弱気派)の市場ストーリーは続く
一方、ベア(弱気派)は引き続き市場ストーリーを探し求めています。2021年初以降、S&P500種指数は、割高なバリュエーション、人工知能(AI)バブル、市場の過度な集中、市場の物色の広がりが縮小していることについて繰り返し警告を受けてきたにもかかわらず、力強いリターンを上げてきました5。一つの懸念が相場を揺るがせられなかったとしても、すぐに別の懸念が浮上しました。そして今日、焦点は金利へと移っています。
確かに、金利は上昇しています。ベンチマークとなる米国10年物国債利回りは、年初の約4.2%から足元では4.7%前後まで上昇しました6。それでも、市場は概ねこの動きをうまく消化してきたように見えます。クレジット市場に、ストレスの兆候はほとんど見られていません7。S&P500均等加重指数は、依然として史上最高値に迫る水準です8。最も重要なのは、企業収益が概ね市場予想を上回り続けていることです9。金利の上昇は重要ですが、それは経済成長や企業収益といった文脈の中でこそ意味を持ちます。
投資家は、このような状況は今回が初めてではないことも念頭に置くべきでしょう。2023年に、インフレがすでにピークを付けた後11、10年物国債利回りが5%に迫る場面がありました10。市場はこの動きを消化し、次へと移行したようでした12。ここから得られる教訓は、金利が重要ではないということではなく、根底にあるファンダメンタルズがしっかりしている限り、金利だけでは強気相場を終わらせるのに十分ではない可能性がある、ということです。
個人的には、短期の懸念と長期のトレンドを混同しないよう注意したいと考えています。原油価格の高騰は一時的な課題を生む可能性があります。金利の上昇は、局所的なボラティリティを引き起こし得ます。いずれも注視に値するものです。しかしいずれも、AIによる生産性向上、経営効率の改善、そして収益力の強化を中心とする、強力で長期にわたる構造的ストーリー(だと私が考えているもの)を自動的に無効化するわけではありません。
もし、企業収益が市場予想を大幅に下回り、クレジット・スプレッドが拡大し始めるようであれば、私の懸念は強まるでしょう。それまでは、40兆ドルの債務負担や5.3%の30年物国債利回りよりも13、企業収益の方が私にとっては重要です。
注目の日程
公表日 |
国・地域 |
指標等 |
内容 |
|---|---|---|---|
8月24日 |
ドイツ |
IFO景況感指数(8月) |
欧州最大の経済大国の企業景況感を測る重要指標 |
8月25日 |
米国 |
消費者信頼感指数(8月)、新築住宅販売件数(7月) |
消費者と住宅市場が持ちこたえているかを示す |
8月26日 |
米国 |
国内総生産(GDP)、耐久財受注、個人所得、個人消費、個人消費支出(PCE)物価指数 |
成長、需要、企業の設備投資、インフレを把握する主要指標 |
8月27日 |
ユーロ圏 |
マネーサプライ、民間部門向け融資 |
ユーロ圏全体の信用の伸びと金融環境を示すシグナル |
8月28日 |
ユーロ圏 |
景況感指数、消費者信頼感指数 |
企業と家計の信頼感を幅広く捉える指標 |
8月28日 |
米国 |
シカゴ購買担当者景気指数(PMI)、ミシガン大学消費者信頼感指数 |
地域の景況感と家計のセンチメントに関する最新の手掛かりを提供 |
8月31日 |
中国 |
製造業・非製造業購買担当者景気指数(PMI)(8月) |
製造業とサービス業の勢いを示す重要指標 |
MC2026-098